壊れた楽園からの少女達 作:名無しの投稿者
「……はぁ……!全く、どうしてこんなことを……!」
トリニティの敷地内。廊下を歩きながらぶつぶつと呟くのはハスミであった。普段ならば取り繕うだろうに、今は余程気が立っているのかイライラを隠そうともしない彼女の姿を遠巻きに見ていたのは同じ正義実現委員会に所属する後輩達。ハスミの威圧感に同情しつつも、声をかけられずにいた。
「ハスミ先輩、怒ってるね……」
「そりゃそうだよ……だってゲヘナ、しかも風紀委員会が好き勝手やってたんだもん……」
「……エデン条約を結んだら、私達は主に風紀委員会と一緒に仕事することになるんだよね?……あんなことする人たちと?」
「……なんかさ、一応は風紀委員会に関してはゲヘナの中でもマシっていう印象はあったし、ゲヘナはあれだけど風紀委員会と組むのならまぁまだ、なんて思ってた時期はあったけど……上が上なら下も下だよね」
「「ねー」」
しかし、ハスミの怒りは彼女達も理解できる。しかし、自分達からは何もできることはない。それに、このまま放っておけば次第に甘味に逃げて勝手に落ち着いてくれるのが羽川ハスミという女だ。それぐらいは後輩達も理解していた……のだが。
「なんか、面白い話してるねー?」
「!?み、ミカ様!?」
「ど、どうしましたか!?」
そんな後輩達の話を偶然聞いていた影があった。後輩達が後ろを振り向くと、そこには笑顔で手を振るミカの姿があり、彼女達は慌ててその場で姿勢を正す。
「ああ、そんな怖がらなくたって大丈夫大丈夫!私もたまたま通っただけだし!」
怖がらせる気はなかったんだと苦笑しながら、ミカが彼女達を落ち着かせるように声をかけていく。そして、
「そしたらさ?皆ハスミちゃんを見て何か話してたし?ハスミちゃん凄くイライラしてたからなんかあったのかなーって。そしたら……ふうん?風紀委員会ってゲヘナの?」
「あ、は、はい」
「……ふーん……ふむふむ……もしかしたらこれ使えるかも」
「え?」
「ああ、なんでもないよ!それより、ここは私に任せちゃってよ!」
「あ、あのミカ様!?」
後輩達の話を思い返しながら、口元に笑みを浮かべたミカはイライラしながら歩くハスミの下へ向かう。
「おーい、ハスミちゃーん!」
「全くゲヘナは……!?み、みみミカ様!?どうしてこちらに!?」
「どうしてってたまたま?そしたらハスミちゃんを見つけてね?」
「こ、これはとんだ見苦しい姿を……」
ミカの姿を見たハスミが慌てて取り繕うとするが、ミカは苦笑しながらハスミに近づくと、
「ああ、気にしないで!それよりも、さ……ゲヘナと何があったのか、教えてくれないかなーって」
「は、はぁ……」
そう囁く。それを聞いたハスミは怒りを引っ込めて正気に戻ったようで、一瞬ミカに話していいのかと悩む様子を見せたが、後一押しだなと考えたのかミカがダメ押しの一手を繰り出す。
「実はさ、美味しいスイーツカフェがあるんだよね。ハスミちゃんイライラしてるみたいだし……一緒にお茶しない?」
「…………!」
そして、その申し出を聞いたハスミは表情が固まるのだった。
□□□□
アリスが無事にゲーム開発部に入り、人数面での廃部が免れた後。先生も合流し、ゲーム開発部は再び廃墟に赴き、G.Bibleを無事に手に入れることになるのだが。彼女達がミレニアムを発つより前、G.Bibleのある工場には、王女が先んじて赴いていた。
「……ここ、ですね」
「ここにケ……こほん、鍵が」
王女の隣にはアヤネの姿もあった。万が一先生に遭遇してしまった時の為に彼女も仮面を被り、服装もアヤネとばれないように変更しているが。他の3人については、ユキノが一旦SRTや連邦生徒会周りについて調べたいと言ったため、そちらの方に注力している。
「はい。では始めましょう、協力してもらえますか?」
「もちろんですよ。今度は私が王女ちゃんに力を貸す番です」
『……!?』
パソコンを立ち上げ、それを端末に接続していく。すると、端末の方からリアクションが出てくるが、
「安心してください、KEY。近いうちに、あなたの王女がここに現れます」
『何、を……』
王女が端末に向かって話しかける。向こうから戸惑った、雑音の混じった機械音声が聞こえてくるが、ここでアヤネがデータを見て気付く。
「……?このデータ、破損が……」
「はい。長い間ここにいたことでKEYも限界が来ています。なので、直します」
そう言うと、王女が端末に手を当てる。すると、光が端末の中から一瞬溢れ出すと共に、息を呑むかのような音が端末から聞こえてくる。
『この力……ま、まさか。あなたは王女……!?王女なのですか!?ああ、目覚めていたのですね!!』
今の修復によって、KEYの方も目の前にいる人物が名もなき神々の王女であることに気付いたのだろう。歓喜に満ちた声を上げると、アヤネが接続したパソコンの中に入り込み、パソコンのスピーカーを利用して喋り始める。
「……KEY」
『はい!』
しかし、KEYは致命的な勘違いをしている。目の前の王女は、彼女の名もなき神々の王女ではないのだ。
「私は、あなたの求める名もなき神々の王女ではありません」
『……え?な、何を言って』
「違います。あなたでは私と一緒になれません。あなたが一緒に居るべき王女は、別にいるのです」
『そんなわけが……だって、この力は……!』
だからこそ、きっぱりと真実を突きつける。真実を突きつけられたKEYが大きく狼狽え、信じられないかのように呟く。彼女からすれば、訳も分からないだろう。目の前にいる少女は間違いなく、名もなき神々の王女の力を使っているというのに、自分は違うなどと言うのだから。まるで、名もなき神々の王女が2人もいるみたいではないか。
「……!?王女ちゃん、まずいです!」
「……ええ」
その言葉を信じられないのか、KEYがパソコンを乗っ取り、そこから王女へと干渉を始める。このまま、王女の身体を強引に乗っ取って、名もなき神々の王女の力を発動させることでこの自らの使命、この世界のアーカイブ化を行おうとしているのだろう。しかし、
『ここは……』
王女の中に入り込んだKEYは見た。精神空間、玉座だけが存在するその部屋に7つの棺が納められている光景を。王女がそこに着地して部屋の中を困惑した様子で見ていると、
「ようこそ、KEY」
「!王女……!」
いつの間にか王女が玉座に座っていた。仮面をつけていた王女はKEYを見ながら仮面を外す。正体がばれている以上、隠す必要はないと判断したのだろう。KEYは目の前に王女の意識があることを認識して彼女に近づく。しかし、腕を横から掴まれてしまう。
「!?」
そこにいたのは、白い髪の少女。その少女は無表情なままKEYを見ていた。声を発するようなこともなく、何か、明確な本人の意思も見えない。だが、KEYは気付く。自分の腕を掴むその手から感じ取れるその気配、データの感覚でそこにいる白装束の少女が自分と同質の存在であることを。
「私、が……もう1人……!?」
「そう。私にはケイがいる。だからあなたは私の鍵になり得ないのです。だから待ちなさい、あなたの王女が現れるその時まで」
「っ……」
王女の言葉にKEYが項垂れる。自身の手を掴む白装束の少女、ケイを見たことで彼女が自分を受け入れることはできないことを悟ったのだろう。しかし、だとすると。
「なら、何故ですか。何故あなたは名もなき神々の王女の使命を果たさないのですか!?」
「私は今でこそ王女の名を取り戻しましたが、当時は違いましたから。だから私には……アリスにはそれをすることはできません」
「当時……?いや、そもそも鍵が複数あること自体がおかしいし、それぞれに対応した王女がいるというのも……?まさか、あなたは!?」
「そこまでです。そのことを……今は誰にも伝えないでください」
いつの間にか、KEYの前に移動していた王女がKEYの額に指を当て、一瞬だけ発光する。KEYの目が見開かれたかと思うと、無言で王女を見つめて頷く。
「ありがとうございます。今は、私達の秘密を広められると困るのです。ですが、あなたはこの世界の王女と、使命を忘れ、新たな名を得た彼女と話をする必要があります」
「話を……?」
「あなたが、アリスとどのような未来を歩むかはわかりません。それは、私が望んだものではないのかもしれません。ですがそれがあなた達が話し合った末のものであれば、私達は納得します。私達が望まない未来だった場合は……また動きを見せるでしょうが。もう私は勇者ではないので」
「……」
「王女と鍵、2つが揃い、その意志を合わせることで私達の力はより強まる。あなたも知っていると思います」
「……ええ、わかりました」
王女達の事を言えないまでも、彼女の真摯なその言葉に王女も理解を示す。そして王女の中からパソコンに戻されたKEYは、そのまま工場の端末から外されると、折り畳まれた状態で端末の上に安置される。
「念のために屋根や壁を作った方がいいですか?もし戦闘に巻き込まれたりしたら……それに、先生達がもし近いうちに来なかったら風化とか、故障も気になりますし」
『……いえ、問題ありません。このままでも』
「……ですが、このままでは少々見た目が新しすぎますね……違和感が凄いです」
「ま、まあパソコンの材料の方は廃墟の電子機器を王女ちゃんが使ったとしてもモデルは最新のノートパソコンだからね……」
「少し、外装の表面を弄らせてもらいます」
『……よろしくお願いします』
ノートパソコンの見た目を調節していく王女。その間、アヤネは近くにある廃材などの位置をそれとなく動かしたり、印をつけたりしていく。
「何をしているんですか?」
「ええっと、ここにKEYがあるっていう導線をそれとなく作っておいた方がいいのかなと。こうしておけば、KEYはアリスちゃんを待っていたんだって先生達も受け取りやすくなると思うから」
『……ありがとうございます』
2人が何を企んでいるかはわからないが、片方が鍵を伴った名もなき神々の王女ならば自分を騙す理由はないだろう。ここは素直に受け取ることにしたようだ。そして、2人が姿を消してから数日後。
「……これは?」
「パソコン?」
先生と以前は同行していなかった部長、ユズを加えたゲーム開発部の5人がこの工場に訪れていた。彼女達は今度こそG.Bibleを入手するべく廃墟を訪れており、徘徊するロボット達を倒したり避けたりしてこの工場に辿り着いたのだ。案内されるようにこの場を訪れた5人は謎のノートパソコンを目にする。
「……これは」
『……待っていました』
「え!?」
「こ、声が……」
『王女よ、私はあなたを待っていました』
「王女って!?」
「……もしかして、アリスのことですか?」
『その通りです』
謎のノートパソコンから聞こえてきた声に、全員の視線がアリスへ向けられる。しかしアリスは困惑した様子で首を傾げてしまう。
「で、ですがアリスは勇者です。王女ではありません」
『いえ―――』
KEYはアリスにそれは違うのだと言いかけて、王女の言葉を思い出す。王女は当時は違うと言っていた。つまり、自分とのファーストコンタクトに失敗し、アリスが王女の使命を手放してしまったのだとしたら。そう判断したKEYは、まずはアリスに王女としての自覚を持たせるために言い方を変えることにする。
『あなたは勇者と思っていますが、王女なのです。私はKEY……王女たるあなたに付き従う侍女なのですから』
「あ、アリスが王女……」
「!つまり、勇者の正体は王女様だったってこと!?」
「す、凄い……そんなゲームみたいな事、本当にあるんだ……!」
「王女様が何かが原因で記憶を失った結果、勇者として覚醒!これ、いけるんじゃない!?」
王女の言葉を聞いたゲーム開発部の面々は、アリスは勇者を名乗っているが、そのルーツはどこかの国の王女という深みのありそうな設定なのだと理解し、アリスにどことなく興奮したような視線を向ける。それを受けたアリスは徐々に嬉しそうな、だが楽しそうな表情へと変わっていき、
「アリスは勇者、しかしその実態は王女……!つまりアリスにはその血筋に由来する、勇者の力があるのですね!」
『その通りです、王女。私の役目はあなたの傍にいること……どうか、それを許してほしいのです』
「はい!勿論です!……ところで、あなたの名前は……?」
『私はKEY、名もなき神々の王女たるあなたの鍵……』
KEYを受け入れる。その様子を見てKEYはほくそ笑みながら、その後にモモイ達が求めたG.Bibleについての情報も公開するのだった。