Legend of Zero   作:猫ロボF

1 / 20
書きたいから書きました。


プロローグ ――白翼の少女――

暗闇だった。

 

光も、音も、温もりさえ存在しない。

 

果てのない漆黒の世界に、一人の少女だけが佇んでいた。

 

身体の感覚は曖昧だった。

 

足元に大地はあるのか。

 

それとも宙へ浮かんでいるのか。

 

何一つ分からない。

 

少女は静かに周囲を見渡す。

 

何もない。

 

あるのは、どこまでも続く静寂だけ。

 

「……ここは?」

 

返事はない。

 

声は闇へ溶けて消えていく。

 

少女は胸へ手を当てた。

 

鼓動は感じる。

 

だが、自分という存在だけが空っぽだった。

 

「私は……誰?」

 

名前が分からない。

 

どこから来たのかも。

 

何をしていたのかも。

 

何一つ思い出せない。

 

その時だった。

 

『ようやく目覚めたか。』

 

どこからともなく声が響く。

 

男とも女ともつかない、不思議な声。

 

優しく。

 

穏やかで。

 

どこか懐かしい。

 

少女は声のする方を見つめた。

 

「あなたは……?」

 

『今は答えられない。』

 

「どうして?」

 

『君が、自分自身で答えへ辿り着かなければ意味がないからだ。』

 

その言葉には、不思議と温もりがあった。

 

否定したいとは思わなかった。

 

『君は記憶を失っている。』

 

少女は静かに頷く。

 

何も覚えていない。

 

だから否定することもできなかった。

 

『だが、一つだけ覚えていてほしいことがある。』

 

「……何?」

 

長い沈黙。

 

やがて声は静かに告げる。

 

『君は――世界を救う"ゼロ"だ。』

 

「……ゼロ?」

 

聞いたことのない言葉。

 

なのに。

 

胸の奥が小さく痛んだ。

 

懐かしい。

 

悲しい。

 

温かい。

 

様々な感覚が入り混じる。

 

それでも理由は分からない。

 

その瞬間。

 

背中に熱が走った。

 

「っ……!」

 

肩甲骨の奥から白い光が溢れ出す。

 

光はゆっくりと形を変え、

 

四枚の純白の翼となって少女の背中へ広がった。

 

羽根が一枚、また一枚と舞い落ちる。

 

少女は恐る恐る翼へ触れる。

 

柔らかい。

 

温かい。

 

機械でも、生き物でもない。

 

まるで生まれた時からそこにあったように、自分の身体へ馴染んでいた。

 

『その翼は君の証だ。』

 

『だが忘れないでほしい。』

 

「……?」

 

『君は戦うためだけに存在するわけではない。』

 

少女は黙って耳を傾ける。

 

『笑ってもいい。』

 

『怒ってもいい。』

 

『泣いてもいい。』

 

『誰かを愛してもいい。』

 

『君は感情のままに生きればいい。』

 

感情。

 

その言葉だけが頭の中で繰り返される。

 

笑うとは。

 

泣くとは。

 

怒るとは。

 

誰かを好きになるとは。

 

そんなものを、自分は知っているのだろうか。

 

「……分からない。」

 

少女は小さく呟いた。

 

『今は、それでいい。』

 

優しく微笑んだような気配がした。

 

『やがて君は多くの人と出会う。』

 

『仲間を得る。』

 

『別れを知る。』

 

『そして君自身の答えへ辿り着く。』

 

突然。

 

世界が震えた。

 

漆黒の空間へ無数の亀裂が走る。

 

赤黒い光が溢れ出し、景色が少女の瞳へ流れ込む。

 

崩壊した都市。

 

黒い結晶に侵食された高層ビル。

 

逃げ惑う人々。

 

異形の怪物。

 

巨大なホロウ。

 

そして。

 

その中心で、白い光が戦っていた。

 

『あれが君の向かう世界だ。』

 

声は少しずつ遠ざかっていく。

 

『どうか……』

 

『未来がどれほど残酷でも。』

 

『その翼だけは、誰かを守るために使ってほしい。』

 

『そして――』

 

『世界を救ってほしい。』

 

少女は咄嗟に手を伸ばした。

 

「待って!」

 

届かない。

 

姿は見えない。

 

世界が眩い白に包まれる。

 

すべてが光へ溶けていった。

 

 

 

 

 

 

頬を撫でる風で少女は目を覚ました。

 

灰色の空。

 

崩れた高層ビル。

 

朽ち果てた車両。

 

誰もいない街路。

 

静寂だけが辺りを支配している。

 

少女はゆっくりと身体を起こした。

 

「……。」

 

自分が誰なのか。

 

何も思い出せない。

 

それでも背中には確かな重みがあった。

 

四枚の純白の翼。

 

その存在が、自分が普通ではないことを物語っている。

 

白い羽根が静かに舞う。

 

静寂が訪れた。

 

「……行こう。」

 

理由は分からない。

 

目的も分からない。

 

それでも胸の奥で、何かが自分を導いていた。

 

その先に待つ街。

 

新エリー都。

 

白き翼の少女は静かに歩き始める。

 

まだ少女は知らない。

 

自分が"世界を救うゼロ"と呼ばれた理由を。

 

その翼に秘められた、本当の力を。

 

そして、新エリー都で待ち受ける数々の出会いと別れを。

 

これは、一人の少女が感情を知り、仲間を知り、世界を変えていく物語の始まりである。




不定期投稿です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。