壊れた楽園からの少女達 作:名無しの投稿者
―――夢を見ました。それは、鋼鉄大陸での戦いで負けた夢。
預言者達を1体ずつ倒し、マルクトにも勝利した。だけど、まだ終わっていなかったんです。
最後の敵、デカグラマトンが現れました。デカグラマトンはマルクトを素体として降臨して。
アリス達は、マルクトを失い、泣いているアイン、ソフ、オウルと再び出会いました。
彼女達と和解して。デカグラマトンに勝って、ハッピーエンドを手に入れようと。
皆がいて、先生と一緒ならできると。そう、思っていました。
ですが、何もできませんでした。何もできず、圧倒されて、負けてしまいました。
先生も何もできませんでした。ただ、デカグラマトンを相手に跪いて許しを請いていました。
アリス達の為に、子供達を返してあげてほしいと。私はどうなってもいいからと、必死にそう言っていました。
でもデカグラマトンは先生の言葉を聞きませんでした。戦うことを選択したのは先生だと。それに生徒達を巻き込んだのは先生だと。
デカグラマトンは選択したのならば責任を取るべきと言いました。その直後、先生はデカグラマトンに殺されてしまいました。
ですがデカグラマトンはアリス達を逃がすつもりはありませんでした。巻き込んだとはいえ、戦うことを選んだのもまた、生徒達だと。まるで、反撃の芽を摘むかのように、まずケイが殺されました。
次にリオ会長が殺されました。ヒマリ先輩、トキ、エイミ。そして、ユズ、ミドリ、モモイ……1人ずつ殺されていき、最後にアリスが、巨大な光に呑まれ、鋼鉄大陸が破壊され、海に落とされました。
海に落とされたアリスに、ケイが近づいてきました。ケイは、まだ生きていました。ですが、もう限界でした。
アリスはケイから力を受け取りました。名もなき神々の王女の力。もし、その力を最初から使っていれば、何かが変わったかもしれない。
先生を殺され、皆が我を忘れてデカグラマトンへ特攻していくところを助けられたかもしれない。
先生が諦めて、頭を下げずに最後まで戦っていれば、まだ何かが変わっていたかもしれない。
アリスは―――いえ、アリスは……名もなき神々の王女。王女として、最初から生きていくべきだったのかもしれません。
もう、力の入らない手を水面へと向けると、その手にケイの銃であるルミナス・ノヴァが触れる。アリ……私は、ケイと一緒に眠りにつくのでしょう。この、
でも、もしやり直せるなら。今度こそ、デカグラマトンに勝つために。そして、もしやり直せるなら。私は……
そんな、できもしないことを考えながら目を閉じようとすると、私の視界を光が包み込みました。その光がどこか心地よくて、意識が解けていく感じがして―――
「……?」
アリス。そうであった、今は王女と名乗ることを決めた少女が目を覚ます。自分はボロボロの木で組み立てられたような廃墟で、複数の木箱を繋げて上に布を敷いただけのベッドの上で寝ていた。
「ここ、は……」
身体を起こす。自分の服装は、装甲こそ残っていないもののあの戦いの時のままだ。ただ1つ違うのは、見たことのない学校の校章を刻まれた上着を毛布代わりに上にかけられていたこと。
「鋼鉄大陸じゃ、ない……?それに、デカグラマトンは……」
ここはどこかの学園の自治区なのだろうか。ゆっくりと体を起こす。木箱から降りて、閉じられた扉に手をかけるも、建付けが悪いのか中々開かない。少し力を込めて思いっきり扉を横にスライドさせると、ベキッという嫌な音が響く。
「あ……」
取っ手が外れてしまった。それを見て、王女はやってしまったと後ずさる。ここに自分が寝ていたということは、誰かが助けてくれたということだ。その人の家……かどうかはわからないが、自分を寝かせてくれたこの建物を壊したとあれば問題だ。
「……ど、どうしましょう。このままでは、ア……私は、怒られてしまいます。直さないと、でもどうやって直せば」
ふと、手にした取っ手を見ながら、王女は思い出す。王女は、過去の戦いでまだ天童アリスとケイであった時に、この力を行使したことがあった。名もなき神々の力を用いた物質の再構成、この場所にはその力はあまりないため、鋼鉄大陸でやったような大それたことができるわけではなくなっている。それでも、
「……できました」
その時のことを思い出しながら、取っ手を扉に付けると光が迸る。すると、破損などなかったかのように取っ手が扉に付けられており、それを見た王女は安堵する。
「……ここは、どこなのでしょうか」
取っ手に手をかけ、今度こそ破壊しないようにゆっくりと開く。建付けが悪いのはそのままだが、取っ手部分はしっかりしていたため、今度は壊れることはなかったようだ。家屋の外に出ると、そこは校庭のような場所が広がっており、自分が寝ていたのは校庭の中に幾つか建てられた倉庫のような建築物の1つだったことがわかる。
「……不気味な空です。ですが、少しだけ安心しま……あ」
王女が空を見上げていると、校門の方から水の入ったポリタンクのようなものを両手に持ち、背中に籠のようなものを背負った少年の姿が目に入る。少年も王女に気付くと、そのまま近づいてくる。
「あー、目が覚めた?」
「あ、は、はい……えっと、ここは、どこですか……?」
「ヘイマール自治区……って言っても、わからないか」
王女が少年に声をかける。そしてこの場所の事を聞いたのだが、聞いたことのない自治区の名前に首を傾げてしまう。とりあえず何があってここに現れたのか、どう説明しようかと考えていた少年だったが、いっそ直接あれを見てもらおうかと考えると、
「とりあえずこっちに来ていいかな?見てもらった方が早いと思うんだ」
「は、はい」
一旦荷物を建物の前に置いてから王女を連れて、体育館に向かう。儀式の跡を見た王女は驚いた様子で儀式に使われていた魔法陣に近づき、観察し始める。その様子を見ながら、少年は頭に手を当てる。
(やっぱり、少しだけ気分がよくなってる。彼女……アリスが現れたから?儀式自体は成功した……と思うんだけど、これは、大丈夫なのか?アリスを呼び出してしまったってことは、アリスのいた世界は……だけど、あの時垣間見た光景が真実なら。彼女のいた世界は……)
ブルーアーカイブのことを知っているのもあり、少女の見た目から、彼女が天童アリスであることはわかっていた。だが、彼女がこの世界に来てしまう直前に少年が見た光景は、デカグラマトン編で敗北したif、といったところか。
(……でも、どうするべきなん……)
魔法陣を見ていた少女がやがて顔をあげて少年を見る。少年も彼女の視線に気付くと思考を打ち切って視線を向ける。
「どうした?」
「あの、私は、この魔法によって呼ばれたんですよね?」
(私?でも……アリスじゃないのか?)
「今の私にはわかります。これは、力があります。おそらく、私のように他の人も呼ぶことができるのでしょう。だからこそ、知りたいんです。あなたは何故、私を―――名もなき神々の王女を呼んだのですか?」
「っ!?」
彼女は、自分の事をアリス、ではなく私と言った。ではこれは、天童アリスではないのか。そう思っていたが、すぐに彼女は自分の事を名もなき神々の王女と言った。一体どういうことなのかわからないでいたが、ひとまず話を聞かなければならない。お互いに、わからないことの方が多いのだから。そう判断し、少年はゆっくりと頷くと、
「……わかった。何があったか……お互いに話し合おう」
そう言うのだった。
□□□□
近くにあった木箱を椅子替わりにして座った2人。少年が何をして、何故王女がこの世界に現れたのか。王女がこの世界に来る直前に何があったのか。それをお互いに話し合うと、少年は顔に手を当てる。
(……アリスがケイから鍵の力を受け取った、か。そしてアリスは名もなき神々の王女……いや、王女として名乗ることを決めてここにいる、と……これ、どうするんだよ)
ただ、この悪夢から逃れたくてやっただけだ。その結果で他の生徒が呼ばれてしまったと言われてもどうしようもない。何より、これから王女はどう生きるつもりなのか。それを問いかけると、
「今が何時なのか教えてもらいましたが、今は私が……天童アリスが目を覚ます前なんです。なので……おそらくですがこの世界のアリスを目覚めさせる前に私がそこに入ることは……できると思います」
両手を見ながら、王女が言う。王女には名もなき神々の王女を用いた物質の再構成という力があり、鋼鉄大陸で使えたものより規模は劣るものの、この世界の天童アリスが寝ている場所の扉を突破して自分がそこでゲーム開発部達を待つ、なんてこともおそらくは可能だろう。だが、それをしたいとは思わなかった。
「でも、それを望みません。私は……負けた存在ですから。そこから、こうしてこの世界に流れ着いて
いますが……この世界の私になって、やり直そう、なんてことは思えません。この世界の私にも、ケイにも……きっと、人生がありますから」
「……その」
「だから、別の存在として生きていくことしかできない……んだと思います。それでも」
王女の言葉に少年は何かを言おうとして黙り込む。既に王女はこの世界で別の存在として生きていくことを決めている。王女は少年に笑いかけると、王女自身の言葉を告げていく。
「でも、この世界に来れてよかったと、少しだけ思っています」
「思ってる?」
「はい。私は未来を知っていますから。私がいたからってデカグラマトンに勝てるかどうかはわかりません。ですが……未来を知っているから、何かをしたいと、そう思っています」
「未来を知っているから……」
王女の言葉に少年は黙り込んでしまう。転生して、原作知識があって。だが、それを使って原作に介入しよう、なんてことは全く思ってはいなかった。下手に流れが歪んだり、どこかで悪影響が出てバッドエンドになったら。そう思うと、とてもそんなことをする気はなかった。しかし彼女は違うのだろう。原作通りに進んだはずなのに、失敗して、奇跡的にここに流れ着いたのだ。
「……だから。私は力をつけます。そのために、ここにいてもいいでしょうか?」
「あ、ああ……」
少年に何があったのかを吐き出して。そして今が別時間軸の過去であることを知って。王女は希望を抱いていた。王女は木箱から立ち上がる。
「ありがとうございます。私はこの力を、もっと使いこなして、熟練度を上げてみせます。あの時、ケイがやった時よりも……」
「えっと、その力、もっと派手に使う事ってできたりしないのか?名もなき神々の王女ってことは……」
「……それは無理なんです。この力を一番使いたいデカグラマトンとの戦いでは、アトラ・ハシースも何も作れません。ケイは、天童アリス達の装備を作ってくれましたが、あれが限界だったからです」
「そうか……」
そもそもケイも味方にいるのなら初手でアトラ・ハシースを作って鋼鉄大陸をどうにかすればいいのでは?という疑問が浮かんだが、どうやらそれは無理だったようだ。だからこそのデカグラマトン編なのだろうが。
(そう、うまくはいかないってことか……)
「……あの。もう1ついいでしょうか」
「なんだ?」
「……この儀式は、まだできるんでしょうか?」
「え?あ、ああ……できる、と思う……多分……って、まさか……他の世界から呼ぼうっていうのか?」
「はい。他にも、私のような人は、世界は存在しているはずです。それは、この世界でも起こりうるものなんです。だからこそ、私は仲間を作り、パーティを作るべきだと思うんです」
「パーティ……」
正直な所、悩んでいる。王女はこう言っているが、それも全部、こちらの都合でしかない。そして、バッドエンドを迎えたという理屈こそわかるが、それが理由でこの世界の流れに介入してもいいのだろうか。そのせいで余計な皺寄せが他にいかないだろうか。こうして別の存在だと割り切れた王女と違い、その人物は自分のことを割り切れるのか。様々な不安が脳裏を過るが、同時にある感情が浮かんでくる。
(もう1人呼べば、俺の重りも軽くなるかもしれない)
王女を呼んで、自分の呪いが軽くなって気分がマシになったように。またもう1人呼べば、もっと軽くなるかもしれない。最終的に色々考えた不安は、その自分勝手な望みに押し負けてしまった。
「……離れてるんだ」
王女を呼び出した時のように魔法陣を修正し直す。既に1度完成しているものを直すのは思ったより簡単だった。魔法陣を王女が記憶するようにじっと見つめる中、魔法陣を作り直した少年はナイフを手に魔法陣の中央に立つ。
「……最初に謝らせてくれ。ごめん」
その言葉と共に自分の指を切りつけ、血が流れる。流れた血が魔法陣に落ち、少年は再び魔法陣の中央に勢いよく手を付ける。再度、少年の中から何かが抜けていく感覚と共に、ある映像が脳裏を過る。
―――1人の男性がトリニティに運ばれる。ゲヘナの校章を見せる救急車両だろうか、その車両から出てきた先生を見た少女達が固まる。
「……先生が死んでいる」
そして一言、誰かが呟いた。そんなことはないと、車を運転していた白髪の少女が慌てて先生と呼んだ男性の心臓に胸を当てたり脈を確認する。だが、先生は既にこの世から去ってしまったことを悟り、崩れ落ちてしまう。
「……ゲヘナが殺した」
「調印式をミサイルで攻撃したのもゲヘナだ」
「やっぱりゲヘナと同盟なんて大間違いだった」
「先生を殺した」
「ナギサ様を襲った」
「ツルギ委員長もどうなったかわからない」
白髪の少女の周囲から次々と、憎悪と怒りが膨れ上がる。その騒がしさに、車両の中からずるずると、重い身体を引きずって小柄なもう1人の少女が這うように出てきた時には、
「……え……?」
事切れていた先生と、トリニティの生徒達に囲まれ、血塗れになっても、どれだけ怪我を負っても止まらない袋叩きを受ける1人の少女の姿があった。
「……酷い世界だ」
それを見届けていた金髪の狐耳の少女がいた。その少女は誰にも見えていないようだが、この記憶を垣間見ている人がいることに気付いているかのように話し続ける。
「この先の結末は簡単さ。先生をゲヘナが殺したと思い込んだトリニティが許す理由はない。話を聞き、改めてゲヘナを滅ぼす意志を固めてしまったミカをパテルは解き放ち、ゲヘナとトリニティの戦争が始まってしまった。他の自治区は静観を続け、その間にアリウスで怪しき実験を行っていた大人の1人勝ち。さて……」
いつの間にかこちらを見て、そう語る少女は言葉を区切る。そこで景色が途切れ―――
「君は、この百合園セイアを呼んで何をしたいと思っているのかな?」
魔法陣の隅。そこには先程までこちらに語り掛けていた少女、百合園セイアが立っていたのだった。