壊れた楽園からの少女達 作:名無しの投稿者
「でも、ここまで言ってくれたってことは、何かカイザーにはあるんじゃないかな?」
「何かって言われてもなぁ……」
先生の言葉を難しい表情を浮かべつつ聞く少年。対策委員会の面々も微妙そうな表情を浮かべており、あまり乗り気ではない。だが、それもある意味当然と言える。
「えーとね、先生はキヴォトスに来たばっかりだからあんまり知らないと思うけど。カイザーっていうのはまぁ……確かにいい話は聞かないところなんだよね。ただ、いい話を聞かないって言っても、不正をしているとか汚職があるとか、そういう話じゃなくてただただ単純に態度が悪いというか、でかい顔をしているとかそういう感じで」
「風紀委員会からもあんな反応が出るってことは、やっぱり嫌われてるってことじゃない?」
ホシノが苦笑しながら先生にカイザーについて知っている限りの事を説明する。一応裏では色々表沙汰にできないことを確かにやってはいるのだが、そこはさすがに表に出ないようにはしているのだろう。本来はブラックマーケットまで赴いてやっとその尻尾を掴み、銀行強盗までしてようやく証拠を手に入れられるほどなのだから。
「まあ、ゲヘナの人間はあんまり好きそうじゃなさそうだよねぇ。他の所もそうなんだろうけど」
「うーん……でも、ヒナがああ言ってるってことは多分、何かあるんじゃないかなって思うんだよね」
「先生、やけにゲヘナの肩持つわね……便利屋なんて傭兵引き連れて襲いに来るわ、風紀委員会だって……そりゃ、あそこはもうアビドスじゃなかったのは知らなかったこっちもあれだけど、だからってやりたい放題してるのよ?」
「ゲヘナは自由な校風って聞いたことはあるけど……あそこまでとは思ってなかった」
「自由というか無法じゃない……」
「……あー、ちょっといいか?」
先生は純粋に気になるのもあるだろうが生徒を信頼するというスタンスを取っているからこそヒナの言葉を信じたいと思うのだろう。こればっかりは答えありきなのがちょっと困るところではあるものの、とはいえ冷静に考えてみればさすがにこれはないだろうと少年も考えていたことを伝えようとする。
「そもそもゲヘナはカイザーが何を探してるのか知っているのか?」
「知ってるのかい?」
「知らん。皆は?」
「いえ……そもそも、カイザーが何かを探しているなんて話自体初めて聞きました」
「だよな……あのさ。なんでゲヘナもわからない何かを探してるカイザーを俺達が探らないといけないんだ?」
「え……」
「というかそこまで掴んでるならゲヘナの方で調べりゃいいだろ、仮にカイザーが必死こいてなんか探していたとして、そこはアビドスじゃなくてカイザーの土地なんだから風紀委員会がわざわざ足運んできた時みたいに自分達が行って調べりゃいい。今回はこっちだって事情を知ってるんだからどうぞお好きにって言えるしな」
「そ、それは……」
そう。改めてここら辺の話を聞いて浮上した疑問が、何故これをアビドスが調べるのか?という点だ。原作ではカイザーが黒という証拠を握ったからこそアタリを付けていったわけだが、冷静に考えてみればカイザーが金融関係で黒だったから何かを探すその行動もアウトかというと全くそんなわけがないのだ。アビドスを廃校にするために色々手を回すことは問題ではあっても、捜索行為の方は自分達の土地でやっていることなのだからそこで何をやっていようと他の学園や自地区にあれこれ言われる筋合いなど毛頭ない。
「これがアビドスの自治区で勝手にやってます、って話だったらそりゃ対策委員会がどうにかしなきゃいけない問題なんだろうが……」
「だよねぇ」
少年の言葉に同意するようにホシノも頷く。
「詫びのつもりなのかシャーレに恩を売ろうとしているのか、それともシャーレがどういう組織なのかその手腕を見たいのかはわかんないが……まあ、こんな謎情報をぶつけてハイ終わりっていうのも割とふざけてるな……」
「あ、あんまりそういうこと言うのは……」
「先生、これははっきり言わせてもらうぞ。カイザーが真っ黒で、アビドスに対しても後ろめたいことをやっている連中だったと仮定しても、この情報を真に受ける時点でおかしいんだよ。はっきり言うけど、カイザーが探してる何か、その何を抑えれば状況が改善するんだ?やってることは自分達の土地で探し物してるだけだし何も悪いことはしてないだろうし、それで突っついたところでどうにもならないだろ?」
そう。それに繋がる物的証拠などがない以上説得として出すことはできないが、カイザーが黒いことと何かを探していることをイコールで繋げることはできてもそれ自体をカイザーの悪い点とすることは不可能なのだ。それこそ無数の学園のように、自分達の土地の中で好き勝手やったのを咎めることはできはしないのだ。
「それはそうだけど……でも、気にはならない?何より、これをわざわざ伝えたってことは何か意味がありそうだけど……」
「まあ、なんかやってるんだから意味はあるんだろうけども。ゲヘナに突き返せばいいんじゃねえか?万魔殿にお宅の風紀委員長からこんな情報貰ったけどふざけてんのかって。調べるならそっちでやれって」
「それ、どうにかなるの?」
「いや?正直万魔殿の議長がまともに取り合うとは思わないけど」
「じゃあ駄目じゃん……」
「便利屋や風紀委員会がやろうとしたように大きな学園に好き勝手されちゃうのが今のアビドスだからねぇ……おじさんが抗議したところで何の意味もないよ。もうさ、聞かなかったことにしちゃう?」
「……わかった。それじゃあこういうのはどうかな?」
アビドスの生徒達も少年の意見の方を支持している様子だ。しかし、先生はどうにも引っかかる部分があるのか、それともわざわざ伝えられたからには何かあると考えているのだろうか。ある案を提示する。
「カイザーを皆で調べに行こう。それで何かあったら、責任はシャーレが全て取るよ」
「シャーレが?いいの?それで」
「せ、先生……別にそこまでしていただかなくても……」
「それに、さ。何かを探しているっていってもそれを調べるだけならそう大したことにはならないんじゃないかな。向こうも仕事でやっているなら邪魔をしないように気を付ける必要はあるだろうけど……それに、これがアビドスの借金返済に繋がるきっかけになるかもしれないからね」
「うーん……でも先生が責任を取ってくれる、かぁ……」
それは、シャーレが責任を取るという案であった。それに、先生の言う通りもしかしたらいいことがあるかもしれない。調べる道中で何かお値打ちものでも見つかるかもしれない。何より、
「うーん、どうする?」
「まあ、先生がこういうなら……いいんじゃないです?カタカタヘルメット団とかも先生のおかげで何とかなりましたし……」
「便利屋や傭兵との戦いでも先生のおかげで勝てたわけだしね。私は信じてもいいと思う」
「そうですね、私はそう思います」
「……先生、責任を取るって」
「うん、任せてよ」
そう言い、微笑む先生。これまで、先生がアビドスの生徒達にしてきた功績のおかげで呑み込んでもらえたようだ。何かが起こってもシャーレが責任を取るから大丈夫、それが後押しとなり、5人もそれを承諾するのだった。
□□□□
(……こうなったか)
正直少年としては原作を知っているが故に気乗りはしなかったことだが、砂漠の方に調べにいったシャーレと対策委員会は気付かない内にカイザーPMCの基地の敷地内に侵入してしまっていた。少年もそこに入ったら色々難癖をつけられるのがわかっていたために基地に入らないように気をつけていたのだが、巻き上がる砂のせいで視界が悪くなり、さらにカイザーの基地の外壁なども砂で埋まってたりして判別できなかったこともあり、知らない内に入ってしまっていた。そのため不法侵入者としてカイザーPMCに襲われてしまい、さらにこの不法侵入を盾に対策委員会はカイザー理事から借金の利子を暴挙とも言えるレべルで増大させられてしまい、さらにその返済を数日以内に求められてしまうという最悪の状況に陥ってしまう。
「「「「「……」」」」」
学校に戻ってきた対策委員会の5人は喋らない。いや、喋ることもできない、といったところか。先生も難しそうな顔をしている。結局、カイザーが何を探しているのかという話も適当に誤魔化されてしまったため、アビドスは増えた借金以外何も手にすることはできずにいた。
「……どうだ?この大金、返せそうか?」
「……難しいですね……1ヶ月もらえるならまだしも、タイムリミットは後3日ってなると……」
「うう……さすがにこんな高額のバイトなんてないわよ。どうすればいいのよこんなの……!」
「……やっぱり、銀行強盗してまとまった金を」
「ダメだよシロコちゃん」
「でも……!」
「そうですよ、銀行強盗をして金を工面したら絶対バレます。そうしたら……だったら、それよりも私が払います。実家の金を使えば……」
「そっちも駄目だよ、ノノミちゃん……だってノノミちゃんの実家は」
「ですが……」
(……予想はしてたけど、散々だな……)
ちょっとだけ、少年も考えていたことがある。この後、アビドスの増えた借金を返すためにもホシノは黒服との契約を飲みアビドスから消えようとするのだが、もし話し合いがちゃんと行われていたらそれ以外に方法は見つかったのかどうか。しかし、対策委員会が持つ手札ではそれはほぼ不可能だということを再確認させられるだけであった。
(アヤネとセリカはまあしょうがない、シロコの銀行強盗は論外、ノノミは……確かにやろうとしてる内容を考えれば可能ではあるんだろうが……それ、つまりネフティスの金で払うも同然だからカイザーの矛先がネフティスに、ノノミの実家に向けられるから、ネフティスからすれば令嬢が勝手に会社の金を使ってアビドスの借金をどうにかしたせいでカイザーに目を付けられた、みたいな事態になりかねないし、そうなるとネフティスからもアビドスはよく思われないからここをどうにかできても、今後はカイザー、ネフティスにアビドスは睨まれることになる……今はギリギリ何とかなっても後がもっと大変になる、最悪の一時しのぎってことか……)
「ちなみに君は何かあったりするの?」
「……ん?ああ……」
と、ここで話を振られた少年は少し考える。一応少年も考えてはいたのだ。ただしその方法も決していいものではないのだが。
「……正直、あんまりいいものじゃないけどな。別の、今のカイザーよりは金払いとかがマシな金融から金を借り入れてカイザーの借金を返す。そして今後はそっちの方に返済を注力する、っていう形なんだが……」
「それは……難しいと思います」
「ああ……今月の利子分だけならまだしも、借金全額を、なんてのは多分無理。利子だけ払ったら返済先が2つに増えてその両方に利子が入ってるから来月以降がさらに大変なことになる……時間だけは稼げるがもっと最悪になるだけの方法だ……悪い、これぐらいしか思いつかなかった」
「しょうがないよ」
ここから一発逆転できる方法はどう考えても思いつかない。やはり、カイザーに悪手を打たせることで付け入るスキを生み出した原作が最善手なのだろうか、そもそもそんなギリギリの道筋を辿らずに済むならそっちの方がいい。
(……っと、そうだった)
と、出発する前に先生が言った言葉を思い出す。何かが起こればシャーレが責任を取るという言葉。ならば、その言葉を有言実行してもらおうではないか。
「先生、そういえば……シャーレが責任を取るって言ってましたけど」
「うん、勿論だよ」
自分達生徒ではもうお手上げだ。ならば大人のカイザーに太刀打ちできるのはやはり先生だけ。皆の視線が先生に向けられる中、先生は6人の顔を見回すと、
「そのためにもっと話し合おう。考え続ければ、きっと解決策は見つかるよ」
そう告げて皆の話に耳を傾けながら、時折疑問に感じた部分を先生が聞いていく。そのような形になる中、少年は微妙な顔をしていたがここでふとホシノの方を見ると、
「……」
黙り込んで考え込む彼女の姿が目に入るのだった。