ある近未来。
ガンプラバトルが大流行している時代。
最早それは一種の娯楽として、あらゆる世代に浸透していた。
ガンプラバトルネクサスオンライン。通称GBN。
大手のオンラインゲームであり、もっともこの手の界隈で賑わっているゲームであろう。
チャンピオン、クジョウ・キョウヤは元気にしているだろうか。
ふと思い出す。
リアルの事情でGBNを離れている少女は転校先の中学の職員室前で、待ちながら考える。
半年近く、GBNに行っていない。
そもそも忙しくて、顔を出せていない状況だったからフォースからも除籍して貰ったし問題は無いだろう。
そろそろ戻りたいとも思う。
(あー……でも個人ランクはガタ落ちだろうなぁ。随時更新されるし、私は今フリーだし)
やってなければ当然のようにランクは落ちるし、腕も鈍る。
半年近くとはいえ、GBNに戻りたい。
でもその前に、転校という大きな出来事があるわけで。
臨海のとある中学。
そこに彼女……ヨナ・シルビアは転校してきた。
海外生まれで、この度日本に移り住む事になった。
小さい頃はごく普通の少女だった。
だが近年、あるガンダムの作品が発表されてから彼女は大きな個性が出来た。
ガンダムNT。そのヒロイン、リタ・ベルナルにそっくりという他人のそら似。
それまでは良く居る少女だったが、ナラティブが発表されてからはリタと間違われる事が多くなった。
しかもナラティブの主人公の名前もヨナらしい。
偶然にしても重なりすぎた。尚ナラティブを見ても思ったことは、ゾルタンの言うことに宇宙世紀の皮肉を予言しているようにしか見えずに同情した。
ヨナの好きなガンダム作品はシルエットフォーミュラF91。
言うて知名度低くて大抵何それ? と言われるマイナー作品である。
F90が徐々に有名になるのでその内これも広まって欲しいと思う。
担任の教師が出て来た。
案内されるので、ついて行く。
よくある学校。よくある光景。
それでも緊張してしまう。
慣れない異国の地。
此処はかのGBNの発祥の地、日本。
海外生まれでずっと過ごしてきた彼女、ヨナ。
一応日本語は完璧なハズだ。
時々わからない言葉が出るけど。
教室に入る。担任が転校生を来たという。
隣でガチガチに緊張するヨナは自己紹介を促される。
「ヨナ・シルビアです。よろしくお願いします」
お辞儀をして、丁寧に。初対面の印象は良くする。
じゃないと孤立する。異国で孤立だけは嫌だ。
クラスメイト達は見た限り悪くない反応だった。
上々かな、と内心ホッとする。
「シルビアは……そうだな。ミカミの席の隣に行ってくれ」
担任がヨナに言うがミカミ?
該当者って誰だと困惑すると手を上げている少年が一人。
「シルビアさん! 此処だよ、此処!」
溌剌とした声で呼ぶ。
彼がミカミというクラスメイトか。
担任の雑な対応に呆れつつ、席の間を歩いて向かう。
空席が一つ。これが、ヨナの席。
「よろしくね。俺、ミカミ・リク」
そう言う笑って言う隣の少年、ミカミ・リク。
ヨナは人柄の良さそうなクラスメイトに安堵して返答する。
「うん、よろしく」
初対面で優しい人に出会えて良かった。
こうして、転校生ヨナは中学に転校した。
その後授業を終えて休み時間にヨナに寄ってくるクラスメイト。
興味津々でプロフィールを聞かれる。
困った。こう言うの、想定していなかった。
何を言えば良い? 好きなモノ?
「ええと、私……その。GBNって言うゲームが好きで」
そう言うと流行りのGBNやってるらしいとクラスメイトは盛り上がる。
不意に困っているだろうと割って入る女子がいた。
「はいはい、そこまで。シルビアさんが困ってるでしょ」
周りの剣幕に戸惑うヨナに助け船を出す、活発な雰囲気の少女。
「大丈夫? ゴメンね、皆海外の転校生珍しいから。私、ヤシロ・モモカ。よろしくね!」
ハキハキと喋る元気なクラスメイト。
握手で応じるヨナ。この人もいい人だ。
どうやらクラスメイトからは歓迎されている、と見ていい。
「シルビアさんもGBNやってるの? 奇遇だね、僕達もなんだ!」
で、散っていく中話題に乗っかって話しかけるこのメガネの男子は誰?
周りにフォローしていたリクが慌てて紹介する。
友人のヒダカ・ユキオ。
ユッキーというあだ名で呼ぶリク。
「凄いね、シルビアさんナラティブのリタそっくり!」
このネタ言うと言うことは、ガンダム知ってる人だ。
モモカに何の事かサッパリの様子だが、苦笑してヨナは言う。
「ついでに名前も主人公と一緒。別にNTでも無いし鳥になりたいとか言わないよ」
「ヨナ……ヨナ・バシュタ! そうだよ、同じだ! まあリアルで言ってたら怖いよねー」
「現実で鳥になるなら翼を授けるエナドリで十分」
「美味しいのあれ?」
「美味しくないね」
割りと直ぐに意気投合した。
ガンダム知ってる人なら仲良く出来そう。
「ユッキー、ナラティブって?」
リクが聞いてくる。
ヨナが説明する。劇場版で公開されたユニコーンの続編。
事故って乙った幼馴染み系ガンダムを追っかける器の失敗作と不幸の塊みたいな主人公の小規模な戦い。
オカルト極めたユニコーンの後始末とでも言えば良いか。
「辛口だねシルビアさん」
「ゾルタンのセリフが刺さりすぎてて……。後先に結局救い無いし宇宙世紀」
「分かるよ。アムロから始まった宇宙世紀って最後まで結局NTは救われないし」
ヨナの評価は面白かったが、ゾルタンの指摘通りこれからも宇宙世紀の歴史は残酷で救いが無い。
そう思うとユキオはサムズアップして共感する。
「俺も見ようかな、ナラティブ」
「ユニコーン知らないとちんぷんかんぷんだよ?」
リクがそう呟くが、ナラティブ見るなら履修は必須。
ユニコーン全部見てこいアニメ版。大凡丸一日食うから。
そう言うと時間が無いとリクも苦い顔で言う。
聞けば、リクも最近GBNを始めたらしい。
「家にあるの? 筐体」
「ううん、知り合いの模型店でやろうと思う。そもそも俺、GBNに使うガンプラ作ったこと無いから。ガンプラ自体はよく素組みするんだけど。それに親から許可貰っても時間に制限あるし」
「そうなんだ。私と逆だね」
モモカが自分の席に戻っていくのを見送りながら言うヨナ。
ヨナは逆。
両親は余所のゲームの関係の仕事をしている。
それで多忙なために現在ヨナは一人暮らしだ。
アパートを借りて、家庭用筐体でそろそろGBNに戻ろうと思う。
リクはガンプラ作成も素人らしい。
「私もガンプラ作れないからなぁ……」
絶望的に手先が不器用で素組みですら壊すヨナは、両親から既製品でも使えと言われてツテで組んで貰った既製品を沢山自宅にある。
それを聞いたユキオが、ちょっと待ってと言う。
驚いたような顔で。
「ねえ、シルビアさん……。もしかして、GBNでリタ・ベルナルって名前で活動してた?」
「あ、知ってるんだ。そうだよ。それが私」
GBNをやっているダイバーならヨナを知るのは当然。
肯定すると、ユキオのメガネがずり落ちる。
「嘘でしょ!? まさか、シルビアさんが『コンパス』のオールラウンダー!?」
「懐かしいねー。皆元気にしてるかな」
仰天のユキオがリクに説明する。ヨナの正体。
「ん? どういう事ユッキー?」
「リク、シルビアさんはGBNの上位ハイランカーだよ! 有名な強豪フォース『コンパス』って言う所の所属だったダイバー! 個人ランク31位の超強い人!」
「ここ半年近く行ってないから除籍してる。今フリーだよ」
ヨナはケラケラ笑って説明した。
ユキオの驚愕もよく分かる。
「引退の噂は聞いてたけど……そっかー。まさか、外国の人だったんだ。しかも同年代だったのかぁ」
「ええと、ユキオ君で良いかな。今でもコンパスは健在?」
まさかあのコンパスが解散するとも思えないので、聞くと渋い表情で語るユキオ。
「うん。最近は……何か、無作為にマスダイバー狩ってるって聞くけど」
「……だろうと思った。ホント、何やってんのガレムソンェ……」
マスダイバー。ブレイクデカールという非公式のチートを使うダイバーの事だ。
多大なバグを引き起こすので、認められない違反行為。
なのに運営は取り締まる事をせず、放置している。
新規の入らないコンテンツは衰退する。
民度の悪いGBNと思われたくないと前々からコンパスのリーダー、バズ・ガレムソンが言っていたが本当に実行していたか。
「マスダイバー、まだ居るんだ」
「居るね。凄い勢いでコンパスがプレイヤーキラーになって、そこら中で情報収集して、特定して攻撃してるみたい。後手でも無理矢理見つけて罰するのがコンパスの方針だって公言してるよ」
「ユッキー、ゴメン。専門用語わかんない」
リクが置いてけぼりにされて聞くが。
ヨナが言う。初心者は知らなくて良い。
マスダイバーなどGBNの恥だ。
聞くだけで楽しめなくなる。
折角の新規のワクワクをぶっ壊すので。
駆除されて当然の違反者に、鉄槌を下すのに理由は要らない。
「彼ならやりかねると思ってたけど、案の定居ない間にやってるんだ。有言実行だからなぁ、ガレムソン……」
今夜ぐらいに早速GBNに戻って事情を聞いてくるか。
「ええと、リク君……で良いかな。学校の帰りとか休日に外出してやるの?」
「リクで良いよ、シルビアさん。俺はその予定。うちに筐体は無いから。あとナナミお姉さんも居るから知り合いのお店の方が安心するんだ」
「いいね、知り合いがいるの。今までの私の周り、大人ばっかりで窮屈だったんだ。羨ましいかも」
ヨナは基本的に自宅でGBNを長時間やっている。
当時、両親含めて周囲はGBNのダイバーは大人だけで、倫理観は確りしている。
だからこそマスダイバーを嫌悪するわけだが。
「良ければ、何時やるか教えて。私も一緒に行きたいから」
「いいの!? 復帰勢って言ってもシルビアさん、ハイランカーでしょ? 初心者とかエンジョイ勢だよ、リクも僕も」
ユキオが更なる仰天に問う。
復帰勢だが世界上位のダイバーが近くに居るのだ。
そりゃ驚くだろう。
「うーん……コンパスがもう対策に動いている以上、私が戻っても喜んでくれるだろうけど、私にその気は無いから。マスダイバーの相手は嫌だしね」
「じゃあ、純粋に一緒に遊ぼうって事?」
「うん。二人が迷惑で無いなら」
折角の繋がり。出来るなら知り合いとやってみたい。
そう言うとリクは大歓迎だと言った。
ユキオも恐れ多くもハイランカーが一緒という事態に若干ビビるがオッケーをくれた。
クラスメイトとして、GBNに行こうと言っている。
それが迷惑なら引っ込むが。
「全然良いよ! 俺も全く知らない世界だから、一緒に行こうよシルビアさん!」
「ありがとう、リク君」
本当に良い人だった。笑顔で歓迎してくれた。
この日から始まる、ヨナのビルドダイバーズ。
同級生や嘗ての仲間と共に行くGBN。
そこで出会う、二人の不思議な少女達。
物語は、動き出した。