「伏せて!」
アンビーの声が響いた。
次の瞬間。
レイの横を、無数の銃弾が駆け抜ける。
背後から迫っていたエーテリアスの頭部が弾け飛び、黒紫色の結晶片が周囲へ飛び散った。
巨大な身体が地面へ倒れる。
しかし。
まだ終わっていなかった。
遠くから、複数の咆哮が響く。
「来るわよ!」
ニコがアタッシュケースを開く。
内部から武器が展開される。
「ったく、せっかく落とし物を回収して帰るだけだったのに!」
「ホロウっていうのは、本当に予定通りにいかないわね!」
ビリーが二丁のリボルバーを構える。
「親分、それ毎回言ってる気がするぜ。」
「うるさいわね!」
軽口を叩きながらも。
三人の動きに迷いはなかった。
ホロウという危険地帯で生き残ってきた者たちの動き。
レイは静かに見つめる。
アンビーが前へ出た。
手にしているのは、大型の電磁ナタ。
重量のある武器。
普通なら扱うだけでも困難なはずだった。
しかし。
アンビーの動きは軽かった。
敵の攻撃を紙一重でかわす。
懐へ入り込む。
そして。
一撃。
電磁ナタがエーテリアスの外殻を叩き割る。
力任せではない。
必要な動きだけ。
必要な場所へ。
確実に攻撃を当てている。
レイはその姿を見つめていた。
不思議だった。
自分には、あの動きが理解できる。
距離。
タイミング。
攻撃する瞬間。
頭で考えているわけではない。
ただ。
身体の奥に答えがある。
「……。」
レイは自分の翼へ手を伸ばした。
白い羽根の奥。
翼の付け根には、機械式の武装ラックが取り付けられている。
そこへ触れた瞬間。
装置が反応した。
小さな駆動音。
格納されていた一本の柄が滑り出す。
レイはそれを握った。
次の瞬間。
緑色の光が伸びる。
光の刃。
ビームサーベル。
「……。」
名前は知らない。
使い方も知らない。
それでも。
握った瞬間。
身体は理解していた。
レイは前へ出る。
一体のエーテリアスが爪を振り下ろす。
避ける。
踏み込む。
緑色の光が走った。
一閃。
黒い結晶に覆われた身体が切り裂かれる。
エーテリアスが崩れ落ちた。
アンビーが横目で見る。
「……。」
「初めて使う武器とは思えない。」
レイは自分の手を見る。
「……分からない。」
「でも。」
「できる。」
アンビーは静かに頷いた。
「そう。」
それ以上は聞かなかった。
再び敵へ向き直る。
「今は戦闘に集中。」
レイも頷いた。
残ったエーテリアスへ向かう。
白い翼。
緑色の光刃。
二つの異質な存在が、ホロウの闇を駆け抜けた。
◇
数分後。
最後のエーテリアスが消滅した。
静寂が戻る。
「ふぅ……。」
ニコが息を吐く。
「まったく。」
「回収任務だったはずなのに、どうして毎回こうなるのかしら。」
ビリーが銃をしまいながら笑う。
「親分の日頃の行いじゃない?」
「ビリー?」
「冗談だって!」
そんなやり取りをしていると。
瓦礫の奥から小さな声が聞こえた。
「ンナ……。」
レイが振り返る。
そこには。
白と黒の小さな機械がいた。
首元にはオレンジ色のスカーフ。
小さな身体を震わせながら、こちらを見ている。
「……これは?」
レイが尋ねる。
ニコが近づく。
「ボンプよ。」
「この子はイアス。」
「戦闘になる前に、安全な場所へ避難させていたの。」
イアスは小さく鳴いた。
「ンナンナ。」
レイはじっと見つめる。
ボンプ。
初めて聞く言葉だった。
「機械……?」
「そうね。」
ビリーが答える。
「新エリー都じゃ珍しくない相棒ロボットだ。」
「仕事を手伝ったり、人を案内したりするんだぜ。」
イアスが胸を張る。
「ンナ!」
ニコは少し笑った。
「さて。」
「そろそろ出るわよ。」
「詳しい話は、新エリー都についてから。」
◇
ホロウ内部。
出口へ向かう道。
その途中。
レイは三人へ尋ねた。
「……あなたたちは何者?」
ニコが振り返る。
「私たち?」
「邪兎屋。」
「ホロウレイダーよ。」
レイはその言葉を繰り返す。
「ホロウレイダー。」
アンビーが説明する。
「ホロウへ入り、依頼された物資やデータを回収する人間。」
「正式な調査員とは違う。」
「私たちは非合法の存在。」
ニコが肩をすくめる。
「まぁ、世間的にはあまり良い顔はされないわね。」
「でも。」
ニコは前を見る。
「ホロウで困ってる人間がいるのも事実。」
「全部をお役所だけで助けられるわけじゃないから。」
レイは黙って聞いていた。
「プロキシっていう存在もいる。」
ビリーが続ける。
「ホロウは中の地形が変わる。」
「普通に歩いても出口には辿り着けない。」
「だから外からルートを計算して案内する専門家が必要なんだ。」
「それがプロキシ。」
アンビーが補足する。
「私たちホロウレイダーは、プロキシの案内を受けて仕事をすることもある。」
レイは頷く。
知らないことばかりだった。
この世界には。
自分が知らないものが多すぎる。
ニコがふと尋ねる。
「そういえば。」
「あなたは?」
「どうしてホロウにいたの?」
レイは少し黙る。
そして。
正直に答えた。
「……分からない。」
三人が見る。
「私は。」
「何も覚えていない。」
「名前以外。」
ニコの表情が少し変わる。
アンビーも静かにレイを見る。
「記憶喪失。」
レイは頷く。
「そう。」
アンビーは小さく呟いた。
「……。」
何か思うところがあるようだった。
しかし、それ以上は聞かなかった。
やがて。
前方に光が見える。
ホロウの出口。
ニコが笑う。
「もうすぐ新エリー都よ。」
レイはその言葉を聞く。
胸の奥がまた小さく疼いた。
新エリー都。
自分を導いていた場所。
白い翼が静かに揺れる。
そして少女はまだ知らない。
この街で。
失われた過去と。
自分が何者なのかという答えへ。
少しずつ近づいていくことを。
矛盾点やこうしたほうがいいよなどのアドバイスがあれば言ってください