Legend of Zero   作:猫ロボF

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間章 心「零」現象
第十五話 ――白翼と深夜の訪問 ――


あの出来事から、数日が過ぎた。

 

レイは『Random Play』を手伝いながらも、時折ホロウへ入り、ホロウレイダーとして依頼をこなしていた。

 

そして。

 

レイ自身も気付いていた。

 

ゼロシステム。

 

それは、ただ敵の攻撃を予測するだけではない。

 

ホロウ内部の構造変化。

 

エーテリアスの行動パターン。

 

敵が次に取る行動。

 

その全てを、一定の範囲で予測することができた。

 

「……もっと使いこなせるはずです。」

 

レイはそう考えた。

 

自分が持つ唯一の手掛かり。

 

自分自身を知るための力。

 

だからこそ。

 

レイは、その力を伸ばそうとしていた。

 

しかし。

 

その努力は、少し度を越えていた。

 

依頼を終えた後。

 

そのままホロウ内に残り、一日中エーテリアスを狩り続けたこともあった。

 

気が付けば、朝から夜までホロウに滞在していた。

 

もちろん。

 

アキラとリンは何度も注意した。

 

「レイ。」

 

「無理をしすぎだ。」

 

「ホロウは訓練場じゃない。」

 

「……はい。」

 

レイは素直に返事をする。

 

だが。

 

次の日には、またホロウへ向かっていた。

 

そんな日々が続いていた。

 

 

そして。

 

ある日のこと。

 

いつものように依頼を終え、ホロウから帰還した時だった。

 

レイの端末が反応する。

 

「……?」

 

ノックノックに通知。

 

送信者は――。

 

アキラ。

 

《一度ビデオ屋に戻ってきてくれないか?》

 

レイはすぐに返信する。

 

《今から戻ります。》

 

次の瞬間。

 

四枚の純白の翼が広がった。

 

そして。

 

レイは夜空へ舞い上がった。

 

六分街へ向かって。

 

 

『Random Play』。

 

店内へ戻ったレイは、すぐにバックヤードへ向かった。

 

扉を開ける。

 

そこには。

 

アキラ。

 

リン。

 

そして――。

 

見知らぬ男性がいた。

 

男性はレイを見ると、にこりと笑う。

 

「おや。」

 

「君がアキラやリンが言っていた新人ちゃんかな?」

 

「俺は羊飼い。」

 

「アキラやリンと協力関係にある情報屋さ。」

 

レイは少し頭を下げる。

 

「レイです。」

 

「よろしくお願いします。」

 

リンが笑う。

 

「レイちゃん、そんなにかしこまらなくていいよ。」

 

羊飼いは頷く。

 

「さて。」

 

「今回もかなり大きなネタを仕入れたんだが……。」

 

「緊急の内容なんだ。」

 

「なるべく手短に話すぞ。」

 

「……っと。」

 

「その前に。」

 

「お茶か何かもらえるか?」

 

アキラが答える。

 

「水道水でいいか?」

 

「飲みたいなら、自分で注いでもらえると助かる。」

 

羊飼いは呆れた顔をする。

 

「おいおい。」

 

「いつも良い仕事を紹介してやっているのは誰だ?」

 

「少しくらいホスピタリティってものがあってもいいだろ。」

 

レイが立ち上がる。

 

「私がお茶を入れてきます。」

 

羊飼いは感心したように笑った。

 

「お。」

 

「レイちゃんはそこの兄妹と違って気が利くねぇ。」

 

そして。

 

数分後。

 

レイは素早くお茶を用意して戻ってきた。

 

羊飼いは一口飲む。

 

「……。」

 

「うん。」

 

「やっぱりこういうのだよ。」

 

「さて。」

 

羊飼いは本題へ入る。

 

「言っちまえば単純だ。」

 

「零号ホロウの定期調査が、また始まるらしい。」

 

「えっ?」

 

リンが驚く。

 

羊飼いは得意げに笑う。

 

「フフン。」

 

「これはガチのマジだぜ。」

 

「しかも協会は長期戦の構えだ。」

 

「調査は何回かに分けて行われる予定らしい。」

 

羊飼いは続ける。

 

「俺がこれを聞いて、真っ先に頭に浮かんだのは――。」

 

「我が最も信頼する顧客。」

 

「そして名声赫赫たるプロキシ。」

 

「パエトーンのことだ。」

 

アキラとリンが顔を見合わせる。

 

「もちろん。」

 

「君たちも一枚噛みたいと思った。」

 

「だから俺は、あらゆるリソースを使って――。」

 

「調査チーム募集に裏口を開けておいた。」

 

「零号ホロウでテスト用の依頼をこなせば。」

 

「正式な派遣調査チームの一員として、合法的に零号ホロウを調査できる。」

 

リンは唸る。

 

「……確かに。」

 

「大きなネタだね。」

 

レイは羊飼いへ尋ねる。

 

「まだ、お茶はいりますか?」

 

「……。」

 

羊飼いは少し黙った。

 

アキラが口を開く。

 

「状況は把握した。」

 

「少し考える時間をくれないか?」

 

羊飼いは頷いた。

 

「もちろんだ。」

 

「大事なことは夜に決めるなって言うからな。」

 

「じっくり考えてくれ。」

 

「決心がついたら――。」

 

「スコット前哨基地へ来い。」

 

そう言い残し。

 

羊飼いはビデオ屋を後にした。

 

その際。

 

ちらりと。

 

テーブルの上のティーポットを見た。

 

「……。」

 

「名残惜しいな。」

 

 

羊飼いが帰った後。

 

リンが時計を見る。

 

そして。

 

表情が変わった。

 

「さて。」

 

「レイちゃん。」

 

「まさかとは思うけど。」

 

「こんな時間までホロウにいたわけじゃないよね?」

 

レイは時計を見る。

 

時刻。

 

二十三時。

 

「……。」

 

「ホロウ内にいました。」

 

リンの笑顔が固まる。

 

「出発したの。」

 

「いつだっけ?」

 

「昼の十二時です。」

 

「……。」

 

アキラがため息をつく。

 

「言ったよね、レイ。」

 

「長時間ホロウに居続けて、エーテリアスを狩り続けるのはやめてって。」

 

レイは俯く。

 

「……はい。」

 

「ごめんなさい。」

 

リンは優しく言う。

 

「普通の人なら、そんな長時間いたら浸食の危険があるんだよ。」

 

「それにホロウは危険な場所。」

 

「こっちも心配になるから。」

 

レイは静かに頷いた。

 

「はい。」

 

「気を付けます。」

 

リンは笑う。

 

「よし。」

 

「じゃあ今日はちゃんと休むこと。」

 

「お兄ちゃんも。」

 

「レイちゃんも。」

 

「分かった?」

 

「分かりました。」

 

 

翌朝。

 

朝食を囲みながら。

 

リンは考えていた。

 

「零号ホロウの調査……ね。」

 

「お兄ちゃん。」

 

「レイちゃん。」

 

「どう思う?」

 

その時。

 

Fairyが反応する。

 

『質問。』

 

『零号ホロウの調査とは何でしょう?』

 

リンは「あっ」と声を漏らす。

 

「あ……そっか。」

 

「Fairyはまだ知らないよね。」

 

『挑発とみなし、受けて立ちます。』

 

「え?」

 

『直ちにホロウ調査協会のデータベースへアクセス。』

 

『零号ホロウについて検索します。』

 

リンは苦笑する。

 

「また変な闘争心燃やしてる……。」

 

しばらくして。

 

Fairyが答える。

 

『検索完了。』

 

『零号ホロウ。』

 

『その存続期間、影響範囲、危険度において、新エリー都でも随一を誇るホロウです。』

 

『現在確認されている大型ホロウの多くは、零号ホロウから派生した共生ホロウに起因します。』

 

『また、旧都――』

 

『かつてのエリー都を壊滅へ導いた主要因でもあります。』

 

レイは静かに聞いていた。

 

Fairyは続ける。

 

『零号ホロウの拡大を抑制するため、新エリー部は定期的に調査、鎮圧、研究を実施しています。』

 

『以上を踏まえると。』

 

『マスターが零号ホロウ調査へ参加する理由は――』

 

『新エリー都を救うためです。』

 

アキラは首を振る。

 

「途中までは様になっていたけど。」

 

「不正解だ。」

 

『……。』

 

『今後のより的確なサポートのため。』

 

『お二人が調査へ参加したい動機を教えてください。』

 

アキラは笑う。

 

「ふうん。」

 

「もうお手上げなのかい?」

 

「先に君の規約と動機を教えてくれたら。」

 

「考えてあげてもいいけど。」

 

『失礼ですがマスター。』

 

『先ほどから、私を都合よく利用しようとしていませんか?』

 

リンが慌てる。

 

「人聞き悪いなぁ。」

 

「お兄ちゃんは、お互い正直になろうって言ってるだけだよ。」

 

『申し訳ありません。』

 

『私はその質問へ回答する権限を有していません。』

 

『適切な時期に。』

 

『適切な場所でお知らせいたします。』

 

「……。」

 

「恐れ入りますけど。」

 

「そっちも適切な態度ってものがあるでしょ!」

 

そして。

 

少し間を置いて。

 

「あんたなんかに教えられるのはね……零号ホロウは。」

 

「報酬がいいこと。」

 

「それと……。」

 

「私とお兄ちゃんが一緒に勉強して育った場所が。」

 

「崩壊した旧都にあったこと。」

 

レイは静かにリンを見る。

 

「……全部言ってしまうんですね。」

 

リンはハッとする。

 

「あ。」

 

「あはは……。」

 

「ごめんごめん。」

 

「つい余計なことまで言っちゃった。」

 

そして。

 

リンは笑った。

 

「とにかく。」

 

「決心がついたら。」

 

「羊飼いが言ってた零号ホロウ前哨基地へ行こう。」

 

レイは頷く。

 

零号ホロウ。

 

旧都。

 

新たな謎が。

 

また一つ、目の前に現れた。

 

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