数日後――。
『Random Play』店内。
テーブルを囲み、ニコたちは今回の事件について報告していた。
ニコは腕を組み、大きく頷く。
「……とにかく、猫又と赤牙組の間柄のおかげで、もう赤牙組がちょっかいを出してくることはないわ。」
「それと、あんたたちに頼まれてた調査にも、一応進展があったの。」
アキラが身を乗り出す。
「本当か?」
「組員から聞いた話なんだけど。」
ニコは資料を机へ置いた。
「赤牙組は金庫争奪には関わってた。でも、その金庫がどこから来たのかは、誰も知らなかったらしいの。」
リンが首を傾げる。
「誰も?」
「ええ。」
「『シルバーヘッド』は研究所で金庫を手に入れる依頼を、正体不明の依頼人から受けただけ。」
「依頼が終わった後、誰へ渡す予定だったのかも、組員は何も知らないって。」
店内が静かになる。
リンは呆れたように笑った。
「ちょっと待って。」
「私の聞き間違いじゃないよね?」
「"誰も知らない"。」
「"謎の依頼人"。」
「"みんな分からない"。」
「……それって進展って言える?」
レイも小さく首を傾げた。
「これが……進展ですか?」
「赤牙組も金庫について、何一つ知らなかったということが分かっただけでは?」
ニコは思わず机を叩く。
「仕方ないじゃない!」
「あの金庫、本当に手掛かりが少なすぎるの!」
「それに!」
「せっかく助かった住民たちにも慰謝料を勝ち取ってあげたいし!」
「あの人たちを助けたのは、あたしたちなんだから!」
リンは苦笑する。
「……ニコ。」
「いつの間に道徳を盾にするようになったの?」
「ご高説どうも。」
ニコは視線を逸らした。
「う……。」
リンは思い出したように尋ねる。
「そういえば猫又は?」
「あの日から見かけないけど。」
ニコは言葉を濁す。
「あ、あの子猫ちゃん?」
「その……。」
「うぅ……。」
レイは静かに呟いた。
「やっぱり……行ってしまったんですね。」
その時だった。
ガチャッ。
バックヤードの扉が勢いよく開いた。
「にゃにゃーん!」
元気いっぱいの声が店内へ響く。
「子猫ちゃん、参上だにゃ!」
紙袋を抱えた猫又が満面の笑みで飛び込んでくる。
「みんなの集合写真、プリントしてきたんだ!」
「ん~、よく撮れてる!」
猫又は一枚ずつ写真を配っていく。
「はいどーぞ!」
「これがアキラの!」
「これがリンちゃん!」
「そして――」
レイへ一枚差し出す。
「レイちゃんの分!」
レイは写真を受け取った。
そこには。
アキラ。
リン。
ニコ。
アンビー。
ビリー。
猫又。
そして、自分。
七人が並んで笑っている写真が写っていた。
「……。」
レイは静かに見つめる。
写真というものを手にするのも。
みんな写るのも。
初めてだった。
猫又は首を傾げる。
「ん?」
「二人とも、どうかした?」
「大事にしまってたおやつを誰かに食べられたみたいな顔してるぞ?」
ニコが吹き出した。
「ぷっ!」
リンも笑う。
「もう、ニコったら。」
「私たちの心を弄ぶなんてひどいじゃん。」
「それなら――」
リンは指を立てた。
「これまでのツケの一割、今すぐ払ってもらおうかな?」
レイも小さく頷く。
「リンさん。」
「よく言いました。」
「私は賛成です。」
「ちょっ!?」
ニコは慌てて両手を振る。
「それだけは勘弁して!」
「ちょっとサプライズしたかっただけじゃない!」
軽く咳払いをして、猫又の肩へ手を置く。
「改めて紹介するわ。」
「邪兎屋の新しい従業員。」
猫又は胸を張る。
「猫宮又奈!」
「猫又って呼んでいいぞ!」
「今は邪兎屋で働いてるんだ!」
「二人とも、これからもよろしくにゃ!」
店内へ笑い声が広がる。
◇
ヴィジョンの陰謀は阻止された。
救出された住民たちも、それぞれの日常へ戻り始めている。
猫又にも、新しい居場所ができた。
これにて一件落着。
伝説のプロキシ兄妹とレイも、ようやく束の間の休息を迎える。
◇
その夜――。
レイは寝支度を済ませ、自室のベッドへ横になった。
柔らかな天井を見上げながら、小さく息を吐く。
静かな夜だった。
目を閉じると、今回の依頼で起きた出来事が次々と思い浮かぶ。
猫又。
邪兎屋。
ヴィジョン。
デッドエンドブッチャー。
サラ。
そして――
自分。
「……。」
邪兎屋も、猫又も。
きっと、双方にとって良い結末だった。
少なくとも、猫又には帰る場所ができた。
それは、とても嬉しいことだと思う。
アキラさんとリンさんの金庫の件は……。
結局、何も分からなかった。
謎の依頼人。
研究所。
金庫。
まだ何一つ繋がっていない。
そして。
私自身のことも。
翼の付け根に取り付けられた機構。
ゼロシステム。
ツインバスターライフル。
ビームサーベル。
私は何も知らない。
「……。」
レイは天井を見つめたまま、小さく呟く。
「焦っても……。」
「危険なことが増えるだけかもしれません。」
今までのように、一人で答えを探し続けても。
何かが変わるとは限らない。
それなら。
「……。」
「心機一転。」
「悩み事は、しばらく放っておきましょう。」
ふと、リンの言葉を思い出す。
『悩みなんて、放っておいたら勝手に消えちゃうこともあるよ。』
レイは思わず小さく笑った。
「……。」
「すべての悩みが、そうとは思いませんけど。」
「今は、それでもいいのかもしれません。」
写真立て代わりに、今日もらった集合写真をベッドサイドへ置く。
七人が笑っている。
その光景を見つめると、不思議と胸の奥が温かくなった。
「おやすみなさい。」
小さく呟き、目を閉じる。
穏やかな夜が、更けていく。
第一章 猫の落とし物 ~完~
次回、間章