ヤンデレと関わりたくない俺は、最強の異能を隠して異能学園を生き抜く   作:2F29くん

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第12話

 慎二の木刀が大きく振り抜かれる。

 

 重い。

 

 まともに受ければ押し切られる一撃だった。

 

 結衣は半歩だけ身体をずらし、その剣を紙一重でかわす。同時に風が背中を押し、まるで滑るように慎二の懐へ入り込んだ。

 

 木刀が閃く。

 

 慎二は咄嗟に受け止める。しかし、その瞬間にはもう遅かった。

 

 風が鳴る。

 

「っ!」

 

 背後から迫る風刃を察知した慎二は強引に距離を取る。風刃は制服の裾を裂き、そのまま背後の木へ深い傷を刻んだ。

 

「やっぱり厄介だな……!」

 

 慎二は笑みを崩さない。

 

 結衣は追わない。ただ静かに木刀を構え直す。

 

 一瞬の静寂。

 

 互いの呼吸だけが森へ溶ける。

 

「なら、次で決める!」

 

 慎二の木刀がこれまで以上の光を放つ。《武装強化》が限界まで高まり、周囲の空気さえ震え始める。

 

 結衣もまた小さく息を吐いた。

 

 足元へ風が集まる。

 落ち葉が舞い上がる。

 

 次の瞬間、二人は同時に地面を蹴った。

 剣と剣が激突する。

 

 轟音。風が爆ぜ、土煙が一帯を飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「余所見なんてしてる場合か!」

 

 東雲が駆け出す。同時に召喚獣が陽菜へ飛び掛かり、その影へ隠れるように篠原も間合いを詰めた。

 

「右です!」

 

 黒崎の声が飛ぶ。

 

 陽菜は身体を捻る。篠原の木刀が頬を掠め、数本の髪が宙へ舞った。

 

「避けれるんだ」

 

 篠原はすぐに体勢を立て直す。東雲が押し、篠原が仕留める。

 

 二人の連携は崩れない。黒崎が千里眼で位置を教えてくれても、一人で二人を相手取るには限界があった。

 

 陽菜は腰のポーチへ手を伸ばく。小さなコンパクトを開き、鏡へ映る自分を一瞥する。静かに息を整え、その中から一本のアイライナーを取り出した。

 

 細い筆先が淡く光る。

 

 空中へ一本の黒い線。

 

 次の瞬間、その線は鋭い斬撃となって東雲へ走った。

 

「甘い!」

 

 東雲は木刀で弾き返す。しかし、その隙に陽菜は距離を詰め、木刀を振り抜いた。

 

 金属音にも似た乾いた衝突音。

 

 東雲が半歩下がる。

 

 だが、その瞬間には篠原が異能を使い死角へ回り込んでいた。しかし、姿を霧に変えても黒崎の千里眼なら捉えられる。

 

「西園寺さん後ろ!」

 

 黒崎が叫ぶ。だが、完全には避け切れない。

 

 木刀が制服の脇腹を浅く裂き、焼けるような痛みが走った。

 

「っ……!」

 

 陽菜は後ろへ跳ぶ。息が乱れる。アイライナーだけでは押し返せない。東雲はそれを見逃さず、不敵に笑った。

 

「終わりだ!」

 

 召喚獣が正面から飛び込む。そして篠原も同時に動く。

 

 左右から挟まれる形。

 逃げ場はない。

 

 陽菜はコンパクトを握り締めた。

 

(ここしかない)

 

 右手には、まだアイライナーが握られている。そのまま左手がポーチへ伸びた。取り出したのは一つのコンシーラー。

 東雲の笑みが消える。

 

「……なんで出してるんだ」

 

 篠原も思わず足を止めた。

 

「アイライナーを解除してない……?」

 

 黒崎でさえ目を見開いている。陽菜はコンパクトを閉じない。

 

 左手のコンシーラーを肌へ滑らせると、淡い光が広がり、目の前へ半透明の盾が展開した。

 

「同時に使えたのか!」

 

 東雲は叫び、そのまま召喚獣をぶつける。 その直後、鈍い衝撃が盾に広がる。盾は大きく揺れるがそれでも砕けない。

 

 その陰から、陽菜の右手が静かに動いた。アイライナーが空中を走る。

 

 黒い線がどこまでも伸びていく。次の瞬間、音もなく斬撃へ変わる。

 

「篠原!」

 

 東雲が叫ぶ。

 

 篠原は咄嗟に木刀を合わせたが、完全には受け切れず、大きく体勢を崩した。

 

 初めて。

 

 二人の連携が乱れる。

 

 陽菜は静かにアイライナーを構え直した。

 

 東雲は盾とアイライナーを交互に見比べ、小さく笑う。

 

「これは厄介だな。文字通り攻防一体とは」

 

 その目から、さっきまでの余裕が少しだけ消えていた。

 

「篠原」

 

 短く名を呼ぶ。

 

 篠原は何も答えず、小さく頷いた。

 

 次の瞬間、二人の動きが変わった。

 

 東雲は陽菜ではなく盾だけを狙う。重い一撃が盾を震わせ、その衝撃で陽菜の体勢がわずかに揺れる。その一瞬を篠原は見逃さない。死角へ滑り込み、木刀を最短距離で突き出す。

 

 陽菜は半歩だけ身体を引き、アイライナーで迎え撃つ。しかし篠原は斬撃だけを見ていた。木刀を返し、黒い一閃を逸らす。

 

 そこへ東雲。

 

 再び盾へ衝撃が叩き込まれる。

 

 攻撃。

 

 防御。

 

 反撃。

 

 その循環を二人は無理に崩そうとしない。ただ確実に盾へ負荷を蓄積させていく。

 

 小さな音が響いた。

 

 盾へ一本、細い亀裂が走る。これには陽菜は唇を噛んだ。

 

(早い……)

 

 同時展開は確かに強い。だが、維持には気力をかなり使う。東雲はそこまで見抜いていた。

 

「あと少しだ」

 

 召喚獣が再び飛び込む。

 

 盾が大きく軋む。

 

 篠原は退路を塞ぐ位置へ静かに回り込む。

 

 三方向。

 

 逃げ道はない。

 

 陽菜は盾を前へ構えたまま、小さく息を吐いた。その間にも盾にまた一本亀裂が走る。

 

 東雲はその音を聞き逃さなかった。

 

「終わりだ!」

 

 召喚獣が正面から盾へ体当たりを仕掛ける。衝撃に合わせるように東雲が踏み込み、篠原は陽菜の退路を断つように左へ回り込んだ。

 三方向から圧力が押し寄せる。陽菜は盾を維持したままアイライナーを構えるが、押し返す余裕はもうない。

 

(……あと少し)

 

 腕が震える。呼吸が浅くなる。

 

 それでも盾は下ろさない。ここで崩れれば終わると分かっていた。

 

 その時だった。

 

 ――ザッ。

 

 乾いた足音が森へ響く。

 

 東雲の眉がわずかに動く。

 

「……誰だ」

 

 視線を向けるより早く、鋭い風が横を駆け抜けた。

 

「っ!」

 

 反射的に東雲が木刀を振るう。

 

 風刃が木刀へぶつかり、火花のように風が弾けた。その一撃で東雲は半歩後ろへ押し戻され、召喚獣との連携がほんの一瞬だけ途切れる。

 

 その隙に陽菜は後方へ跳び、盾を解除した。

 

 木々の間から、一人の少女がゆっくりと姿を現す。

 

 朝倉結衣。

 

 制服には戦った跡が残り、額には汗が滲んでいる。それでも木刀を握る手は微塵もぶれていなかった。

 

 東雲が目を細める。

 

「……慎二は」

 

「料理してあげただけ」

 

 結衣はそれだけ告げた。勝敗を誇ることも、戦いを語ることもしない。しかし、その短い返答だけで十分だった。

 

 陽菜は張り詰めていた息を静かに吐く。

 

 朝倉さんが間に合った。それだけで身体から少しだけ力が抜ける。

 

 結衣は陽菜の隣へ並び、小さく視線だけを向けた。

 

「動ける?」

 

「まだいける」

 

「なら十分」

 

 それ以上の言葉はいらなかった。二人は同時に正面を向く。

 

 東雲は木刀を肩へ担ぎ直し、苦笑を漏らした。

 

「なるほど。二対二ってわけか」

 

 篠原は無言のまま構えを低くする。さっきまでとは違う。数で押し切れる状況ではなくなった。

 

 森を静かな風が吹き抜ける。

 

 結衣は木刀をゆっくりと正眼へ構えた。

 

 東雲の口元が、不敵に歪む。

 

「……面白ぇ」

 

 東雲が笑いながら地面を蹴る。召喚獣が結衣へ飛び込み、その陰から篠原が音もなく距離を詰めた。さっきまで陽菜を追い詰めていた連携は、相手が一人増えた程度では崩れない。

 

 結衣は真正面から受けない。身体を半歩だけ流し、召喚獣をやり過ごすと同時に木刀を振るう。風を纏った一撃が横腹へ叩き込まれ、巨体が大きく揺れた。

 

「へぇ!」

 

 東雲は嬉しそうに口元を吊り上げる。

 

「その剣、いいじゃん!」

 

 そのまま結衣へ斬り込む。

 

 木刀同士が激しくぶつかる。

 

 東雲は力任せに押し込み、結衣は風で勢いを殺しながら受け流す。押しては流され、流したと思えばすぐ次の一撃が飛んでくる。

 

 その横では篠原が陽菜へ迫る。

 

 木刀が閃く。

 

 陽菜は紙一重でかわし、アイライナーを走らせた。

 

 黒い一閃。

 

 篠原は木刀を返して受け流す。

 

 止まらない。

 

 すぐ次の一歩。

 

 陽菜は距離を取るしかない。

 

 そこへ結衣が木刀を弾き、東雲の体勢を僅かに崩した。

 

 その一瞬だけだった。

 

 陽菜の斬撃が東雲の肩口を掠める。

 

「おっと!」

 

 東雲は笑ったまま飛び退く。

 

「今のは危なかった」

 

 二人は深追いしない。そのまま自然と横へ並ぶ。東雲はその姿を見て木刀を肩へ担いだ。

 

「なるほどな」

 

 篠原も静かに立ち位置を変える。今度は二人とも結衣だけを見ていない。陽菜だけを見てもいない。

 

 互いの位置を確かめながら、二人まとめて視界へ入れている。

 

「篠原、合わせてくれ」

 

 短い一言。

 

 篠原は頷き、再び踏み込んだ。東雲も同時に動く。今度は結衣が東雲を受け止めた、その瞬間を狙って篠原が陽菜へ木刀を振り抜く。

 

 しかし、その切っ先へ黒い線が走った。

 

 アイライナー。

 

 篠原は咄嗟に木刀を返し、斬撃を逸らす。

 

 その間に結衣は東雲を押し返し、すぐ陽菜との距離を詰めた。

 

 陽菜が前へ出る。すぐさま結衣が半歩後ろへ回る。

 

 東雲は思わず笑みを深くする。

 

「いいねぇ……!」

 

 強引に踏み込み、陽菜を狙う。その木刀を結衣が横から弾いた。

 

 風が舞う。

 

 東雲はすぐ体勢を立て直す。

 だが、その瞬間には陽菜の斬撃が目前まで迫っていた。

 

「っ!」

 

 東雲は防ぐために剣を振り抜く。しかし間に合わなかった。だが、寸前のところで頼みの綱であった召喚獣が自身の前に立ちふさがる。

 そのおかげで一撃は防げたが、すぐさま第二陣がやってくる。

 

「これで終わりね」

 

 アイライナーが描いた黒線が一直線に走る。その線上には東雲と篠原がいた。二人は避けようとするが、左右には結衣の風刃が展開されていている。

 

 ――ビリッ。

 

 空気が微かに震えた。張り詰めていた空間が裂けるような音とともに、二人の眼前に迫る。その直線は木刀を遥か彼方へ弾き飛ばす。勝敗はもう明らかだった。

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