天絆のその先へ   作:萃。

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一応不定期更新なのであしからず


嵐の前のなんとやら

 

入学式から数日が経った。

 

 

午前最後の授業が終わる。

昼休みを告げるチャイムが鳴った瞬間、教室のあちこちで椅子を引く音が響いた。

ふっと息を吐く。

ようやく半分

そんな気分だった。

「なあ」

後ろから声が掛かる。

振り返らなくても分かる。

春人だ。

「ん?」

「俺はさ、もっと青春してるものかと思ってたんだよ」

唐突だった。

「何が?」

「高校生活」

椅子へ体重を預けながら春人が言う。

「入学したらさ」

「うん」

「毎日なんか事件起きたり」

「起きないだろ」

「美少女とぶつかったり」

「漫画じゃあるまいし」

「屋上で告白とか」

「それは流石に早くないか?」

思わず笑う。

春人は大げさに肩を落とした。

「現実って厳しいな」

「まだ数日だろ」

「それもそうか」

そう言いながら春人は立ち上がった。

確かに。

入学してまだ数日だが、やっていることは中学と大差ない。

授業。

昼休み。

授業。

放課後。

それの繰り返しだ。

違うのは校舎が広いことと、やたらと目立つ先輩達がいることくらいだった。

「そういや」

春人が何か思い出したように口を開く。

「今週末の懇親会あるらしいけど出る?」

「懇親会?」

「クラス懇親会」

そんなものがあるらしい。

「うちクラスで?」

「そうそう」

なるほど。

「出ると思う」

「じゃあ俺も出るか」

「お前出る気なかったのかよ」

「面倒だったし」

大丈夫なのだろうか、この友人。

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教室を出て、学食へ向かう。

その途中だった。

廊下の向こうが少し騒がしい。

何だろうと思い視線を向ける。

その中心に居た人物を見て納得した。

日向日和

同じ学年で向日葵ノ家

そして

あの夜見た少女にそっくりな人物

周囲では男女問わず何人も話している。

人気者なのだろう。

「すげぇな」

思わず呟く。

「日向か?」

春人が言った。

「まぁあんなもんだな」

「あんなもんって」

「昔から有名人だし」

そういうものなのか。

その時

日向がこちらへ顔を向けた。

一瞬だけ目が合う。

すると、日向は軽く首を傾げた。

俺を見ている

いや

気のせいかもしれない

しかし何故だろう。

心臓が少し跳ねる。

昨日までなら気にしなかった。

だが今は違う。

あの夜を思い出す。

巨大な獣

振るわれた刀

灰になってゆく獣

あの光景

どうしても忘れられない。

日向はすぐに友人との会話へ戻った。

俺も視線を逸らす。

「何見てんだ?」

春人が聞いてくる。

「別に」

「怪しいな」

「怪しくない」

「好きになった?」

「違う」

即答だった。

春人が笑う。

本当に違う。

少なくとも今は恐ろしさが勝っていた。

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昼食を終えた後

購買へ寄ろうと校舎を歩いていると、中庭が見えた。

木陰にあるベンチ。

今日もそこにいた。

宵宮星里。

完全に寝ている。

ぐっすりと。

「また寝てる……」

思わず足が止まる。

この前も寝ていた。

昨日も見た。

そして今日も。

制服に目を向ける。

やはり三年生。

何度見ても信じられない。

春風に短く綺麗な髪が揺れる。

小柄な体格。

穏やかな寝顔。

どう見ても年上には見えなかった。

すると、ふいに星里が目を開いた。

ぼんやりした視線。

そのままこちらを見る。

沈黙。

何故か見られている。

そんな気がした。

「……誰?」

小さな声。

「え?」

思わず聞き返す。

「あぁ」

星里は小さく頷いた。

「新入生」

星里はそれ以上何も言わない。

再び目を閉じる。

そして、

数秒後には寝息を立てていた。

「自由過ぎるだろ……」

思わず呟いてしまう。

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放課後。

春人と別れて教室を出る。

今日は特に予定もない

寮へ帰って勉強でもしようか

そんなことを考えていた。

その時だった。

「神代」

背後から声を掛けられる。

凛とした声に反射的に背筋が伸びた。

振り返る。

そこにいたのは、御門千景だった。

生徒会長であり。

そして、

俺の黒歴史を知る人物。

「こんにちは」

「あぁ。こんにちは」

ぎこちない挨拶になる。

仕方ないと思う。

「今回のは正しいな」

会長は俺を見て、口元に笑みを浮かべながら言った。

「揶揄わないでくださいよ…」

すると会長は少しだけ考えるような表情をした。

「生活には慣れたか?」

予想外だった。

「まぁ、それなりに」

「そうか」

短い返事。

沈黙。

気まずい。

ものすごく気まずい。

何か言うべきだろうか

だが思い浮かばない。

すると千景が口を開いた。

「門限は守れているな」

「守ってます」

即答。

千景の口元が僅かに動く。

また笑ったのかもしれない。

多分。

「ならいい」

それだけ言って去っていく。

不思議な人だ。

怖い人だと思っていた。

実際近寄り難い。

けれど、少なくとも悪い人ではなさそうだった。

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気が付けば日が傾いていた。

寮へ帰る途中、学園の中庭を通る。

視界の端に小さな影が映った。

「あ」

丸い。

小さい。

モフモフ。

見間違えるはずもない。

あの生き物だった。

寮の鍵を奪った犯人で。

厄介事の元凶。

俺が野宿する原因を作った張本人。

向こうも気付いたらしい。

ぴたりと動きを止める。

しばらく見つめ合う。

「……お前な」

すると。

生き物はくるりと背を向けた。

少し歩く。

止まる。

振り返る。

また歩く。

止まる。

そして振り返る。

「いや」

思わず言った。

「ついてこいってか?」

当然返事はない。

気のせいだろうか。

「ふむ…」

しばらく悩む。

だが結局、首を振った。

「今日は帰るからな」

そう言って寮へ向かう。

振り返ると。

モフモフはまだこちらを見ていた。

少しだけ妙な罪悪感があった。

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部屋へ戻る。

夕飯を食べる。

風呂へ入る。

課題を終わらせる。

時計を見る。

そろそろ寝る時間だ。

布団へ潜り、瞼を閉じる。

ふと、

あの生き物のことを思い出した。

何だったのだろう。

あの夜の出来事も。

夢も。

日向も。

全部が曖昧なままだ。

ただ。

何かが少しずつ動き始めている。

そんな予感とは裏腹に、

明日もまた同じ日常が続くのだろうと思いながら、ゆっくりと意識を手放した。






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