Legend of Zero   作:猫ロボF

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第十一話 ――白翼とデッドエンドブッチャー――

 

同時刻。

 

ホロウの外――。

 

爆破エリア周辺。

 

ヴィジョンの傭兵たちは、混乱した様子で通信を交わしていた。

 

「どういうことだ……。」

 

「小娘ごときにパールマン長官を攫われただと?」

 

別の傭兵が答える。

 

「詳しいことは分からん。」

 

「だが、パールマン長官が人質に取られた以上……爆破エリアの部隊も、あの娘の要求通り撤退するしかなかったらしい。」

 

「それに……。」

 

「小娘は、この場所の責任者を出せと言ったそうだ。」

 

「それに応じたサラ長官が、直接交渉に向かっている。」

 

 

爆破エリア外。

 

猫又はパールマンを連れ、ヴィジョンの責任者――サラと向き合っていた。

 

「要求は簡単。」

 

猫又は真っ直ぐサラを見る。

 

「爆破を中止して。」

 

「閉じ込められた住民たちを救出するって約束してくれれば……。」

 

「こいつを返す。」

 

サラは冷たい視線を向けた。

 

「……簡単に言ってくれるわね。」

 

「あなたの要求通りにしたとして。」

 

「我々ヴィジョンは、この件をどう説明すればいいと思っているの?」

 

「それ以前に――。」

 

サラは猫又を観察する。

 

「あなたは誰?」

 

「一人で交渉の場へ来る度胸は認めるわ。」

 

「でも。」

 

「狩る側が、狩られる側になる可能性だってあるのよ?」

 

猫又は少し笑った。

 

「あ。」

 

「自己紹介を忘れてた。」

 

「あたしは猫宮又奈。」

 

「猫又って呼んでいいぞ。」

 

そして。

 

猫又は胸を張った。

 

「何を隠そう――。」

 

「あたし、赤牙組の元組員なんだ。」

 

その瞬間。

 

周囲の傭兵たちがざわめく。

 

「赤牙組……!」

 

猫又は続ける。

 

「そう。」

 

「こっちから持ちかけた取引だ。」

 

「それなりの切り札はある。」

 

猫又は目を細める。

 

「こんな筋書きはどう?」

 

「赤牙組の残党。」

 

「今は亡き『シルバーヘッド』ミゲルの爪。」

 

「旧都の住民を人質にして、工事を妨害した張本人――。」

 

「猫宮又奈を、ヴィジョンは捕えた。」

 

サラは小さく笑った。

 

「自分を犠牲にして幕を引くつもり?」

 

「なかなか殊勝なことをするのね。」

 

猫又は視線を落とす。

 

「殊勝……?」

 

「ははっ。」

 

「あたしは帰る場所を失くした、ただの野良猫だ。」

 

「どこにも属さないあたしには……。」

 

「これくらいがお似合いなんだ。」

 

猫又は拳を握る。

 

「だから。」

 

「この取引でどう?」

 

「今すぐメディアへ連絡して。」

 

「あたしが言った通りに――。」

 

「全部、公表すれば……。」

 

その時。

 

パンッ!

 

乾いた音が鳴った。

 

サラが静かに口を開いた。

 

「……?」

 

銃口はパールマンに向けられていた。

 

「安心して。」

 

「中身は実験中の麻酔薬よ。」

 

「死にはしないわ。」

 

「……な……。」

 

サラは淡々と告げる。

 

「親切で教えてあげる。」

 

「次に交渉するときは。」

 

「切り札の価値を、先に確認することね。」

 

「残念ながら――。」

 

「パールマンさんは、あなたが思っているほど役に立たないの。」

 

 

同時刻。

 

デッドエンドホロウ内部。

 

ニコたちは、さらに奥へ進んでいた。

 

ビリーが周囲を警戒しながら呟く。

 

「デカブツのねぐらは、こっちだな。」

 

レイは地面を見る。

 

砕けたアスファルト。

 

巨大な爪痕。

 

壁面に残された、何かを叩き潰したような傷跡。

 

「間違いありません。」

 

「怪しい痕跡が、どんどん増えています。」

 

ニコはため息を吐く。

 

「はぁ……。」

 

「真正面からぶつかるなんて、本当は御免なんだけど。」

 

「こうなったら、やるしかないわね。」

 

その時。

 

通信が入った。

 

アキラだった。

 

「もしもし、ニコ。」

 

「聞こえるか?」

 

ニコが応答する。

 

「どうしたの?」

 

「猫又がホロウの外へ出た。」

 

「えぇっ!?」

 

ビリーが声を上げる。

 

「もう出ちまったのかよ!?」

 

ニコは拳を握る。

 

「待ってなさい、猫又……。」

 

「バカなことしたら、絶対許さないんだから。」

 

その時。

 

アンビーが前方を指差した。

 

「裂け目。」

 

ニコは目を細める。

 

「あいつは向こう側にいる……。」

 

「行くわよ。」

 

四人は裂け目へ飛び込んだ。

 

 

辿り着いた先。

 

そこは、さらに深いホロウだった。

 

ビリーは周囲を見回す。

 

「……何もねぇな。」

 

「あのデカブツ、本当にここにいるのか?」

 

ニコも眉をひそめる。

 

「大きいのはいないわね。」

 

「チビばっか。」

 

周囲には、小型のエーテリアスが蠢いていた。

 

レイがライフルを構える。

 

「排除しますか?」

 

しかし。

 

ニコが手を上げる。

 

「……待って。」

 

エーテリアスたちが。

 

一斉に動きを止めた。

 

そして。

 

逃げ始めた。

 

「……。」

 

レイが呟く。

 

「逃げています。」

 

アンビーは静かに言った。

 

「来る。」

 

ニコが息を呑む。

 

「デカブツね?」

 

アンビーは真顔で答えた。

 

「BGM。」

 

「……え?」

 

「映画なら。」

 

「悪役には専用BGMが流れる。」

 

ビリーが笑う。

 

「フッフッフ!」

 

「安心しろ、アンビー!」

 

「俺はスターライトナイトに必勝法を教わった!」

 

「悪役相手にルールは無用!」

 

「開幕必殺キックだ!」

 

「十秒で倒せば、BGMが流れる暇なんてねぇ!」

 

ニコが叫ぶ。

 

「後ろ!!」

 

アンビー。

 

「ビリー!!」

 

その瞬間。

 

轟音。

 

大地が爆発した。

 

遠くにいたはずの巨体が、一瞬で距離を詰める。

 

ビリーが振り返る。

 

「な――。」

 

巨大な道路標識が振り下ろされる。

 

「危ない!」

 

レイが飛び出した。

 

純白の翼が大きく広がる。

 

ビリーごと包み込んだ瞬間。

 

ズガァァァン!!

 

凄まじい衝撃が響く。

 

地面が砕ける。

 

瓦礫が吹き飛ぶ。

 

翼の隙間からライフルを出し牽制射撃をする。

 

その射撃を怪物は避けるために後退する。

 

アンビーが駆け寄る。

 

「レイ。」

 

「大丈夫?」

 

レイは翼を閉じる。

 

「はい。」

 

「少し翼が汚れました。」

 

ビリーは呆然とする。

 

「た、助かったのか!?」

 

ニコは頭を抱えた。

 

「おバカ!!」

 

「エンドロールが流れるところだったじゃない!!」

 

「ありがとな、レイ……。」

 

「お礼は全部終わってからにしてください。」

 

そしてビリーは敵を睨む。

 

「さてはこいつ……。」

 

「スターライトナイトのファンだな!?」

 

その時。

 

目の前の怪物が、ゆっくり立ち上がった。

 

巨大な人型。

 

他のエーテリアスの三倍以上はあろうかという巨躯。

 

侵蝕によって変質した肉体。

 

太く膨れ上がった腕。

 

そして。

 

右手に握られた、道路標識と融合した巨大な斧。

 

その一歩で地面が沈む。

 

周囲のエーテリアスたちは、本能的な恐怖から逃げ去っていく。

 

同族ですら近付かない。

 

このホロウを支配する捕食者。

 

都市開発の最大の障害。

 

かつてホロウ調査協会の討伐隊を壊滅させた災厄。

 

治安局が立ち入りを厳重に制限する理由。

 

その名は――。

 

「デッドエンドブッチャー。」

 

怪物の視線が、四人へ向く。

 

次の瞬間。

 

道路標識アックスが唸りを上げた。

 

大振り。

 

単純な攻撃。

 

そう見えた。

 

しかし。

 

途中で一瞬、動きが止まる。

 

レイが気付く。

 

「……!」

 

「攻撃のタイミングをずらしています。」

 

振り下ろされた一撃が地面を抉る。

 

逃げ場を奪うように。

 

間髪入れず、二撃。

 

三撃。

 

巨大な斧が連続して襲い掛かる。

 

「単純な力押しではありません。」

 

レイが後退する。

 

「回避のタイミングそのものを狙っています。」

 

「戦う者の癖を利用して、狩っている……。」

 

デッドエンドブッチャーは、ゆっくりと斧を肩へ担いだ。

 

そして。

 

大きく息を吸う。

 

次の瞬間。

 

ホロウ全域を震わせる咆哮が響き渡った。

 

ビリーが息を呑む。

 

ニコは武器を握り直す。

 

「……。」

 

「これが……。」

 

「デッドエンドホロウの主。」

 

怪物との戦いが始まった。

 

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