壊れた楽園からの少女達 作:名無しの投稿者
―――きっと解決策は見つかるよ。
先生のその言葉も虚しく、その日は何の解決策も見つかりはしなかった。そしてその日の夜。
(ここ、普通に考えたらおかしいんじゃないかって所をあれこれ言ったつもりだったけど……何にも変わらなかったな)
安宿のベッドの上に寝転がりながら、少年は溜息を吐いていた。ユキノ達の手によってセリカの誘拐が回避されたので、もしかしたらあれやこれも回避できるのではないか、やりたいようにやってもいいのではないかと思ってやってきたことだった。しかし、その結果は何も変わらない。いやむしろ原作より状況は悪化しているといっていいだろう。
(便利屋の救援はおそらくない。ヒフミと接点がないから最後のトリニティからの救援もない……いや、そもそもヒフミって大丈夫なのか?いやでもファウストなら大丈夫だろ……それより救援だ。風紀委員会は……まあ先生がイオリの足舐めておけば大丈夫かもしれないが……それより、何の解決策も捻りだせなかったのは問題だな……こうなるとおそらくホシノが姿を消すのはほぼ確実)
責任を取るという言質を取っていたから大丈夫かと思ってたが、こちらが考えている以上に楽観的すぎたのか先生があの状態だ。話し合いの結果、誰もこれといった案は出せず、先生も責任については何とかしてみせるよの一点張り。何をどうするのかさっぱりわからないし、そもそも何かあればシャーレが責任を取ると言ってくれたからこそ調査に出てきたのだ。それでこの有様、何の打つ手もなくなりましたとあればホシノが黒服との契約を呑んでいなくなってしまうのも最早止む無しだろう。
(……これで生徒会が消滅してしまったことを足掛かりにカイザーはアビドスを潰しに来る。実際は先生がホシノの退学を認めていないから首の皮一枚繋がるってわけだが……)
ベッドから体を起こす。先生が責任を取ると原作にない一言を言ってくれた時はあんな危ない綱渡りをしなくてもどうにかなると、正攻法で後ろめたくないやり口で解決して軟着陸させられると、そう思っていたのだが。
(こうなったら、原作通りカイザーをどうにかするしかないわけだが……まずは初戦をどうにかしないとな。便利屋は来ないと仮定してその分の戦力は……皆に埋めてもらうしかない。皆、未来を変えるためにこうするべきだと思ったことをやってる、なら俺もって思ったけど……悪い方向にばっか噛み合うもんだな……はぁ、でも、どうにかするしかない)
そう考えてスマホで皆に連絡を取る。そして、来るであろう戦闘に備えて少年は眠りにつくのだった。
□□□□
『……先生、ふざけないでくれません?』
「そ、そこをなんとか……」
『なるわけがないでしょう。大体アビドスなんて……』
夜の学園。そこで先生は電話越しにイライラを含んだ声でリンに怒鳴られていた。生徒達との話し合いで全く光明が見えないまま夜を迎え、生徒達は皆帰ってしまったが先生は何とかアビドスが背負ってしまったこの多額の借金をどうにかできないか考えた末に、シャーレが一時的に工面することを思い付いたのだろう。とはいえ、少額ならばともかく多額の予算をとなれば先生1人の都合では当然行えないため、まだ仕事をしていたために起きていたリンに電話をしてみたところ、この状態であった。
『話を聞いてみれば……バカですかあなたは』
「うう、面目ない……でも、アビドスの子達が……」
『……はぁ。そもそもアビドスなんて辺境の学園、しかも借金をしていて全校生徒もたった5人。しかも自治区の住人は毎年流出していっている。こんな学園を救ったところでどうにかなるんです?』
「リンちゃん、その言い方は……」
『いえ、はっきり言わせてもらいます。ここでシャーレが無理矢理アビドスを存続させたところでアビドスの生徒達は日々借金返済に追われるだけでしかない。シャーレが、いえ連邦生徒会が借金を返済したところで、来年度……いえ、再来年度まで見て新入生が入る余地があると、本当に言えますか?現状では今の1年生達が卒業すると同時に消滅する可能性が高い学園……なら、大人しく畳ませて転校手続きの方をした方が彼女達のためでしょう。転校まで面倒を見るための費用、ということであればこちらも承諾しますが』
リンから冷たくアビドスはもう見捨てなさいと言われる先生。しかし、先生は複雑な表情を浮かべながら、どうにかして助力を得られないかリンに粘り強く言ってみる。
「でも、あの子達はアビドスが本当に大好きなんだよ。どうにかならないかな?」
『……はぁ。明日、財務室長に聞くだけ聞いてみましょう。ただし、ほぼ確実に無理だと思ってください』
先生の発言に根負けしたのか、それとももう付き合ってられないと思われたのか。リンはそう言うと電話を切ってしまう。先生はこれで良かったのかと思っていると、先生のいた教室の扉の外から何かの気配を感じ取って廊下に出ると、そこにはホシノがいた。
「先生、今の話」
「ごめん……聞こえていたんだね。でも、大丈夫。きっと何とかなるよ」
「……本当?」
「うん。リンちゃ……こほん、リン代行も、財務室にかけあってくれるって言ってた。まだ日数はあるし、きっと何とかなるよ」
「……そうだね。カタカタヘルメット団とか、便利屋と傭兵とか、ゲヘナの風紀委員会とかもシャーレは何とかしてくれたからね、うん」
先生の言葉を聞いていたホシノは少し疑うように先生を見ていたが、これまで先生達が来てからの事を思い返すように呟いていく。そして、
「先生。ちょっと伝えておいた方がいいかなって思うことがあってね。先生は他の大人達とは違うみたいだし、おじさんたちのために頑張ってくれてるし」
「うん、何かな?」
「……黒服っていう大人のことなんだけど―――」
ゲマトリアの存在について告げるのだった。
□□□□
翌日。ホシノは学園に姿を見せることはなかった。代わりに置かれていたのは置手紙。そこには別れの言葉と、カイザーのスカウトを受けることでアビドスの借金を緩和するという契約の内容。
「なんで、ホシノ先輩……」
「……これが、ホシノにとって最善だったんだろうな。昨日、皆で考えてもこれだっていう選択肢は出なかった。だけどホシノには最初から答えがあった」
「でも、だからって!」
それを読み、悲しそうな表情を浮かべる4人の対策委員会。とはいえ、少年はやっぱりこうなってしまったかと思いつつも苦々しい表情を浮かべるばかりだ。
「ホシノがやろうとしたことが全部が全部良い、とまでは俺だって言わん。だけど、昨日皆で捻り出しても碌な案が誰からも出なかったのは事実だ」
「それは……」
「……少なくとも。アビドス自体が他と遺恨を残さないっていう点では誰よりも最善には近かった、その側面自体は正直……あると思う」
「そんなわけない!ホシノ先輩が 1人で全部抱え込もうなんてことが間違ってる!こうなったら、早く助けないと。私、すぐに……」
「ダメですシロコちゃん!まずは足並みを揃えないと……」
このまま一方的にホシノの行動は間違っていると、4人に同調することはできたかもしれない。しかし、実際に昨日、皆で考えても答えが出なかったという状況を知っている。そして、この反応を見ればもしホシノが自分を担保にするということを話せばどうなるか。皆総出で止めることだろう。だがそうなれば、時間だけが延々すぎて、タイムリミットになるだけ。ホシノはそれを悟ったからこそ1人で動いたのかもしれないと少年は考える。無論、残された側としてはそのような起こりうる結末や事情など知ったことではないのだろうが。
「……」
少年が先生を見るも、その顔は浮かない。先生は学校に入る前にタブレットのメッセージを見て、苦々しい表情を浮かべていた。その理由自体は少年にはわからないが、先生なりに責任を取ろうとしたが駄目だったのだろう。その予想通り、財務室長のアオイから先生へ向けて、今回の件に対するある種真っ当な意見が送られていた。
「……!?今のは、爆発!?」
「近いです!……あれは!?」
直後。爆発音が聞こえてくる。全員で窓の外を見ると、そこにはカイザーの軍勢があった。
(ホシノがアビドスから消えたことで生徒会が消滅したと思い込んで……やっぱり、これしか道はないのか?いや、そんなことは後だ。まずはここをどうにかする、話はそこからだ)
カイザーPMCの兵士たちを引き連れて現れたカイザー理事。彼は既にアビドスという学園は存在していないことを理由に武力制圧を開始する。これを前にシロコ達も迎撃を選択するも圧倒的に戦力が足りていない。
「くそっ……こりゃジリ貧だな……!」
「どうすれば……」
近づいてくる敵を遮蔽物に隠れながら撃破し、少年が悪態をつく。先生も歯ぎしりをしながらシッテムの箱を覗き込むが、それでも限度はあるようだ。そしてカイザーの兵力は次から次へと追加される。これではどうしようもないだろう。が、
「ぐあ!?」
「!?」
どこからか、カイザー理事の頭部に突然弾丸が撃ち込まれる。強烈な一撃を脳天に喰らったカイザー理事はそのまま吹き飛んでしまい、倒れてしまう。その光景にざわめくカイザーPMC。これが狙撃だと理解し、そちらの方へと数人の兵士が向かうが、そこには既に敵の姿はなく。
「今、何が……」
(狙撃……ヒヨリか!ということは……便利屋は来なかったがあいつらが間に合ったか!)
便利屋は銀行強盗の縁もなかった影響か来ることはなかったようだ。しかしその分の補填としてセイア達にも頼んできてもらった甲斐はあった。ヒヨリは良いタイミングでカイザー理事を攻撃してくれたようだ。混乱するカイザーPMCに向かって、拡声器を用いたのか、くぐもったような声で誰かが宣言する。
「私達は、カタカタヘルメット団だ」
「か、カタカタヘルメット団?」
「私達が壊滅させた……?」
「なんでそいつらがここにいて、しかもカイザーを攻撃してるのよ?」
「カタカタヘルメット団……?おのれ……自分達の失態を棚に上げて……!」
困惑するアビドスの面々。しかし、これこそが彼女達が正体を隠して助太刀するための一手。既に退場しているカタカタヘルメット団の名を偽ってカイザーへ攻撃を仕掛ける。アビドスからすれば裏の事情を知れずにここまで来ているので首を傾げてしまうが、カイザーからすれば話は別だ。元々、アビドスから受け取った借金返済の費用をそのまま彼女達の軍資金として横流しした上でアビドスを潰すために依頼をしているのだから。そして彼女達の失態を受けて契約を打ち切り、便利屋に乗り換えた。それに対する報復となれば、それに対する正当性などは一旦置いといて、繋がりはする。故に信じてしまう。
「……失態、ってどういうこと?」
「もしかして……カタカタヘルメット団ってカイザーの依頼でアビドスを攻撃してたのでは?」
「た、確かに……それならやたらしつこくアビドスを攻撃してくるのも、ヘルメット団にしてはやたら物資が豊富だったのも全部説明がつく」
「……じゃああいつらが諸悪の根源じゃない!?」
今ここにいるのはカタカタヘルメット団本人達ではなく、ヘルメット団の服装とヘルメットを被った少女達だ。しかし、ヘルメット団の素顔を知る者は誰もいない。
「……これはチャンス」
そして、最上級を見れば少々見劣りする部分が出てはしまうものの、少年が呼び寄せた面々は戦闘力に秀でている者も多い。FOX1のユキノ、かつて天童アリスだった王女、アリウススクワッドのヒヨリといった風に。故にカイザーPMCが相手でもその戦闘力は遺憾なく発揮されていき、相手は混乱に陥る。そこから建て直す前に、シロコの言葉に一同は頷くと、
「よし!まずはカイザーを攻撃して追い返すんだ!皆、戦闘開始!!」
この場を切り抜けるため、先生の指揮の下、戦闘を開始するのだった。