壊れた楽園からの少女達 作:名無しの投稿者
(……何が起こっている?)
七度ユキノは困惑していた。SRT廃校を取り消すため、連邦生徒会へ襲撃を仕掛け、職員達を襲う。それによって自分達の要求を呑ませる。その先に何が待っているのかを知らず、長すぎる飼い殺し状態にも等しい現状の中、様々な不満や狭くなった視野を利用されるかのように爆発させられそうになっていたFOX小隊には、確実な異変が起こっていた。
「FOX4!FOX4!応答しろ!!FOX4!!」
まず最初の異変は、FOX4、天神原オトギに起こっていた。指定ポイントに到着し、いつでも狙撃が可能なように待機していたはずの彼女から突如として連絡が途絶えたのだ。
「く……FOX4のところに迎える奴はいるか!?」
『こちらFOX3!今向か……!?襲撃!襲撃を今、受けてる!私達は……誰かに襲われている!!』
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ユキノのいる位置からではオトギのところへ向かうのに時間がかかる。もし襲撃を受けて無力化されているのなら、救出までの時間をかけるわけにはいかない。即座に他に動けそうな人がいないか声をかけるも、FOX3、高原クルミから届いたのは敵襲を告げる報せであった。
「何……!?」
クルミの目の前に現れる外套を羽織り、姿を隠した王女をクルミは注意深く見る。盾とライフルを武器として持っている彼女に向かってフラッシュシールドを構えながら、出方を窺う。
(まさかFOX4がいきなり無力化されるなんて……敵はスナイパーの位置を把握していた?でも、どうやって……まるで私達の作戦が筒抜けみた……!?)
オトギの救出にすぐにでも向かいたいが、だからこそ慎重に動かなければならない。同時に、どうやって敵は自分達を強襲できたのかについて考えていたクルミの脳裏に、最悪の可能性、裏切り者の存在に思い至る。
(……不知火カヤ……!?)
クルミがその仮説に思い至ったと同時、外套を羽織り、顔を隠したまま、王女が走り込んでくる。盾を構えながら突っ込んでくる彼女に対してクルミもフラッシュシールドを構え直す。もしかしたら暗視ゴーグルといった装備を持っていて、フラッシュシールドの閃光が通用しない可能性もある。だが、通用するならばそこから一気に詰みまでもっていけるし、通用しないならそれはそれで敵の手札を明かせる。冷静に、戦略を組み立てつつフラッシュシールドから光を放とうとしたその時。
「……は?」
フラッシュシールドに王女が触れたかと思うと、一瞬の光の後にバラバラに分解されて消滅していく。目の前で起こった、あまりにも非現実的すぎる光景、こと戦闘において多大な信頼を寄せる、愛銃に並ぶ双翼であったフラッシュシールドのあまりにも呆気なさすぎる消失にクルミは思考が停止してしまい、
「……光よ」
王女のライフルから放たれた光に呑まれて意識を失ってしまった。
□□□□
「……」
目の前に倒れるFOX2、吉野ニコ。彼女の目の前に立っていたのは、別の世界からやってきた方のユキノ。オトギは潜伏場所を教えることで、ヒヨリに一撃で仕留めてもらっていた。無論、オトギも周囲への警戒はしていたのだろうが、まさか自分の場所が既に筒抜けとなっており、そこを別のスナイパーが狙ってるとは予想しておらず、あえなくその犠牲となっていた。
クルミも同様だ。彼女の潜伏場所に現れた王女が、まずクルミの主な武装の1つであるフラッシュシールドを破壊する。目の前で起こった未知の現象に武装を無力化された、となれば当然クルミは虚を突かれることになり、その間は最大のチャンスとなる。
そしてニコの無力化はユキノ自身がやっていた。突然目の前に、別の場所にいるはずのユキノが現れたことにニコは驚いてはいたが、訝しむ様子こそあれ、疑うことはなかった。それもそうだろう、何せ目の前にいるのは間違いなくユキノ本人ではあるのだから。それ故にユキノはニコの意識をこうも簡単に刈り取ることができた。
「あな、た……違……」
そこまでいって、やっとニコは目の前にいるユキノが自分の知るユキノではないと気付いたようだ。仲間の姿と声を騙ったと感じたのか怒りの表情を浮かべながら意識を失う彼女をその場に置き、ユキノは連絡を取る。
「……FOX2、いやニコの無力化を確認した。FOX1の方は?」
『今、2人が接触しました。順調ですが、念のためにヒヨリさんと王女ちゃんが向かっている所です』
「ああ、わかった。私に悟られないように慎重に近づいてくれ。私も向かう」
残るのはこの世界の自分のみ。ここさえ制すれば、今回のFOX小隊による連邦生徒会襲撃事件は未遂に防ぐことができる。作戦の最終段階、その成功を託された少年とセイアは、
「「……」」
外套を纏い、顔を隠した状態でいたのだが、背後からこの世界のユキノに銃を突きつけられていた。彼女も連絡が取れなくなった3人、特にクルミとニコの連絡から襲撃されていたことを把握しており、犯人を探そうとした時に見つけたのがあからさまに怪しい恰好をしていたこの2人だ。
「お前達、こんなところで何をしている……」
「……私達のやっていることを見逃してくれると助かるのだがね」
「ふざけるな……!」
やっていること。そう言われればそれが答え合わせだ。彼女達が仲間達を襲ったのだと。ユキノが右手で銃を構えながら、左手でセイアの外套をはぎ取る。直後、フードの下から現れたセイアの顔を見た瞬間、
「なっ……」
セイアの後ろ姿を見てユキノの表情に驚愕の色が浮かぶ。セイアが無言で振り向きユキノを見ると、ユキノは思わず後ずさる。
(こいつは……まさか、百合園セイア!?トリニティのティーパーティーの元ホスト……襲撃を受けて大怪我を負い、入院したと表向きになっていたはずだが……)
何故、トリニティで入院しているセイアがここにいるのか。まさか入院とは表向きの理由であり、トリニティが外部に真実を隠すために用意した偽りの情報だというのか。では本物のセイアは何故ここに身を隠しているかのようにいるのか。そもそも仲間達の襲撃に彼女は関与しているのか。ユキノの頭の中に様々な考えが浮かび始める中、
「ここで私を見たことは黙っておいてほしい。私は殺されそうになった身でね、トリニティから離れて身を隠しているのさ」
「な……!?」
セイアがそう言いながらユキノに近づく。ユキノは銃をセイアへ向け、
「だとしたら、なにをやっている!?何故私の仲間を狙う!」
「未来が視えたから」
「っ……!なら何故こんな真似を……直接、言えば」
「君達の背後に連邦生徒会、防衛室長の影があるのにかい?このような手荒な真似になってしまったことは謝るが、これしか方法がなかったのさ。まあ、こうしてばれてしまうのだから無意味な配慮ではあったが……まあ、こういう未来なのだから仕方があるまい」
何故仲間達を襲ったのか。そう問いかけるも、未来が視えたからといわれればユキノは黙ることしかできない。セイアがトリニティの預言者という二つ名を持っていることは知る人は知っていることだ。当然、FOX小隊もそれを知っているからこそ、セイアの発言に説得力が出てしまう。
(実際は既に預言者としての力は失われているんだが、まあ未来を知っているのは事実だからね)
(本来の予定だとばれないでいく予定だったんだけどな……セイアのやつ、全部未来予知してましたでごり押すつもりだな……?)
「さて、こうなってしまったからには隠し立ては無用だ。君達の襲撃は失敗する。いや、厳密には襲撃自体はある程度成功するが、SRTはその襲撃事件を経て廃校になる」
「……!?そうならないために、力を示すための……」
「その力で安全を、秩序を脅かせば認められるわけがないだろう?これでSRTを廃校にすると決断する連邦生徒会は実に正常さ。それまでSRTを宙ぶらりんにしてきた点についてはまた別だがね。それを止めるために荒っぽい手を取らせてもらった」
「そんな……」
ユキノが愕然とした様子で後ずさる。仲間達をやられ、預言者セイアが現れ、いきなりわっと情報の暴力で捲し立てられる。それによって一周回って冷静になったユキノは、やっと自分達の襲撃があまりにも穴だらけなこと、そしてその襲撃で得をするのが誰なのかに思い至ったようだ。
「私達は、防衛室長に利用されていたのか……?だとしたら、私達は、SRTは……」
「……先生を頼れ」
「……何?シャーレの、か……?」
戦いはこれで終わりだ。だが、これからどうすればいいのか、彼女達はわからない。この襲撃を止めたところで現状維持。このまま緩やかに廃れていくだけだ。しかし、少年がここで1つ、ある妙案を思い付く。そうだ、最初からこうすればよかったのだと。どうして今まで思いつかなかったのかと悔やみながら、ユキノにシャーレの存在を告げる。
「セイアは言っていた。近いうち、大きな争いが起こると。先生も危険に陥るかもしれない。その時、力になってやるといい」
「……」
セイアが一瞬体を震わせる。突然のアドリブに対する反応だろうが、特に止めるつもりはない。思う存分やりたまえ、という意思表示なのだろう。
「後で責任だなんだというのなら、それは先生に頼ればいい。あの人は生徒のやりたいことを応援してくれる人だ。先生を助けるためにやってきたと言えば、快くフォローしてくれるはずだ」
「そうして実績さえ積んでしまえば、連邦生徒会もこれまでのようななぁなぁな対応も取れなくなるだろう」
「……」
「さて、君の仲間達を迎えに行ってやるといい。このまま寝たまま、なのは君としても困るだろう?」
「あ、ああ……」
困惑しながら考え込むユキノ。話はそこまでといい、セイアはフードを被り直すと少年と共に去っていく。他の人に見られないように、物陰に素早く隠れるように移動してここで姿を見せることも本来はまずいことなのだと、そうユキノに印象付けるように。
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「……それは本当ですか?」
「はい!無事に皆さん、合格したようで……よかったですね、ナギサ様!」
「……え、ええ。そうですね……」
あくる日の朝。トリニティで行われた2回目のテストの結果が遂に出たのだが、その結果は全員文句なしの合格であった。その報せを持ってきたティーパーティーの少女が安堵したような表情を浮かべる。彼女は補習授業部の真の設立理由を知らない。だからこそ、純粋に安堵しているのだろう。彼女を下がらせると、ナギサは険しい表情を浮かべる。
「何故、ですか?何故ハナコさんが……まさか、真実を……でも、一体誰が?まさかヒフミさんが……くっ、これでは裏切り者がまたトリニティに……こうなるのなら、合格点を引き上げるべきだった?テストを受ける場所を変えて物理的に受けさせないようにするべきだった?一体、どうすればあの中にいる裏切り者を……」
ぶつぶつと呟くナギサ。その言葉を遠くで聞きながら、ミカはテラスを出ていく。そして校舎の窓から中庭の方を見ると、そこでは全員で合格したことを喜び合う補習授業部の4人の姿があった。
(これでアズサちゃんは大丈夫……さて、と。ナギちゃん……エデン条約だっけ?そっちは、私が進めてあげるよ)
しかし、喜びを分かち合ったところで彼女達の繋がりはそうは長く続かないだろう。特に、真実を知る者と知らない者の差はどうしても生まれてしまうのだから。それよりもと考えながら、人気の少ない所に移動してスマホを取り出す。
「……うん、私。これでアズサちゃんはもう大丈夫、退学はなくなったよ」
『……そうか。それで、クーデターはいつ起こすつもりだ?』
「近日中。準備しておいてね……エデン条約なんてもの、認めるわけにはいかないからね。私達の為に」
『……ああ。だが、急にどうしたんだ?』
「急って?」
『いや……こう、言葉では説明しにくいが、今のお前はマダムも気に入っている。ゲヘナを潰すために共に手を取り合おうと言っている。そのためにも次が大事なのだろう』
「そうだよ、それじゃあ……そっちも準備お願いね、サオリ」
そう言い、サオリと呼んだ人物との通信を切るのだった。