壊れた楽園からの少女達 作:名無しの投稿者
―――その日は突然訪れた。
「!?」
トリニティ郊外にあるセーフハウスの1つ。その扉が爆破されて吹き飛ぶ。
「な……襲撃!?そんな、でもなんで……私がここにいるって!?」
その中で1人で休んでいたナギサは突然の襲撃に言葉を失う。一体誰が、そもそもここの存在を誰が知っているのか、等々、様々な考えが脳裏を駆け巡る。
「……いや、襲撃犯については考えるまでもありませんね……こんな、過激な手段を取れるのはセイアさんを襲った愚か者と同じ……」
「―――さすがに気付くか」
「っ!?」
急いで避難用の隠し通路の方へ移動しながら、襲撃犯について考えるナギサ。しかし、彼女が隠し通路の方に向かうと、その扉を開け放ち、口元をマスクで隠した帽子を被った少女が現れる。
「何者……!?なんで、その通路を」
「お前が知る価値はない」
少女がアサルトライフルの弾をナギサに撃ち込む。ナギサの身体が吹き飛び、壁へと叩きつけられると、ナギサは腹部への衝撃と痛みに顔を顰める。
「う、ぐ……何が、目的、ですか……あなた達が、このトリニティの裏切り者……」
「お前に生きていてもらってはこちらも困るんでな。消えてもらう」
ナギサが少しでも情報を得て、この状況を打開しようと足掻く。しかし、ナギサとの問答など無駄だと言わんばかりに少女はナギサに向かって手榴弾のようなものを投げる。ただの手榴弾だ、まともに喰らったところでかなり痛いで終わるはず。しかし、それを投げた瞬間に即座に、過剰なまでに距離を取る少女の様子を見たナギサは本能的に嫌な予感を察していた。そして痛みに呻きながらも僅かに回避の姿勢を取りながら咄嗟に腕で身体を庇うようにした直後、
「っ!?」
ナギサの全身を爆風が包み込んだ。
□□□□
「……え!?ハナコが……ナギサを襲った!?」
「……?」
翌日。シャーレにヒフミから入った連絡に先生は驚きの表情を浮かべていた。無事に補習授業部は解散となり、シャーレに戻った後は先生にしか処理できない書類の数々をこなす激務を行っていたのだが、その最中でヒフミからの連絡が届いて伝えられたのがこれだ。先生の近くですっかり慣れた様子で事務作業を行っていた少年も、ハナコがナギサを襲ったというまさかのパワーワードに困惑してしまう。
(トリニティで何があったんだ?無事にテストだって終わったはずじゃないのか?まさかハナコのやつ、やりすぎたのか……?一応、原作だとアリウスがナギサを襲う前に補習授業部が襲って安全な所に拉致するっていう流れだったはずだから……って、待て?そういえばまだ2週間ちょいしか経っていないのになんで先生がここに?スケジュールとか色々……どうなっているんだ?)
少年も困惑しつつ、後でセイアとヒヨリにどういうことか確認しなければならないことを判断していると、先生はヒフミから事の次第を聞いていた。そしてスマホの通話を切ると、
「ごめん、ちょっとトリニティに行ってくるよ。ハナコ……えっと、問題の生徒から話を聞かなきゃ」
「俺も行った方が?なんか凄い忙しそうだし」
「ううん、大丈夫だよ。今、トリニティはバタバタしているだろうし……他校の生徒がやってくることはあんまり快くは思わないだろうし……」
「やばそうならいつでも呼んでくれよ、なんかやばそうだし」
「うん、そうさせてもらうよ」
急いで準備をして出ていく。その様子を見ながら、適当な所でSRTのことを教えようかと思っていた少年は、そのタイミングを逃してしまったことを苦々し気に思いつつ、スマホを取り出してセイア達に連絡を取ることにするのだった。
□□□□
「!先生……」
トリニティにある医務室。その扉の前には警備のためなのか、ハスミともう1人の少女が立っていた。ハスミと同じ黒髪赤目の少女の下に息を切らしながら駆けつけた先生は、呼吸を落ちつけさせながらハスミを見る。
「ヒフミから……聞いたんだ……ナギサが、襲われたって……」
「すでにご存じでしたか……あ、先生。彼女は」
「剣崎ツルギです。正義実現委員会の委員長をやっています」
「よろしくね」
「は、はい……!……んん、こほん。襲撃は昨日、ナギサ様がいるセーフハウスが爆破されました。私達が駆けつけた時には、既に犯人はおらず、大怪我を負ったナギサ様が……」
「ナギサは大丈夫なの?」
「命に別状はありません」
ちらと見える室内では、包帯を体中に巻いている痛々しい様子のナギサが眠っていた。今はまだ意識を取り戻しておらず、回復するには数日程かかるとのことだ。
「……ハナコがやったって聞いたけど……そんなことするような子じゃないはずだけど」
「……わかりませんよ。ミカ様から聞きましたが……ナギサ様が補習授業部を設立したのは、不合格の生徒を退学させるためだとか……正直、コハルをこのようなことに巻き込んだ点について個人的に言いたいことはありますが……とにかく、彼女がナギサ様を襲うに足る理由ははっきりと存在しています」
「……でも……」
ハナコのことは詳しく知っているわけではない。しかし、それでも彼女がこのような大それたことをやるとは思えない。しかし、ハスミ達は彼女ならばおかしくはないと思っている。これを崩すためには言葉だけでは無理だと判断した先生は、他の気になる点について聞くことにする。
「これから、ティーパーティーはどうなるの?」
「ナギサ様が目を覚ますまではミカ様が代理として立つことに。エデン条約の調印式もミカ様が主導することになるでしょう」
「不幸中の幸いは、ミカ様もナギサ様と同じ方針を取っている事でしょう」
2人の言葉に先生も複雑そうな表情を浮かべる。まさかこのようなことになってしまうとは。もし、もう少しトリニティに滞在していればこの襲撃にも居合わせて何かできたかもしれないのに。しかし、不幸中の幸いはエデン条約の調印式の方は問題はなさそうという点か。トリニティとゲヘナの犬猿の仲は知っているが、同時に風紀委員会のことは先生も知っている。ハスミやコハル、ツルギといったように正義実現委員会もまた人柄のいい少女達が揃っているのだ、彼女達が仲良くなり、両学園の軋轢も消えるならばそれは素晴らしい事のはずだ。それをミカも勧めてくれることは安堵していいことだろう。
「ツルギ委員長!……って、あれ?あなたは……」
「彼はシャーレの先生です。イチカ、どうしました?」
と、そこにもう1人の正義実現委員会の少女が現れる。糸目の少女は先生を見て一瞬驚いたものの、ハスミの言葉に慌てて口を開く。
「ああ、あなたがあの……っと、実はですね……」
「……浦和ハナコが深夜に水着で徘徊していた、と。補習授業部から解放されてまたあの奇行をするようになったと……いや、この場合はアリバイ作りですか」
「ハスミ、これは……」
「……今はまだ彼女は容疑者です。状況証拠から言ってその可能性は高いでしょうが」
イチカが他の生徒から聞いた情報を受け取り、納得した様子で溜息を吐くハスミ。まずは知らなきゃいけないことが多すぎる、そのためにも直接話を聞かなければと考え、ハナコの居場所を聞く。
「ねえ、ハナコは今どこに?」
「牢にいますが……」
「話をしたいんだ。いいかな?」
「わかりました……ですが、気を付けてくださいね、彼女の本性は分かったものではありませんから」
ツルギに牢の場所を案内され、彼女の下に向かう。道中、ハナコをさっさと退学にしろという生徒達の抗議にも似た怒号を抑えようとする正義実現委員会の生徒達という中々の光景を目の当たりにしつつ牢に辿り着く。とはいえ、そこは牢屋とは言いつつある程度の生活環境が整っており、生活に不自由はないように見える。
「ろ、牢屋?」
「一応トリニティの生徒ですからね。近くに収容されている自治区内でテロを行って取り押さえられたゲヘナの生徒がぶち込まれている場所の方が、多分先生がイメージしている一般的な牢屋に近いと思います。ではこれで……何かありましたら呼んでくださいね」
牢屋のある建物の中に入り、正義実現委員会の生徒に案内されハナコの牢に向かう。そこは、ある程度の家具を始めとする生活環境が整っている。これではどちらかというと軟禁という言葉の方が適していそうな気はするが……その中でソファに座り込むハナコは足音に気付いて牢の外の方を見ると、先生の姿が目に入って驚いたような表情を見せる。
「先生……?どうしてここに」
「ハナコ、大丈夫?突然捕まえられたって聞いてびっくりしたんだ。当然、ハナコはやってないよね……?」
「……先生」
心配した様子でハナコを見る先生。ハナコの方は先生が来てくれるとは思わなかったんだろう、そのまま少し固まっていたが、やがて現実を受け入れると鉄格子越しに先生と話をし始める。
「……信じてくれるんですか。私がナギサさんを襲ってなんかいないって」
「もちろんだよ。何か、心当たりはない?ハナコに冤罪を押し付けようとしている真犯人についてとか……」
「……」
先生の言葉に安堵したような表情を見せるハナコ。さすがの彼女もこの状況で参っているのだろう、しかし、続けての先生の問いに考え込む。そして、ゆっくりと口を開いていく。
「……私はここにいるので、実際に調査をすることができません。なので、はっきりとこの目で確かめた、というわけではありません」
「大丈夫だよ。私がその証拠を見つけてみせるから」
「……真犯人は、ミカさんです」
「え!?ミカが!?」
そしてハナコが言ったのは、ミカが真犯人というとんでもない推理だ。だが、先生からすればそれも到底信じられないことだ。ナギサとミカの仲は知っている。幼馴染特有の遠慮のなさが見えたし、どちらもそれを好ましく思っている。そんな2人が、ミカがナギサを襲うなんてあり得るわけがない。そう思ったのか先生の驚きの反応を見たハナコは一瞬不機嫌そうな表情を浮かべるも、
「先生は百合園セイアさんのことを知っていますか?」
「あ……うん、名前だけなら。入院しているんだよね?」
「違います。表向きは確かにそういうことになっていますが……殺されたんです。ミカさんに」
「え!?」
再び驚く先生。ナギサのことだけでもかなり懐疑的なのに、まだ自分は会ったことはないがかつていたというティーパーティーの元ホストのセイアを殺したのもミカだという。
「私はセイアさんの死の真相を知ってしまった。ミカさんからすればさぞや気の休まらない相手でしょうね。いつ私がこのスキャンダルを表沙汰にしてもおかしくないし、そうなれば彼女の立場は一気に危ういものとなる……ですが、私を処分できる最大のチャンスが現れた」
「……ま、まさか」
「ええ、その通りですよ」
先生の呟き。その呟きに含まれた感情の変化を見て、やっと思い通りの反応を引き出せたことにハナコは安心すると同時に、気持ちよさそうに微笑む。
「補習授業部によって退学させられそうになり、その報復を行ったという恰好の理由を手に入れた私を犯人にでっち上げ、ついでにナギサさんを処分してミカさんがトップになれば、彼女を阻むものは何にもなくなる。己の目的のためなら何でも切り捨て、処分できる。ぱっと見では朗らかで人当たりもよく、天真爛漫なように見えますがその本性はあまりにもどす黒く、まさしくトリニティを体現した女……それが、聖園ミカという人物なんですよ」
無論、実際は違う。セイアは実は生きているし、彼女が活きていることを知ったらまた狙われてしまうことを恐れた蒼森ミネによって連れ去られて彼女と共に行方を眩ませているだけだ。ミカがご執心なのは、アリウス分校と呼ばれるかつてトリニティから分かれ、トリニティが迫害した学園との和解。そのためにアズサを引き入れるなどの策をナギサにも告げず個人で行っただけ。ナギサを襲ったのは、単純にトップになった方が都合がいいだけでナギサにここまでする気もないのだろう。だが、そんなことはどうでもいい。
向こうが嘘でこちらを追い詰めようとするならばこちらも容赦はしない。徹底的に、潰してやる。虚偽でもなんでもいい、あらゆる手段を使って。驚きを始めとした様々な感情を浮かべる先生の顔を見ながら、ハナコは不敵な笑みを心の中で浮かべるのだった。