朝。
『Random Play』の前。
アキラは車へ荷物を積み込み、零号ホロウへ行くための準備を進めていた。
店内ではリンが最終調整を行っている。
その一方で――。
「なぜですか!」
レイの声が店内へ響いた。
「私も行っていいはずです!」
珍しく感情を露わにするレイに、リンは苦笑しながら振り返る。
「ごめんね、レイちゃん。」
「今回はホロウ調査協会の人が監督につくの。」
「探索許可の試験もあるし、レイちゃんは目立ちすぎるんだよ。」
「まだ顔が広く知られてるわけじゃないけど、ホロウレイダーとして活動してるでしょ?」
「万が一、正体が知られたら色々面倒なの。」
レイは言い返そうと口を開く。
しかし。
「……。」
ゆっくりと閉じた。
「……分かりました。」
その返事にアキラは微笑む。
「その代わり。」
「帰りにルミナススクエアへ寄って、何か買ってきてあげるよ。」
「だから今日は大人しく留守番していてくれ。」
レイは小さく頷いた。
「……はい。」
「分かりました。」
こうして。
アキラは車へ乗り込み、スコット前哨基地へ向かって出発した。
◇
店内は静かだった。
リンは端末を操作し続けている。
レイへ視線を向ける余裕もないほど忙しそうだった。
レイは窓から空を見る。
零号ホロウ。
旧都を滅ぼした巨大なホロウ。
胸の奥が落ち着かない。
「……。」
すると。
一つの考えが浮かぶ。
「……バレなければ。」
「行っても問題ないのでは?」
レイは少し考える。
そして。
「……。」
「そうしましょう。」
思い立ったが吉日だった。
レイは財布を手に取る。
「リンさん。」
「少し出掛けてきます。」
リンは画面から目を離さないまま答えた。
「うん、いってらっしゃーい。」
「気を付けてねー。」
返事を聞いたレイは外へ出る。
四枚の純白の翼が広がる。
しかし。
その直前。
ガラスへ映る自分の姿を見て、足を止めた。
「……。」
純白の翼。
この姿では目立つ。
レイは静かに呟く。
「染めますか。」
「でもまずは服を買いましょう。」
次の瞬間。
翼が大きく羽ばたいた。
空へ舞い上がる。
六分街の上空を白い影が駆け抜けていく。
一直線に服屋へ向かって飛んでいった。
◇
その頃――。
アキラは羊飼いから聞いていた通り、スコット前哨基地へ到着していた。
探索許可取得のため。
零号ホロウ内部で協会試験官立ち会いの下、資格試験が始まる。
静かなホロウ。
イアスが先頭を歩く。
その時だった。
ピッ。
端末が鳴る。
協会試験官の表情が変わる。
「……反応あり。」
さらに。
ピッ、ピッ。
「高活性……。」
次の瞬間。
ピッ、ピッ、ピッ。
「強烈反応……!」
そして。
――ピーーーーーーーーーーーッ!!
耳をつんざく警報音。
試験官の顔から血の気が引いた。
「そんな……。」
「四段階目……!?」
アキラが息を呑む。
「何が起きて――」
言葉は途中で止まった。
端末が火花を散らす。
バチッ!!
液晶が砕けた。
その直後。
ズゥン……
ズゥン……
試験官が叫ぶ。
「隠れて!!」
イアスごと階段の陰へ飛び込む。
二人は息を潜めた。
「この音……。」
「まさか……。」
ゆっくりと。
巨大な影が頭上を横切る。
空気が震える。
エーテル濃度が急上昇する。
ホロウそのものが悲鳴を上げているようだった。
アキラはイアス越しに少しだけ身を乗り出す。
そして。
それを見た。
女性を思わせる流麗な体躯。
花弁のように開いた顔面。
巨大な胸部。
ゆるやかな曲線を描く両腕。
腰には花びらのような装甲が幾重にも重なり。
その姿はまるで。
ホロウに咲いた巨大な花だった。
美しい。
だが。
本能が告げる。
あれは危険だ。
言葉では説明できないほど。
圧倒的な存在だった。
やがて巨大なエーテリアスは遠ざかっていく。
「……行ったか。」
アキラが息を吐いた。
しかし。
「後ろ!」
アキラが振り返る。
そこには。
取り巻きと思われる小型エーテリアスがいた。
刃が迫ってくる。
間に合わない。
その瞬間だった。
一人の少女が空から舞い降りる。
刀が閃く。
一閃。
小型エーテリアスは真っ二つとなり、光の粒子となって消えた。
少女は一瞬だけ立ち止まり、巨大なエーテリアスが去った方向を見る。
そして。
何も言わず走り出した。
その姿はあっという間に見えなくなる。
続いて。
同じ制服を着た者たちが駆け込んできた。
「課長!」
月城柳が声を張る。
「目標とは安全な距離を維持してください!」
浅羽悠真が息を切らしながら続く。
「ぜぇ……。」
「全速力の課長なんて追いつけないって……。」
協会試験官は目を見開いた。
「あの制服は……。」
「H.A.N.D.!」
「しかも……対ホロウ特別行動部、第六課!」
柳は二人へ向き直る。
「対ホロウ特別行動部第六課です。」
「現在、緊急鎮圧任務を執行しています。」
「こちらのエリアで情報にない『極超』級エーテリアスを確認しました。」
「貴方がたの任務が何であれ。」
「遊撃部隊として本作戦の支援を要請します。」
「これは第六課副課長としての正式な召集です。」
リンの声が通信越しに響く。
「『極超』級エーテリアス!?」
「さっきから様子が変なのは、そいつの仕業だね。」
「エーテリアスにしてはおっきすぎない!?…早くみんなを連れて、離脱ポイントに向かおう!」
協会試験官も頷く。
「本来の任務は中止です!」
「これより任務を変更!」
「対ホロウ行動部の支援を最優先とします!」
緊張が一気に高まる。
だが。
彼らはまだ知らなかった。
さらに遠く。
零号ホロウ上空。
誰にも気付かれることなく。
もう一人。
その戦いを見下ろしている存在がいることを。
黒いドレス。
顔を覆う奇妙なマスク。
そこからはみ出た長髪の黒髪
四枚の漆黒の翼。
その翼の付け根には、どこか見覚えのある機構が取り付けられていた。
風が吹く。
黒い翼が静かに羽ばたく。
その人物は何も語らない。
ただ。
仮面の奥から、戦場を静かに見下ろえていた。
一体誰なんだろうなー{白目}