Legend of Zero   作:猫ロボF

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日常とかを別で作ったほうがいいのかな


第一章 猫の落とし物
第五話 ――白翼と招かれざる客――


薄暗い部屋。

 

無数のモニターが静かな光を放っている。

 

電子音だけが、規則正しく響いていた。

 

『対象――レイ。再分析を開始します。』

 

機械的な声が部屋に響く。

 

Fairy。

 

H.D.Dシステムに接続された高性能AIは、この数日間、何度もレイの解析を試みていた。

 

瞳。

 

身体構造。

 

戦闘データ。

 

ホロウ内での行動記録。

 

あらゆる情報を照合する。

 

しかし――。

 

『該当データなし。』

 

『既存データベースとの一致率、〇・〇二%。』

 

『翼部構造……解析不能。』

 

『エネルギー反応……測定不能。』

 

『警告。』

 

『対象の能力は、現在のデータでは完全な解析が不可能です。』

 

短い沈黙。

 

そしてFairyは静かに結論を出した。

 

『対象レイ。』

 

『継続観測を推奨します。』

 

 

ホロウで出会ってから、およそ三日。

 

レイは少しずつ六分街での生活に慣れ始めていた。

 

Random Playの店番を手伝い。

 

商品の整理を覚え。

 

近所の人々とも少しずつ顔見知りになっていく。

 

最初こそ不思議そうな目を向けられていたものの、物静かで真面目な性格もあり、今では六分街の住民たちにも自然と受け入れられつつあった。

 

そして今日も営業の合間。

 

レイはバックヤードで休憩を取っていた。

 

ソファにはアキラ。

 

その隣にはリン。

 

テーブルには飲みかけのコーヒーとジュース。

 

テレビでは昼のニュースが流れている。

 

『続いてのニュースです。』

 

『旧都地下鉄改修計画について、工事を請け負うヴィジョンコーポレーション代表、パールマン氏へのインタビューです。』

 

画面が切り替わる。

 

スーツ姿の中年男性が、自信満々の笑みを浮かべていた。

 

『新エリー都と爆破エリアを結ぶ地下鉄は、共生ホロウ「デッドエンドホロウ」によって長年使用不能となっていた。』

 

『しかし我々ヴィジョンコーポレーションは、その困難を乗り越えたのだ。』

 

映像には巨大な列車。

 

貨車には大量の爆薬が積み込まれている。

 

『ホロウ内部に残る使用可能な路線を利用し、特殊車両によって爆薬を輸送。』

 

『エーテリアスを回避するため、徹底した安全対策を施した結果、爆薬の大部分を爆破エリアまで運ぶことに成功したのだ』

 

『地下鉄復旧計画は順調に進んでいる』

 

アキラが感心したように頷く。

 

「工事が行われる場所はホロウの近くで、しかも大勢の人員を移動させる必要がある」

 

リンも腕を組む。

 

「やっぱり、TOPS財政ユニオン入りを目指す企業はやることが違うね。」

 

レイは黙って画面を見つめていた。

 

映像の中を走る列車。

 

ホロウ。

 

そして、笑顔で話すパールマン。

 

「……。」

 

胸の奥に、小さな違和感が生まれる。

 

理由は分からない。

 

ただ。

 

何かがおかしい。

 

そんな感覚だけが残った。

 

その時だった。

 

突然、バックヤードにFairyの声が響く。

 

アキラが顔を上げる。

 

『警報。街道カメラにて、何者かが本店へ急速に接近しているのを確認。』

 

『推測――トイレを借りたい・レンタルしたビデオの期限が迫っている・

   本店に対し悪さを企んでいる。』

 

リンが言う。

 

「なによ、変な言い方しちゃって。」

 

アキラも立ち上がる。

 

「お客さんが来ただけだろ、僕が出よう。」

 

そう言ってバックヤードの扉へ向かう。

 

ガチャリ。

 

扉を開けた、その瞬間――。

 

「ふみゃー!」

 

ドンッ!!

 

勢いよく何かが店内へ倒れ込んできた。

 

その何かは床へ転ぶ。

 

レイも立ち上がる。

 

床に倒れていたのは、一人の少女だった。

 

猫耳。

 

長い2つの尻尾。

 

猫のシリオン。

 

少女は鼻を押さえながらゆっくり起き上がる。

 

「いたたた……。」

 

「は、鼻が…。」

 

しばらく涙目で鼻をさすっていたが、不意にハッと顔を上げた。

 

勢いよく店内のテレビを指差す。

 

画面には、今も笑顔でインタビューを受けるパールマンの姿が映っている。

 

少女は大声で叫んだ。

 

「はっ!」

 

「あのダルマみたいなオッサンを信じちゃダメだ!」

 

店内が、一瞬で静まり返った。

 

 

 

 

「えっと……ニャー?」

 

すぐに笑顔へ切り替える。

 

「いらっしゃいませ! ここは六分街で一番のビデオ屋だよ!」

 

アキラも営業スマイルを浮かべる。

 

「ご来店ありがとうございます。」

 

「お客様、どんなビデオをお探しですか?」

 

「ちょうど『7710と彼の猫』が入荷したところですよ。」

 

少女は一瞬だけ興味を示した。

 

「それってどんな映画? 面白いの?」

 

しかし、すぐにはっとする。

 

「……って、違う!」

 

「そんなことしてる場合じゃないぞ!」

 

店内の空気が少し引き締まる。

 

少女はアキラとリンを真っ直ぐ見つめた。

 

「分かってる!」

 

「あんたたち、『パエトーン』なんだろ!」

 

「プロキシのあんたたちに依頼がある!」

 

リンはきょとんとした表情を浮かべる。

 

「ぷろきし?」

 

「プロ仕様のきしめん?」

 

「食べ物なら雑貨店『141』がおすすめだよ!」

 

隣で聞いていたレイが静かに首を傾げた。

 

「……プロ仕様のきしめん?」

 

「きしめんって何ですか?」

 

リンは思わず苦笑する。

 

「えっと、レイちゃん。」

 

「それはまたあとで教えるね。」

 

リンは頭を抱えた。

 

「もう!」

 

「警戒しなくていい!」

 

「あたしは猫又!」

 

「ニコに言われて、あんたたちを探しに来たんだ!」

 

「悪いやつじゃないぞ!」

 

そう言って腰に付けたボンプを指差す。

 

「ほら!」

 

「ニコが使ってるボンプ!」

 

「これで信じてくれたか?」

 

リンは少し真面目な表情になる。

 

「うーん……。」

 

「偽物ってわけじゃなさそうだね。」

 

「確かにニコが使ってるボンプだ。」

 

レイも静かに猫又を見つめる。

 

「……嘘はついていないみたいです。」

 

リンは猫又へ問いかける。

 

「本当にニコのお友達?」

 

「ニコたちは今どこにいるの?」

 

猫又は勢いよく答えた。

 

「さっきニュースでやってた場所!」

 

「ヴィジョンの爆破エリア!」

 

「テレビに出てたあのダルマみたいなオッサン!」

 

「あいつは全員避難したって言ってたけど、本当は違う!」

 

アキラは額へ手を当て、小さくため息をついた。

 

「言ったそばから面倒事に巻き込まれたね……。」

 

リンも腕を組む。

 

「よりにもよってこんな時に。」

 

「ヴィジョンの工事現場でいったい何をしてたの?」

 

猫又は慌てて説明を始める。

 

「探しものだ!」

 

「……えっと、依頼したのはあたし!」

 

「それに赤牙組がケチをつけてきて、もみくちゃになって……。」

 

「とにかく人がぎゅうぎゅうで!」

 

「魚の缶詰みたいだった!」

 

リンは苦笑する。

 

「待って、ゆっくり話してよ。」

 

「ニコたちと魚の缶詰に……何か関係があるの?」

 

猫又は頭を抱えた。

 

「うぅ……。」

 

「説明がうまくできないぞ!」

 

「……そうだ!」

 

猫又はニコのボンプを持ち上げた。

 

「この中!」

 

「ここ数日の視覚データが保存されてるはずだ!」

 

「それを見ればきっと分かる!」

 

リンは少し困ったように笑う。

 

「それは難しいと思うな。」

 

「視覚データは所有者のニコにしか取り出せないから。」

 

「どうしてもなら、マルセルグループに問い合わせないといけないしね。」

 

その時。

 

「ピー。」

 

小さな電子音が響いた。

 

レイが首を傾げる。

 

「……なんの音ですか?」

 

アキラは少し考え込む。

 

「Fairyなら……何か方法を知っているのかもしれない。」

 

猫又が周囲を見回す。

 

「何か言ったか?」

 

「ファーリー……?」

 

リンは慌てて笑顔を作る。

 

「いやいや!」

 

「何のことかなあ!」

 

そして小声で呼びかけた。

 

「Fairy。」

 

「ちょっと手伝って。」

 

「ボンプの中のデータって取り出せる?」

 

すぐに機械音声が返ってくる。

 

『確認。』

 

『ボンプ内部の視覚記録を出力することで間違いありませんか?』

 

猫又が耳をぴくりと動かした。

 

「にゃ?」

 

「今、誰かしゃべったような……。」

 

「他にも誰かいるの?」

 

リンは乾いた笑いを浮かべる。

 

「あっはは。」

 

「新しくインストールしたPCアシスタントの声かな。」

 

「どう、Fairy?」

 

「データは取り出せそう?」

 

『可能です。』

 

『ボンプ内部の視覚記録を検索しています。』

 

『なお、「もっと早くFairyを頼るべきだった」と発言することを推奨します。』

 

「私がバカだった……って、ちょっと!」

 

「調子に乗らない!」

 

リンが即座にツッコミを入れた。

 

 

数分後。

 

視覚データの解析が終わる。

 

猫又は自分の映像を見ながら顔を真っ赤にしていた。

 

「うぅ……。」

 

「猫をかぶってる自分を見るの、こんなに恥ずかしいなんて……!」

 

レイは純粋な表情で尋ねる。

 

「……あの『にゃ』って、わざとだったのですか?」

 

「えっ!?」

 

「い、いやいや!」

 

「ネコのシリオンはみんなこんな感じだ……にゃあ!」

 

リンは映像を止める。

 

「うん……。」

 

「状況は大体分かったよ。」

 

「あんたは今日、ニコたちと赤牙組の拠点を探しにデッドエンドホロウへ向かった。」

 

「そして今、ニコたちは爆破エリアにいる。」

 

猫又は力強く頷く。

 

「そう!」

 

「それからも色々あって……。」

 

「とにかくニコたちは今、爆破エリアにいる!」

 

その瞬間、Fairyが新たな情報を告げた。

 

『マスター。』

 

『ニュースチャンネルにて、今回の依頼に関連しているとみられる情報が放送されています。』

 

テレビの音量が上がる。

 

『速報です。』

 

『まもなくヴィジョン最後の輸送列車が、デッドエンドホロウへ向け出発します。』

 

『列車には爆破解体用の最後の爆薬が積載されています。』

 

『到着後、パールマン氏の指示で爆破解体が開始される予定です。』

 

猫又の顔色が変わる。

 

「まずい!」

 

「最後の列車がもう発車しちゃう!」

 

「視覚記録の続きを見てる時間はないぞ!」

 

「何とか爆発を止めないと!」

 

「ニコが灰になっちゃう!」

 

リンは真剣な表情になる。

 

「でも、どうやって?」

 

「みんなの前で列車を止めたら、その場で治安局に捕まっちゃう。」

 

アキラも腕を組む。

 

「通報するのが一番だけど……。」

 

「それじゃニコたちがホロウレイダーだと知られてしまう。」

 

少しの沈黙。

 

するとFairyが静かに提案した。

 

『提案。』

 

『ホロウ内部で列車を停止させることを推奨します。』

 

猫又は目を輝かせる。

 

「そっか!」

 

「ホロウの中なら外から直接見られない!」

 

アキラも頷いた。

 

「列車が必ず通る道を阻むことができれば。」

 

「理論上は可能だ。」

 

リンはすぐにFairyへ問いかける。

 

「Fairy。」

 

「列車の現在位置は?」

 

『追跡可能。』

 

『目標車両までの安全ルートを計算しています。』

 

アキラは決意したように頷く。

 

「よし。」

 

「今回は緊急事態だ。」

 

「デッドエンドホロウの中で列車を止める方法を探そう。」

 

その時。

 

静かに聞いていたレイが一歩前へ出た。

 

「……私も行きます。」

 

全員の視線が集まる。

 

アキラが穏やかに尋ねる。

 

「レイ。」

 

「危険な任務になる。」

 

「それでも行くの?」

 

レイは迷わなかった。

 

「ニコたちは。」

 

「私を助けてくれました。」

 

「今度は、私が助けます。」

 

短い言葉だった。

 

しかし、その瞳には確かな意思が宿っていた。

 

アキラは小さく微笑む。

 

「分かった。」

 

「君の実力は、あの時に見ている。」

 

「でも、無理だけはしないで。」

 

リンも笑顔で頷く。

 

「レイちゃんも一緒なら心強いね!」

 

「みんなでニコたちを迎えに行こう!」

 

猫又も大きく頷く。

 

「んにゃ!」

 

「急ぐぞ!」

 

こうしてレイ、アキラ、そして猫又は、新たなホロウ――デッドエンドホロウへ向かうことになった。

 

 




無口とは言え今回レイ喋らなすぎでは、次回戦闘たぶんします。
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