Legend of Zero   作:猫ロボF

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2026/8/1 22:18 プロローグもとい第一話の文章を一部修正しました。

よくよく考えればエーテリアスホロウの外でれねぇ



第一話 ――はじまりの一歩――

乾いた風が吹き抜ける。

 

崩れたビルの隙間を縫うように流れた風は、少女の白い翼を静かに揺らした。

 

一枚の羽根が舞い上がり、灰色の空へ溶けていく。

 

少女は足を止めない。

 

ただ前へ。

 

ただ歩き続ける。

 

行く当てはない。

 

目的もない。

 

それでも胸の奥には、一つだけ消えない言葉が残っていた。

 

――新エリー都。

 

その名前だけが、自分を導いている。

 

「……。」

 

少女は静かに辺りを見回した。

 

朽ち果てた自動車。

 

崩れ落ちた高架道路。

 

割れた窓ガラスが風を受け、乾いた音を響かせている。

 

人の気配はない。

 

この場所には、もう誰も残っていないようだった。

 

少女は再び歩き始める。

 

どれほど歩いただろうか。

 

静寂を切り裂くように、遠くから怒鳴り声が響いた。

 

「それを渡せ!」

 

「嫌だ!」

 

少女は足を止める。

 

瓦礫の向こう。

 

数人の男たちが、一人の男性を取り囲んでいた。

 

男性の服は汚れ、身体にはいくつもの傷がある。

 

それでも彼は、大切そうに一つの小さな荷物を抱えていた。

 

「これは……家族のものなんだ。」

 

「だから何だ?」

 

男の一人が鼻で笑う。

 

「この世界じゃ、持ってる奴が強いんだよ。」

 

その手には銃が握られていた。

 

少女はその光景を見つめる。

 

助ける理由はない。

 

知らない人だ。

 

自分とは関係ない。

 

そう思った。

 

その時。

 

『君は感情のままに生きればいい。』

 

あの声が胸の奥で蘇る。

 

少女はゆっくりと目を閉じた。

 

感情。

 

それはまだ理解できない。

 

怒りとは何か。

 

悲しみとは何か。

 

優しさとは何か。

 

何も分からない。

 

だけど。

 

胸が少しだけ苦しい。

 

目の前の人間が傷つけられることを。

 

なぜか、見過ごせなかった。

 

少女はゆっくりと目を開く。

 

そして。

 

一歩、前へ踏み出した。

 

「……誰だ、てめぇ。」

 

男たちが少女を見る。

 

白い翼。

 

異様な姿。

 

だが、少女は怯えることなく立っていた。

 

「どけ。」

 

男が睨む。

 

「関係ないだろ。」

 

少女は答えない。

 

ただ、静かに男を見る。

 

「……。」

 

その沈黙が男を苛立たせた。

 

「舐めてんのか!」

 

男が銃を構える。

 

その瞬間。

 

少女の背中の白い翼が広がった。

 

羽根が舞う。

 

空気が震える。

 

男たちの表情が変わる。

 

「……何だ、それ。」

 

少女は静かに翼へ手を伸ばした。

 

カチリ。

 

小さな駆動音。

 

翼の付け根から、二挺の巨大なライフルが展開される。

 

誰もが息を呑む。

 

巨大な武器。

 

それは人間が持つには、あまりにも異質だった。

 

少女は銃口を向ける。

 

しかし。

 

狙いは人間ではない。

 

銃。

 

次の瞬間。

 

白い閃光が走った。

 

轟音。

 

男の手にあった武器だけが撃ち抜かれ、地面へ転がる。

 

「なっ……!?」

 

「いつ撃った……?」

 

少女は静かにライフルを下ろす。

 

殺す必要はない。

 

それだけは理解できた。

 

男たちは恐怖に後退する。

 

「化け物……。」

 

誰かが呟く。

 

少女の表情は変わらない。

 

けれど。

 

その言葉だけが、胸に小さく残った。

 

やがて男たちは逃げるようにその場を去っていった。

 

静寂が戻る。

 

男性はしばらく少女を見つめていた。

 

そして。

 

ゆっくり頭を下げる。

 

「……助かった。」

 

少女は黙って見つめ返す。

 

「ありがとう。」

 

少女は首を傾げる。

 

「……ありがとう?」

 

男性は少し笑った。

 

「命を助けてもらった時に言う言葉だ。」

 

「感謝って意味さ。」

 

少女はその言葉を反芻する。

 

感謝。

 

また一つ、知らないものを知った。

 

「……ありがとう。」

 

自分の口から出たその言葉は。

 

不思議と温かかった。

 

男性は荷物の中から小さな紙袋を取り出した。

 

「腹、減ってるだろ?」

 

少女は受け取る。

 

「……これは?」

 

「パンだ。」

 

パン。

 

また知らない言葉。

 

少女は恐る恐る一口かじる。

 

柔らかい。

 

ほんのり甘い。

 

小麦の香りが口いっぱいに広がる。

 

「…………。」

 

胸の奥が少しだけ温かくなる。

 

これが何という感情なのか。

 

まだ分からない。

 

けれど。

 

嫌ではなかった。

 

男性は安心したように笑う。

 

「嬢ちゃん、どこへ向かうんだ?」

 

少女は少しだけ考える。

 

そして答えた。

 

「……新エリー都。」

 

男性の表情が変わる。

 

「あそこへ行くのか。」

 

「この先には巨大なホロウがある。」

 

少女は首を傾げる。

 

「……ホロウ?」

 

男性は遠くを指差した。

 

少女も視線を向ける。

 

地平線の彼方。

 

空を覆い尽くすような巨大な黒い球体が浮かんでいた。

 

黒い壁面には色鮮やかなノイズが走り、三角形の模様が揺らめいている。

 

紫色の光が内部で明滅し、周囲の空間を歪ませていた。

 

それを見た瞬間。

 

胸の奥が小さく疼く。

 

――来い。

 

誰かが呼んでいる。

 

少女は静かに歩き出す。

 

巨大なホロウへ向かって。

 

風が吹く。

 

白い羽根が空高く舞い上がる。

 

まだ少女は何も知らない。

 

この先で待つ出会いも。

 

自分が世界を救う「ゼロ」と呼ばれる意味も。

 




ツインバスターライフルは出力調節できる。
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