零号ホロウ内部。
崩壊した街並みを、一団が駆け抜けていた。
対ホロウ特別行動部六課。
そして。
イアス。
彼らは巨大なエーテリアス――。
「ニネヴェ」を追跡していた。
しかし。
その中に、一人だけ姿がない。
星見雅。
第六課の課長である彼女は、すでに遥か先へ進んでいた。
「一体どこだぁーー!?」
浅羽悠真が叫ぶ。
「課長ー!」
「さすがに単独行動が過ぎますって!」
その時。
彼は上空を見上げた。
「――!」
「あんなところに……!」
遥か上空。
浮遊する巨大なビルの残骸。
その上に。
一人の少女が立っていた。
星見雅。
対ホロウ特別行動部第六課、課長。
彼女はただ一人。
巨大な敵を追っていた。
◇
ニネヴェの周囲。
無数のエーテリアスが群がる。
蜂型エーテリアス。
ホーネット。
数百にも及ぶ群れが、星見雅へ向かって飛来する。
しかし。
彼女は足を止めない。
一歩。
踏み込む。
刀が閃く。
一体。
また一体。
ホーネットが光の粒子となって消滅する。
飛び移る。
斬る。
飛び移る。
斬る。
その動きには、一切の無駄がなかった。
まるで雷光。
次々と敵を切り裂きながら、雅はニネヴェへ迫る。
その時。
巨大な看板が崩れ落ち、彼女の前へ飛んでくる。
普通なら避けるしかない。
だが。
星見雅は刀へ手を添えた。
一閃。
巨大な看板は細かな破片となって空へ散る。
そして。
彼女は止まらない。
◇
ニネヴェの前方。
巨大な瓦礫へ飛び移る。
星見雅は刀を鞘へ戻した。
静かに構える。
目を閉じる。
迫る巨大な影。
ニネヴェが腕を伸ばす。
その瞬間。
星見雅は目を開いた。
「……。」
抜刀。
一瞬。
空間が震えた。
轟音。
小規模な爆発が発生する。
煙が晴れる。
しかし。
ニネヴェはまだ動いていた。
傷を負いながらも。
ゆっくりと空の彼方へ飛び去っていく。
星見雅は刀を収める。
「……。」
そして。
次の瞬間。
第六課の前へ着地した。
無傷。
浅羽悠真が駆け寄る。
「いたいた、課長ー!」
「もう……!」
「一人で先行しすぎですよ!」
リンはその光景を見ながら呆然としていた。
「……。」
「あんなに大きなエーテリアスを……。」
「刀一本で追い払ったの……?」
星見雅は淡々と告げる。
「芳しくはなかった。」
「先ほどの一撃は……。」
少し考える。
「茶碗を砕く木槌と思えば……。」
「黒板を伝う白墨が如し、といったところか。」
蒼角が首を傾げる。
「つまり……。」
「包丁でバターをズバーってしたかったのに!」
「まな板にドンッ!ってしちゃったってこと?」
浅羽悠真が即座に突っ込む。
「蒼角ちゃん。」
「もっと分かりにくくなってるよ、それ。」
月城柳は冷静に整理する。
「課長曰く。」
「ニネヴェへ十分な損傷を与えることはできなかったということです。」
「引き続き追跡が必要かと。」
浅羽悠真は肩を落とす。
「はいはい。」
「斥候やりまーす。」
「まあ……あんなデカいの、見失う方が難しいけどね。」
その時。
月城柳が周囲を見る。
「……。」
「エーテリアスが集まってきています。」
「課長とニネヴェの戦闘音を聞きつけたのでしょう。」
星見雅は刀へ手を添える。
「任せる。」
そして。
「対ホロウ六課。」
「総員、迎撃準備。」
その瞬間だった。
空から。
巨大な光が降り注ぐ。
――ズドォォォン!!
黄色い閃光。
ツインバスターライフルから放たれたビームが、零号ホロウの空を切り裂く。
集まっていたエーテリアス。
その全てが。
一瞬で消滅した。
誰も動けない。
誰も言葉を発せない。
ゆっくり。
全員が空を見上げる。
そこには。
黒い翼を広げた少女がいた。
四枚の漆黒の翼。
翼の付け根に取り付けられた未知の機構。
両手に握られた巨大な二挺のライフル。
黒いドレス。
顔を覆う奇妙な仮面。
しかし。
アキラだけは。
一瞬で理解した。
「……。」
あの翼。
あの武器。
そして。
あの戦い方。
間違えるはずがない。
「あれは……。」
「レイだ。」
リンの顔が青ざめる。
「え……?」
「レイちゃん!?」
月城柳も警戒する。
「……。」
「未知の装備。」
「未知の飛行能力。」
「情報にないホロウレイダー……。」
蒼角は目を輝かせる。
「すごい……!」
「……かっこいい……!」
浅羽悠真は苦笑する。
「いや、蒼角ちゃん。」
「感想そこなの?」
アキラは額へ手を当てた。
そして。
静かに決意する。
「……。」
「帰ったら。」
「絶対に説教だ。」
上空。
黒翼の少女――レイは。
何も知らず。
ただ静かに戦場を見下ろしていた。
「敵、排除完了。」
「これで問題ありません。」
しかし。
彼女は知らない。
自分が今。
仲間を心配させる行動をしていることを。
そして。
帰還後。
待ち受けている説教の存在を。
◇
少し時間を遡る。
約十分前。
零号ホロウ内部。
崩壊した街並みの上空を、一つの黒い影が飛んでいた。
四枚の漆黒の翼。
その翼の付け根に取り付けられた機構。
両手には二挺の巨大なライフル。
レイだった。
「……。」
レイは眼下を見下ろす。
無数のエーテリアス。
しかし。
彼女にとって、それらは脅威ではなかった。
ツインバスターライフル。
展開。
黄色い光が走る。
一撃。
また一撃。
エーテリアスは光の粒子となって消えていく。
「問題ありません。」
「このまま進めば――。」
その時。
遠くから巨大なエーテル反応を感じ取った。
レイの視線が変わる。
「……。」
強大な存在。
今まで遭遇したエーテリアスとは明らかに違う。
そして。
その近くに。
知っている反応があった。
「……アキラさん。」
レイは進路を変える。
しかし。
そこで見えた光景に、足を止めた。
一人の少女。
刀を持った少女。
星見雅。
彼女が巨大なエーテリアスと戦っていた。
「……。」
レイは思わず見入る。
速い。
正確。
無駄がない。
自分のゼロシステムが予測するよりも早く動いている。
レイは静かに判断する。
あの少女は。
自分と同じ側の存在ではない。
「……。」
警戒する。
近付けば。
自分の存在が知られる可能性がある。
それでも。
アキラたちの近くへ行かなければならない。
レイはしばらく上空から様子を見続けた。
◇
数分後。
星見雅がニネヴェを追い払い。
第六課が集結する。
レイはさらに距離を取っていた。
「……。」
近付けない。
星見雅。
月城柳。
蒼角。
浅羽悠真。
そして蒼角。
全員が只者ではない。
特に。
あの刀を持った少女。
少しでも不審な動きをすれば。
戦闘になる可能性がある。
しかし。
その時。
エーテリアスの群れが集まり始めた。
アキラたちへ迫る。
「……。」
レイは判断する。
放置。
不可能。
「……。」
「助けます。」
レイは翼を広げる。
そして。
引き金を引いた。
◇
現在。
集まっていたエーテリアスは消滅した。
その直後。
レイはゆっくりと地上へ降り立つ。
対ホロウ六課。
全員が武器を構える。
月城柳が前へ出る。
「……。」
「あなたは何者ですか?」
レイは少し考える。
本当の名前を言うべきではない。
アキラたちへ迷惑がかかる。
だから。
「……。」
「私は。」
「リベリオン。」
その場に沈黙が落ちる。
浅羽悠真が小声で呟く。
「いやぁ……。」
「突然現れてエーテリアスを消し飛ばして、名前はリベリオンですって。」
「怪しさ満点なんだけど。」
蒼角は首を傾げる。
「リベリオン……。」
「なんか強そう!」
レイは続ける。
「今回の目的は戦闘ではありません。」
「あなたたちに危害を加える意思はありません。」
「そのまま見逃してください。」
しかし。
月城柳は表情を変えない。
「貴方を一度保護します。詳しい話は本部で聞きますので、そのまま動かないで下さい」
レイは沈黙する。
「……。」
「私は敵ではありません。」
月城柳は答える。
「ですが。」
「判断するには情報が不足しています。」
その言葉に。
レイは少し俯く。
「……。」
交渉。
失敗。
「残念です。」
翼の機構が起動する。
カチリ。
ツインバスターライフルが構えられる。
対ホロウ6課全員が反応する。
星見雅も刀へ手を添えた。
「来るか。」
「……。」
レイは小さく呟く。
「退路を確保します。」
「邪魔をするなら。」
「排除します。」
その瞬間。
黒翼の少女と。
対ホロウ特別行動部第六課。
戦闘が始まった。