後日、ある日の放課後。
馴染みの模型店に行った三人は店員のお姉さん、ナナセ・ナナミという人物に会っていた。
今日からリクがGBNに本格的に始める。
が、案の定親の時間制限で二時間くらいしか出来ないらしい。
「勉強も頑張るって条件で許して貰ったからね」
「私は家でも出来るから、外でやるのは初めてかなぁ」
などと言いながら、専用の部屋に向かう。
ユキオも楽しめればそれでいいという。
まぁ、初心者に危険なGBNでもなかろう。
筐体に入って、諸々準備する。
ヨナは持ってきたガンプラは秘密にしている。
GBNでのお楽しみ、ということで。
早速、GBNにログインした。
この瞬間だけは、いつも慣れない。
電脳空間に飛び込む瞬間だけは。
目を開けると、GBNのログイン時に入るエントランスにいた。
様々なアバターが行き来する往来で、待ち合わせしているがアバターの外見聞いてない。
しまった、とヨナはリタとなり失敗したと思う。
GBNではアバターは多岐に渡るために、名前と外見聞いてないと一緒にやっても迷子になる。
現にリタもメニュー画面を開いて確認する。
……前回はフォースに会いに行っていたから無視していたが、ランクがガタ落ちしていた。
個人ランクは圏外、ダイバーランクはA。
半年ぐらいでは流石にダイバーランクは格落ちしないか。
これでも半年前は個人ランク31位。自慢では無いがワールドクラスだ。
フォースも除籍されていただけで頂点の方から落ちたとは言えこの程度で済んでいるなら御の字か。
(あー……見事に落ちたなぁ)
ランクこそAだが、参ったことにリアル優先のせいで転げ落ちる感覚。
腐っても元ハイランカー。
腕も鈍っていなければ良いが。
「ええと……もしかして、リタさん?」
恐る恐る、声をかける少年の声。
そこには職人風の格好の、メガネをかけたアバターがいた。
「んん? どちら様?」
このアバター誰だ。リタは有名なので、アバターで名を知られる事が多い。
何せ宇宙世紀の連邦軍の軍服にリタ・ベルナルの容姿である。見ただけで分かる。
「ほら、一緒にGBN行ってるでしょ?」
敢えて本名をぼかして言う少年アバター。
もしかして。
「君、アバターの名前は?」
「ユッキーだけど……」
「あぁ、そっか。ごめんごめん、わかんなかった」
ユキオだった。
ユッキーというらしい。まんまで良かった。
「GBN内部ならリタで良いから。早速、フレンド登録しよ」
「うん、ありがとう」
メニュー画面を呼びだしてフレンド交換。
すると、メガネがずり落ちるユッキー。
「凄い……。やっぱりリタはハイランカーだったんだ。ダイバーランクAって……」
「フレンドのプロフィール見れば大体分かるよ」
フレンドのプロフィールをこっちも見る。
……確かにエンジョイ勢で、ダイバーランクも低い。
そこそこやってるにしては、戦績も目立った称号も無し。
対して、リタは。
「ひええ……やっぱり個人ランク上位は桁違いだ……。何この戦績と称号の数……。フォースの最終称号まで持ってるの凄すぎる……」
戦慄するユッキー。
そこには数多くの称号と戦績。
過去の大会の優勝経歴などがズラリと並ぶ。
しかも所属していた経歴はコンパス。
積極的に大会や交流を持ち、多数のダイバーがいるフォース。
過去に使用するガンプラの項目があった。
怖い物見たさで見たユッキー、絶句。
とんでもない数の既製品が並んでいる。
どれもこれも桁が違う。上級者だってこんなプレイ出来ないだろう。
自分専用のガンプラを使わず、既製品のみでここまで来た。
つまり技量だけで、のし上がってフォースに加入したと思う。
あらゆるガンプラを網羅する腕前で。
好き嫌いも無さそうだし、この数を保有するスペースは家にあるのだろうか。
「うーん……エンジョイ勢って言うけど本当にそうだね。使ってるガンプラ……名前は、ジムⅢビームマスター? 宇宙世紀のジムⅢのマイナーチェンジかな」
リタもプロフィールを見ながら言う。
プロフィールに映る名前と外見はジムⅢのオレンジ色の改造機。
一見すると地味だが、よく見るとそこかしこに堅実な改良がされている。
センサー類の補強やバックパックの変更など。
原型を壊さない、まさにマイナーチェンジ。
専用機というには少し確実な改造。
「リタは……素組みのキャリバーン? これ、最初にエスカッシャンついてこなかった?」
リタのガンプラはガンダム・キャリバーン。
既製品の素組みだが、まあ原作通りというか設定通り、癖が非常に強くて無改造だととてもじゃないが扱えない、だからキャリバーンはマイルドに基本的に改造される。
リタはケラケラ笑う。
エスカッシャンは邪魔だからつけてない。
既製品のキャリバーンは最終決戦だと主武装のバリアブルロッドライフルを失うので、それが嫌で通常装備。
かと言ってエスカッシャンを装備すると最終決戦の原作通りにならない、既製品の組み合わせ。
あくまでキャリバーンは、通常装備だからいい。
「これ、姿勢制御とかどうなってんの……? 重心ズレてるよね?」
「クアドラ・スラスターがメインでキャリバーンのスラスターも含めると、俗に言う変態機動も出来るよ。ユッキーの言うとおり、右に大きく重心ブレるから、言うこと聞かないじゃじゃ馬だね。珍しいんだよ、キャリバーンの素組み」
「だろうね!?」
朗らかに笑っているが原作のスレッタが息が上がって必死こいてやっていた機動をリタは普通に熟せるらしい。
怖すぎる。そもそもキャリバーンが原作通りピーキー過ぎて水星二期の決戦時のガンダムなのに扱いにくく、だったら改修型エアリアルの方が強いし優しいし人気が高い。
逆に素組みキャリバーンを手足のように扱えるリタがおかしいだけだ。
そうやって話していると、声を掛けてくるアバターが一人。
青の服装に冒険者みたいな見た目。
顔がリタと同じでリアルとダブっている。
さてはアバター作成時に楽するために地顔をスキャニングしたか。そうするとアバター作成が楽になるから。
「二人とも、ゴメン! 遅くなっちゃった」
「リク……で、合ってるよね?」
「うん! 設定素っ飛ばしてスキャニングしたから!」
案の定だった。ユッキーは怪訝そうな表情から一点、ガクッと脱力して反応する。
「あはは。まあ、普通の初心者はアバター作成面倒だからね。よくあることだよ」
リタが笑ってそう言うモノだと言っておく。
尚、アバター変更は課金なので止めておけと言っておく。
「ええと、こっちがもしかしてシル……じゃなくて、リタさん?」
「いや、本名出てるって。リタで良いから、リク君」
「じゃあ俺もリクで良いよ」
リクと合流。さっさとフレンドの交換をしておく。
リクもプロフィールを見て度肝を抜く。
「凄い!! これがワールドクラス……! チャンピオンのいる世界の記録かぁ……!」
「元、だけどね。ブランクあるからアテにされても困るよ」
リクのガンプラも見ておく。
ダブルオーダイバーというらしい。
多少ミキシングした、ダブルオーの改造機。
癖は無さそうだが、またシンプルな機体である。
「うわぁ、このガンプラ格好いい! デッカいライフル!」
「バリアブルロッドライフルって言うんだよ。これ無くなったらキャリバーンの機能ほぼ死ぬから、分かりやすい弱点だね」
スラスターと主武装の紛失はキャリバーンにとって致命傷で、残ったのは頭部ビームバルカンとサーベルだけ。そもそもキャリバーンはシールド持ってない。
回避して行くしかない、何処までもピーキーなガンプラ。
合流するとエントランスを散策する。
今日の目的はGBNに慣れること。
試しにチュートリアルもやろうと言う流れになる。
向かう先はミッションカウンター。
「これ、何処の番組!? 俺こういう大きい武器憧れるんだよね!」
「水星の魔女二期の決戦時のガンダム。取り回し最悪だよ? 小回り利かないから重心ブレるし、癖強いし」
「リク、そもそも水星の魔女知らないでしょ?」
などと話していると……。
「あら、やけに盛り上がってハイテンションね坊や達。もしかしてGBN初心者さんかしら?」
突然知らない人が声を掛けてきた。
ムキムキの筋肉を見せつけるファッションの、奇抜なアバターの男性。なのに女性口調。
いきなりの登場にドン引きするリクとユッキー。
怪しい奴に絡まれた。そう感じている。
リタはこの奇抜なファッションのアバターを知っている。
このサーバーでは有名な人物。
二人に大丈夫と伝える。怪しい人物では無い有名人。
「あら、お姉さんを知っているの? あなた……そのアバター、ナラティブのリタ・ベルナル? このアバター自体はよく居るけど連邦軍の軍服って、まさか……」
「はい。予想通り、元コンパスのリタ・ベルナルです。初めまして、アダムの林檎の代表さん」
敬語で言うと、驚く男性。
リタが知っている、GBNの良心的なダイバーの一人。
「まぁ! 本当に帰ってきたのね、コンパスのオールラウンダー! 会えて光栄よ」
「そちらこそ。相変わらず、ご新規の案内お疲れさまです。いつも治安維持をありがとうございます」
リタが丁寧にお辞儀すると、気にするなと上品に笑う男性。
誰か二人が聞くと、本人が名乗った。
「初めまして。お姉さんはマギー。あなた達みたいな初心者さんにガイドを務めている、単なるお節介って奴かしら」
「大丈夫だよ二人とも。この人、私より強いハイランカーだから」
念の為、メニュー画面を開いてプロフィールを見せる男性。
個人ランク23位。リタよりも上のバカ強い人。
絶句する二人にマギーは少しは信用できるかと笑う。
「す、凄い……! マギーさん、こんなハイレベルなダイバーなんですか!?」
「何だか大袈裟ねぇ。でもこういうの、初心者さんには態度で示さないといけないのもハイランカーの務めなのよね」
リクが食いついた。リタよりも上がこんな親切に案内役をやっている。
マギーも苦笑しながら言う。
何かの縁だから、ミッションカウンターとか案内しようと先導する。
「リタ、さっき言ったアダムの林檎ってなに?」
道中リクが問うと、本人が語る。
それなりに規模も知名度もある強豪フォース。
そこの人。多分一番フォースで優しい。
「流石にコンパスには負けるけどね」
「それはコンパスはフォース最大手だからですよ。それに、今活発に活動する理由をご存じだと思いますけど?」
暗にコンパスがマスダイバーを駆除していると言うと、呆れたように答える。
必要悪かもしれないが、アレは行き過ぎ。
過剰とも言える排斥は人を減らすが、違反行為を見過ごす訳にもいかない。
マスダイバー駆逐は良いことだろうが、過激派のようなやり方はどうかと思う。
少なくとも、ここの二人のような初心者さんが憧れる上位フォースの振る舞いかどうかという問題。
「良いんですよ。コンパスは嫌われ役で。それでGBNが平穏になるなら。リーダーの元、皆承知の上ですので」
「まるでCBみたいなスタンスね。必要悪……か。なんでコンパスはあんなに躍起になるのかしら」
「そこは私も分かりませんが、誰かがやる役目です。コンパスは、その役目を担うだけのこと、のようですよ」
「……一応、上位フォースの自覚もあって全体の治安の為よね。分かってはいるんだけど、コンパスに感情論はダメって事ね……」
ハイランカーのマギーもぼやく、コンパスの方針。
苦く笑うリタは一定の理解だけで良いと告げる。
それが一人でも多くの被害者を減らすなら。
必要悪を演じよう。それが運営の託した役割だから。
「コンパス?」
リクがミッションカウンターで任務を選びながら問う。
「私の元々のいたフォース。今はちょっと忙しいのと揉め事引き受けてる、面倒の後始末かな」
そう説明する。
リクがミッションを選ぶ。チュートリアル。
先ずは基本操作を覚えようというミッション。
マギーは観戦してるから、行って来ると良いと応援してくれた。
その後任務を請け負い、メニュー画面からガンプラの格納庫に移動。
メンテも出来ると説明するマギーに言われて、ガンプラにメニュー画面から変更して乗り込む。
当然、お決まりの出撃もバッチリ再現されている。
『ユッキー、ジムⅢビームマスター、行きます!』
ユッキーがノリノリで出撃していく。
続いて、ワクワクした表情のリク。
『リク、ダブルオーダイバー……出ます!』
楽しいだろうな、と通信越しに分かる。
GBNの醍醐味だ。自分のガンプラで自由に動ける。
さて、とリタも操縦席で立って動かす。
久々の準備運動にこんなものを元ハイランカーが挑むのもアレだが。
気にしないで行こう。
「リタ・ベルナル。キャリバーン……出撃します」
魔女が箒に乗るように。
バリアブルロッドライフルのスラスターを吹かして、彼女も広大なフィールドに出て行った。
……ここで出会う、二人の少女の事をまだ誰も知らない。
「……ここは、何処?」
「分からないわよ、あたしだって」
「あなたは……誰?」
「そういうあんたも誰よ」
「私は……サラ」
「サラ? そう。あたしはティフォン」
「ティフォン……?」
「で、大体あたしら何なのかしらね?」
「さぁ……?」