ヤンデレと関わりたくない俺は、最強の異能を隠して異能学園を生き抜く 作:2F29くん
決闘から数日が過ぎた。その間、玲斗の生活に大きな変化はなかった。授業を受け、寮へ戻り、寝る。そんなルーティーン通りの生活を送っていた。
そんなある日の夕方、玲斗は夕食を買うために寮を出た。寮から徒歩十分ほどの場所にあるスーパーへ向かい、弁当を一つと冷凍食品をいくつか買う。
冷凍庫に入れておけば、しばらくは食事に困らない。買い物を終えて店を出る頃には空はすっかり夕暮れに染まっていた。
玲斗は買い物袋を片手に、寮へ戻る道を歩いていく。大通りを外れ、住宅街へ入ったところで背後から足音が聞こえた。
一つではない。
三つ。
玲斗は振り返らなかった。学校でも、寮へ戻る途中でも、ここ数日の間に何度か同じ視線を感じていたからだ。今日も特に気にすることなく歩き続ける。
やがて人通りが途絶え、古い倉庫が並ぶ一角へ入ったところで、玲斗は足を止めた。振り返ると、少し離れた場所に三人の男子生徒が立っている。決闘の日に遠くで見かけた顔だった。
「やっと一人で外出したか。ずっと女が付いてて邪魔だった」
一人が吐き捨てるように言う。
「なるほど、だからこの時を狙ったのか」
玲斗はそれだけ答え、買い物袋を地面に置いた。三人がゆっくりと距離を詰めてくる。ここに誘い込まれたことは理解しているのだろうか?
「決闘なら必ず一対一だ。だから俺たちは決闘をするつもりはない」
「そうなんだ」
「我ら詩織さんファンクラブの団結力を見せてやる」
三人が同時に構える。
それと同時に玲斗の足元から、影が滲み出した。
それは地面だけに留まらず、壁を這い、頭上へと広がっていく。数秒もしないうちに、三人の視界から明かりが消えた。外の音も遠ざかり、そこだけが世界から切り離されたような静けさに包まれる。
三人の表情が強張った。
玲斗はいつものように笑っている。
「団結力かぁ〜。ここでも発揮されるといいね」
穏やかな声だった。けれど、その笑顔の奥には、冷たいものが沈んでいる。
次は俺と戦う気すら起こさないように叩き潰そうか。
最初に動いたのは、中央にいた男だった。
迷いを振り切るように地面を蹴り、正面から玲斗へ突っ込んでくる。その左右から、残りの二人も同時に回り込んだ。
最初から三人で囲むつもりらしい。
玲斗は動かなかった。
拳が届く寸前、身体を僅かに横へずらす。男の拳が空を切り、その腕を軽く掴んだ。勢いを殺さず、そのまま引く。
男の身体が大きく崩れた。
そこへ左右から攻撃が飛んでくる。玲斗は一歩下がり、片方を躱す。もう一人の腕を受け流し、二人の距離をわずかに離した。
「三人で来るなら、もう少し離れた方がいいよ」
玲斗は笑っていた。
それが余計に、三人を苛立たせる。
「舐めるな!」
再び攻撃が来る。今度は三人とも、ほとんど同時だった。玲斗はそれを眺めながら、一人ずつ動きを外していく。
正面の拳を避ける。
横から伸びた腕を払う。
背後から迫った攻撃には、振り返ることすらせず身体を傾ける。
攻撃が当たらない。何度繰り返しても同じだった。やがて、三人の動きから勢いが消えていく。
「……なんで」
一人が息を切らしながら呟いた。
「俺たちは三人だぞ」
玲斗は答えない。ただ、三人を静かに見つめている。その視線に中央の男が僅かに怯んだ。
勝てない。
一対一では無理だと分かっていた。だけど、三人なら勝てると思っていた。こいつはSAPだけ見たら格上ではないから。なのに、今は何もできていない。
三人になったところで、目の前の男には届かないと思い知らされる。
「詩織さんのためだ……」
誰かが自らを鼓舞するように呟く。そのせいで玲斗の笑顔が僅かに薄くなった。
「詩織のためじゃないだろ。自分たちのためにやってるんでしょ」
静かな声だった。しかし三人は何も言えない。その瞬間、玲斗の足元の影が大きく揺れた。
三人の背後に黒い壁が立ち上がる。
逃げ道が消えた。
「もういいよ、君たちは」
玲斗が一歩踏み込む。そこから先は、一方的だった。一人が向かってくれば、その動きを利用して地面へ伏せる。別の一人が隙を突こうとすれば、先回りして動きを封じる。
最後の一人が距離を取れば、影がその進路を塞ぐ。
玲斗は必要以上に力を使わなかった。
ただ、三人が立ち上がるたびに再び倒し、抵抗する気力がなくなるまで淡々と戦い続けた。
やがて、誰も立ち上がろうとはしなくなった。玲斗は三人を見下ろす。怒っているようには見えない。むしろ、普段と変わらない穏やかな笑顔だった。
「もう、僕に関わらない方がいいよ」
脅すような声ではなかった。だからこそ、三人は何も言い返せなかった。
これで心は折れてくれたかな。でも、ダメ押しはしておこうかな。
玲斗は無抵抗な三人に対して異能を行使する。背後の影を動かしてこいつらにぶつける。すると、実際のダメージはないが恐怖を与えるぐらいはできる。
だって影はどこにでもあるけど、影から向かってくることなんてないからね。
「……っ、あ、」
三人がシンクロするように声にもならない声をあげる。それを聞いて玲斗は周りの影を消す。すると街灯の明かりが戻り、遠くを走る車の音が聞こえてきた。
そして地面に置いた買い物袋を拾い上げる。
「じゃあな。もう俺に絡むなよ」
それだけ言って、玲斗はその場を去った。三人は誰一人としてその背中を追わなかった。しかし、内なる炎は未だ微かに燃えていた。
「どうする?我らはこのままで良いのか?」
リーダーである会員No.1が問いかけるが返ってこない。その時の答えはリーダーに任されていた。
「いや、良くない!我らはあの教室で誓っただろう。ならば、それを貫くのみ。そうだろう?」
確認のために目線を横に動かす。すると、メンバーは深く頷いてくれている。これで活動方針は決まった。我らはまだあいつを許さない。
「よし、じゃあもう一度行くぞ!あいつの元へ」
「行くってどこに?」
リーダーのすぐ後ろには結衣が立っていた。顔には笑顔を張り付けているが、そのすき間からは臓器が冷えて凍りつくような冷気が漏れている。
「もしかして玲斗くんの元へ、じゃないですよね?彼に決闘を挑んだのも、あなたがたのお仲間でしょ。今回はこんな街中でいきなり襲って……………」
言い終える前に結衣の感情が静かに決壊する。
「今度同じようなことしたら殺すから」
いつの間にか風刃を展開していた結衣が吐き捨てるよう言う。その言葉は重く、嘘だとは微塵も思えなかった。
そのせいで先程の考えなど吹き飛んでしまった。
「わ、分かった。もう橘玲斗には何もしない」
そう言って、三人は走って去っていく。怯えているあまり一人は途中でこけてしまう。それでも走る足は止めない。
「もう、玲斗くんは優しいんだから。私がこうやって除去しないとまた湧いちゃう。ほんと勘弁してほしいよね」
結衣は暗くなり始めた道路を歩く。その足音はひどく重く響き、聞いた者に恐怖を与えていった。