壊れた楽園からの少女達 作:名無しの投稿者
無事、カイザーの軍勢を撃退したアビドスとシャーレ。カイザー理事は形勢の不利を悟って撤退し、ヘルメット団に扮した仲間達もアビドスの面々が気付いた時には既にいなくなっていたが、彼女達から見れば憎いカイザーをぶん殴りに来ただけにしか見えず、決してアビドスに与したわけではないという風にも見えるだろう。
(……トリニティ抜きでの戦い、か。やっぱり舐めたんだろうか……先生。ゲームとして見るなら百歩譲ってもリアルでやられたら下手するとトラウマレベルでたまったものじゃないよな……)
その後、先生はどこかへ消えたのだがおそらくは黒服の下に向かい、交渉の末にホシノと黒服の契約を無効にできたのだろう。それからゲヘナに向かい、風紀委員会の協力を取り付けることに成功したらしい。原作通りならイオリは足を舐められたのだろうと考えると、こんなことがあっても平然と先生と付き合える彼女は相当に精神が図太いと見える。
「これで、ホシノ先輩を助けに行けますね!」
「ん、カイザーにカチコミに行く」
「待っててよ、ホシノ先輩……!」
「準備もばっちりです!」
ホシノを助けるにあたっての理論自体はそう難しい話ではない。ホシノは退学届けを出していたが、対策委員会の顧問である先生がそれを受理していないのでまだアビドスの生徒のまま。故にアビドスを退学することで初めて受けられる黒服との契約自体が最初から無効であり、前回の攻撃はアビドスが残っているのに残ってないものとして武力侵攻を行ったカイザーに大きな非がある。加えて、今回の攻撃は攫われた学園の生徒を救出しに向かう正当なものである、と。
(……こう考えてみると、理事が対策委員会自体そもそも正当な組織じゃないのにそこの顧問が受理するしないの権利なんてないんだから副生徒会長のホシノの退学届けの方が優先されるだろとか言いださなくてよかったな……実際今の時点だと対策委員会は生徒会組織でもなんでもないから相手側の言うことの方がまだそれっぽさが少し残ってるし……確か認可が下りたの全部終わった後だったはずだし)
だからこその力押しで、向こうも力で応戦せざるを得ない状況に追い込む必要があるのだろうが。それに、カタカタヘルメット団に扮した皆の活動の結果、カイザーの怪しい資金利用のルート自体がばれてしまっているため、その点を暴かれるのは向こうとしても困るのだろう。下手に弁論を叩きつけるぐらいならいっそ力で潰した方が早い。特にホシノを欠いた今のアビドスならば。そういう判断になること自体は決して理解できないわけではない。
「よし……いこう、皆!」
そして、アビドスとシャーレはホシノを助けるため、彼女が捕えられた、カイザーに既にリフォームされて別の施設となってしまっているアビドス本校舎跡地へ向かうことになる。道中、カイザーの兵士に襲われ足止めを喰らうものの、
「!風紀委員会です!」
「助けに来てくれたんだね、ヒナ」
「……ええ」
そこにシャーレの要請を受けて現れた風紀委員会が食い止める。ヒナを筆頭にカイザーと戦ってくれるゲヘナの生徒達に先生が笑みを零すと、ヒナも少し嬉しそうに微笑むのだが、
「……そもそもゲヘナが要らないことしなきゃホシノ先輩がいなくなることもなかったのになんで助っ人面してるのかしら……」
「セリカちゃん!!」
「んん!」
(あれ……なんでそんなこと言ってるんだセリカ?いやまぁ原因辿ったらそういう側面も一応あるっちゃあるけども……あれ、これも俺のせいだったりするのか?……いや、今はそれよりもホシノの方が先だ)
その様子が癪に障ったのか、思わずセリカがぽつりと呟いてしまう。即座にアヤネに黙らせられるが、その言葉はヒナの耳に入ってしまったのかヒナの表情が固まった……ような気がした。
「……先生」
「何?」
「カイザーは、風紀委員会で全部受け持つ。だから先へ行って」
「え、でも……」
「いいから」
有無を言わさず、自らもマシンガンを手に敵の群れに突っ込んでいくヒナ。カイザーPMCを蹂躙する彼女の姿に先生も目を丸くするも、すぐに気を取り直して5人を伴い、施設の中へと入っていく。
(トリニティの増援はないが、その分風紀委員会が頑張ってるのか。一応皆には待機してもらってるけど……この分じゃ支援の必要はなさそうだな)
この様子は皆も見ているだろう。風紀委員会、というよりヒナのこの暴れようであれば、自分達が手を出して正体が露見するリスクを取る必要もないと静観することにしたようだ。そうしてくれるとありがたいと少年も思いながら、最後の門番と言わんばかりに立ち塞がったカイザー理事やその取り巻きを全員で軽く捻り、遂にホシノを救出することに成功する。
「皆……?」
救出されたホシノは、まさか助けられるとは思っていなかったのだろう。驚いたような表情で皆を見る。しかし、助け出したホシノに笑顔を向ける4人を見て、ホシノも安心したのだろう、彼女も微笑みながら、「ただいま」と言うのだった。
□□□□
それから数日後。アビドスももう大丈夫ということで撤収した少年と先生。先生から、
『今回は色々あって疲れただろうし数日休んだらどうかな?それに、元の自治区だってほとんど空けていたんでしょ?』
こう言われたことで少年も皆と話をする時間を設けた方がいいかとも考え、休みを頂くことにした。そして初となるシャーレの出張に付き合い、それも終わったことで区切りもいいとお金を出し合い、D.U.地区から離れている、少なくともキヴォトスに来たばかりのシャーレの先生らが来ることはほぼないであろう小さな繁華街にある個室の店を予約し、労いも兼ねた食事をしていた。
「えへへ、凄く美味しいですね……」
「まさかあのような立ち回りをすることになるとは思わなかったが……貴重な経験になったよ」
「あのカタカタヘルメット団の名乗り、やったのセイアだったのか?」
「ああ、私にできるのはあれくらいだったからね」
話題となったのは、カイザーとの戦いに乱入したカタカタヘルメット団に扮したセイア達だった。どうやらカイザー相手に自分達はカタカタヘルメット団だと言ってのけたのは声を良い感じになるように変化させて喋ったセイアだったようだ。
「……皆さん。今回は本当にありがとうございます。おかげで、私のいた世界よりも良い終わり方ができました」
「……い、良い終わり方だったのか?借金は……まあ、利子が大きく改善はされたが……」
一通りのことが終わり、状況に関してはカイザーがまだアビドスが存在しているのにそこに武力侵攻を行ったという大義名分を得たことで先生を通し、連邦生徒会も動かざるを得なくなるという状況に陥った。この状況を前にカイザーも尻尾切りも兼ねてカイザー理事を降格、アビドスから飛ばしたようで、アビドスに対しても利子を大幅に改善するという少年の知る原作と同じ終わり方になっていた。これだけならば何も変わっていないではないかとなるのだが、
「何1つ、犯罪をしていないじゃないですか。今のアビドスは凄くクリーンなんですよ」
「そ、そうか……」
(まあ……ひとまずは、といったところではあるんですが……)
胸を撫で下ろすアヤネ。何故彼女が安心しているかというと、この世界のアビドスが特に悪いことを何もせずに済んだことだろう。銀行強盗はしていない。風紀委員会と戦うことでお互い様の形でこちらの非を追及されることもなくなったのだから。
「……変えられるんです。私達の未来は。結果はまだ一緒なままですが……過程を変えることは」
「ああ、その通りのようだな。当事者が言っているのだからその通りなのだろう」
「えへへ……なんか、気分が良くなりますね……この後のことを考えると気分が重くなっちゃいますが」
(……結果はアヤネが言う通りなのかもしれない。だが、これがどう影響を及ぼすかはまだわからないな……とりあえず次はパヴァーヌ、か)
王女を見ながら、この次のシナリオであるパヴァーヌ編について考える。あまり変なことをしてアリスが発見されない、みたいな事態になるのは困るが。
(そもそも今回は先生を追いかけて行くっていうことができたけど、パヴァーヌ編はその理由も弱くなりそうだよな……まあ、1章の方は最悪何もできなくても原作通りに進むなら問題は……でも学籍偽造とセミナー襲撃か……襲撃かぁ……なんだろうな……先生が善人なのはまぁ、そうなんだろうが……うーん……)
色々考えるが自分だけでは答えが出ない。と、ここで少年は王女を見る。
「王女は、何かやりたいこととかあるのか?この後、先生は……何もなければミレニアムのゲーム開発部に行くんだろ?」
「えっと……私の中でどうにかしたいと思っているのは、その後なんです。いえ……そのためにも、あの悲劇を回避するためにはやっぱり……」
(やっぱりパヴァーヌ2章の方か)
パヴァーヌ編は2章の方が問題としては大きい。それ故に王女も2章の方については心残りというかやりたいことがあるようだ。それを踏まえたときに1章の内にやりたいあることを思い付いたようだ。
「ケイともっとコミュニケーションをわた……アリスが取れたら、それがいいと思うんです」
「できるのか?」
「……可能かどうかもそうだが、危険じゃないのかな?」
王女から名もなき神々の王女について聞かされていたセイアがその危険性を指摘する。アリスとケイの接触。それは、パヴァーヌ2章、最終編を経て、世界をアーカイブ化するという使命を放棄することに繋がるわけだが、1章の時点で接触ができるようになればまともな備えも準備もないままに名もなき神々の王女と先生は対峙することになってしまう。それはよろしくないのではと考えるのも、当たり前の事だろう。だが王女は首を横に振ると、
「今なら……大丈夫だと思います。いえ、絶対に大丈夫とは言えませんが……私は名もなき神々の王女です。それも、天童アリス本人……即ち本体がそうであることを認め、王女であることを選んだ存在です。おそらく、ケイとアリスが接触しても、アリスは名もなき神々の王女であることやその力を行使することをこの段階では選びません。その時点で、私の方が上になるんです。なのでケイが力を振るおうとしても、私なら止められます」
そこは問題ないのだと告げる。いまいちピンとは来ていないまでも、王女が凄いことを言っているのを理解したのだろう、ヒヨリが困惑したような視線を思わず王女へと向けてしまう中、少年は少し考えると、
「わかった。王女のやりたいようにやろう。俺も、どうにかしてミレニアムに行けないか頑張ってはみる」
「ありがとうございます」
王女についても彼女のやりたいようにやれるようにしようと結論付ける。何かあっても、また今回のように皆でどうにかする。その影響が最終的にどう転ぶかはわからないが、この世界を終わらせないようにして、未来に辿り着くためにはとにかくできることをやるしかないのだから。
「そういえばセイアとヒヨリの方はどうだったんだ?」
「種は撒いた。後は芽が出るのを待つだけさ」
「な、中々荒療治な気がしますけどね……」
「ともかく、現実を直視させられれば人は嫌でも動くものさ」
一旦王女の事は置いといてセイアの方はどうだったのかと問いかける。しかし、セイアはそう言い、笑みを浮かべるばかり。その様子を見ながら、ユキノもこれからの出来事を思い出す。そして、
(……私の方も、近づいてきているか……連邦生徒会への襲撃、これさえ止めれば……あんなことにならずに済むはずだ。その後どうなるかはわからないが……最悪に転がるとわかっている選択をわざわざ取らせるわけにはいかない)
そう考えながら飲み物に手を伸ばすのだった。