Legend of Zero   作:猫ロボF

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第十話 ――白翼と心機一転――

 

 

数分後。

 

ヴィジョンの爆破エリア監視拠点。

 

列車の前――。

 

戦闘の痕跡が残る場所で、パールマンは地面に押さえつけられていた。

 

「グハァ……!」

 

猫又は彼の背中を押さえながら、鋭い目を向ける。

 

「だるまのオッサン!」

 

「命を何とも思わない大悪党め!」

 

「大人しく降参しろ!」

 

その横で、ニコが周囲を確認する。

 

「猫又、このオッサンも連れてきて!」

 

「アンビーとビリーは運転室へ向かってるわ。」

 

「プロキシは、ホームで乗車を待つように住民たちへ知らせて!」

 

パールマンは顔を歪める。

 

「お、お前たち……!」

 

「あのスラムの連中を列車で連れ出すつもりか……?」

 

「させん……!」

 

「絶対にさせんぞ!」

 

「連中が外へ出て、何か言おうものなら……!」

 

「私とヴィジョンは終わりだ!」

 

パールマンは必死に叫ぶ。

 

「誰でも構わん!」

 

「どんな手を使ってでも、こいつらを阻止しろ――!」

 

その瞬間。

 

Fairyの声が響いた。

 

「警告。」

 

「予定ルート上における路線の予期せぬ破断を確認。」

 

「小規模爆発による線路損壊を検出。」

 

「計画は失敗です。」

 

アキラが息を呑む。

 

「何だって……!?」

 

「ニコ、大変だ!」

 

「線路が壊された!」

 

「何ですって!?」

 

ニコの表情が変わる。

 

その直後。

 

隣から別の声が聞こえた。

 

「パ、パールマン長官!」

 

「ご安心ください!」

 

「新エリー都へ続く唯一の線路を爆破しました!」

 

「これで奴らはもう出られません!」

 

猫又の耳が跳ねる。

 

「なんだって!?」

 

パールマンは顔を真っ赤にした。

 

「お、お前……!」

 

「このバカタレがぁ!」

 

「線路を爆破するのは、我々が撤退した後だ!!」

 

「スラムの連中だけではない!」

 

「我々まで閉じ込められてしまったではないか!!」

 

静寂。

 

そして。

 

レイが周囲を見る。

 

「……ニコさん。」

 

「四方から敵の増援が接近しています。」

 

「どうしますか?」

 

ニコは頭を抱える。

 

「ああもう……!」

 

「こうなったら仕方ない!」

 

「だるまのオッサンを連れて、列車の中に隠れるわよ!」

 

 

「パールマン長官。」

 

「列車付近で身元不明の侵入者による襲撃を受けました。」

 

「負傷者も出ていますが、人数と物資はこちらが優勢です。」

 

「侵入者は現在、運転室に立てこもっています。」

 

「火力を集中して突入しますか?」

 

「ご指示願います。」

 

パールマンは震えながら答えた。

 

「……。」

 

「と、突入するな!」

 

「私は今、その運転室だ!」

 

「邪兎屋の侵入者どもに……!」

 

「くっ……!」

 

「紳士淑女に捕まっている!」

 

「いいか!」

 

「絶対に動くな!」

 

「この私が少しでも怪我を負ったら……!」

 

「会社はお前たちの責任を問うぞ!」

 

通信が切れる。

 

ビリーが呟いた。

 

「あのオッサン……。」

 

「意外と役に立つな~。」

 

アンビーも頷く。

 

「しばらくは攻撃してこないはず。」

 

「でも……。」

 

「私たちの計画も失敗に終わった。」

 

ビリーは外を見る。

 

「そうだよな……。」

 

「線路が無くなっちまった。」

 

「列車があったところで、住民たちを運び出すことはできねぇ。」

 

「これが……。」

 

「絶体絶命のピンチってやつか!?」

 

その時。

 

「……へへっ。」

 

猫又が小さく笑った。

 

レイが首を傾げる。

 

「どうかしましたか?」

 

ビリーも驚く。

 

「おいおい。」

 

「こんな時によく笑ってられるな。」

 

猫又は首を振った。

 

「違う違う。」

 

「あんたを笑ったんじゃなくて……。」

 

「これ。」

 

猫又は手の中にあるものを見せた。

 

「さっきの戦闘で、たまたま見つけたんだ。」

 

「――あたしの家族の形見。」

 

ニコが目を細める。

 

「これって……写真?」

 

そこに写っていたのは。

 

幼い猫又。

 

そして。

 

赤牙組の元リーダー。

 

「シルバーヘッド」。

 

猫又は静かに口を開いた。

 

「実は……。」

 

「あたし、あんたたちを騙してた。」

 

「赤牙組に形見を奪われたっていうのも……嘘。」

 

「私は昔、カンバス通りの近くに住んでた。」

 

「そして……赤牙組に引き取られた孤児のひとりだったの。」

 

猫又は写真を見る。

 

「昔の赤牙組には、ちゃんと理想があった。」

 

「みんなで故郷を守ろうって。」

 

「お互いに誓い合ってた。」

 

「でも……。」

 

「時が経つにつれて、組は変わっていった。」

 

「守るはずだった人たちを見下して。」

 

「傷つける側になっていった。」

 

「だから、あたしは組を抜けた。」

 

「もう二度と、ここには戻らないつもりだった。」

 

猫又は拳を握る。

 

「でも……。」

 

「どれだけ失望しても。」

 

「シルバーヘッドがあたしを拾ってくれたことは事実。」

 

「あそこは……。」

 

「あたしにとって、一番『家』に近い場所だった。」

 

レイが小さく呟く。

 

「……家。」

 

猫又は頷く。

 

「シルバーヘッドがホロウにおびき寄せられて死んだって聞いた時。」

 

「あたしは復讐するつもりだった。」

 

「あんたたちを同じデッドエンドホロウに連れて行って。」

 

「全部奪うつもりだった。」

 

「でも……。」

 

猫又は三人を見る。

 

「あんたたちは、あたしが思ってたのと全然違った。」

 

「子供を助けるために命懸けで走って。」

 

「ヴィジョンのことを知っても、住民を助けるために残ってくれた。」

 

「それに……。」

 

「シルバーヘッドが死んだのは、あんたたちのせいじゃなかった。」

 

猫又はゆっくり立ち上がる。

 

「赤牙組は誓いを破った。」

 

「守るべき人たちを見捨てた。」

 

「だったら……。」

 

「あたしは元一員として、同じ過ちを繰り返させるわけにはいかない。」

 

猫又は決意した表情を浮かべた。

 

「あたしがヴィジョンと交渉してくる。」

 

「覚悟はできてる。」

 

そう言うと。

 

猫又はパールマンを引きずり、列車の扉へ向かった。

 

「安心して。」

 

「パールマンっていう切り札もある。」

 

「あたしの出身が赤牙組だって知ったら……。」

 

「きっと交渉に応じる。」

 

扉が閉まる。

 

「猫又!」

 

「依頼人さん!」

 

「戻って来い!!」

 

ビリーの叫びが響く。

 

しかし。

 

返事はなかった。

 

「……。」

 

「アンビー。」

 

「ドアを開けて。」

 

ニコの声が震える。

 

アンビーが確認する。

 

「無理。」

 

「この車両、窓もドアも異常に頑丈。」

 

「パールマンが補強させた可能性が高い。」

 

「くっ……!」

 

ニコが拳を握る。

 

その時。

 

アンビーが顔を上げた。

 

「静かに。」

 

「外から声がする。」

 

 

列車の外。

 

猫又は武装部隊へ向かって叫んでいた。

 

「はっきり言ったでしょ?」

 

「あたしは今から、あんたたちのボスを連れて歩いてホロウを抜ける。」

 

「目的は、新エリー都の爆破解体本部での交渉。」

 

「武装部隊は封鎖を解除して。」

 

「住民たちを解放して。」

 

「それが終わったら、一緒にここから立ち去る。」

 

猫又はパールマンを引き寄せる。

 

「あんたたちのボスは、あたしが預かってる。」

 

「彼に無事でいてほしいなら……。」

 

「耐侵蝕装備と、ホロウを抜ける最短ルートを用意して。」

 

猫又は小さく呟く。

 

「……ニコ。」

 

「みんなのことは頼んだ。」

 

 

数分後。

 

「埒が明きません。」

 

レイが立ち上がる。

 

「私が破壊します。」

 

ビームサーベルが展開される。

 

扉へ振り下ろす。

 

一閃。

 

頑丈な扉が切断された。

 

「やった!」

 

ビリーが叫ぶ。

 

「ようやく出られたぞ!」

 

ニコは外を見る。

 

「もう……。」

 

「猫又とパールマンは、ホロウに入ったはず。」

 

アキラが言う。

 

「Fairy。」

 

「猫又の位置を確認してくれ。」

 

「了解。」

 

Fairyが答える。

 

「依頼人の現在地を特定。」

 

「現在の進路から推測。」

 

「約30分後、ホロウ出口へ到達します。」

 

ビリーが呟く。

 

「ってことは……。」

 

「もう猫又を止める方法はないのか?」

 

ニコは拳を握る。

 

「そうだとしても……。」

 

「住民救出なんて大仕事を、猫又ひとりに背負わせるわけにはいかない。」

 

「でも……。」

 

「列車作戦が失敗した今。」

 

「どうやって住民を脱出させるの……?」

 

「エーテル適性がない住民を……。」

 

「一瞬で適応体質にできれば……。」

 

レイが答える。

 

「ニコさん。」

 

「素晴らしい案ですが、それは不可能です。」

 

しかし。

 

リンの声が通信から響いた。

 

「でもレイちゃん。」

 

「見方を変えれば……。」

 

「方法はあるかもしれない。」

 

アキラが気付く。

 

「……なるほど。」

 

「さすがだよ、リン。」

 

ニコが振り返る。

 

「どういうこと?」

 

リンは説明する。

 

「カンバス通りと新エリー都。」

 

「直線距離なら、そこまで遠くない。」

 

「ただ、デッドエンドホロウが広がっているせいで、安全な道がないだけ。」

 

「つまり……。」

 

「ホロウ自体を縮小できれば。」

 

「住民は安全な道を通って脱出できる。」

 

ビリーが目を輝かせる。

 

「なるほど!」

 

「エーテリアスを倒せばいいってことか!」

 

アンビーが冷静に続ける。

 

「でも効率的に縮小するには。」

 

「数千体規模の撃破が必要。」

 

ビリーの顔が固まる。

 

「ブッ……。」

 

リンは続けた。

 

「ただし。」

 

「特定の巨大個体は、標準的なエーテリアス数千体分以上のエーテル活性を持つ。」

 

「そう。」

 

「デッドエンドブッチャー。」

 

ビリーが青ざめる。

 

「あのデカブツか……。」

 

「俺、明日の夜モニカ様に会う予定なんだけどな……。」

 

リンは頷く。

 

「私たちだけじゃ勝てない。」

 

「でも……。」

 

「ここにはヴィジョンが用意したものがある。」

 

レイが気付く。

 

「エーテル爆薬……。」

 

アキラも頷く。

 

「そう。」

 

「何トンもの爆薬が使える。」

 

ニコは笑う。

 

「なるほど。」

 

「爆薬でデッドエンドブッチャーを倒すってわけね。」

 

「ふふん。」

 

「危険だけど……。」

 

「迷ってる時間はない!」

 

「作戦開始よ!」

 

リンが言う。

 

「ここからは二手に分かれよう。」

 

「お兄ちゃんはここに残って、イアスをお願い。」

 

「積めるだけ爆薬を列車に積んで。」

 

ニコが頷く。

 

「あたしたちはデッドエンドブッチャーのところへ行く。」

 

「爆薬が届くまで……。」

 

「時間を稼ぐ!」

 

決戦の準備が始まった。

 

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