壊れた楽園からの少女達 作:名無しの投稿者
「な、何が起こってるの……?」
「わからん!……機材トラブルってわけじゃなさそうだが……」
「でも、距離を見るに奴らの砲撃部隊に何か被害が出たのは確実そうね」
「じゃあ、もうあれはないってこと?」
突然風紀委員会側で起こった異変。その仕掛け人はおそらくはユキノ達だという事は予想できるが、詳細が分からない以上は少年も知らんという体を取っていく。実際あくまで予想でしかないから嘘は言っていない。なお、当の仕掛け人の本人は、
(こういうのは……FOX2がやることが多かったな)
と考えながらも混乱しあたふたしている風紀委員達の隙を突いて武装を次々無力化しているのだが。そうとは知らないアコは、必死に頭を回転させる。
(これは、どういうことですか?この状況で偶然迫撃砲が使えなくなる?いやそんなことはあり得ない。なら、外敵!?とすると……っ、アビドスの副生徒会長!この場にいないのはこれを狙っての……!)
そして1つの答えを導き出す。それは見当違いではある、あるのだが彼女にユキノの存在に思い至れというのもそれは酷なものではあろう。
「砲撃部隊!制服と身長を見なさい!!敵が紛れ込んでいます!低身長、制服は……いえ、ぱっと見てわからないということはおそらく風紀委員会の制服を奪っている可能性が高い!アビドスの副生徒会長が紛れている可能性があります!」
(……低身長?ああ……そういうことか)
破壊工作を続けながら、通信機を切って直接後ろに向かってそう叫ぶアコの言葉を聞き首を傾げるユキノ。しかし、すぐに彼女はこれをやっているのがホシノだと誤解していると気付く。
(だとすると……む)
一通り破壊工作を終え、後は撤退するだけ。そう思った次の瞬間。ユキノは強烈な気配のようなものを感じ取る。そしてちらとその正体を遠目に見つけると、
(これは丁度いい。彼女自体に恨みはないが―――余計に怪しまれるのも困るからな。まあ……恨むなら、こんなことをしている部下を恨んでやってくれ……)
そちらへ向けて銃口を向ける。そして、ユキノ本人だと割れないように軽く咳払いを入れてから声を怪しまれない程度に少し高音で出していき、他の風紀委員を煽っていく。
「ヒナ委員長だ」
「えっ?」
「ヒナ委員長に変装して潜り込んでいる!見ろ、あそこまで逃げている!」
「!!」
「え?……いや、あれは本物じゃ」
混乱状態にいるせいで多数がユキノの滅茶苦茶な理論を信じてしまう。数人はさすがにおかしいだろと気付くが、彼女達が皆を正気に戻らせる前にユキノはヒナに向かって発砲しながら手榴弾を投げつけていく。
「……え?いや、待ちなさい!?」
アコの制止の声が届くも、時既に遅し。爆発に呑まれたヒナは、無表情ながらもどこか怒りを滲ませた表情で風紀委員達を見渡していくも、先ほどの爆発に皆の視線が向かっている間にユキノは逃げ出していたため、もう犯人はこの場にいない。しかし、彼女が振りまいた風紀委員長への攻撃という流れは未だ混乱の収まらない他の風紀委員達を扇動し、ヒナへの攻撃に変化させてしまう。
(……ここまでうまくいくのか……ヒナ委員長はこのことを知らないし指示すらしていなかったとアヤネは言っていたが、事実のようだな。後ろめたすぎてここに本物が現れるはずがない、いや現れるとまずいからあれを偽物と思い込みたいといったところか……)
離脱後はアヤネにナビゲートしてもらいながら逃走するユキノが呆れて呟く。そんな、ユキノのサポートによって上司に弓を引くことになってしまい、射撃を受け続けたヒナは、それらが収まり少しだけ静かになったのを確認してから、
「……そう。私、あなた達に何か酷い事でもしたのかしら」
「……え、ま、まさかあれ、本物?」
「ど、どうしよう……」
「いや、ど、どうしようって言われても」
そう一言呟くと、その手にマシンガンを握りしめる。圧倒的な威圧感を纏い、ゆっくりと近づく彼女の姿を前に、風紀委員達は恐怖に慄き始める。
「……いや、まったく動き見えないけど向こうで何があったんだ?」
「さ、さあ?」
そして背後で激しい銃声が鳴り響くのだが、その様子を確認できないでいた少年たちはただただ困惑していた。ただ1つわかるのは、目の前にいるイオリやチナツ、そして部隊の少女達には困惑したり焦ったり、冷や汗を流したりしており、イオリに至っては通信機に向かって大声を張り上げている始末だ。
「アコちゃん!?どうしてこんなことになってるんだ!?」
『私が知りたいですよ!?なんで委員長に攻撃なんかしたんですかうちの馬鹿共は!!』
「……なんか委員長とか聞こえたけど」
「え!?ヒナが来てるの!?」
アコの声を聞き、動揺するアル。ムツキも笑いながらもどこか困ったような表情を浮かべていたが、カヨコはちょっとだけ同情するかのような視線を風紀委員会に向けていた。
「委員長?」
『ゲヘナの風紀委員長、空崎ヒナ……まさか彼女まで来ているなんて。でも、自分達の委員長を攻撃ってどういう……?』
対策委員会の四人も困惑している中、銃声がやがて止まり、1人分の足音が聞こえてくる。イオリたちが慌てて道を開けると、その奥から睨みつけるかのような表情のヒナと、震えながら彼女について歩いてくるアコの姿があった。
「……アコ。あんた何したの?」
「わ、私にもわかりませんよ!?いきなりヒナ委員長を攻撃するなんて……」
「そんなことはどうでもいいわ。私に何も言わず、あなたの独断専行で部隊を動かして他所の自治区付近に向かうなんて。しかもその目的が……シャーレの先生を奪い取るため、だなんてね。しかもその挙句、私に攻撃までして……」
「ご、誤解なんですこれは……」
「アコ」
「うぅ……」
ヒナは先生を一目見てからアコを睨みつける。アコは震えながらその場に立ちすくむしかなく、イオリたちも背筋を伸ばしながら冷や汗を流しながら立っている事しかできない。
「え、えっと……初めまして、だね。私はシャーレで先生をやっているんだ、よろしくね」
「……よろしく」
(この状況で挨拶なんてやってる場合じゃなくないか……?凄いピリピリしてるだろ……凄い豪胆だな……)
そういえば後のシナリオでも似たようなことをやっていたことを思い出す。だが今はそれよりもだ。
「……アコ。あなたのやった政治的な活動の一環については後にさせてもらうわ」
「う、うう……」
「私達は風紀委員よ。そういうことは万魔殿のタヌキにでも任せておけばいいわ」
「は、はい……」
「でも、まずは……」
ヒナがこちらの方を見る。ヒナが来た以上はこれ以上戦うということもないだろう。なんとか、風紀委員会と武力的に衝突することなく彼女が到着するまで持たせられたのはいいが、仲間割れのせいでヒナは相当に不機嫌だ。
「……向こうの親玉なら、ここであいつを倒せば」
『やめてください、シロコ先輩……!』
「……落ち着け、シロコ。ここまで来て戦いに発展させるわけにはいかない」
「そうだよ、シロコ。話し合えばきっとわかるはずだよ」
少年の知っている話ではイオリ達との戦いがあった上で彼女が現れ事実上の仲裁を行うという形になっていた。しかしこちらではそこまではいっていない。そればかりか彼女のコンディションはこちらにとって好ましくない状態だ。辛うじて、アコの独断専行を前に完全にゲヘナ側に非があると認めてくれていることが唯一の光明だろうか。
「今回の一件、全ての非はこちらにあるわ。このことについては、ゲヘナ風紀委員会委員長として謝罪するわ」
そう言い、頭を下げるヒナ。風紀委員達の間にどよめきが広がるも、ヒナの身体から湧き上がった威圧感を受けて一瞬で沈黙させられてしまう。暫く頭を下げていたヒナは顔を上げると、少年を見る。
(……彼がアコ達を。でも、本当に彼だけが?でも、彼の所属している学園は確か彼1人だけのはず。アビドスに他の協力者?いえ、それもないはずだけれど……)
「……えーと、これってどういう状況?」
「……ああ!?アビドスの副生徒会長!!」
「「「ホシノ先輩!」」」
「!小鳥遊ホシノ……まだ、アビドスにいたのね……」
と、そこに黒服の下から急いで駆けつけたホシノも現れる。とはいえホシノが現れた時には既に事態はほぼ収束しており、完全に破壊された柴関ラーメン、傷だらけの便利屋、対策委員会とシャーレ、そして風紀委員会を見て何が起こったのか理解しようと考えたようだが、風紀委員会がいる理由まではさすがにわからないのか首を傾げてしまう。
「あなたのせいでしょう!?あなたが、私達の中に紛れて委員長を攻撃したせいで!」
「はい?」
『え?』
「ど、どういうことホシノ?」
「いや本当に今来たばっかりで何にも知らないんだけど。あの子何言ってんの?」
そんなホシノを指差して声を張り上げるアコ。アコの脳裏には一番最初にヒナに攻撃を撃ち込んだ風紀委員の存在があるのだろう。アコは当然気付いていた。ヒナの姿を見て攻撃しようという仲間がいるわけがないことを。それがこうなったのは、実際に誰かが攻撃する流れを作り上げたからだ。
(ああ、ユキノかアリスか、誰かはわからないがゲヘナにちょっかいを出したのをホシノだと思い込んでいるのか……そして最後にヒナに喰らわせたのがきっかけで同士討ちが始まったと……まあ、3人を知らなきゃその可能性自体出てこないよな……一応アビドスを助けたって意味だと筋は通るし……)
「あー、なんか色々変なことになってるけども……とりあえずいわれのないことを言われてもおじさん困るというか……というかそれ以上にさ……」
真顔になり、頬を掻きながらホシノはヒナの表情を見る。アコからは見えていないだろうが、完全に俯いているヒナの身体は震えており、拳を握りしめている。風紀委員会達とは反対側からその姿を見ている対策委員会、シャーレ、便利屋にははっきりと見えていた。彼女がひたすら怒りを溜め込んでいる様子が。とはいえ、これ以上溜め込ませるとどうなるか分かったものではない。ホシノが恐る恐るといった様子で今も声を張り上げるアコに言う。
「君達の風紀委員長ちゃん、すっごい怒ってるけどいいの?」
「……え?」
「……アコ」
「……ひっ」
後ろをゆっくりと振り向いたヒナの顔はこれ以上ないほどに静かで、そして同時に怒りを感じさせるものになっていた。その顔を見て、蛇に睨まれた蛙のように固まってしまうアコ。
「イオリ」
「はいっ!!」
「アコを連れて帰りなさい、今すぐに」
「は、はい!!」
ヒナの一言を受け、イオリは完全に固まってしまったアコを担いで走り出す。他の部隊も慌ててゲヘナへ向かって走り出していく中、ホシノ達もどうしたものかと顔を見合わせる。
「……えっと、大丈夫?ヒナ」
「……ええ、大丈夫よ。本当にあの子達がごめんなさい……普段は悪い子達じゃないのよ……その、たまに行き過ぎるところがあるだけで」
「ううん、気にしていないよ。それに、対策委員会の皆も怪我してないしね」
「……そう」
そんなヒナの様子を気にしながら先生が声をかける。ヒナの身を案じるように声をかける先生の姿にヒナも少しだけ気が楽になった様子で溜息を吐くと、
「……先生、少し良いかしら。今回の件に対する……というわけじゃないけれど。耳に入れておいてほしいことがあるの」
「?何かな?」
(ああ、そこの情報は入れ……あれ?そういや銀行強盗してないから便利屋は……)
先生と少し離れた所に移動し、何かを耳打ちする。少年は便利屋を探すがどうやら既に行方を眩ませてしまっていたようであり、それに気付き店長への謝罪や店を賠償させることができなくなったことに怒りを見せるセリカを皆で宥めていくのだった。
□□□□
その後、校舎に戻ってきた少年達。アヤネが土地について改めて調べたことでアコが言った通りであることが判明し、過去に借金返済に苦しんだアビドスはカイザーを相手に土地を切り売りしていたということが判明する。そしてこれからどうするのか、という指針について先生がヒナから受け取った情報、『カイザーが砂漠で何かを探している』という内容を共有するのだが、
「……うーん、調べる必要あるかな」
「え?」
「借金の取り立てとかに関してはちゃんとしてるところだしねぇ……そりゃカイザーって良い企業とは口が裂けても言わないけど……悪徳企業ってわけでもないし」
「それに……土地の売買自体も状況故に仕方なく、ではあっても不当な契約とかそういうわけではありませんし」
(……あ、そうか。セリカが誘拐されてないからカイザーがカタカタヘルメット団や便利屋のスポンサーっていう事実を把握してないんだ……そのせいでアビドスの認識があんま良い所じゃないけどかといってそこまで目くじら立てる程でもない借金取りもやってる大企業扱いなのか……)
アビドスの生徒達のカイザーを調べるという行動に対するモチベーションはあからさまに低い。原作と全然違くね?と少年は思わず首を傾げそうになるのだが、すぐに理由に気付くのだった。