ヤンデレと関わりたくない俺は、最強の異能を隠して異能学園を生き抜く 作:2F29くん
翌朝の昼休み、教室にはいつもと変わらない喧騒が広がっていた。
玲斗は自分の席に座り、頬杖をつきながら窓の外を眺めていた。団体戦が終わってから数日が経ち、学園にもようやく普段通りの空気が戻ってきている。
周囲では昨日起こった様々な決闘について話している生徒たちの声が聞こえている。これも恒例になって久しい。
「昨日二年の先輩が決闘したらしいんだけど、三連戦もしたんだって」
「また!最近多くない?」
「お金が欲しいんだろ。勝てばSAPが増えるんだから」
玲斗は聞こえてくる会話に、何となく耳を傾ける。ラバー学園では、生徒同士の決闘は珍しいものではない。異能を持つ者同士が実力を競い、その結果によってSAPが動く。
玲斗自身は、できるだけ関わりたくないと思っていた。百害あって一利なしとまではいかないが、損が大きすぎる。十傑にも絡まれてしまったし。
「玲斗くん」
隣から声を掛けられる。振り向くと、結衣が弁当を机の上へ置いていた。
「今日も作ってきたよ」
「いつもありがとう、結衣」
玲斗が笑うと、結衣も嬉しそうに微笑む。
「ううん。玲斗のためだから」
そんな二人の様子を少し離れた席からエイルが眺めていた。その視線に気付いた玲斗がふとそちらを見る。
すると目が合った。
エイルは気まずそうに微笑む。玲斗はどう対応するか悩む。結果は無視することに決めた。悪意のないストーカーなどストーカー足り得ない。ならば、触れないのが一番かな。
そう思い結衣の方に振り向き返す。
「変な人がいるけど気にしないでね」
「…?…」
結衣は何のことを言われたのか分からず、唖然としている。どうやらエイルに気づいていなかったみたいだ。そもそも結衣と別れた後に出会ったのだから、知らない可能性もあるか。
「ごめん、忘れて。それよりこの卵焼き美味しいね。いい甘さしてる」
玲斗が卵焼きに舌鼓を打っている頃、エイルの後ろには見慣れない女性が立っていた。黒を基調としたメイド服。長い髪を後ろでまとめ、整った顔立ちにはほとんど表情がない。
目の前のエイルには冷たい視線を送っている。
「グレイ様、何をなされているのですか?完全に不審者ですよ」
その言葉がエイルに突き刺さる。
「えっリゼット…そう見えますの?」
二人のやりとりは廊下の喧騒に包まれて消えていく。ラバー学園の昼休みはそれぐらい賑わっている。
玲斗が結衣の弁当を食べ終え席を立つ。教室の外へ出ようとしたところで、廊下の向こうから大きな歓声が聞こえてきた。
「何か外で始まったみたいですね」
扉の隣にいたエイルが興味深そうに声を上げる。
「まだいたんだ」
なぜか普通にまだいるエイルに驚いてしまった。彼女を見てから時間がある程度経っているのに…。どれだけ暇なのだろうか?
まぁそれはひとまず置いておいて、廊下の先へ目を向ける。どうやら校庭の方から活気のある声が聞こえてくる。
「見に行きますか?」
エイルが俺に聞いてくる。なんでお前が聞いてくる?なんて疑問を呑み込む。彼女にツッコミをいれても無駄な気がする
「僕はどっちでもいいけど」
「私は見たいです」
あまりに即答だった。それにドン引きしたのか、俺の後ろの結衣はすごい目でエイルを見ている。
しかし、それをエイルはまったく意に返さない。目がすでに好奇心で輝いてしまっている。
この空間が地獄すぎて思わず玲斗は苦笑してしまう。
「じゃあ少しだけ見に行こうか」
結衣もついてきたので三人で校舎を出る。校庭へ近付くにつれ、生徒たちの声が大きくなっていく。
どうやら決闘の真っ最中らしい。
人だかりの隙間から中を覗くと、二人の男子生徒が向かい合っていた。その片方を見て玲斗が声を上げる。
「あれ慎二じゃん」
その声が聞こえたのか、戦っていた慎二がこちらを振り向いた。
「おっ、玲斗。お前も見に来たのか!」
その瞬間だった。
慎二の正面から相手の攻撃が飛んでくる。
「あ」
玲斗が呟いた直後、攻撃が慎二の肩へ直撃した。
「ぐっ!」
慎二の身体が大きくよろめく。
エイルが目を丸くした。そして次の瞬間、堪えきれないように口元を押さえる。
「ふふっ」
「そこの人、笑うんじゃない!」
慎二が地面から立ち上がりながら叫ぶ。
「玲斗、止めてくれよな。思わず振り向いちゃったじゃねえか」
慎二は文句を言いながらもすぐに相手へ向き直る。ここで玲斗はもう一度話しかけるか悩む。
「ったく……」
短く息を吐き、再び構えを取った。そして、玲斗からの声を気にしてか慎二が叫びながら走り出す。
隣ではエイルがまだ楽しそうに笑っている。
「面白い人ですね」
「慎二はああいう奴だから、もっと笑ってやってくれ」
玲斗はそう答え、再び決闘へ目を向けた。今度こそ慎二は振り返らない。その背中は先程の間抜けとは程遠かった。
向かいに立つ男子生徒が腕を振る。すると足元の土が盛り上がり、いくつもの塊となって慎二へ飛んでいく。
慎二は身体を横へ滑らせ、それを避けた。二発目、三発目も同じようにかわしていく。
先ほどまでとは動きが違う。
一度攻撃を間近で受けたことで、相手の癖を覚えたようだ。男子生徒が攻撃へ移る直前、必ず左足を引く。その僅かな予備動作を慎二は見逃していなかった。
土塊が飛んでくるより早く、慎二が踏み込む。
相手が慌てて土壁を作り出すが、固めきるまでには至らなかった。そこに慎二の
すると、男子生徒がよろめいた。
その隙に慎二はさらに距離を詰め、二度目の木刀を振り下ろす。これで男子生徒の身体が地面を滑った。
これが決定打となり勝敗を告げるアナウンスが鳴り、二人の端末の画面へ結果が表示された。
《
《勝者 斎藤慎二》
《斎藤慎二 7,800→8,100》
《小林雄大 8,000→7,850》
校庭から歓声が上がった。それに応えるように慎二は拳を握り、嬉しそうに息を吐く。
そして、こちらへ歩いてきた。
「玲斗、お前のせいで無駄な一発をもらっただろ」
「ごめんごめん。でもこっちをバカ正直に見てきたお前が悪いだろ」
肩を押さえながら文句を言う慎二を見て、エイルは悪い笑みを浮かべる。
「今度知り合いが決闘していたら私も話しかけましょう。その人はどんな反応をするのでしょうね」
周囲の空気が一瞬重くなる。周りの生徒は何があったのか分からず困惑している。異能を食い止めるべく、リゼットは主人の頭を叩く。
「異能が漏れてますよ、お嬢様。それとお嬢様が話しかけたら相手が緊張されますよ。そこの橘さんは例外です。十傑というお立場をご理解ください」
諭されてようやくエイルは自分の異能が漏れたことに気づく。感情が昂ると異能が漏れてしまうのは直さなければ。
「皆様失礼いたしました。お気になさらないでくださいね」
慎二はまだ何か言いたそうだったが、流れを完全に持っていかれたので口を噤んだ。それから友人に呼ばれると、そのまま人混みの中へ戻っていった。
玲斗たちも見るものがなくなったので校舎へ向かって歩き始める。
「決闘って面白いですね。私もしてみたいです」
エイルがぽつりと呟いた。だが、その願いが叶うことは難しいだろう。なんせ彼女は怪物なんだから。先程異能が漏れていたが、普通はそんなことありえない。ありえるのは異能が強すぎて、自身でも抑えるのが難しい者のみ。
つまり怪物としか表せれないということだ。
「面白いかな?俺は戦ってたのが知り合いじゃなかったら帰ってたよ」
「はい、面白いですよ。人によって戦い方が全然違うので」
それだけ言うと、エイルはもう一度だけ、先ほどまで決闘が行われていた場所を振り返る。その隣のリゼットが無表情のままエイルを見る。
「グレイ様」
「何ですか?」
「楽しそうで何よりです。この学園に来てから随分と活き活きとされてます」
「はい、とても楽しいです」
エイルは素直に頷いた。玲斗はそんな二人を足を止めて横目に見る。
あのメイドさんも相当戦えそうだな。俺は教室でエイルの隣にいたのを認識出来ていなかった。気配を消す技術も音を出さない足取りもすごい。
これは日頃から警戒を続けた方がいいな。彼女が俺に興味がなくても、その主人は別だろうから。