屋内対人戦闘訓練を終えた四人はオールマイトに連れられ、地下のモニタールームへとやって来ていた。
「さっ、お待ちかねの講評のお時間だ。今戦はお互いにお互いの個性の情報を、ある程度把握している状況での戦闘だったわけだが……両チームとも、とてもいい動きをしていた! 個々人の動きにはまだ改善点があるが、チーム単位で見れば、非の打ち所がないほどだったぜ?!」
オールマイトからの絶賛を受け、ヴィランチームの霊はマスクの下で頬を緩め、八百万はフフンっと嬉しそうに胸を張った。ヒーローチームも同様に、上鳴は息を大きく吸いながら嬉しさを噛み締めるように口元を歪ませ、耳郎は照れくさそうに指で耳たぶのプラグを弄んだ。
それらを視界に収めたオールマイトが一度大きく頷くと、四人と対面する位置に立つ他のA組生徒へ視線を向けた。
「そこで! 今回は戦った四人に直接質問することで、両チームの動きについてより深く理解していく方式にしようと思う。個々人への講評は後で私がやるから、君たちは両チームの動きについて、見ていて気になったことを質問してくれ」
オールマイトは第一試合で八百万に役目を取られたことを、今もほんの少しだけ気にしていた。その対応策として、生徒の質問の種類を限定する言い回しを心がけていた。オールマイトは反省を基に成長する新任教師だった。
オールマイトの言葉に、最初に手を上げたのは飯田だった。
「先生! ヴィランチームの八百万さんに質問があります!」
「はい、飯田少年! 質問をどうぞォ!」
真っ直ぐ手を上げた飯田を、オールマイトがハイテンションで大袈裟に指差した。
「八百万さんが上鳴くんの個性を封じる為に取り付けていた、あの突起のようなものは一体何だったのでしょうか!?」
「アレは避雷針の機能を取り入れた『簡易蓄電池』ですわ」
「えっ!? アレ『避雷針』じゃねぇの!?」
飯田の質問に淡々と答えた八百万に、上鳴は驚きの声を上げた。それを受けて八百万が続ける。
「仕組み自体はその認識で合ってますわ。ただ、通常の避雷針は誘導した電気を地面へ逃がすことに対し、今回使用したものは誘導した電気を逃がさず留めること
「え、でもよぉ、どっちも空気中の電気を引き寄せるってこと自体に違いはねぇんだろ? 実際、上鳴の個性を完全に封じ込めれたわけだしさ」
「違う……
不本意そうな表情を浮かべる八百万に、切島は不思議そうに声を掛けた。そしてその切島の発言の一部を、霊がきっぱり否定した。
霊の言葉を引き継ぐように、八百万が再度口を開く。
「ええ。避雷針であれば完全に上鳴さんの個性を封じ込められたでしょうが、今回は制限時間の問題もあり、急ごしらえのものしか用意できなかったんですの」
「つまり、何か重大な欠点があった、ということか……」
飯田の呟きに、八百万が「ええ」と短く応え、続けた。
「今回設置した『簡易蓄電池』ですが、蓄電量はそこまで多くありませんの。精々が、ちょうど上鳴さんが一番最初に纏った電気量より、ほんの少しだけ少ない程度でして……」
「あれ? じゃあ、あのバチバチいってたのって……」
「ええ。蓄電量が限界に達し、蓄え切れなかった電気が周囲へ漏れ出している時に見られる現象ですわ」
尻つぼみ気味に言った麗日に、八百万が笑顔で応えた。
「え、つまり……俺ってばもう一度個性使えば、普通に電気纏えてたってこと……?」
「ん、正解」
「マジかよッ!? 騙されたァ!!」
霊がグッと親指を立てながら肯定すると、上鳴は頭を抱えて悔しそうに声を上げた。それを見てオールマイトが笑い声を上げる。
「ハッハッハ! そう落ち込むことじゃないぜ、上鳴少年! 今回、ヴィランチームの作戦は全て、君のことを主軸に用意されていたんだからな!」
「ええっ!? マジで!?」
「今ごろ気付いたんかい」
オールマイトの発言で驚きの声を上げる上鳴に、耳郎は呆れたようにツッコミを入れた。そしてオールマイトが続ける。
「というわけで、ヴィランチーム! 今回の作戦の全容を説明してくれるかい?」
「はい、オールマイト先生」
オールマイトの指示を受け、八百万が説明を開始した。
「まず大前提として、わたくしたちが最も警戒していたのは、先ほどオールマイト先生が仰られた通り、上鳴さんの『帯電』の個性ですわ。個性を使って接触された場合、それだけで戦闘不能になる恐れがありました」
「改めて聞くとやっぱ、電気系個性ってだけで反則級につえぇよなぁ……」
「…………」
「ニマニマすんな」
「あだっ!」
八百万の言葉に、切島が感嘆の声を漏らす。それを聞いていた上鳴が嬉しそうに口元を歪めていると、隣に立っていた耳郎から軽い蹴りが飛んできた。
「──ですので、わたくしが個性を使って先ほど話した簡易蓄電池を創りましたわ。そして、同じ形状をしたレプリカを量産し、ビル内の全ての部屋に、同じように取り付けたんです」
「はい! 質問!」
そう言って手を上げたのは芦戸だった。八百万が指名して続きを促すと、芦戸は不思議そうに首を傾げながら口を開いた。
「どうして、わざわざ全部屋に取り付けたの? どうせ待ち構えるんだったら、核の置いてある部屋だけでよかったんじゃない?」
「それは耳郎さんの個性を警戒しての行動ですわ」
「うちの個性……?」
首を傾げる耳郎に、八百万は「ええ」と短く応え、詳しい説明を始めた。
「耳郎さんの個性『イヤホンジャック』は、壁や地面に伝わる音を正確に聴き取り、周囲の様子を立体的に観測することができる個性ですわ。そんな耳郎さんが、一部屋だけ不自然に出っ張っている『異物』を警戒しないわけがありません。ですので警戒心を解くため、敢えて全部屋に全く同じ形状のレプリカを設置したんですわ」
「じゃあそのレプリカっていうのは? 本物じゃないの?」
「レプリカと言っても内部構造はほぼ同じで、電気を集める機能のみを省いた『不良品』という言い方が近いですわね。万が一電気を集める機能を知られてしまっては、作戦が全て台無しになりかねません。ですので、『できる限り本物に近い模造品』を用意しましたわ」
「形だけの張りぼてだったら普通に気付けてたのに……うちの個性なんて『壁とかに刺して音を聴き取る』くらいしか説明してなかったのに、頭回り過ぎでしょ……」
「……百は昔から、こういう推測が上手い」
「ふふっ、逆に霊さんは、わたくしより咄嗟の判断力に優れていますわね」
「……つまりはどっちもどっちってわけね、納得……」
耳郎はどこか呆れた様子で、そう声に漏らした。
A組生徒の納得と感嘆の声を聞きながら、八百万は作戦の説明へと話を戻した。
「──あとは耳栓を創り、音爆弾で怯ませた直後、霊さんが突貫。上鳴さんの個性を一回分だけ無効化することで、上鳴さんの頭から『個性を使う』という選択肢を消しましたわ」
「正直あれは仕方ねぇよな……俺が上鳴の立場でも、ぜってぇそうなる自信あるわ」
「ケロ。仮に『避雷針』に関する知識があったとしても、咄嗟のことだと驚いてしまいそうだわ」
瀬呂と蛙水が上鳴へ同情のような視線を送ると同時に、ヴィランチームの作戦の完成度に改めて驚嘆した。
「──もちろん、冷静に観察されれば気付かれていた可能性も高いです。ですので、考える暇を与えないよう、こちらから無理やり短期決戦へ持ち込みました」
「ん……わざと足音大きくした」
「いや、アレわざとかいっ! めっちゃビビったわ!」
「意識逸らし、成功」
「クァ~! チッキショ~……ッ!!」
霊にピースサインを向けられた上鳴は、悔しそうに頭を抱えるのだった。
「さてっ、みんな他に質問はあるかな? 無ければ、私の方から個人ごとの講評をして、次の試合へ移ろう」
そうして、オールマイトからの講評が始まった。
「まずはヒーローチーム、上鳴少年から! 終盤戦で個性が使えないとわかるや否や、耳郎少女のワンチャンに賭けるため、身を挺してでも守るという判断、実にシビレたぜ……! ただ、この判断は本当に何もできなくなったとき用の、本当の意味での最終手段だ。特に、上鳴少年は電気系個性! 私の経験上、電気系個性は真っ先に対策されることが多い、わかりやすい強個性だ。個性を封じられた時にどうするか、予め考えておくことをオススメするぜ」
「ウッス! アザーッス!」
「続いて、耳郎少女! 全体的に素晴らしい働きだった! 限られた情報の中で相手との有利不利をしっかりと見抜き、2つの明確な勝ち筋を一度の作戦に組み込んでみせた。誰にだってできることじゃあない、明確な君の強みだ。それを大切にな」
「……あッス……」
「──それと、個性を近接で活かすためには、いくつか『型』を用意しておくのがオススメだ。それだけでも、戦略の幅は大きく広がる。せっかく一撃必殺に近い個性を持ってるんだ、それを決めるための道筋は多ければ多いほどいい! あと、咄嗟に思いついたであろう最後の不意打ち作戦自体は、実に良かったぜ!」
「ウッス。ありがとうございます」
「続いてヴィランチーム、言葉少年! 敢えて上鳴少年に気付かせながら接近することで、注意深く観察されてはいけない蓄電池から、自分に意識を向けさせる機転! そして、上鳴少年が防御の構えを取ったタイミングで、すかさず個性を発動! どんな相手でも、意識外からの不意打ちってのには弱いもんさ。まさに理想的な個性の使い方だった。それに最後、耳郎少女を警戒しての『言霊』、ナイス判断!」
「──ただ、序盤から中盤にかけての意思疎通はもうちょっと頑張ろう! 今回は八百万少女だったからよかったものの、急造チームアップでは仲間とのコミュニケーションが特に大切になってくる。察して待ちだけじゃ、完璧な連携は取れないぞ~?」
「……頑張ります」
「そして最後に、今戦のMVPである八百万少女! 相手の個性を考慮した上で勝ち筋を明確にし、それに至るまでの全てを逆算して完璧な作戦を立ててみせた。上鳴少年への対策! 耳郎少女へのブラフ! そして最後の追い込みからトドメの一撃まで、全てにおいて素晴らしい働きをした八百万少女に、みんな拍手!!」
「これくらい、トップヒーローを志す者として当然ですわ!」
「クゥ~! かっこいいぜ、八百万少女~!」
胸に手を当て、フフンっと得意げに笑って見せる八百万に、オールマイトはグッと親指を立てて噛み締めるように言った。
しばらくして拍手が止むと、オールマイトが切り替えるように声を上げた。
「今戦はちょっとだけ他と毛色が違ったが、みんな『例外』ってだけで片付けるんじゃないぞ?」
「──ヒーローは、ヴィランに個性を把握されているのが大前提!」
「実際の現場でも、最寄りのヒーロー事務所に所属するヒーローの個性を対策したうえで、事件を起こすヴィランなんかもいたりする。ビルボードチャートに乗るような有名ヒーローとなれば、なおさらだ。自分の弱点をしっかりと把握し、それをどう埋めていくか……それを考え抜くこともヒーローにとって必要なことのひとつだ。更に向こうへ『Plus Ultra』の精神を忘れずにな!」
「「「はい!!!」」」
「おしっ! それじゃあ、最後のペアの試合を始めよう!」
そうして屋内対人戦闘訓練、最後の組の試合が始まるのだった。
先に言っておきますと、最後の組はカットです。