戦闘開始。
最初に動いたのは蒼角だった。
「ナギねえ!」
「任せて!」
蒼角は鬼面を装着する。
瞬間。
周囲の空気が震えた。
風が渦巻く。
巨大な刃が振り上げられる。
「いくよ!」
振り下ろし。
しかし。
その瞬間。
レイの視界が変わる。
無数の情報。
攻撃軌道。
到達時間。
威力予測。
《攻撃予測》
《回避推奨》
レイは一歩だけ横へ移動した。
直後。
蒼角の巨大な刃が地面を砕く。
「えっ!?」
蒼角が目を丸くする。
避けられた。
しかも。
最小限の動きで。
レイは反撃する。
しかし。
ツインバスターライフルから放たれた光は、蒼角へ向けられていなかった。
足元。
地面。
衝撃波だけを発生させる。
蒼角の身体が浮き上がる。
「わっ!?」
そのまま後ろへ転がる。
だが。
「痛くない?」
蒼角は起き上がる。
「これ……。」
「手加減してるの?」
レイは答えない。
ただ。
武器を構え直した。
◇
次。
月城柳。
「……。」
静かに前へ出る。
骸薙ぎ。
展開。
一瞬で間合いへ入る。
斬撃。
一閃。
二閃。
三閃。
時計の針のように正確な攻撃。
しかし。
レイには見えていた。
《右肩》
《斜め下からの斬撃》
《次手、左側面》
身体が動く。
紙一重。
刃が髪を数本切り落とす。
しかし。
本体には届かない。
柳の目が細まる。
レイは沈黙。
ツインバスターライフルを向ける。
光が走る。
だが。
柳は慌てない。
薙刀を回転させ、ビームの軌道を逸らした。
「なるほど。」
「ただの火力兵器ではない。」
「制御能力も異常なほど高い。」
◇
「いやぁ……。」
「本当に面倒な相手だなぁ。」
浅羽悠真が前へ出る。
軽い口調。
しかし。
その目は鋭かった。
武器を展開。
双曲刃コンパウンドボウ。
眠花暗流。
弓が変形する。
矢が放たれる。
一発。
二発。
三発。
全て違う方向。
逃げ道を潰す射撃。
普通なら。
避けることは不可能。
しかし。
レイの視界には。
全ての未来が映っていた。
《回避可能》
翼が開く。
黒い羽根が舞う。
矢は空を切る。
悠真は苦笑する。
「……。」
「これは厄介だなぁ。」
◇
だが。
三人が同時に動いた瞬間。
初めて。
レイのゼロシステムが乱れた。
蒼角。
柳。
悠真。
三方向。
同時攻撃。
演算。
回避。
反撃。
無数の未来。
しかし。
「もういい。」
雅が前へ出る。
三人が止まる。
「課長?」
雅はレイを見る。
「お前は。」
「力を隠している。」
レイの瞳が揺れる。
「……。」
雅は刀へ手を添えた。
「刃で確かめる。」
レイの翼が展開する。
ツインバスターライフルが収納される。
代わりに。
緑色の光が伸びた。
ビームサーベル。
雅も刀を抜く。
骸討ち・無尾。
妖刀。
二人が構える。
一瞬。
静寂。
そして。
消える。
衝撃。
零号ホロウの瓦礫が吹き飛ぶ。
一撃。
二撃。
十撃。
互いの刃が高速でぶつかる。
ビームサーベル。
妖刀。
普通なら。
触れた瞬間、刀は溶け落ちる。
しかし。
骸討ち・無尾は違った。
妖刀に宿る異質な力が、光の刃を受け止める。
雅の表情が初めて変化した。
「……。」
「我が刀と渡り合うか。」
レイも驚く。
「切断できない……。」
互角。
速度。
技術。
判断。
全てが同じ。
雅が踏み込む。
レイが受ける。
レイが返す。
雅が流す。
まるで。
二人だけの舞。
その光景を見ていた柳は息を呑む。
「……。」
「課長と互角。」
悠真も珍しく真剣な顔になる。
「冗談でしょ。」
「あの課長と真正面からやり合うなんて……。」
やがて。
二人は同時に距離を取った。
雅は刀を構えたまま。
レイはビームサーベルを握ったまま。
互いを見つめる。
そして。
雅が口を開く。
「名を聞こう。」
レイは答える。
「……。」
「リベリオン。」
しかし。
雅は静かに首を振った。
「違う。」
「それは名ではない。」
レイの動きが止まる。
「……なぜ。」
雅は刀を収める。
「刃は嘘をつかぬ。」
「お前の剣には。」
「殺意がない。」
「あるのは。」
「守る意思だけだ。」
零号ホロウの風が吹く。
黒翼が揺れる。
レイは何も答えなかった。
静寂。
互いに距離を取った二人。
星見雅は刀を構えたまま、レイを見つめる。
レイもまた、ビームサーベルを握ったまま動かない。
しかし。
二人とも理解していた。
このまま続ければ。
周囲を巻き込む。
後ろにいる仲間たち。
雅がゆっくり口を開く。
「……場所を変える。」
レイの瞳が僅かに動く。
「ここでは。」
「互いの力を出し切れぬ。」
その言葉に。
レイは小さく頷いた。
◇
二人は同時に跳ぶ。
崩壊したビル群を抜け。
誰もいない、広大な空間へ。
戦うためだけの場所へ移動する。
遥か後方。
柳たちはその光景を見守っていた。
「……。」
柳が息を呑む。
「課長……。」
「本気ですね。」
悠真も珍しく冗談を言わなかった。
「……あの課長が。」
「相手を一人の戦士として認めてる。」
蒼角は心配そうに見上げる。
「大丈夫かな……。」
「ボスも、あの黒い翼の子も……。」
レイは翼を広げる。
黒い羽根が舞う。
ツインバスターライフルが展開される。
雅は刀を鞘へ戻す。
静かに構える。
骸討ち・無尾。
刀身から淡い光が漏れる。
妖刀が呼応する。
空気が震えた。
レイのゼロシステムが反応する。
《警告》
《高エネルギー反応》
《推奨回避》
しかし。
レイは避けなかった。
雅もまた。
動かない。
二人とも。
理解していた。
次の一撃が。
決着になる。
雅が目を閉じる。
「除悪務本。」
静かな声。
「悪を断つならば。」
「根本から断つ。」
刀を抜く。
「悪たるを定めるは――。」
「私だ。」
その瞬間。
雅の姿が消えた。
レイの視界。
無数の未来。
だが。
一つだけ。
避ける未来が存在しない。
《警告》
《回避不能》
《迎撃推奨》
レイはツインバスターライフルを構える。
二挺。
並列に連結。
エネルギー充填。
「……。」
レイが呟く。
「最大出力。」
雅が踏み込む。
一閃。
空間そのものを切り裂くような斬撃。
レイも同時に引き金を引いた。
『ツインバスターライフル』
最大出力。
巨大な光の奔流が放たれる。
二つの力が正面から激突する。
――轟音。
零号ホロウ全体が揺れた。
光。
衝撃。
爆風。
瓦礫が吹き飛ぶ。
二人の間に巨大なエネルギーの壁が生まれる。
互いの攻撃が。
互いを押し返す。
しかし。
限界は近かった。
雅の腕から血が流れる。
レイの翼が震える。
ゼロシステムが警告を鳴らす。
《身体負荷上昇》
煙が晴れる。
そこには。
膝をつく雅。
そして。
翼を震わせながら立つレイ。
互角。
だが。
二人とも限界だった。
雅はゆっくり立ち上がる。
「……見事だ。」
レイは息を整える。
「あなたも。」
短い言葉。
それだけだった。
◇
その時。
《長時間戦闘継続は危険》
レイは空を見る。
「……帰ります。」
柳が驚く。
「待ってください。」
「あなたはいったい――。」
しかし。
レイは答えなかった。
翼を広げる。
黒い羽根が舞う。
雅は刀を収める。
レイは零号ホロウの出口へ向かって飛ぶ。
誰にも止められない。
黒い翼が闇を切り裂く。
そして。
ホロウの外へ。
◇
数時間後。
六分街。
『Random Play』
扉が開く。
「ただいま戻りました。」
変装を解いたレイが店内へ入る。
その瞬間。
静寂。
アキラ。
リン。
二人が振り返る。
「……。」
「……。」
レイは首を傾げる。
「?」
次の瞬間。
「レイ。」
アキラの声が低くなる。
「はい。」
「何で。」
「零号ホロウに行ったのかな?」
「……。」
レイは視線を逸らす。
「……。」
リンが笑顔で近づく。
「レイちゃん。」
「怒ってないよ?」
「怒ってないけど。」
「ちゃんと説明してもらおうかな?」
その笑顔を見て。
レイは初めて。
危険を感じた。
エーテリアスより。
星見雅より。
恐ろしい存在を。
彼女は理解した。
――説教。
◇
その頃。
星見雅は空を見上げていた。
「黒き翼の少女……。」
「リベリオン。」
間章 心「零」現象 ~完~
星見雅ならツインバスターライフル最大出力も耐えれるかなって。
あとこれは関係ない話なんですがいつも読んでたゼンゼロSSの人がお気に入りしてくださって驚きと嬉しさで頭いっぱいになってる。