天絆のその先へ   作:萃。

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タイトルが思い浮かばないという悩み


入学式と学園案内

 

目が覚めた時、窓の外がおもった以上に明るかった。

 

「……ん?」

 

ぼんやりと時計を見る

 

数秒後

 

慌てて飛び起きる

 

「うわっ」

 

布団を跳ね除ける。

昨日は帰ってきて疲れたまま二度寝したのだ。

結果、目覚ましの存在ごと忘れていた。

 

今日は入学式。

遅刻だけはまずい。

シャワーを浴びる時間も惜しく、制服へ着替える。

鏡の前で寝癖を直しながら、ふと思い出した。

 

 

確か何か見ていた気がする。

暖かい日差し。

少女達。

楽しそうな笑い声。

それから。

 

「……なんだっけ」

 

思い出そうとしても上手くいかない。

覚えているのは穏やかだったということくらいだ。

首を傾げながら部屋を出る。

 

__________________________________________________________________

 

入学式は滞りなく進んだ。

校長の長い話。

来賓の挨拶。

 

拍手

 

拍手

 

また拍手

 

正直眠い。

昨日あんなに寝たというのに。

 

そんな中。

壇上へ一人の女子生徒が上がった。

 

生徒会長らしい。

 

長い黒髪

整った顔立ち

凛とした立ち姿

 

どこか見覚えがある。

 

そして

 

目が合った。

 

「あ」

 

思わず声が漏れた。

向こうも少しだけ目を細める。

気のせいではない。

 

昨日の人だ。

 

学園のベンチで目覚めた時、目の前に立っていた美少女。

あの人だ。

数秒だけ視線がぶつかる。

 

その後、何事もなかったかのように彼女は挨拶を始めた。

 

「本校生徒会長、御門千景です――」

 

落ち着いた声が体育館へ響く。

俺は少しだけ居心地が悪くなった。

多分向こうも覚えている。

いや、覚えていない方がおかしいか。

入学前からベンチで野宿していた新入生など。

 

__________________________________________________________________

 

式が終わった後。

 

教室で担任から諸連絡を受ける。

ようやく終わったと思った時だった。

 

「なあ」

 

後ろから声を掛けられる。

 

振り向く。

 

男子生徒だった。

短めの髪。

人懐っこそうな笑顔。

 

「外から入学して来たんだよな?」

 

いきなりだった。

 

「分かる?」

 

「この辺で見たことない顔だったからな」

 

納得した。

田舎ではよくある理屈かもしれない。

 

「俺は神代湊」

 

「俺は相良春人」

 

軽く握手。

春人は笑った。

 

「よろしく」

「こちらこそ」

 

どうやら最初の友人候補らしい。

 

__________________________________________________________________

 

教室を出た後。

春人は学園を案内してくれた。

 

「寮生なんだろ?」

 

「そうだよ」

 

「じゃあ知らないことだらけだな」

 

「否定できない…」

 

二人で校舎を歩く。

 

広い。

思った以上に広い。

 

「とりあえずこれ見とけ」

 

春人が指差した先。

巨大な木があった。

思わず足を止める。

 

「やっぱでかいな……」

 

見上げても全体が見えない。

学園の中心。

まるでそこを中心に世界が作られているかのような存在感。

 

「天結樹」

 

春人が言う。

 

「有名なのか?」

 

「この町のシンボルみたいなもん」

 

「そりゃこんだけデカいとな…」

 

俺は少しだけ眉を上げた。

昨日触れた木だ。

触れた瞬間、静電気のような感覚が走った覚えがある。

 

もう一度触れてみる。

 

「なんともないか」

 

そりゃそうか。

ただの木だし。

 

「なんか言い伝えとかあるのか?」

 

「結構あるな」

 

春人は笑う。

 

「例えば?」

 

「あー、元々は神社だったとか」

 

「へぇ」

 

「五つの家が守ってるとか」

 

「へぇ」

 

「世界樹だーなんて言ってるやつも居たな」

 

「ファンタジーだな」

 

「だろ?」

 

春人自身もほとんど信じていないようだった。

 

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「五つの家?」

 

「ああ」

 

そう言って春人は指を折る。

 

「向日葵ノ家」

 

「大樹ノ家」

 

「清流ノ家」

 

「丘陵ノ家」

 

「流星ノ家」

 

どこか聞いたことのあるような。

ないような。

 

不思議な名前だ。

 

「有名なのか?」

 

「この辺じゃ有名」

 

春人は当然のように言った。

 

「代々この町を支えてる家らしい」

 

「らしい?」

 

「昔の話だからな」

 

「なるほど」

 

「さっき言ってた『五つの家が守ってる』とかいう噂もこの家から来てるみたいだな」

 

なるほど。

 

「大変いい迷惑だな」

 

「だな」

 

その時。

 

遠くから賑やかな声が聞こえた。

 

女子生徒の集団。

 

その中心にいた少女を見て俺は足を止めた。

 

「あ」

 

昨日見た刀の少女。

 

そう思った。

笑顔で友人達と話している。

 

「ん?あぁ、あの人だよ」

 

「何が?」

 

「さっき言ってた向日葵ノ家」

 

「あの子が?」

 

「あぁ。日向日和(ひゅうがひより)。この辺じゃ美少女としても知れてるな」

 

遠巻きに抱いた印象は明るくて楽しそうな子。

 

昨日見た姿と全然違う。

やっぱり違うのか…?

 

「どうした?」

 

「いや」

 

目を瞬かせる。

 

似ている

いや

同じに見える

 

でも

 

「いやいや…」

 

刀なんて持ってるわけない。

普通に考えれば。

 

「知り合いか?」

 

「違う」

 

多分。

違うといいけど。

 

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さらに歩く。

 

保健室の近く。

女子生徒が一人、蹲っていた。

 

「大丈夫ですか?」

 

真っ先に駆け寄った少女がいた。

 

どうやら膝を擦りむいてしまったようだ。

 

慣れた手つきで絆創膏を貼っていた。

 

心配そうな表情。

 

「ありがとうございました!」

 

「いえ」

 

 

春人が小声で言う。

 

「あの人は水瀬澪(みなせみお)。清流ノ家の人で、性格はまあ…見ての通り聖人だな」

 

「確かに優しそうだ」

 

「まあ実際めちゃくちゃ優しいからな」

 

確かに。

今見た光景からもそんな印象だった。

 

____________________________________________________________________

 

さらに進む。

 

生徒会室。

大量の資料の山。

 

その中で黙々と作業する少女。

 

「生徒会室か…」

 

生徒会長とのことを思い出す。

あまり近寄りたくないが…

 

春人が言う。

 

「2年の榊楓(さかきかえで)先輩。大樹ノ家の…一人娘だったかな確か」

 

落ち着いた雰囲気だった。

黙々と仕事をしている。

妙に似合っている。

 

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中庭のベンチ。

一人の小柄な女子生徒が横になっていた。

 

完全に寝ている。

 

春人が慣れた様子で言う。

 

「流星ノ家の宵宮星里(よいやみあかり)先輩だ」

 

「寝てるぞ」

 

「いつものことだな」

 

「いつもなのか……」

 

「ちなみに3年生だぞ」

 

「はっ?」

 

この見た目で?

 

春風に髪が揺れる。

まるで気にする様子もなく眠っていた。

自由な子猫のようだ。

少し羨ましい。

 

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「こんなもんか?」

 

春人が笑う。

 

「確かに、良い時間だしな」

 

入学初日だというのに良い縁に恵まれた。

気のいい奴と知り合えただけでも良しとするか。

 

___________________________________________________________________

 

寮へ戻る前。

ふと校庭の方を見る。

 

そこには日向日和がいた。

友人達と笑っている。

普通の女子高生。

どう見てもそうだ。

 

だが。

 

脳裏に浮かぶ。

 

昨夜。

月明かり。

巨大な獣。

振るわれた刀。

一閃。

 

「……いや」

 

そんなわけない。

 

そう思うのに。

どうしても気になってしまう。

 

無意識に視線を向けていると、ふいに日向がこちらを見た。

 

目が合う。

首を傾げる。

不思議そうな顔。

俺は慌てて視線を逸らした。

 

「どうした?」

 

春人が聞いてくる。

 

「いや」

 

俺は小さく首を振った。

 

「何でもない」

 

そう答えながら。

本当に何でもないのだろうかと考えていた。

 

 






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