カンバス通り。
荒廃した街並みの中。
避難できずに取り残された住民たちは、不安そうに周囲を見渡していた。
その中で。
アンビーは集めた書類を確認する。
「これで委任状は全部。」
「ありがとう。」
近くにいた老人が微笑む。
「いやいや。」
「お礼を言うのはこっちの方だよ。」
「あなたたちがいなかったら……。」
「あたしら全員、どうなっていたことか。」
老人は遠くを見る。
「それにしても……。」
「助けを呼びに行ってくれたお嬢ちゃん。」
「なかなか戻って来ないねぇ。」
ニコは腕を組んだ。
「……確かに妙ね。」
「また想定外のことに巻き込まれたんじゃないでしょうね。」
その時。
声が響いた。
「確かに想定外のことはあったけど。」
「策を思い付いた。」
ニコが振り向く。
「……この声。」
「プロキシ!?」
その瞬間。
「みんな!」
「お待たせ!」
猫又が勢いよく姿を現す。
その隣にはレイ。
「お待たせしました。」
ニコは目を丸くする。
「猫又……。」
「それにレイまで。」
アキラは通信越しに説明を始めた。
列車を止めようとしたこと。
しかし。
その車両には爆薬だけではなく、武装した人間たちが乗っていたこと。
全てを聞いたニコは、静かに笑う。
「なるほどね。」
「列車を止めて爆破そのものをやめさせようとした。」
「でも車両の中は、ヴィジョンの武装した増援でいっぱいだった……。」
「ふん。」
「どうやらヴィジョンは。」
「住民たちの決死の抵抗を、よっぽど恐れているみたいね。」
そして。
ニコは笑顔になる。
「でも。」
「プロキシの考えた作戦は悪くないわ!」
「さすが、知恵と勇気の『パエトーン』ね!」
アキラは少し苦笑する。
「褒めすぎだよ。」
ニコは近くの老人へ向き直る。
「おばあさん。」
「さっきの救助計画は聞いていたわよね?」
「住民のみんなを、一番近い地下鉄駅へ集めてくれる?」
老人は胸を張る。
「安心しなさい。」
「足手まといにはならないよ。」
「すぐみんなに知らせてこよう。」
「お願い。」
ニコは頷く。
「あ……。」
「そうそう。」
「この近くのホロウに、赤牙組の古い拠点があるって聞いたんだけど。」
「何か知らない?」
アキラが首を傾げる。
「急に話が変わったけど……。」
「どうして今、それを?」
ニコは視線を逸らす。
「だって……。」
「猫又の依頼料……じゃなくて。」
「家族の形見が、まだ見つかってないのよ。」
「ここの住民なら、何か知っているかと思って。」
老人は少し考える。
「その話なら知っているよ。」
「というより……。」
「ここに住んでいる人間で、赤牙組を知らない者はいない。」
ニコが驚く。
「え?」
老人は続けた。
「なにせ。」
「赤牙組は、この場所で生まれたんだからね。」
猫又が顔を上げる。
老人の声は続く。
「昔の赤牙組は、今とは違った。」
「孤児を引き取り。」
「戦い方だけじゃなく、読み書きも教えていた。」
「弱い者を守るために立ち上がったことも、一度や二度じゃない。」
「ずっとこの場所を。」
「故郷を守ると言っていた。」
「……でも。」
老人の表情が曇る。
「シルバーヘッドという若造が頭になってから。」
「少しずつ変わっていった。」
「貧民街を見下すようになり。」
「人様には言えないようなことにも手を出し始めた。」
「それを見ていられず、組を抜けた者も多い。」
「やがて赤牙組自身も、この場所を離れた。」
「今の赤牙組とは関わりたくない。」
「シルバーヘッドが治安局に追われてホロウへ落ちたのも……。」
「ただの自業自得さ。」
猫又の耳が動いた。
「……え?」
「今、なんて言った?」
老人が首を傾げる。
「どうしたんだい?」
猫又は詰め寄る。
「シルバーヘッドは……。」
「治安局に追われてホロウに落ちたの?」
「邪兎屋に……やられたんじゃなくて?」
ニコの表情が固まる。
「……。」
「それは……。」
その時。
ビリーが咳払いをする。
「コホン。」
「子猫ちゃん……いや。」
「依頼人さん。」
「誤解を解こうとはしたんだ。」
「でも、そのキラキラした目で見られると……。」
「何も言えなくなっちまってな。」
猫又が振り向く。
ビリーは申し訳なさそうに続ける。
「悪い。」
「確かに俺たちは、たまたま現場に居合わせた。」
「けど。」
「あいつを倒したのは……。」
「治安局なんだ。」
猫又の表情が崩れる。
「そんな……。」
「あんたたちじゃ……なかったのか。」
アンビーが静かに言う。
「猫又。」
「気を落とさないで。」
「仮に治安局の介入がなかったとしても。」
「邪兎屋なら、シルバーヘッドに苦戦はしなかった。」
ニコはため息をつく。
「……今回の件。」
「確かに猫又が勝手に誤解した部分もあるけど。」
「あたしたちにも少し責任はあるわ。」
「だから。」
「形見探しの依頼料は、ちょっとだけオマケしてあげる!」
猫又の顔が少し明るくなる。
ニコはすぐに手を叩いた。
「と、とにかく!」
「今はこの話は終わり!」
「一刻も早く列車を奪って。」
「住民たちをここから連れ出すわよ!」
「出発!」
◇
数分後。
一行はホロウ内部へ侵入した。
ニコが前を見る。
「さあ。」
「もうすぐ列車に着くわよ。」
「作戦目標は単純!」
「守衛を倒す!」
「列車を奪う!」
「そのまま逃げる!」
「以上!」
ビリーが敬礼する。
「了解!」
アンビーは突然、口ずさみ始めた。
「ドンドドドンドン……。」
「ドンドンドンドンドドドンドン……。」
レイが首を傾げる。
「……?」
猫又も不思議そうに見る。
「アンビー?」
「緊張で壊れちゃった?」
ビリーが苦笑する。
「いや……。」
「たぶんBGMで盛り上げようとしてるんじゃねえか?」
「十中八九、映画の影響だな。」
ニコは笑う。
「大丈夫よ、アンビー。」
「そんなものがなくても。」
「この作戦の重大さは、みんな分かってる。」
そして。
「プロキシ。」
「運転はあんたに任せたからね。」
「そっちは大丈夫?」
アキラが答える。
「……免許は車しか持ってないけど。」
「頑張ってみるよ。」
Fairyが補足する。
「マスター。」
「ご安心ください。」
「私が詳細な操作方法を説明します。」
ニコは頷いた。
「よし。」
「それじゃあ――。」
「行くわよ!」
「ヴィジョンに思い知らせてやる!」
◇
警備兵たちが異変に気付く。
「敵襲だ!」
ニコが叫ぶ。
「みんな!」
「一気にやっちゃうわよ!」
「行くわ!」
レイは翼部装置を展開する。
大型ライフルが現れる。
しかし。
今回は出力を調整する。
「非殺傷モード。」
淡い光が銃身へ集まる。
放たれた光弾は、敵の武器だけを弾き飛ばした。
「な、なんだ!?」
次々と倒れていく警備兵。
レイは静かに進む。
「問題ありません。」
猫又が笑う。
「相変わらず頼りになるな!」
ビリーが銃を構える。
「さあ。」
「列車強奪作戦の始まりだ!」
アンビーも刀を抜く。
「目標確認。」
「突破する。」
ニコは先頭へ立った。
「行くわよ!」
「住民たちを救い出す!」
一行は列車へ向かって駆け出した。
戦闘描写はないです。無口だけどもう少しレイちゃん喋らせたほうがいいのかな?