サブタイが思いつきませんでした
朝。
日課の水を飲みながら考える。
正直、ここまで関わっておいて避け続けるのも変なんじゃないか。
何度か関わって猟奇的な人間じゃないことは分かっているし、人となりも何となくわかってきた。
無理して避けるよりなんだかんだ好意的に接する方が自然な気もするし、昼食を共にする約束があるから避けるのは不可能だし、割り切ってしまおう。
今後の方針があっさりと決まり、じゃあ昼飯作ってもしょうがないんじゃと思いつつサンドイッチを作る。
サンドイッチは良いぞ、美味けりゃ何挟んでもいいし、ラップに包んで持っていくから洗い物も増えない。
食パン使って具を挟めばそれはサンドイッチよ。
今日は豚キムチサンドとヤンニョムチキンサンド。
豚キムチはスクランブルエッグと、ヤンニョムチキンはレタスと共に挟む。
どうだ美味そうだろう?
昨日とは違い寝るのが少しだけ遅くなり、その分起きるのも遅れたのでさっさと家を出る。
時間的には昨日と同じだが、家でゆっくりする時間はそんなになかった。
登校中誰に出くわすでもなくスムーズに教室に到着する。
教室にはちらほらと人が居る中、今日は珍しく春人が居なかった。
「珍しいな」
自分の席に着いて、後ろの春人の机を見るもカバンが掛かっている様子もない。
どうやら本当に来ていないようだ。
不思議に思いつつも授業の予習をする。
断じて他に友人がいないとかではない。
キーンコーン…
朝のHRを告げるチャイムが鳴る。
後ろの席にちらと目線を向けるが、春人は来ていなかった。
その後、出席確認の際に教師から体調不良での欠席であると告げられた。
家の場所聞いておくんだったな、見舞いにも行けない。
今日は寂しくなりそうだ。
…と、思っていたのだが。
昼休憩のチャイムが鳴るとすぐに日向と水瀬がやってきて、気づけば生徒会室に来ていた。
二人が弁当を広げ、その向こうで資料やパソコンを眺めながら弁当を食べているのは生徒会長の御門先輩と副会長の榊先輩。
そして部屋の隅では既に睡眠の姿勢に入っている宵宮先輩の姿。
「で、俺はなんで連れてこられたんですか」
おずおずと手を上げて声を出す。
本当に何故連れてこられたのか。
「分からないか?」
会長が手を組みながらそう答える。
「特に身に覚えが無いんですが…」
「いやなに、どうやら君は私たちを避けているような気がしたのでな、連れて来て聞いてみようかと」
そんなに露骨でしたかね?
そこまで避けてる自覚もないというか、実際相対すれば話してる訳ですし。
「そんな避けてるとかでは…」
「ほう、少しは心当たりがあるみたいだな」
ニヤリと笑う御門会長。
こ、この人!カマかけて来たってこと!?
「理由を聞いても?」
「いや何というか…」
なんか、良い感じの言い訳、何かないか
ええと…
「5家というのを聞きまして」
「あぁ、丁度ここにいる5人を指す言葉だな」
「地主とか、あと生徒会でもあるので…そういう方たちに目を付けられるのはあんまり良くないかなと…」
嘘は言っていない。
結構厳しい言い訳だが。
「なるほどな」
どこか先ほどよりも目つきが弱まった気がする。
というか、どこか気の削がれたような表情だった。
「いやなに、それならばいい、仕方のないことだ」
ちょっとその表情はズルいですよ先輩。
しょうがない。
「でも話してみたら別に普通の学生って感じで、お家柄とかは特に感じませんでしたし、特に避ける理由はなくなりましたね」
「そうか、ならいい」
固いながらも少しだけ口を綻ばせ視線を手元に戻す御門会長。
聞いているだけだった周りも少しだけ雰囲気が柔らかくなった気がする。
余談だが、水瀬と日向に昼飯のサンドイッチの中身を聞かれ、豚キムサンドとヤンニョムサンドだと答えると変だけど美味そうという感想を頂いた。
変とは何だ変とは。
周りも変という感想に少し笑っていたのを覚えている。
全く失礼な人達だ。
昼食を食べた後は特に長居する理由もないため、教室に戻って午前中に出された課題をする。
その理由で部屋を出る際に「今後はこっちに持ってきてすればいい」というお言葉を頂戴したが有り難く返却した。
だって春人連れてく訳にもいかないだろうし、それにあんまり落ち着かないんだこれが。
男女比が良くないと思うの。
1対5ってなんだ1対5って。
まあ、一人は完全に置物だったけど。
でもまあ日向に春人の家を聞けたのは収穫だったな。
この辺の地理に詳しくないから放課後に一緒に行く約束をした感じになったけど。
何か買ってくか、菓子とか…雑誌とか?
あんまわかんないなこういうの慣れてないし。
そこ、友達が居ないとか言わない。
ほんとに、これまでの友達が健康優良児ばっかりだっただけだから。
ほんとだよ?
特筆すべき事もなく気付けば放課後。
日向は生徒会室に取りに行くものがあるらしいので中庭で待つ。
「んー…」
なかなか来ない。
中庭に着いてからかれこれ30分と少し。
用事とかじゃなくて物取りに行っただけなんだよな?
結構時間がかかるんだなぁと思っていたら、ふと視線を感じる。
何だろうか、辺りを見渡す。
「ウサギ…?」
茂みの影に赤く光る眼差しが見える。
黒みがかった体毛には小さな角が生えており、キュルキュルな目でこちらを見つめていた。
またあのファンシー動物の仲間なのかなと思いつつ眺めていると。
「はぁ…はぁ…」
息を切らしながら走ってきたのは日向日和だった。
「そんな走らんでもよかったのに」
そう告げると日向は慌てて何かを後ろに隠した。
「えっあ!神代君!?違くて、えっと」
「いや良いから落ち着いて…何隠したの?」
「いや何でもないよ!ほら!」
そう言うと背に隠した手を出して何もないアピールをしてくる。
おかしい、確かに何か棒状のものを背に隠した気がしたが。
事実そこには何もなかった。
「そんなことより神代君はこんなところで何をしてるのっ」
「え?忘れてたの?」
「あ」
おいおい。
忘れてたのか?
これはこの前の仕返しをするチャンスだな。
「お嬢さんこの前俺が約束忘れたのに怒ってましたよね」
「ウン」
「じゃあこれは一体どういう了見なんだい?」
「それは…あの…」
あたふたしているのを見てそろそろかわいそうだと思い、一つ質問で許すことにした。
「まあいいよ、一つ聞きたいことがあるんだけど、それに答えてくれたら許すよ」
「いいの?えっと、何が聞きたいの?」
少し焦って周りを気にしだした日向に疑問を持ちながらも、先ほど気になったことを口に出す。
「この学園ってさ、森じゃなくても野生の動物が出てくるの?」
そう言って先ほどのウサギへ指をさす。
「え?」
湊の指を指した方向を見た、日向は大きく目を見開く。
「なんで…っ!?」
険しい顔でウサギに向き合う彼女の手にはいつの間にか刀が握られていた。
「神代君動かないで!」
「は?え?」
え、ちょ急に猟奇的モード?
ウサギを狩るのに全力出す感じ?
急なことに驚き思考が変な方向へ向かう。
それでも逃げずに居たのは、彼女が自分に背を向けて、自分をウサギから守るように立ちはだかったからだろうか。
ギュアッ
先ほどのウサギが汚く喉を鳴らしながら高速で突進してくる。
直進的なようで、寸前、急にジグザグに動き、的確に俺を狙ってくる。
いつもより鮮明に見える視界に、読み取れた情報はこのウサギが俺の喉を角で突こうとしているということ。
慌てて後ろにのけぞり倒れ込むことで回避する。
「な、なんで!」
慌てて俺の前に立ちはだかる日向。
「ほんとにごめん、次は確実に守るから」
言葉は重く、いつもとは比べ物にならないほど真剣な声音だった。
「い、いやだいじょ―」
そう言いかけたところで空に銀閃が走る。
よく見ると、切られた首から黒い霧を吹きだしながら灰のように消えていくウサギの姿が。
呆気に取られていると―。
「ごめんね、君に聞かなくちゃいけないことが出来ちゃったよ」
貼り付けたような笑みを浮かべ、やけにさっぱりと告げる日向。
その裏から、飛んできた小さな光が体に吸い込まれるのを見たのを最後に、強い衝撃と共に急激に世界が黒く染まった。
村、そこに住まう人々、5家に似た少女達。
現代とは似ても似つかぬ、古めかしい情景。
また、これか。
少し前にも見たあの夢だ。
いや、少し違う。
気のせいじゃなければ、村の規模が大きくなっている気がする。
以前見たよりも、家も、畑も、人も増えている。
子供達の姿も多い。
とても平穏で、尚且つ発展しているように見える。
皆が笑みを浮かべている。
その笑みで、何よりも満たされていく気がした。
ふと、気づくと情景が切り替わったように感じた。
先ほどとの違いは、雰囲気だろうか。
村の規模は変わらない。
しかし何より違うのは村人の顔に笑みが少ないことだった。
「このままでは冬どころか、夏を越すことさえ…」
「備蓄も尽きるぞ」
そんな会話が聞こえた気がした。
畑は枯れ始め、川の水位もほとんどなくなってしまっていた。
どうやら干ばつが起きているらしい。
「--姫にはこのことを知らせないように」
「ですが…!」
「また倒れたら今度こそ…」
誰も続く言葉を口にしなかった。
口にしてしまえば、現実になってしまう気がしたからであった。
その時だった。
―ポツ。
―ポツポツポツ。
肌に何か冷たいものがと思った直後、空から勢いよく雨が降り注いだ。
「め、恵みの雨じゃ!」
降り注ぐ雨はひび割れた地面を、乾いた土を、カラカラの空気すら潤していった。
人々が歓喜の声を上げ笑みが戻った頃、ピシャピシャと雨の中を駆け回る足音が響いた。
「大変だ!」
勢いよく戸を開き村人の一人が声を荒げた。
「何事ですか」
「姫さんの姿が無いんだ!」
「っ!」
「いま村中に声をかけて探し回ってるんだが見つからねえ」
大雨が降り注ぐ中、村の大人は誰一人として家に籠らず、探し回った。
しかし見つからない。
「もしかしたら…」
「…っ!危険です!この雨の中でそれは!」
「可能性があるのです、行くべきでしょう」
「ですが居なかったらどうするのですか!」
「それは居なかった時に考えます、大丈夫、私たちには…"力"がありますから」
そう言って飛び出していく。
山は危険に満ちている。
それは現代の比ではなかった。
明確な判断基準はなく、情報は確実ではない。
経験による知識と、培ってきた勘、そして純粋な身体能力。
それらがあってなお生きて帰られる保証のない、それでいて豊穣と神秘に満ちた、空に最も近い場所。
雨を降らせるにはうってつけだろうその場所に、彼女は居た。
よかった
声にも出せず、全身を濡らす雨を感じて喜ぶ。
体を動かすことは叶わなかった。
力を使い過ぎたのだ。
下山することは到底不可能だろうことは明白だった。
でも。
これで彼らは…笑顔でいられる
沈みゆく意識の中、雨にかき消されそうなほど小さな声が聞こえた。
なんだかとても、苦しい気がする。
ほのかに息苦しさを感じる。
むしろ重さすら感じる、というか。
何か腹に乗ってる?
「んぁ…?」
ゆっくりと目を開けると、腹の上にいつぞやのファンシー動物。
5匹程に囲まれている。
えぇ…何事なん…?
とりあえず撫でながら現状整理をする。
見たことのない天井。
木造で、どこか和風な雰囲気を思わせる。
というか和室なのか。
辺りを見渡すと、畳張りの部屋の真ん中に敷かれた布団で寝ていたことが分かった。
「えぇと…何だ?」
うまく思い出せない。
見ていたであろう夢の景色と混ざっている気がする。
というかここはまだ夢…か?
ってかここ何処だ?
俺は確か学園に居たはず…なんだ…が。
―あ。
思い出した。
そうか、そういえば―。
「お目覚めでしょうか」
急な声に振り返るとそこには、和装の女性が丁寧に扉を開けていた。
高級旅館かな?
と思うほど丁寧な所作でお辞儀をされた。
「御加減よろしければどうぞこちらへ」
「あ、はい、大丈夫です」
促されるままについていく。
部屋を出るとまず最初に厳かな日本庭園が視界に入ってきた。
暗いせいかあまりよく見えないが、綺麗に整えられているのは分かった。
目を取られて置いていかれるかと思ったが、全くそんなことはなく、しっかりとこちらに気を配り合わせて移動してくれているのが分かった。
すごく申し訳ない気持ちになった。
小心者だから、俺。
その後もいくつかの角を曲がり、迷路かと思うほど広い屋敷を歩いた先の一つの襖の前で止まった。
「お目覚めになりましたのでこちらにお連れ致しました」
そう言って襖を開けた奥には―
和装に身を包んだ5家の少女達が居た。
文量的に次の話とまとめようと思ってたんですが
気付いたらこんな感じになってました