壊れた楽園からの少女達 作:名無しの投稿者
今日も変わらず、アビドス高等学校では借金に対する対策会議が続けられていた。参考にならない意見が色々飛び出し、結局今日地道にできることを1つずつやっていこうということで賞金首を捕まえたりといった地道な活動をやっていく。
(……ブラックマーケットのイベントがなくなったもんな……でも、これでいいんだよなこれで……)
「……おや?なんかあまり浮かない顔だねぇ、何か気になることでもあるのかな?」
「ん、ああ……」
そう思いつつも、少年の表情はあまり浮かなかった。それを見たホシノから声をかけられると、少年は浮かない表情のままホシノの方を見る。
「嵐の前の静けさ、っていうのかね。なんか嫌な予感がするんだよ」
「そうなんですか?」
「ああ……案外、こういうのは当たる傾向が強いんだよ。俺の経験上」
「経験上、ねぇ……もしかしたらあるのかもね」
実際は昨日の夜、アヤネからそろそろ仕掛けてくる可能性がある、と聞かされただけなのだが。とはいえ、いろんな悪夢の世界を垣間見たりして無駄に酷い環境ばかり経験された経緯や1人で一時期食べ物などを集めたりとかしていたこともあり、常人よりは勘が強く働くことも多い……という気はしていた。
「日雇いのバイトとか仕事なら俺もやってた奴はあるから紹介はできるが……1人が生活する分には困らないけど、借金をってなるとやっぱり話が変わってくるな……」
「し、仕方ありませんよ……借金をしている学園の方がきっと珍しいでしょうし……」
少年の申し訳なさそうな声にアヤネが慌ててフォローを入れる。先生も皆がワイワイと話をする様子を見ながら微笑みつつ、今日のお昼も柴関ラーメンに行こうか、などと呑気に考え始める。
「さて、と。それじゃあ今日は夕方からこの賞金首を倒しに行こうかな~?」
「ん、準備しておく」
「それまでは自由時間ですね」
そして今日も会議が終わり、自由な時間が生まれる。後輩達が思い思いに学園内で過ごす中、ホシノは用事があるらしく出て行く。昼には戻ると言っていたが、
(黒服の所か……そういや、黒服的には俺ん所のあれこれはどう見えるんだ?並行世界の人間が、なんていかにも飛びつきそうな内容な気がするけど……そもそも知らない可能性もあるが)
もし、原作通りならここから。そう少年が思っていたその時だった。窓の外から爆発音が響く。
「な、何!?」
「今のは……爆発?確か向こうは!」
「大将の店です!?」
「行こう!大将に何かがあったかも……!」
慌ててその正体を確かめるため、少年たちは急いで校舎を飛び出す。アヤネが残り、ホシノに連絡を取ろうとするが彼女とは連絡が取れないという状況の中、少年たちは急いで柴関ラーメンのあった店の場所へと向かうことにする。
(そういや、ここはそのまま起こるのか……一応銀行強盗はしてないはずなんだが……いや、確かそれ関係なくブラックマーケットの銀行にはいたんだっけ?便利屋68って……)
その途中、便利屋68は変わらないことに呆れながら。
□□□□
「……?あの子のこと、知ってるの?黒服」
少年達が慌てた様子で動き出している中。とある建物の室内でホシノは黒い靄のような顔をした謎のスーツの人物と会話をしていた。黒服と呼ばれたその人物は、どこか愉しそうな笑みを浮かべながら話を切り出していく。
「ええ、1年程前でしたか。ヘイマール自治区と呼ばれる彼のいる自治区にある呪いというものに興味が湧きましてね。幸い私の研究に協力してくれた人達もいたので悪夢の解明を行ったのですよ」
「……悪夢?」
「彼女達は解放されたかったのでしょう。あの地に居続けたところで精神的に疲弊するだけ、かといって外に出たところで悪夢に脅かされる日々は変わらないと。そこで、考案しました」
そこで黒服が切り出したのは、少年に関する話。ホシノは突如として明かされた悪夢や呪いという単語に内心首を傾げつつも、少年の背景自体には興味があるのか耳を傾けていく。
「当時のヘイマール自治区で、1人だけ精神的に安定していたのが彼でした。受け入れてしまったのか、慣れてしまったのか。或いはただタフなだけなのか。それを調べるために、彼に悪夢、呪いを全て押し付ける儀式をね」
「……悪夢を、押し付ける……?」
その言葉に、ホシノは絶句する。当時、他にもいた生徒達が皆精神的にやられる程の代物を、1人に押し付けるなど。少年に対する負担があまりに大きすぎる。そんなホシノの懸念は黒服も理解していたのだろう、クックックッ、と笑うと、
「その後、一時期彼を観察していましたが悪夢に苦しみ、普段は無気力にただその日の食べ物を採って生きるような日々。呪いの気配を察知したのか獣たちも自治区の奥に逃げ込むようになり、私も彼に接触したこともありましたが……あんまりにも余裕がなかったのでしょうね、認識すらされませんでした」
「ッ……」
「会話どころか認識すらしてくれない。そんな状態では悪夢を生み出す呪いについて調べることもできず、契約をすることも当然できず。かといってある程度観察しても進展らしい進展もなかったので諦めてしまいましたが……そんな彼が、こうやって劇的な回復をしてここにいる。一体、何があったのか?彼の心を再び再生させるに至ったのは何の要因があるのか?気にはなりませんか?」
そう言うと、ホシノの顔を見る。ホシノは黒服のその表情を前に嫌そうな表情を向けつつも考え込んでいたが、
「……それを気にしたところで私に何の得があるの?それとも何、私がこの契約を受ける代わりに彼を売れってこと?」
やがて溜息を吐きながらそう言う。それを聞いた黒服はある程度予想していたと言わんばかりに言う。
「違いますよ。ただ、知りたいだけです。無論ただとは言いませんがね。情報には相応の対価を差し出しますよ」
「……悪いけど、そこまで詳しいわけじゃない。多分そっちの方が詳しい……話はそれだけ?言っておくけど、契約の話も受けないから」
「クックックッ……そうですか。まあ、今は順調そうですが、ではいずれ、そちらの景気が悪くなったらまた会いましょう」
そして会話が終わり、ホシノは建物の中から出て行く。胸の奥にもやもやを抱えながら、学校に戻ろうとしたその時だった。
「……爆発?あっちの方にあるのは確か……」
遠くの方で大きな爆発が発生する。誰かが暴れているのだろうかと考え、やれやれと肩を竦めながら歩き始める。しかしすぐに、その方角に柴関ラーメンがあることを思い出して急いで走り出すのだった。
□□□□
「……なにこれ!?」
(ああ、やっぱり便利屋か……)
場所は変わり、柴関ラーメンの店だった残骸の前。そこには、呆然となった様子で現実に戻らないアル、必死に謝り倒してるハルカ、面白がって笑ってるムツキ、やれやれと肩を竦めているカヨコの四人の姿があった。
(銀行強盗がなくなったから覆面水着団に目を輝かせるとかそういうのがなくなって……でも銀行から融資は受けられないからそのまますごすごと戻って落ち込んでたがなんだかんだで立ち直ろうとしたアルの発言を曲解というか間に受けたハルカが爆発した……まあ、普通にありえるのか……?こんなところだけ元通りにならなくていいんだが……)
便利屋に怒りを向けるアビドスの生徒達。アヤネが残骸の中から這い出てきた柴大将を連れて避難し、残る面々が徐々に現実を受け入れ始めたアルと共に戦闘態勢を整え始める便利屋と相対し始めたその時。
「……何か来る、音?」
「っ、伏せて!!」
「伏せ……伏せろ!!」
カヨコの声が響く。その声を聞いてワンテンポ遅れて少年も声を張り上げると共に先生達もその場に伏せる。直後、
「……あれって」
「迫撃砲!?」
爆発が便利屋の周囲を襲う。少年と対策委員会の四人はその余波を感じつつ顔を上げると、そこには倒れ気絶した便利屋の姿があった。
「……今の砲撃、撃ったのは!?」
『あれは……ゲヘナの風紀委員会です!』
遠くの方を見ると、そこにいた黒い制服を着た少女達。ゲヘナの治安維持組織、風紀委員会。その中には、少年や先生も見覚えのあるチナツの姿もあった。
「……あれって、チナツ?」
チナツは先生の姿を見て少し罰が悪そうな表情を浮かべる。ゲヘナの風紀委員会は指名手配犯である便利屋68を捕まえに来たと言い、便利屋を引き渡すように要求するもアヤネ達は反発。ここはアビドス自治区であり、そこに他校の治安維持組織である風紀委員会が侵入し、武力行為を行使している、この行動は明確な武力侵攻に他ならないと。しかし、風紀委員会のナンバー2である天雨アコ行政官の連絡が入り、話をしたければアビドス生徒会を出せと言う。
(……ああ、そうだ。この時点だと対策委員会はまだ生徒会組織とは認められていない。だから、ここにいる四人は確かに非公認のサークル所属の人間も同然……だから文句あるなら一般の生徒じゃなくてちゃんと話できる立場ある人間呼んでこい、ってのはよーくわかる。実際、この状況だとその立場にいるのは副生徒会長の小鳥遊ホシノだけだからな)
アヤネ達はアコに対して自分達が生徒会組織だと反論してはいるが、組織の正当性を加味すればアコの言っている方が正しいのは間違いない。そう、アビドス廃校対策委員会は生徒会組織ではない、という点だけは。
(まあでもこの後なんやかんやあって確か便利屋と共闘してどうにかしてそこから再度話し合いにな……あれ?)
と、この後どうなったかをぼんやりと考え始めたところで少年は気付く。ここでもブラックマーケットでの一件がない影響がもしかしたら響くのではないかと。
(そもそも、原作と同じ理由で便利屋が落ち込んでたかどうかなんてこっちはわからないよな……?銀行強盗してないから覆面水着団見てないし。もしあの共闘もそれ込みで発生するものだった場合……今の便利屋とアビドスの関係ってアビドス襲ってきた上にラーメン屋爆破したゲヘナの集団とその自治区の学園なのか……いや共闘無理では?)
思わず、頬が引き攣る。こうなると、自分達だけで風紀委員会を相手取る可能性になるが、その場合便利屋はさっさと逃げ出すことだろう。先生の指揮があるとはいえ、もしかしたら万が一があるかもしれない。少年は急いで頭を回転させると、どうにか戦闘をしない方向性で解決しようと考える。
「……なあ、ゲヘナの行政官」
『……なんですか?あなたは』
「シャーレの部員だよ。なあ、あんたこいつらじゃ話になんないから生徒会呼んで来いって言ったよな」
『それが何か?話し合いをするならば当然の―――』
「ならこっちも言わせてもらうけど、そっちこそ話にならないんじゃないか?こっちの生徒会呼びつけるってんならそっちも同格の人間、
『なっ!?なんであんな奴ら……!』
少年の言葉に、アコが一瞬、目に見えて狼狽えたかのように声が歪む。その発言を聞き、シロコ達が困惑する中、少年は口元に笑みを浮かべつつ手応えを感じていた。
「……?どういうこと?パンデモ……えっと、それって?」
「ゲヘナの生徒会組織だよ。確かにアビドスは生徒数も少ないから、組織を呼ぶとしたら治安維持組織とか、そういうのすっ飛ばして生徒会に打診するしかないってのはその通りさ。けど、ゲヘナ内部じゃいい意味でも悪い意味でも組織間の上下関係なんてないかもしれないけど、ゲヘナの外は当然そうじゃない」
「そうなの?」
「……そうなのって先生は知ってなきゃいけないことじゃねえの?」
「あはは……ごめんごめん」
とはいえ、少年も転生者で原作知識があるからこそ知っている側面はある。もしも1から10までこの世界の人間だったらアビドスの生徒達よりも何も知らない、ということもあり得たのだから。とはいえ、シャーレに身を置く先生はさすがに知ってないといけないことだとは思うが。
「トリニティでいうなら風紀委員会は正義実現委員会だ。これは生徒会組織のティーパーティーと組織上の関係で言えば間違いなく下だ。他の学園で言うと百鬼夜行とかも当然そう、百花繚乱紛争調停委員会は陰陽部より下の組織だ。立場上はな……つまり、こいつらがやろうとしてるのは他の地域で言えばトリニティとかの一般生徒前にドンパチやって文句あるならティ―パーティ呼んで来いって暴論叩きつけてるも同然ってことだ」
「それ、とんでもないじゃない!」
「実際とんでもないぞ。ここだと出張れる連中がこれだけだからこんなことになってるけど、トリニティでおんなじことやってみろ、ここまで無礼働いておきながらどの口でティ―パーティ呼んでんだって正実がブチ切れて風紀委員会に襲い掛かるわ。で、そこんところどうなんだい?行政官様(頼むからここから逆上して突撃とかしないでくれよ……)」
とにかく、できるだけこちらが優位になるように交渉を進めようとする。こういう時になると思ったことを何でもすらすらと並べていく自分の口に感謝しながら、不安そうに通信機を見るチナツ達の反応を伺っていくのだった。