Legend of Zero   作:猫ロボF

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やっぱり徹夜して書いた文章は矛盾だらけでした。


第二話 ――白翼、ホロウへ――

 

巨大な黒い球体が、空を覆っていた。

 

 

遠くから見ても、それは異質な存在だった。

 

 

黒く塗り潰された壁面。

 

 

その表面を走る、色鮮やかなノイズ。

 

 

三角形の模様が揺らめき、まるで意思を持つかのように形を変えている。

 

 

周囲の空間は歪み、時折、内部で紫色の光が瞬いていた。

 

 

それは自然に存在するものではない。

 

 

世界に開いた異常な領域。

 

 

――ホロウ。

 

 

男は言っていた。

 

 

「あれは、人が入る場所じゃない」

 

 

ホロウの内部は未知のエネルギー――エーテルに満たされている。

 

 

長く留まれば精神を蝕まれ。

 

 

身体は変質し。

 

 

最後には人ならざる怪物へと変わる。

 

 

それほど危険な場所。

 

 

普通なら近づこうなどとは思わない。

 

 

しかし。

 

 

少女の足は止まらなかった。

 

 

「……。」

 

 

胸の奥に残る、説明できない感覚。

 

 

誰かに呼ばれているような。

 

 

何かを待っているような。

 

 

理由も分からない衝動。

 

 

それだけが、少女を前へ進ませていた。

 

 

少女はゆっくりとホロウへ手を伸ばす。

 

 

指先が黒い壁へ触れた瞬間。

 

 

世界が揺らいだ。

 

 

音が消える。

 

 

風が消える。

 

 

身体の感覚が曖昧になる。

 

 

まるで自分という存在そのものが、別の場所へ引き込まれていくようだった。

 

 

そして――。

 

 

少女はホロウの内部へ足を踏み入れた。

 

 

 

 

静かだった。

 

 

あまりにも静かだった。

 

 

少女は周囲を見渡す。

 

 

そこには街があった。

 

 

崩れたビル。

 

 

ひび割れた道路。

 

 

放置された車両。

 

 

壊れた看板。

 

 

一見すれば、外の世界と何も変わらない。

 

 

しかし。

 

 

決定的に違うものがあった。

 

 

空気。

 

 

肌にまとわりつく、重く異質な感覚。

 

 

呼吸するたび、身体の奥へ何かが入り込んでくるような不快感。

 

 

少女は足元へ視線を落とす。

 

 

道路の亀裂。

 

 

建物の壁。

 

 

瓦礫の隙間。

 

 

そこには淡い光を放つ結晶が広がっていた。

 

 

黒紫色の結晶。

 

 

高濃度のエーテルが凝縮したもの。

 

 

少女は触れようとは思わなかった。

 

 

理由は分からない。

 

 

だが。

 

 

本能が告げていた。

 

 

――近づいてはいけない。

 

 

少女は再び歩き始める。

 

 

しかし。

 

 

数分後。

 

 

足を止めた。

 

 

「……。」

 

 

目の前に広がる景色。

 

 

見覚えがある。

 

 

壊れた信号機。

 

 

横転した車。

 

 

崩れた建物。

 

 

先ほど通った場所だった。

 

 

少女は後ろを振り返る。

 

 

戻った覚えはない。

 

 

それでも。

 

 

同じ場所へ辿り着いていた。

 

 

「……。」

 

 

理解できない。

 

 

ここでは。

 

 

普通の道も。

 

 

距離も。

 

 

方向すら意味を持たない。

 

 

空間そのものが、変化している。

 

 

その時だった。

 

 

――ガリッ。

 

 

何かを引きずる音。

 

 

少女は振り返る。

 

 

瓦礫の奥。

 

 

黒い影が蠢いた。

 

 

ゆっくりと姿を現す。

 

 

結晶に侵食された異形。

 

 

エーテリアス。

 

 

少女はその名前を知らない。

 

 

だが。

 

 

身体は理解していた。

 

 

――敵。

 

 

一体。

 

 

二体。

 

 

三体。

 

 

異形たちは少女を取り囲む。

 

 

逃げ場はない。

 

 

少女は翼へ手を伸ばした。

 

 

カチリ。

 

 

静かな駆動音。

 

 

四枚の翼のうち、二枚が展開する。

 

 

その付け根から、二挺の巨大なライフルが姿を現した。

 

 

エーテリアスが咆哮する。

 

 

少女は静かに構える。

 

 

なぜ使えるのか。

 

 

なぜ扱えるのか。

 

 

何も分からない。

 

 

それでも。

 

 

手だけは迷わなかった。

 

 

怪物が迫る。

 

 

少女は引き金を引く。

 

 

――閃光。

 

 

白い光がホロウの闇を切り裂いた。

 

 

一体のエーテリアスが消滅する。

 

 

しかし。

 

 

残った二体が左右から襲い掛かる。

 

 

少女は身体を動かす。

 

 

右へ。

 

 

左へ。

 

 

迫る爪を避ける。

 

 

振り向く。

 

 

撃つ。

 

 

二発目。

 

 

三発目。

 

 

白い光が暗闇を照らすたび、異形は消えていく。

 

 

だが。

 

 

終わらない。

 

 

遠くから、新たな咆哮が響く。

 

 

さらに増えている。

 

 

少女は静かに周囲を見る。

 

 

戦える。

 

 

力はある。

 

 

けれど。

 

 

ここは違う。

 

 

倒し続けても終わらない。

 

 

一人では。

 

 

その時だった。

 

 

「伏せて!」

 

 

声が響いた。

 

 

少女が振り向くより早く。

 

 

横から銃弾が飛ぶ。

 

 

迫っていたエーテリアスの頭部が弾け飛んだ。

 

 

少女は目を向ける。

 

 

瓦礫の向こう。

 

 

三人の人影が立っていた。

 

 

一人はナタを構えた少女。

 

 

一人は銃を手にした、機械の身体を持つ青年。

 

 

そして。

 

 

その前に立つ女性。

 

 

「まったく……。」

 

 

女性は呆れたように息を吐く。

 

 

「ホロウの中を一人で歩くなんて、随分と無茶するじゃない。」

 

 

少女は三人を見る。

 

 

敵意はない。

 

 

むしろ。

 

 

助けられた。

 

 

そう理解した。

 

 

ナタを持った少女が近づく。

 

 

「怪我は?」

 

 

少女は少し考える。

 

 

「……ない。」

 

 

「そう。」

 

 

女性が尋ねる。

 

 

「名前は?」

 

 

沈黙。

 

 

少女は記憶を探る。

 

 

何もない。

 

 

名前すら。

 

 

その時。

 

 

暗闇の中で聞いた声が蘇った。

 

 

――君は世界を救う"ゼロ"だ。

 

 

少女は小さく口を開く。

 

 

「……レイ。」

 

 

三人が見る。

 

 

「レイ?」

 

 

少女は頷いた。

 

 

我ながら安直だなっと思った。

 

 

けれど。

 

 

今の自分が持つ、唯一の答えだった。

 

 

「レイね。いい名前じゃない。」

 

 

女性も少しだけ微笑んだ。

 

 

「じゃあ、レイ。」

 

 

「ここから出るわよ。」

 

 

少女は三人を見る。

 

 

不思議だった。

 

 

一人で歩いていた時とは違う。

 

 

胸の奥が、少しだけ温かい。

 

 

これが何という感情なのか。

 

 

まだ分からない。

 

 

だけど。

 

 

嫌ではなかった。

 

 

白い翼が静かに揺れる。

 

 

この出会いが、自分の運命を大きく変えていくことを少女、レイはまだ知らない。

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