チュートリアルの現場に到着する。
リク達はNPCの相手をするらしい。
森林のフィールドに立つと、ミッションスタートという号令が鳴る。
で、出現するNPCならぬNPD。リーオーだった。
銃口を向けて撃ってくるが棒立ち。
慣れない二人は楽しそうに、迎撃に移る。
ダブルオーダイバーが回避しながらリーオーに突撃。
ジムⅢビームマスターがライフルで援護しながら後方支援。
やはりチュートリアルだけあって、棒立ちで撃っているだけの的。
呆気なく三体のリーオーはダブルオーダイバーに切り刻まれて、ビームマスターに射貫かれて撃破。
見ていたリタは最初はこんなものだと言って眺めていた。
『リーオーかぁ……Wの量産機って基本性能高いんだよね本来は。サーペントが良い例だし』
「でもこれチュートリアルの的だからね。リーオーでもカスタム次第じゃ普通に上位ランカーも使ってるよ」
ユッキーが撃破して倒れるリーオーに言う。
リタがこれが基本操作の攻撃と回避、防御の操作だと言っておく。
棒立ちだから当たるけど、普通のバトルは相手も動くし、ガンプラの性能が出る。
駆け出しの二人にはちょっとずつ慣れていけば良い。
次のステップ。普通に戦うリーオーとの戦闘。
リタは見物し、マギーと共に見守る。
再度出現するリーオー達は今度は小隊で現れる。
数が多い。六体もいた。
和気藹々とリク達はチュートリアルということで怯まず挑んでいくが……。
『あら……? チュートリアルの小隊は四体のハズよ? 何で増えてるのかしら?』
「仕様変更かな?」
マギーが違和感に気付く。
小隊の数が多い。それに。
「あれ、何か……強くない?」
NPDのリーオーの性能が上がっている。
三体で前衛、二体が中衛、一体が後衛とちゃんと小隊の機能が果たされている。
リクの迎撃に三体で取り囲み、それぞれ左肩のシールドからビームサーベルを取り出して斬りかかる。
よく見たらリーオーの立ち位置によって装備が違う。
前衛は左肩のシールド、右手にサーベル。
リアスカートに装備したマシンガン。
中衛は右肩にドーバーガン、左肩のシールド。
後衛は両肩にドーバーガンの二丁。
バランスがキッチリ取れている。
『うわ、強い……!? これが小隊って奴か!』
『リク、違う! おかしい! チュートリアルの小隊はこんなに性能良くないってば!? これじゃフォース用の小隊だよ!』
ユッキーも困惑する。明らかにチュートリアルの性能じゃない、集団戦のNPD。
こっちは二人で、向こうは六人。
どうみても変だ。初見殺しになっている。
慌てて後退するダブルオーダイバー。
追撃に前衛がマシンガンに持ち替えて撃ってくる。
中衛も後衛も実弾のドーバーガンで狙っていた。
回避するも弾幕が分厚く、スラスターに被弾。
蹌踉けて動けない所に容赦なく実体弾がぶち込まれる。
『リタちゃん!』
「うん」
マギーが加勢しろというので、キャリバーンが突然動き出す。
バリアブルロッドライフルのスラスターを吹かして飛ぶ。
推進力ならかなりのモノで、真っ直ぐ突っこみ蹌踉けるダブルオーダイバーを空いた左腕で手を伸ばす。
「リク、掴んで!」
『あっ……了解!』
思わず怯んでいたダブルオーダイバーが腕を掴む。
マシンガンの被弾を気にしていられない。
直ぐさまクアドラ・スラスターを展開、急加速して飛翔。
真上に舞い上がり、バズーカ並みの威力のドーバーガンを回避する。
そのまま射程から離脱。ユッキーにも退くようにリタが言う。
この数程度、リタならキャリバーンで殲滅できるが、それでは練習にならない。
チュートリアルである以上、撃墜はされても問題ないがいきなり難易度が爆上がりしていた。
『大丈夫!?』
マギーが観戦しながら問う。
安全圏まで撤退した三人は、平気と返答しつつも困惑していた。
『何でいきなりあんなに出て来たんだろう……?』
『なんか、慣れてる人用の編成だった気がする……』
案の定二人もそう思うか。
リタもそう思う。NPDにしては初級フォース用の編成だった。
チュートリアルは最悪一人で挑むこともある。
それに対して適切な装備と数の小隊は明らかに過剰。
何が起きている?
「マギーさん、私が居ない間にメンテで仕様変更とかありましたか?」
半年ぶりのGBNでもいきなりこんな理不尽仕様とは思えない。
念の為聞くと、そんな話は聞いていないとマギーも答えた。
まさかと思う。確認のため、同じチュートリアルの最中のミッションで救難信号を出しているダイバーが居ないかメニュー画面から見てみる。
……いた。目を疑うリタ。
そこそこ、似たような状況の初心者がやられて救難信号を出している。
当然、チュートリアルは基本操作を覚える、誰でもクリアできる前提のミッションだ。
そこで救難信号を出しても、クリアできる前提だから誰も助けには来ない。
なのにそれなりに出ている。
「これって……」
『リタちゃん、余所もあの小隊にやられているダイバーが居る感じ?』
「はい。結構な数の初心者が救難信号出してます」
確認する為に適当にその辺のダイバーに繋ぐ。
『あぁ、良かった! 誰か繋がった……!』
万事休すの相手が画面に映る。
焦ったようにヘルプを言う。
その前に事情を聞いた。
やっぱり単独でやってたら小隊のステップで撃破されたらしい。
悪いが、助けには行けないからリタイアしておけと言っておく。
こっちも同じステップで明らかにバランスが取れない相手が出ている。
このチュートリアル、いきなり跳ね上がった難易度で倒れても仕方ない。
相手がチュートリアルでリタイアするのか言うが、リタが理詰めで説明すると異様さを理解して辞めると言う。
こっちはまだ良い。撤退できたし、ミッション継続中と言えども安全圏。
追っ手は来ない。
救難信号がそこら中で出ている。
二人に少し待てと言って、リタは動く。
異常の確認。これはどう客観的に見ても奇妙だ。
メニュー画面から直通でコンパスの窓口に連絡。
フォースの知り合いのダイバーが通信に出た。
『あら、リタさん。こんにちは。今日はどうしましたか?』
オペレーターのアバターの相手に直入に内容を伝える。
人手が余っているなら、チュートリアルミッションの救難信号に応援を要請する。
結構な数の初心者が小隊のステップで負けて混乱している。
此方でも見た。バランスがおかしい。
リタイアも最悪勧めるが、初心者の出鼻を挫くような状態では困る。
初心者の補助にコンパスの介入を求める。
『承知しました。チュートリアルミッションのフィールドにダイバーを随時派遣します』
オペレーターがそう言うと、情報を伝達して直ぐに待機中のダイバーが動くコンパス。
これで取りあえず立ち往生の初心者はどうにか出来る。
『コンパスに増援要請? いいの、リタちゃん?』
マギーが傍観していたがそんな対処で良いのか聞く。
「いいんですよ。何も違反者の駆逐だけがコンパスの役割でもないので」
古巣を頼るのに、リタは躊躇いは無い。
初心者の救助も腐っても上位フォースの役目だ。
数分もすると、チュートリアルミッションに似つかわしくないランカーが続々と参戦する。
『うわ、何か急にエリアに人増えた!?』
『……あれはもしかして。多分コンパスのダイバーだよリク。リタが支援要請したから、救援に来たんだ』
ユッキーが一連の動きを見ていて、驚くリクに説明する。
リタがコンパスに支援要請したので追い詰められている初心者に助太刀に来た。
事実、リタに引っ切り無しにコンパスのダイバーから通信が入る。
それを片っ端から対応していくリタ。
実際に見てみたら確かに初心者がNPDに躓く状況に、こう言うときにもコンパスは遠慮無く助けに入る。
『流石はコンパスの一員……。人脈が凄いわね……』
マギーも舌を巻く。最大手のフォースに通達し、さっさとチュートリアルミッションの難関を突破するリタ。
見知らぬ初心者ですらリタは見捨てず、使えるモノは使ってクリアできるようにする。
「ふぅ……。ゴメン二人とも、お待たせ。現状、立ち往生の初心者はこれで大体何とか出来ると思う」
全部捌いたリタがエリアの森林フィールドに次々流れ込むランカーを見ながら言う。
これで少なくとも、今現在救難信号を出しているダイバーは解決した。
事実、今出ていた周囲の救難信号の全てが撤回されている。
『リタって優しいんだね』
見知らぬダイバーでも助ける姿勢に、リクは感動したように言うが、リタもこそばゆい気分になる。
バグみたいな状態だから、対処しただけだ。
これは運営にバランスがおかしいと連絡した方が良いと思ったからコンパスを使った。
それだけのこと。
不意に、救難信号の画面で再びアラームが鳴った。
同じく救難信号。でも……随分と遠方だった。
エリア外。マップでは雪山エリア。
『助けて……誰か……』
『あんた、これあたしが見つけたんだから少しは感謝しなさいよ! って言うか救難信号? ってこれで良いのよ……ね?』
女の子の声が二人紛れ込む。
何だろうか?
「ん? 雪山? 何でそんな辺鄙な場所に?」
リタが理解できずに返答しようとするが。
その前に救難信号はそれ以降途切れてしまう。
でも座標は表示されている。
『リク、今の聞いた?』
『ユッキーも? 助けてって聞こえたよね』
二人も受信していたか。
何だろう。初心者がフリーで出かけて遭難でもしたか。
そんなリアルの登山の遭難事故じゃあるまいに。
リタも二人も行くというので、ミッションは一時中断して、エリアの外に向かう。
フィールドを駆け抜けて、雪山エリアに到達。
座標が示す場所を探していくと……。
二人の女の子が、呆然と突っ立っていた。
機体のカメラで拡大する。
一人はライトブルーのロングヘアに、白と淡い紫のドレスのアバター。
一人は赤黒いロングヘア、漆黒の長袖ワンピースのアバター。
到着を気付いて見たのか、黒い女の子のほうがこっちに向かって大きく手を振っている。
「迷子?」
『GBNでもいるの?』
『僕は全然知らないけど……そうじゃない?』
GBNで迷子とは珍しい。どんな機械音痴だろうか。
三人は駆け寄って着地すると機体からメニュー画面で降りる。
二人の少女はそれぞれ、こっちを見て安堵したようにする黒い少女、ボーッとしている白い少女と反応が違う。
「大丈夫? 救難信号から来たけど」
リタが声を掛けると、黒い少女は怒ったように言う。
「救難信号? あ、そうね。確かに出したわよ。でも途中でこいつが弄って切れちゃったの」
「ごめんなさい……」
謝る白い少女は、俯いてしまう。
何が起きたのか、リタが問うと。
「それが分かれば苦労しないわ。あたしもこっちも、気付いたらここに居たの」
「は?」
……何を言っている?
気付いたらここに居た?
聞き返すリタに、怒る少女はだからわからないと繰り返す。
自分でもよくわからない。混乱している。
そう必死に言う。
「ねえ、落ち着いて先ずプロフィール見せて」
取りあえず立ち往生らしい二人にリタが言うと。
「プロフィール……?」
「何それ」
二人してこれである。
唖然とするリクとユッキー。
どういう事だ。GBNの基本操作も知らないのか。
明らかに妙なアバター。
リアルでご年配の方でもやっているんだろうか。
「ええと……メニュー画面は分かる?」
頭痛のするリタが実際にメニュー画面を開く。
首を傾げる白い少女。対して、黒い少女は。
「……。うん、うん。成る程、こういう事ね」
何か目を閉じてブツブツ言いつつ、頷いていた。
黒い少女はリタを真似てメニュー画面を出した。
「あんたもあたしを真似しなさい。さっき偶然出来た奴よ」
「えと……こう?」
オロオロしながら、真似てみるようにやってメニュー画面を表示する。
機械音痴、にしては様子が変だ。
そもそも単語すら理解できていないように見える。
「ここからプロフィールを表示できるよ」
「……。……。うん、こうね」
一々、頷いて黒い少女は真似る。
リタの言ったことを処理するように。
「はい、これで良いんでしょ?」
そう言うとプロフィールをメニュー画面を反転させて見せる。
白い少女にも黒い少女が言って彼女も続ける。
名前が表示されている。
「ティフォン……?」
「サラ?」
黒い少女がティフォン、白い少女がサラ。
名前だけは分かるが……プロフィールがおかしい。
ダイバーランクの画面にノイズが走り、エラーと出ている。
使用するガンプラの部分もノイズが縦横無尽にヒビ割れて、エラー。
つまりプロフィール自体がバグっている。
「……ねえ。あなた達、通信回線おかしくなってない? 思い切りバグってるよ」
「そうなの? 別に平気だけど」
「私も……」
平気らしい。
リタが頭を抱える。この状態ではGBNも楽しめまい。
一回ログアウトして初期化してこいとアドバイスする。
すると、黒い少女……ティフォンが、驚愕の言葉を口にする。
それは、にわかには信じがたい言葉だった。
「ログアウトってなに? あたしのメニュー画面にそんなの無いわよ?」
……と。