壊れた楽園からの少女達 作:名無しの投稿者
「……ん?ミレニアムに出張?」
シャーレに来た少年が机の上に置かれていた先生からの置手紙を見る。モモトーク使って言えばいいのに、とも思ったがそこは一旦置いておく。
(……今日からパヴァーヌか……なんで連れて行かないんだとは……まぁ言えないわな。アビドスなら心配だって理由付けて行けたけどミレニアムはそういうのとは無縁だからな……しかし、うーむ……)
アビドスの時は暴力組織が……という始まりだったので力が必要という言い訳もできたが、今回はゲーム開発部からの依頼だ。しかもその内容がゲーム開発部の廃部を回避するという方向性なので、少年が同行する理由は今の所ない。
(……アリスの学籍偽造の話とか、セミナー襲撃の件とか、そこらへんどうにかしておけばセミナーからの心象もプラスになるとは思うんだけどな……前者は最終的にばれてないから置いといて。まあ後者に関してはそもそもこのマッチアップにセミナー会長のリオが絡んでるっていうある意味どうしようもない状態ではあるんだが……)
原作ではばれてないから大丈夫、はあまり通していいものではない。アリスの学籍だってセミナーにちゃんと伝えて作ってもらえるようにすればその後の襲撃の件だってデータ解析に必要な鏡を狙って云々なんてする必要は全くなく、それこそセミナー襲撃後にネルが改めて襲いに来た時のように正式な場を設けるだのすれば角だって立たないはずだ。
「……やっぱコミュ不足だよなここら辺……」
それを言いだすといろんなところが引っかかりそうだが、思わず言わずにはいられない。となると、自分はすべきことは何なのかを考えて、王女にメッセージを入れる。自分としてはこういう風にしてほしいということを伝えると、少年はオフィスに積み重ねられた書類の数々を見る。
「……そういや、先生が出張してる間も仕事は溜まってくわけだけど……そこらへんどうなってたんだろうな……」
この世界だと書き置きが残されていることからもわかるように少年が来てくれることを先生も予想していたところを見るに、多分先生がいない間もシャーレの当番で来た生徒に回してもらおうと考えていると見える。というか先生が1人しかいない以上出張を絡めると物理的に回らないのだからそうならざるを得ないだろう。
(……やっぱり1人じゃ回らないよなぁこれ……ていうかシャーレの仕事って先生が選べるから極論ニートしていてもいいよみたいな話じゃなかったか?いやまぁそこでできる限り全部をってなるのが先生なんだろうけど)
スケジュールがぎちぎちの先生の画像を見たことがあるが、もしそれが今ならばとんでもない量だ。いや、ここから段々時間が経てば経つほどシャーレを知り、先生と交流のある学園も増えてくるのだからもっと仕事量は増えるだろう。
(……まあ、ここは先生だけじゃなくてどうにかするのが当番、それとアロナなんだろうけども……はぁ。やれやれ)
溜まっている書類の一部を手に取る。やれる範囲で少しずつ片付けて先生の負担は減らすに越したことはないだろう。先生にはこの世界で色々とやってもらうことがあるのだから。そう考えつつも書類の量に少しげんなりした様子で溜息を吐きながら少年は座り込むのだった。
□□□□
ゲーム開発部の部員である才羽モモイとミドリの双子の姉妹。彼女達はゲーム開発部の依頼を受け彼女達の廃部を回避するためにやってきた先生と共に、神ゲーを作るために必要なものであるG.Bibleを取りにミレニアム郊外の廃墟を訪れていた。そこはロボット達が徘徊する危険な場所であり、戦闘をできるだけ回避しながらG.Bibleの下を目指す3人は、ある施設に辿り着く。そこで先生だけが解除できる謎のロックの先に、後に天童アリスと名を付けられる裸の少女を発見。モモイ達は彼女に予備のミレニアムの制服を着せてひとまず学園へ連れて行こうとしたのだが。
「……あ、あれは何?」
「……あの子は……」
「先生、知り合いですか?」
「いや……初めて会う子だけど……」
「……!!」
その目の前に、仮面をつけた少女が現れる。長い黒髪をポニーテールで纏め、再構築で作り上げた仮面で顔を隠したその少女は、黒衣を纏い先生達の前に高い建物の上から先生達を見下ろす。
(……こうして現れるとどこかマルクトのようですね)
その少女―――王女は過去の記憶を掘り起こしながら、疑問そうにこちらを見る先生達の目の前に降り立つ。そして少女が4人の顔を見渡していくと、アリスだけがこちらを睨みつけていることに気付く。
(……な、なんで私に睨まれて……あ、もしかして私が名もなき神々の王女だと本能的に理解しているのでしょうか)
そう考えると、納得はできる。今のアリスは、まだ天童の名字すらなく、テイルズ・サガ・クロニクルという彼女の運命を変えるゲームと遭遇すらしていないはずだ。つまり、何者でもないからこそ名もなき神々の王女に1番近い純粋無垢な状態。故に彼女の本能が理解しかけているのだ。目の前にいるのが自分の本来の姿、名もなき神々の王女であると。
「君は、誰なの?」
「名前は言えません。ですが、あなた達に確認したいことが」
名前を聞かれるがそれについては答えない。というより答えてもただ混乱を生むだけだ。そして、ここで王女は少年からやってほしいと頼まれたことを改めて思い返し、先生達にそれを伝えていく。
「その少女は、この廃墟で眠りについていたはずです」
「し、知ってるの?アリスのこと」
「眠りにって……じゃ、じゃあまさかあなたがアリスちゃんを眠らせたってこと……?」
「……わかりません」
3人の視線がアリスに向けられる。だがアリスは無機質な表情のまま、規則的な動きで首を横に振る。王女もまた、くすりと笑って首を横に振る。
「いいえ。私は彼女―――アリスを眠らせた人物でもなければ、何故彼女が寝ていたのかも知りません。聞きたいのは、彼女をどこへ連れていくつもりですか?」
「どこって……ミレニアム?」
「……ミレニアムの生徒ではないでしょう?彼女は」
「そ、そこは何とかする予定!」
「……学籍は?」
「よ、用意する!」
王女の言葉にモモイが空元気も織り交ぜた返答をしてくる。とはいえ、王女の知るモモイならこう答えるだろうなという発言に少しだけ安心する。ただ、少年からやってほしいと頼まれたことは王女自身言われてみればと思わざるを得ないものでもあったため、こうしてこの場に現れていた。
「君は、アリスに何をしてほしいの?」
「そうですね。彼女が……ちゃんと、1人の生徒として歩めるようにしてほしい、それだけでしょうか」
「なら安心して。アリスはもう私の生徒だからね」
「ふふ、そうですか」
先生から何が目的なのかと問いかけて、返す。それに対する先生の言葉を聞いて、王女も仮面の下で微笑みを零す。そして、少年に頼まれたことについて、ここに来るまでどう釘を刺せばいいのか色々と考えていたが、最終的にそういうのが全く思いつかなかったのでここはもう直接的に釘を刺すことに決める。
「ただ……」
「ただ?」
「あなた達、学籍を偽造しそうな雰囲気がありますので」
「しないよ!?」
王女の言葉にモモイが絶句する。そう、これが少年から頼まれたことだった。アリスの学籍を偽造ではなく真っ当なものにする。少年や王女の知る範囲では偽造された学籍が問題になったことはなかったが、それがいつまで持つのかはわからない。ふとした拍子に学籍の偽造がばれて問題になったら目が当てられないのだから。
「後は……その子を大切にしてあげてくださいね」
「あ、待って!」
これで用事は終わったと、そう伝えてその場を去る。先生が追いかけようとするも王女は建物の中にはいっていく。先生と先生を追いかけたモモイ達が建物の中に入ると、そこには既に王女の姿はいなくなっており、壁が広がっているだけであった。そしてその裏で王女は溜息を吐きながら仮面を外すと、
「……そうですね。これからはセイアさんやユキノさんのように、私も演技できるようにならないといけないんですよね……これから、やらなきゃいけないこともありますし」
そう呟いてその場を去っていくのだった。
□□□□
「……さて」
「……できるのか?そういうことって」
「ええ、可能です。私の体は謂わばロボットですからね」
翌日の朝。少年はこの日は休みをもらっており、王女の様子を見に来ていた。幸い、今回はアビドスの時のように少年はアビドスの面々と共にいない方が不自然という状況ではなくフリーだったこともあり、散っている皆はどういうことをやっているのか見ようと思ったようだ。
「それに、ケイから色々受け継いだのでこういう風に、電子機器をハッキングすることも……」
(……こうしてみると、ホドみたいなことやってるな……)
2人は今、廃墟にいる。廃墟なら監視カメラなどもないので少年達のことはばれないだろう。そうしてまで王女が確かめたいと思ったことは、
「……見えました」
「見えた?……いや、潜り込んでるからそういう表現になるのか。どうだ?」
「ええ、ありました。天童アリスの学籍が……」
天童アリスの学籍がどのようにして作られているかどうか、少年から頼まれたことの結末を見届けるためだった。そのために、廃墟にあるインターネットへの接続が可能な電子機器を再構築して復活させ、ミレニアムのネットワークに潜り込んだ王女は手早く目的のデータを発見したのだ。
「……」
「ど、どうした?」
「えっと……これは……」
王女が難しい表情を浮かべて端末から少年の方へ視線を移す。そして、
「天童アリスの学籍がハッキングで作られた形跡があります」
「なんでだよ」
原作通りといえばそれまでだがアリスの学籍は偽造されていた。それを見て、王女も思わず額に手を当てて唸ってしまう。あの時はテイルズ・サガ・クロニクルを始めとしたゲームの数々で天童アリスの人格が完全に形作られる途中であったことや、学籍の重要性をそこまで認識できていなかったこともあり、彼女達が学籍を偽造したことについても言われてやっと、そういうことをモモイが言っていたことを思い出したレベルではあったのだが、こうして改めて見てみると相当にやばいことをやっていることを王女も認識せざるを得ない。
「わ、私はちゃんと言いました!学籍偽造しそうって!」
「いや、お前は疑ってないって。悪いな……手間かけさせて」
「い、いえ……」
「まあ……なっちまったものは仕方ない。とりあえず今日の所は一旦戻って……午後からできそうな仕事でも探すか」
「……はい」
落ち込む王女の肩に手を置く。王女は項垂れたまま電子機器を再構築し直してボロボロの状態に戻すと、少年と共に廃墟を出て行くのだった。
□□□□
「……お姉ちゃん、よかったの?」
「よかったって何がー?」
「だって、アリスちゃんの……」
「あー」
その頃、ゲーム開発部の部室でミドリがモモイに質問すると、モモイは首を傾げる。ミドリが指摘したのは昨日廃墟から帰ってくる際に謎の少女から言われたことだった。モモイはちょっとだけ考えたが、
「でも、アリスを生徒にする方法ってこれしかなくない?先生には私達に任せてよって啖呵切っちゃったし」
「それはそうかもしれないけど……」
「アリスはロボットなんだよ?ロボットを生徒になんて聞いたことないし……エンジニア部の部長のウタハ先輩が作ったっていう椅子?とか、えーと、ほらあれ、たまーに見るじゃん?足は車輪だけど人型のロボット」
「なんだっけ、会長のだっけ?」
「そうそうそれ、そういうのだって生徒にできるってことになるわけじゃん?だから、アリスをユウカに紹介したりしたら絶対通らない。そうなったらゲーム開発部は部員が足りなくなって廃部になっちゃう。だからセミナーには何もいわずにヴェリタスに頼んで学籍を偽造してもらう!後は先生にも黙っていて皆の秘密にする!言わなきゃばれない!これしかないんだよ!」
「それは……まぁ……」
モモイの力説を聞いたミドリは少しだけ微妙そうな顔をしていたが、やがて納得したように頷く。その隣ではゲーム開発部の部長である花岡ユズもなるほどと頷いており、3人の話を聞いていた天童アリスはよく意味がわかってないように首を横に傾げるのだった。