壊れた楽園からの少女達 作:名無しの投稿者
「……と、いうわけです。先生、この件についてですが……シャーレで是非受けてもらえないでしょうか?」
トリニティ総合学園、ティーパーティーのテラス。そこには先生の姿と桐藤ナギサの姿があった。途中まで、ミカの姿もいたが、ナギサの発言に茶々を入れるようなことが何回かあったので話が進まなないとナギサは無理矢理下がらせていたがそれについては割愛するとして、
「もちろん、引き受けるよ。だけど……生徒達をそうやって閉じ込めるのは」
「先生、あなたの言いたいことはわかります。私としても、本来こういうことをしたくはないのです。ですが……そうせざるを得ない事情がある、という点は先にご了承ください」
「う、うん……」
ナギサの発言を聞いた先生は、微妙そうな表情を浮かべていた。ナギサからの依頼は、補習授業部の顧問を引き受けてほしいというもの。この補習授業部はテストで落第点を取ってしまった者達への滑り止めとして設立されたものなのだ。先生だって、補習授業部が設立された理念自体は理解できるし、そこに所属してしまった生徒達の為に尽力すること自体はむしろ歓迎だ。だがそこに、連帯責任という要素が入ってくるとなると少し話が変わってくる。
「まず、そもそもの話として補習授業部に所属するに至ってしまったという時点で、少なくとも学力において問題ありなのです。むしろ、普段なら補習授業部なんて作られません。ほとんどの生徒はたった1回のテストだと思って臨んでいるのですから、むしろチャンスが追加で3回も用意されている時点でかなり破格の待遇なのです。まあ、それができるのも超法規的機関であるシャーレと先生がこのキヴォトスに現れてくれたおかげでもあるのですが……」
「う、うん」
ここまではわかる。学園によっては1回だけなら補修を用意してくれるところもあるかもしれないが、ナギサは1週間に1回、それを3回やろうとしているのだ。こう言われると先生も納得するしかない。
「だとすると、相応のリスクも受け入れてもらわなければ。最初の1回で合格しても、残る生徒達の中に不合格者がいたらその生徒には残留してもらい、引き続きテストを受けてもらいます。1回目で合格しても2回目で不合格なら1回目の合格は取り消します。3回目までに全員が合格した場合、その場合は補習授業部全員が解放され単位を取れます。とはいえ、3回目までもつれ込んで全員が合格していなかった場合、合格している人だけを単位拾得者として反映しますが。ここまでやれば、思い知るでしょう?普段からちゃんと勉強をやっておけばこんな苦労をする羽目にはならなかったと。まあ、早い話が……テストの日は事前に決められているのですからそれに合わせて勉強を怠った人たちの自業自得でこうなってるだけ、という前提はしっかりと受け入れてもらわなければ」
「うーん……」
「それに、合格した人からすれば2回目もテストを受けなければいけない、というのは中々のプレッシャーですよ?この意味、先生ならわかるのでは?」
「……あ」
合格したのに合格じゃない。そんなぬか喜びをさせるようなシステム、これこそが連帯責任であり、先生が微妙な反応を示していた要因だ。しかし、ナギサにそう誘導され、先生は思い至る。何故、このようなシステムをナギサが考えたのか。
「そっか、合格した人は他の人に教える側に回るってことだね」
「そういうことです」
納得したように頷く先生。彼がテラスから出て行った後に1人だけとなったナギサは不敵な笑みを浮かべる。
(深く疑うこともせずに受けてくださって助かりました、先生。ですが、補習授業部が全員合格をすることはありえないのです。何せこれは、エデン条約の調印式の締結を妨害する裏切者を排除するための場所なのですから)
今頃、先生は補習授業部に所属する生徒達に会いに行っていることだろう。1人は阿慈谷ヒフミ。テスト当日にそれをブッチしたことで補習授業部行きになった……というのが表向きの理由の少女だ。実際はブラックマーケットに出入りしているだの、怪しい存在と繋がっているなど黒い噂が絶えない。ナギサの親友の少女ではあるが、さすがにこの状況でテストを堂々とすっぽかしたとなれば怪しまざるを得ない。
もう1人は浦和ハナコ。かつては天才とも称され、成績も優秀、各派閥からも声がかかる程の人物だったが、最近はわざととしか思えない程テストで悪い点を取り始める、水着になって街中を徘徊し始める奇行に出るなど、不穏な要素が多すぎる。
そして、白洲アズサ。立て籠もり事件を行い、正義実現委員会相手に数時間も粘るというとんでもない事件を引き起こした挙句、過去の経歴が一切不明という怪しさの欠片しかない少女。
ここまでの3人が2年生。そしてもう1人、1年生の下江コハル。彼女に関してはコハルそのものが、というよりも正義実現委員会、特に対ゲヘナに対して反感を持ち、その反ゲヘナ感情が過激な点が見えるハスミを筆頭とした面々への牽制という意味合いが強い。なお、テストに関しては何故か上級生のテストを背伸びして受けて落第点になるという少々おまぬけな状態を晒していたりする。
(コハルさんだけは巻き込まれたことそのものは不憫ではありますが……まあ、そもそもテストの点数が悪い事自体は事実ですので。普段からちゃんと勉強して身の丈に合ったテストを受けていれば結果はまた変わったでしょうに……さて。補習授業部の部長に任命したヒフミさんにはこの補習授業部が退学を免れる唯一の条件を教えてはいますが……それが伝えられることはおそらくないでしょう)
3週間。この3週間で裏切り者は処されるのだ。それを回避する最大の鍵は、ヒフミ、そしてハナコにあるとナギサは睨んでいた。だからこそ、既にヒフミには手を打っている。
(補習授業部という環境自体がすでにプレッシャーの塊。その状況で退学がかかっている、なんて事実を教えられるよりは、単位を落とすだけと考える方が気楽ですから。早々言えないでしょう。そして、そうである限りわざと醜態を晒したがっているハナコさんが合格することはありえない。まあ、敢えてここに変化を加えられるとすれば先生ですが。先生は退学の件を知らないので)
ヒフミには伝えているのは、後程そんな話を聞いていないと言われた時の言い訳のためだ。しっかりヒフミには伝えておいた。そう言っておけば追及できなくなる、ただそれだけの話である。
(……これで、問題ない。そう……これで)
紅茶を飲みながら、ナギサは微笑む。その様子を見ながら、先生のいなくなったテラスにふらりと戻ってきたミカも笑みを浮かべながら席に座る。
(……ナギちゃん、補習授業部に入れた子達みーんな退学にしようとしてるんだから参っちゃうよね)
しかし、その視線に込められていたのは、ナギサの事を肯定するものではなかった。だが、同時に感謝にも似た感情も含まれていたが。
(まあ、コハルちゃんは完全にとばっちりなのは可哀そうだけど……ハナコちゃんが気になるのはわかるし、ヒフミちゃんも行き先が行き先だからねえ……多分ヒフミちゃん自体はシロ……のような気はするんだけど、ただ悪いけどこれはヒフミちゃんの自業自得かな。うーん、でもアズサちゃんを退学にされるのは私としては困っちゃうかなぁ)
全てをナギサの思い通りにさせるわけにはいかない。特に、補習授業部に入れられたアズサは、ミカがある理由もあってトリニティへ編入させた相手なのだから。
(参ったなぁ、トリニティから先生に粉かけておいた方がいいよとは言ったけど、こうなるとは正直思ってなかった。でも……)
ミカを相手にして安らいだ表情を浮かべるナギサ。彼女は全く疑っていないのだろう、彼女がこうまで躍起になって探している、エデン条約の調印を妨害せんとする裏切り者が目の前にいることに。
(ナギちゃん。そっちがその気なら私も私とアリウスとトリニティのために動くからね。ふふ、トリニティらしく……戦おう?)
紅茶を含みながら、ミカはナギサにバレないように不敵な笑みを浮かべる。そして、見えない宣戦布告をナギサへと叩きつけるのだった。
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「……と、いうのが連邦生徒会 防衛室長 不知火カヤとFOX小隊が手を組んで行う、連邦生徒会への襲撃計画だ」
「うわぁ……お、思った以上に用意周到、ですね……」
「……今にして思えば、あまりにも穴だらけだがな」
ヘイマール自治区。D.U.地区の地図を広げながら、ユキノが皆に説明する。FOX小隊の凶行と、それに伴うSRT学園廃校への事実上の最後の一手。抗議のために連邦生徒会に襲撃を仕掛ける。今にして思えば明らかに悪手としか思えない行為。実際、これによってSRTは消え、SRTを復興させるためという条件と襲撃を行ったという罪でFOX小隊はカヤの私兵に成り下がったのだ。あの時は言葉巧みにカヤに誘導され、自分達の不満を利用される形でこの襲撃を行ったが、さすがにこの世界で同じ轍を踏むわけにはいかない。
「……これが全ての始まりだ。だからこそ、ここをどうにか止める」
「ふむ……それは構わないのだが。1つ聞いてもいいかな?」
「なんだ」
FOX小隊が当日、どのようなやり方で連邦生徒会を襲撃するのか。その説明を静かに聞いていたセイアは溜息を吐き、その場にいる面々を見る。そして、
「この戦力でどうにかなるのか?」
「そ、そうですよ。ヴァルキューレにこの事を伝えて出張ってもらう方が、私達もばれずに済みますしリスクがないように思いますが」
懸念点として、戦力の問題を伝える。ここにいる面々で戦闘をこなせるのはユキノ、王女、ヒヨリ、そして少年の4人。アヤネやセイアも人並みには戦えるが、相手がFOX小隊となると、後方支援はともかく最前線で戦うのは些か力不足というものだろう。それに正体がばれてしまうリスクもあればもっと自然な形で解決できないかとも思うのだが。
「いや、ヴァルキューレに頼んでもまともに動かないだろう。この時点では確証の無いただのホラにしか聞こえないからな……それに、ヴァルキューレが動いてくれたとしても、見回りを強化するとかそれぐらいが関の山だ。そうなればその場での襲撃を取りやめてまた後日、になるだけだ」
「つまり、この襲撃を止めるには俺達がFOX小隊を襲う必要があるってことか」
「ああ。そうすればニコ達も疑問に思うはずだ。今がどういう状況なのかを考えるようになる……そうすれば、今の自分達が何をするべきなのか、考え直せるはずだ……結局、そうなったらどうするのかが正解なのかは今の私でもわからないがな……」
ヴァルキューレに頼ることはできない理由を言い、ユキノはふっと自嘲するように笑う。これは、最悪を回避するだけだ。しかし、最悪を回避することでスタートには立てる。ならば後は上がるだけ。今はそう考えて、未来の自分達とSRTの皆のためにユキノはここから対策を考え始めるように皆の顔を見る。
「そ、そういえばトリニティに行かなくてもいいんですか……?先生はもう補習授業部?に行ったんですよね……?」
「それが、トリニティの方から先生だけが来てくれって通達が来て……行くことができなかったんだ」
「ああ……まあ、当然といえば当然だ。表向きは補修のために作った部活の顧問だからね。テストに関する話なので他の学園の生徒はご遠慮願います、なんて言われてしまえば受け入れざるを得ない」
「まあ、だからまずはこっちをどうにかするためにユキノに協力するさ」
「……すまない、助かる」
セイアがミカに接触したことがどう転ぶかはわからないが、セイアの反応を見る限りは成果は上々なようにも見える。ならば悪化することはないだろう、そう考えながら少年はユキノらと共にFOX小隊襲撃計画の内容を詰めていくのだった。