満月に出陣せよ大月防衛隊 侵略者のお越しを心よりお待ちしています 作:四つ切パン
第1話 Pink Moon 1 満月の夜は帰りの切符は不要です
岩殿山は甲州街道から富士と甲府への分岐点、守りの要の為よく狙われる。
「本当に迷惑だ」
「黒からALL 猿橋駅 OK プランBで行く OVER」
笹子鴈の腹摺り山は富士を見渡せる標高1,358mの山、中央線猿橋駅までは直線で15kmはある。
「こちら緑 プランB OK トンネル出口で撃ち抜く OVER」
「カラスから緑へ 獲物はトンネルに入った 山風1 北北西 OVER」
「黒から緑 プランB! GO 」
蒼い静かな山間に貨物車両の純音だけが殺意を乗せ近づいて来る。
緑兎がトリガーに指を掛ける。
「・・・ トンネルの出口に明かりが灯った、全弾発射!!」
笹子鴈の腹摺り山から金色の閃光が西から昇った満月に溶け込み流星の如く猿橋駅に向かって行く、その輝きが笹子川に煌びやかに映ると川から蛍の大群が湧き出ている様だ。
緑兎は呟き心に強く思う。
「鬼に見張られているから外せない、外すことなどあり得ない、あり得ないんだよ」
流星弾は貨物車両から見ると軌道が月に重なり急にキラキラと月が輝き始めたように見えた。
貨物車両に乗る高尾の増援隊に動揺が広る。
「トンネルの外が眩しい、 この凄まじい山鳴りは何だ?」
「爆音が静寂を切り裂き閃光が強さを増す、月が落ちてきた?」
「違う! 敵の砲撃だ、全員至急降車飛び降りろ!」
トンネルを出た先頭車両がそして二両目が撃ち抜かれた勢いで貨物車両は駅を貫き甲州街道へ脱線していく。
「ギギギーッ 」
鉄がそれ以外の物を削り取る音が鳴り響きそれが止むと、焼けた鉄の臭いが立ち込める。
ライトグリーンの輝きが17個ゆっくりと上空に上がり10m程で消えた。
この神域から去る者だ。
神山戦で死んだ彼らは再びここへ戻ることはできない、退屈で平穏な生活へと戻るのだ。
「こちらカラス 猿橋上空から確認 敵17消失確認 」
「残数 3 残数 3 OVER」
大月駅で緊急アナウンスが落ち着いた口調で流れる。
「先ほど神山戦の影響で猿橋駅にて脱線事故が発生しました、
中央線上りは大月で折り返し、下りは高尾での折り返しとなります
ご了承ください。
繰り返します・・・・ 」
神山戦の開戦は17時 大月では防災放送から流れる家路の曲が合図となり、
満月の夜に加護者が神域に入ることで始まる。
終了は翌朝5時。
開戦は自分の縄張りのからのスタートとなる、大月での無所属者は市役所からの参戦となる。
加護者は神山に認められ加護を与えられた者、その証として一対の籠手を与えられる。
籠手は個人の能力、使い方により成長する。
神山主を倒すと特別な黄金籠手が与えられ複数所持することも可能だ。
籠手は盾と銃に分けて使うことが多い、但し銃には自然の恵みを装填しそれを放つため弾の形状と装填数が重要になる。
神域には通常生活圏から植物又は植物を加工したものを持ち込む事が可能。
元から聖域にある物は硬度が高く加工が難しい。
また電車、建物は通常攻撃では破壊出来ない程の強度がある。
大月駅に一匹で布陣する青兎は可愛い卵型の体形には似合わない冷たい目で呟く
「今夜の東京からのお客さんは一人も返さない 」
岩殿山には親分の白いが黒兎と呼ばれる兎が口元に微笑を浮かべ叫ぶ。
「黒からバカ共 猿橋 敵第一陣下車済みだ 注意」
「今夜の各チームノルマ10匹」
「再教育は川下りだ OK OVER」
全員が真冬の桂川下り事件での恐ろしい彼の笑顔を思い出した。
「オオウー いやだーッ 」
全員の心が一つに成り、必死な闘気が各々から立ち上がる。
大月駅17時43分着の甲府行普通電車から高尾山のムササビはドアが開くと同時にちりぢりに飛び出し、決められたルートへと迅速に移動する。
高尾B隊は甲州街道に出て三崎大明神先の交差点を目指す、警戒しつつ必死に速度を上げる1団に、イオンから高速で近づく青い影が微笑みながら話しかける。
「いい月夜ですね これでも食らって死にさらせッ」
両腕の籠手から放たれた中型のドングリが後ろからムササビに追いつき体を貫く。
悲鳴の後にはライトグリーンの輝きが4個ゆっくりと上空に上がり、そして消えた。
「逃げて背中から撃たれるのは戦士の恥です」
「反撃だ 敵はたかが兎1匹だ」
倒れる仲間に見向きもせずに両端に鬼クルミを付けたカラムシの弦を後方に乱射する。
不規則に回転する直径1mの円が飛んでくる、それを避けると左右から回り込んだ2匹のムササビがクルミのショットガンをブッ放つ。
「いいコンビネーションだ」
「でも 捻りが無いな 」
左右に軽くかわし青兎は更にムササビを追う、歩道橋上からイノシシによる青兎への援護射撃が始まる。
「散開 弾幕を張れ」
ムササビは歩道橋下を通過時にクルミのショットガンを連射。
慌てて歩道橋の上で身を低くするイノシシ達。
「予想以上にやる、連携が速い」
歩道橋上のイノシシは被弾し追撃する余力は無く霞む目で辛うじて敵を追った、この攻防の中でも青兎は後ろから2匹のムササビを撃ち抜いていた。
「残り6匹ってところか? 流石に逃げ足は早いな」
「しかしクルミの弦とショットガンの弾速差による時間差攻撃は既に見切った」
「俺からは逃げられない何処までも追うぞ」