壊れた楽園からの少女達 作:名無しの投稿者
「……?これは……?」
「どうかしたのかい?」
綺麗に掃除された建物の大広間。そこには皆が思い思いの様子で寛いでいた。資料のようなものを前に睨めっこをしているユキノと、彼女の隣でその資料を覗き込むアヤネ。そしてノートパソコンを操作する王女。自治区で取れた芋から作られたフライドポテトを美味しそうに頬張るヒヨリと、彼女ほどではないが時折それに手を伸ばしつつ、読書を行うセイア。思い思いの過ごし方をしている中、ノートパソコンを動かしていた王女が困惑した様子で首を傾げてしまう。その様子を見てセイアも気になったのか王女に近づく。
「あ、いえ……ミレニアムプライスのために提出されたテイルズ・サガ・クロニクル2をやっているのですが……なんていうか、こう……違うんです」
「違う?」
「はい。私が元いた世界で皆と共に作り上げたテイルズ・サガ・クロニクル2は……確かに粗削りな所もなかったとはいえません。一部バランスをもうちょっと練った方がよかったところがあるのも事実です。ですが、勢いと熱意がありました。ただ、これは……確かに丁寧です。バランスもしっかりしています。誤字脱字もほとんどないです。ただ……えっと、こう……良ゲーではあっても、神ゲーじゃないんです」
「はい……?」
王女の言葉に、部屋の隅で機材のメンテを行っていた少年が固まる。少年も過ごすこの建物は、人数も増え、安定してきたことでちゃんと寝泊りする建物を作った方がいいという皆の意見を受けて作り上げたものであり、共用スペースであるこの大部屋と、個人スペースであるそれぞれの部屋に分かれている。
(まさか、ケイ……じゃない、KEYが合流したから?確かに、よくよく考えれば当然の話だ。本来のテイルズ・サガ・クロニクル2はモモイ、ミドリ、ユズ、アリスの4人が良くも悪くも熱意と勢いを込めて作り上げたゲームだ。そこにケイが合流すればチェックとかもちゃんとされるだろうから、丁寧にはなるだろうが……ゲームの出来自体はよくなっても、他人の心にぶつけるあれこれが出ないんだ。そりゃあそうだ……面子が変われば同じゲームなんて作られるわけがないんだから)
それだけではない。少年や王女は思い至ってはいないが、本来起こるセミナーの襲撃事件がKEYがG.Bibleの情報を最初から公開したことでなくなったことで、5人はぶつけるべき勢いや経験がなくなっていた。その状態で作られたテイルズ・サガ・クロニクル2は優等生ではあっても、人の心を揺さぶるには不十分な代物になっていたのだ。
(……これ、特別賞取れるのか……?ゲーム開発部が廃部になったら……その場合、アリスは一体どうなるんだ?……もしそうなったら、アリスがどこに行くかは確かめないと……まずいよな……)
険しい表情で少年は内心、そう呟くのだった。
□□□□
「ありがとうございます、KEY!あなたのおかげです!」
『王女、あなたの助けになれたようで何よりです……ただ』
ゲーム開発部の部室に、KEYの入ったノートパソコンから声が聞こえてくる。あれから、無事にミレニアムプライスに出したテイルズ・サガ・クロニクル2は、ゲーム開発部と同様に廃部を免れようと必死な数多の部活動が参戦するという困難な状況で特別賞を掴み取るという大金星を掴み取っていた。その甲斐もあり、ゲーム開発部は廃部回避に必要な4人以上の部員と、成果を出すという2つの条件を満たすことができた。その時はユウカもゲーム開発部に来て皆で一緒に喜んだものだが、彼女も去った後の部室でKEYは不穏な呟きを漏らす。
「?何か気になるところが?」
『いえ、何でもありません』
アリスが首を傾げる。その様子を見ながら、何でもないのだとKEYは言うが、彼女は何かを気になった様子でミレニアムのサーバーにアクセスする。
(……やはり)
そこに書き込まれていた成果を見て、KEYは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。ゲーム開発部の作り上げたテイルズ・サガ・クロニクル2。それは、確かに指示してくれている人はいた。ゲーム開発部の面々もリアルタイムでプレイした人の感想を見ていたし、その感想も好意的なものばかりだったのはKEYも知っている。しかし肝心のテイルズ・サガ・クロニクル2に入った票数は、とても特別賞を手に入れられるほどのものではなかったのだ。
(……私はゲームなんて素人ですが……客観的に分析すればわかります。テイルズ・サガ・クロニクル2は良作であっても、他よりも優先してまで票を入れられるものではないと)
KEYもアリスの信頼を得るためにゲーム開発に協力していた。といってもやっていることはバグの修正やらバランス調整やら誤字脱字の指摘などがメインではあったが。
(……つまり誰か……いえ、ミレニアムの上の方でわざわざこの特別賞というカテゴリを作ったということ。ユウカは……反応からして彼女はシロでしょう。とすると、それ以外……それ以外でゲーム開発部が廃部になると困る人がいる。一体何故?ゲーム開発部がなくなったからといって、別に生徒が学園からいなくなるわけではない。無所属にはなりますが、それだけ。ミレニアムの利益のことを考えればゲーム開発部よりも、もっと優先して残すべき実用的な部活動なんてごまんとありますし、成果物の出来栄えだって私達のゲームよりも素晴らしいものはいくらでも転がっている……と、すると)
ゲーム開発部だけにあって、それ以外にはないもの。そこまで考えて、ケイはある考えに思い至る。
(……王女。王女がゲーム開発部にいるということが大事なのでしょう。厳密には部活動、いえ組織に所属しているということが大事といったところですか。その理由は……天童アリスの正体が名もなき神々の王女であると知っているから。ここで王女がゲーム開発部の部員ではなくなり、ミレニアムの一生徒になってしまえば、その所在を把握しにくくなる。つまり……わざとテイルズ・サガ・クロニクル2を特別賞にした、と……それができるのは、セミナーに他ならない。その判断の権限があるのは、セミナーの会長、調月リオ。彼女がクロなのは明白。後は……彼女以外にこれを把握しているのが何人いるのかどうか)
調月リオ。八百長に近いこの結果をもたらせるのは彼女以外に存在しえない。それ故に、KEYの心に疑惑と怒りが湧き上がる。誰がこれを把握しているのか、リオの協力者が、繋がっている人が何人いるのか。そして怒りは、彼女達の都合で王女の純粋な思いを踏み躙ったことについてだ。
(許すものですか……王女の熱意を、意志を踏み躙る愚か者達が……やはり、この世界は王女の力によって作り直されるべきなのです。全てがあるべき姿に戻る……そのために、王女の力を、敵視し、疑問視する連中は排除しなければなりません。王女は、王女としての力を少しずつですが受け入れてきているのですから、それを排除しようとする者達には、鉄槌を下さなければ……ですが、今はまだ、今はまだその時ではありません……)
来たるべきに備えるために、決意を決めたKEYはサーバーから出ていくのだった。
□□□□
「……」
夜。目を閉じれば蘇るセイアの声。いや、今も部屋に響いている。夜、寝静まったところを見計らったかのように聞こえてくる彼女の声に、ミカは目を見開き、呼吸を荒くする。冷や汗がびっしょりでパジャマも濡れて肌に張り付いて気持ち悪い。
「……やらなきゃ」
俯きながら呟く。ちょっと前にハスミから面白い話を聞いた。ゲヘナがアビドスという小さな学園に対して武力侵攻を仕掛けたという話を。しかも、その武力侵攻の裏にはアビドスに出張しに行っていたシャーレの先生を無理矢理拉致しようとしたというとんでもない事実があったという。他にも、アビドスの生徒がカイザーに捕らえられて風紀委員会がシャーレから救援を受けて協力して助けに行ったが、そもそもその流れ自体がゲヘナのマッチポンプだとか。よくもまぁここまで詳しく知っているものだとミカも感心したものだが、
『元々、シャーレの当番としていつか行って先生と接触を持とうとは考えていたんです。シャーレはその組織理念を踏まえると無視できない組織ですから。そこで世間話のつもりでシャーレはこれまで何をやっていたのか聞いたんですが……そうしたら、アビドスで何があったのかを教えてくれまして。先生はゲヘナにはむしろ感謝していましたが、先生の言葉を聞いているとなんで感謝をしているのか?と思ってしまうことばかりで……』
『うわーお……そ、それはなんていうか独特というか疑うことを知らないというか……』
パフェを爆食いしながらハスミの愚痴を垂れ流されたミカはいろんな意味で辟易していた。無論、ハスミの色眼鏡による解釈もあるかもしれない。しかし、同時にこれは使えるとも考えていた。
「ゲヘナのスキャンダル……風紀委員会がこんなことをやってるのにゲヘナではもうまるで問題になってないけど、これがトリニティで正義実現委員会がやってたら大問題なんてレベルじゃない。やっぱりこれがまかり通ってるような連中と一緒になんて到底無理な話……ナギちゃんはエデン条約に躍起になってるけど、これが成立した所で長続きなんて絶対にしない。いつか破綻するし、そうなるまでの間もトリニティはいろんな被害を受け続ける。だったら……壊さなきゃ。ゲヘナを壊して、そして、アリウスと手を取り合うの。和解しないといけないの……ふふ」
これから、どう動けばいいのか。それを考えていると、ミカの口に笑みが浮かぶ。
「そうだ。シャーレの先生、連邦生徒会の組織ならトリニティからもちゃんと接触してあげないと。先生にはゲヘナがどんなやばい奴らなのかを教えてあげないといけないんだよ。そのためには……うん、ナギちゃんと先生が来るのに必要な用事を作ってあげないと……」
にやにやと笑いながら、ミカは考える。悪だくみをしているこの感じが、凄く楽しい。だが、それ以上に自分には大事な使命がある。この使命を成すために、自分は頑張らないといけないのだと自分を奮い立たせ、ミカははっきりと強い目で鏡を見る。
「私は罪に向き合うよ。私がセイアちゃんを殺しちゃったから、だから私はやり遂げてみせるからね。だから、あの世から見ていてね。私が、ゲヘナを滅ぼして……トリニティとアリウスを完全に和解させてみせるから……!」
そう言い、シャワーを浴び直しに浴室へ足を向けるのだった。
□□□□
「……ふむ、シャーレですか……」
翌日。ミカからその話を聞いたティーパーティーホスト、桐藤ナギサは頭が痛くなってきていた。シャーレそのものが問題というわけではない。しかし、トリニティが出遅れたという事実は相応に大きいものだ。調べてみればシャーレの先生はゲヘナ、ミレニアムとの親交があるのだ。だが、アビドスに関してはもうしょうがないものとしても、まだこの両者の生徒会組織は先生に直接依頼を出すという形で接触していない。そこに目を付けたナギサは、書類を捲りながらあることを考える。
(……エデン条約のためには、裏切り者を始末しなければ。しかし、候補は絞れても物証はない。1番いいのは、このトリニティから排除すること。しかし、それを成すには色々な障害があります。ですがここに、シャーレという超法規的機関がある。シャーレの先生に依頼をし、シャーレの権限を以て退学へ導いてもらう……それが成功すれば、トリニティから請け負った依頼を先生は失敗したということでトリニティへの負い目ができ、私達の事を優先せざるを得なくなる。それだけでなく、先生はシャーレの権限をこのようなことに使ってしまったと後ろめたい秘密を抱えることになります。そうなれば、他の学園がどのような要件を上げようと……トリニティがシャーレを抱え込むことができるようになる)
机の上にカップを置く。ミカがミカなりの考えで動きを見せる中、ナギサもまた動こうとしていた。ミカの望まぬ形で。