壊れた楽園からの少女達 作:名無しの投稿者
自治区に戻ってきた少年は、すぐに皆とこれからについて会議を行っていた。
「……何をやっているんだ?ミカは?」
「……やっぱり、あれうまくいかなかったんじゃないです……?」
「いや、そんなわけは……普通こう、後悔して行動を悔い改めるだろう?なんでこうなるんだ?世界が違ってもやはりミカはミカだったか……だが何故調印式に前向きなんだ?むしろぶち壊す側だろう?」
ナギサが大怪我を負って入院。それに伴いミカがホスト代理として就任、ナギサが熱を入れていたゲヘナとの調印式にも前向きに取り組んでいるという情報が明らかになって。それを知ったセイアはただ困惑することしかできなかった。
「……桐藤ナギサが大怪我。考え得る心当たりは?」
「た……多分、ですけど。ミカがアリウスを使って襲撃した……と思います。私の世界だと、先生やアズサたちのおかげでそれは阻止されたんですけど」
「……先生は補習授業部の依頼を皆の世界よりも早く終わらせてる。その影響かもしれないってことか。でもそれよりもこれ、大丈夫なのか?」
「……正直、かなりまずいと思っている。ハナコは取り繕っているし、かなり嫌悪しているが……誰よりもトリニティに相応しい人物を体現している存在だ。こんなことをされ、冤罪までかけられれば……彼女の好きにさせてそれが成功するならば、ミカは破滅するだろうね。それぐらいは平気でやるだろう」
「そこらへんの舵取りは絶対先生にやらせないといけない、か。さすがにこの状況でミカまで消える、はトリニティが完全に麻痺する。ハナコが責任取ってナギサが復帰するまで代理やってくれるってわけでもないだろ?」
「まあ、トリニティに犯罪者扱いされてるわけだからね。復讐だけやって、後は知らない潰れたければ勝手に潰れてしまえ、これぐらいには思考が変化していてもなんらおかしくはない」
「どうにかしてアリウスとかの真相を伝えられればな……」
別世界の出来事を知っているセイア達や、原作知識のある少年ならば誰が襲ったのか、その真犯人はすぐに推測できる。しかし、答えだけわかっていてもそれに繋がる仮定を示さなければならない。
「……あ、私が密告しますか?アリウススクワッドの1人が裏切って、なら……」
「それやったらこの世界のヒヨリが殺されても何も言えない気がするが……まだベアトリーチェいるんだろ」
「あぅ……」
アリウスに繋がる要素ならばアリウスの人間が言えばいいのではないかとヒヨリが手を挙げるも、さすがにそれはまずいと少年から止められる。
「……ナギサは多分生きている。数日中に目を覚ますだろう」
「わかるんですか!?」
「本当に死んでいたらミカが代理をやれるほど精神力が残ってるとは到底思えないからさ。まあ、もう後に引けないと全力でバカな方向に突っ走っている可能性もあるが……ひとまずはそこは考慮しない。そして生きているなら数日中には意識を取り戻すだろうさ。この時期の衰弱していた私とは話が違う」
「そ、そうですね……」
ナギサは目を覚ますと聞いて思わずアヤネが猜疑的な視線を向けてしまう。彼女の世界では地下生活者による襲撃で先生が目を覚まさなかったことでアヤネ達が一切動こうとしなかった結果の末路を迎えているのだ。本当に目を覚ましてくれるのかと疑問を持ってしまうのも致し方ないのかもしれないが、ナギサは先生やこの時期のセイアとは話が違う。健常なキヴォトスの人間なのだからと遠回しに告げる。
「……この時期から使えるんじゃないか?」
「使える?何がですか?」
「SRTだよ」
「む……そういえば、どんな想定をしていたんだ?SRTを救う方法は」
そんな中、少年がSRTを使う方法を思い付く。それを聞き、この世界のユキノを説得した時に触れていた妙案も含めて、何か手があるのかと問いかけるユキノ。少年は頷くと、
「調印式のアリウスの襲撃だ。そこでSRTを増援としてシャーレに呼んでもらって対応するんだ」
「なるほど、そういうことか。確かにゲヘナ、トリニティを襲撃したアリウスという明確な武力行為に対して先生の管理下でSRTが介入、そして戦果を挙げれば……」
「ああ。最初はその予定だったけど、こうなったのなら、今回の事件の調査もやってもらえば先生に信頼されやすい下地も作れるんじゃないかと思ってな」
こう説明する。少年の説明を聞いてセイアも満足気に頷くと少年の提案を肯定する。
「いいんじゃないかな。先生としても、事件の解決には積極的に動いてくれるだろう」
「よし、じゃあそんな感じで動くか……ヒヨリとセイア、後ユキノもトリニティに行ってもらっていいか?俺も同行できないか先生に打診しては見るけど、多分他校の生徒が入ることにはトリニティに自体が消極的だろうから、ユキノ達に隠れて動いてもらうことになると思う」
「まあ、ミカとしても外部から色々調べられるのは今は良い気なんてしないだろうからね」
そして今後の行動を固めると、少年はどう先生にSRTのことを提案するべきかと考え始めるのだった。
□□□□
「……それで、私達にですか」
「うん、皆の事は聞いたよ。それで……その、利用するような形になってしまったのは凄く悪いんだけど……協力してもらえないかな?」
翌日。一度シャーレに戻ってきた先生は、ナギサを襲撃した真犯人を探すために再びトリニティに行くことを決めていた。
『真犯人を探す?いやー、先生がやってくれるなら正直助かるよ!今すっごい忙しくて……もし本当にハナコちゃんが犯人じゃないんだとしたら、相当まずいだろうし、でもそこまで私面倒見切れなかったからさ!もう、本当に大っ変……』
この事をミカに提案したところ、彼女はなんと快く受け入れていた。本当にミカが犯人だとすれば、自分が犯人である証拠を探すことを快く思うとは思えない。とはいえ、証拠などが出揃っていない現状でハナコがそう推理しているだけ、というのが現状なので、もしかしたらミカは犯人ではないという可能性もある。だとするなら、ハナコの誤解も解くためにも何としても真犯人を見つけ出さなくてはならない。
そういったこともあり、トリニティに再び出張することをシャーレで仕事を進めていた少年に伝えた所、少年が提案したのがSRTであった。
「……ど、どうかな?」
SRTの現状を少年から説明された後に連邦生徒会に掛け合い、休校となっているSRTの生徒と会った先生は、ユキノらFOX小隊から改めてSRTのことを聞いていた。
(……今の私達の立場は、危うい)
先日のFOX小隊を少年たちが襲った一件。クルミらの誤解は、セイアの未来予知に基づいた行動による襲撃だとユキノが伝えたことで解けたものの、生存を隠したい都合があるセイアへの配慮を取った結果、土壇場で連邦生徒会への襲撃を中止したという形になっていた。
それ故にカヤの怒りに触れており、これまでSRTに私欲込みで融通を利かせていたカヤは表立ってはSRT廃校を中止すべきという立場こそ取り続けているものの、裏ではSRTへの支援策などを打ち切り始めており、SRTを締め付けて無理矢理いう事を聞かせようとしていたのだ。
「……それは、休校状態のSRTに対するシャーレの要請、ということでよろしいですね?」
そんな状況に陥ったことで、まだ残っている生徒はいるものの、その生徒達も疲弊しており、1小隊、また1小隊と休校状態のSRTを辞めたり転校手続きを取ったりする人も出てきている。そこに歯止めをかけるいい機会ではあった。
「うん。君達の力が今は必要なんだ」
「……わかりました。その依頼、受けさせてもらいます。必ず、桐藤ナギサ襲撃事件の真犯人を突き留めてみせます」
「ありがとう、助かるよ」
「少し準備は必要なので失礼します」
先生からの申し出を断る理由もない。ユキノはそれを承諾してニコ達と共に部屋を出ていく。だが、ニコの表情は浮かないままであった。
「……どうかしたか、ニコ?」
「うん、なにかが引っかかってて……」
「引っかかるって?私はあんまりピンとこないんだけど」
「そりゃあんた一撃で脳天撃たれて撃沈してたからでしょ。でも、ニコの言いたいことはわかるわよ」
「……」
オトギは敵の存在を認識する間もなく意識を刈り取られていたのでそれに思い至らなかったが、実際に少年達と対峙した残りの3人は確かな違和感を感じていた。セイアだけならば、まだその違和感も感じなかったかもしれない。死を偽装して、というのも今回のナギサ襲撃事件を加味すればさらに説得力が増す。だが、残る2人は明らかに異質だ。
「ニコが見たという、私に変装した人物。そしてクルミの武装を一瞬で無力化したという特異な力を持つ人物、か」
「それと彼女が一緒だったとして……何を企んでいるの?」
「……だが、私達があの襲撃を中断せざるを得なくなったことで、こうしてトリニティで起こっている事態に関わることになった。おそらく百合園セイアの狙いはこうだと見て間違いない……のだろうが」
「全て、じゃないってことだね」
「……それを明らかにする鍵が、この任務にあるのかもしれないな」
わからないことはあまりに多すぎる。故に、その真実を明らかにする手がかりを求め、4人はトリニティへの潜入の準備をし始めるのだった。
□□□□
寂れた街並み。手入れなどほとんどされていない建物が立ち並ぶ中、数人のガスマスクと白いローブに身を包んだ少女達に囲まれていたミカがある巨大な建物の前に立つ。それは、このアリウスの地において唯一手入れがされており、綺麗に整えられていた。その中に入ると、そこには1人の大人の女性が立っていた。
「待っていましたよ、聖園ミカ。まずは此度の活躍、よくやりましたね」
「……うん。これがさ、アリウスとトリニティのために必要なこと、でしょ?」
「ええ、その通りです」
白いドレスを纏い、赤い肌をしたその女性は、無数の目を持っていた。その目でミカを見下ろすと、ミカは少しだけ体を震わせながら、顔を上げる。
「でも、なんでエデン条約の調印式を進めなきゃいけないの?ゲヘナは……」
「あなたは子供です。故に結論を焦る」
「……?」
「考えてごらんなさい。エデン条約の調印式。それに調印するということはゲヘナは主要な者達を全てトリニティの中に移動させているのです。こちらからゲヘナへ打って出て滅ぼそうとすれば、それは面倒なことでしょう。ゲヘナのどこにいるかもわからない、探し出せばその途中で邪魔もされるでしょう。ですが、トリニティへ招けばその問題は全て解決する……違いますか?」
女性の言葉は、ミカの心に浸透していく。ゲヘナを潰す。ゲヘナという共通の敵を潰せば、トリニティとアリウスは再び手を取り合える。
「そう……だね、その通りだよ。セイアちゃんを殺して、ナギちゃんにもあんな怪我を負わせた私には……こうするしか罪を償う方法はもうないんだ。この願いを叶えるために、あんな自分勝手な連中を滅ぼすだけでこの願いが叶うなら……!」
「そう。あなたの悲願を叶えるためにも、調印式は進めなさい」
「うん、わかってるよ。ただ……ちょーっと面倒なことになっててね」
「……?ああ、先生とやらのことですか。シャーレとやらで大人しくしていればいいものを」
だが、そのためには邪魔者がまだあった。ゲヘナは礎にできるが、先生はそうはいかない。
「アリウススクワッドにやってもらった、ナギちゃんの襲撃事件。その犯人をアリバイの証拠がないハナコちゃんに押し付けたんだけどね……先生は真犯人を探そうとしてる。多分ハナコちゃんも証拠はないけど私だって気付いてるんじゃないかな?だから先生にその証拠を探してもらおうとしてる。でも私があれこれやると余計に感づかれちゃうし……」
「いいでしょう。調印式に影響が出るのは私としても困りますからね(あれを手に入れるためにも……ね)」
ミカの話を聞いた女性が指を鳴らす。すると、建物の奥から4人の少女達が現れる。
「話は聞きましたね。聖園ミカがトリニティのホストの座を脅かされる事態を阻止しなさい。どんな手段を用いても構いません」
「……了解」
(さーて、ハナコちゃん……これはあなたも予想できる?アズサちゃんがアリウスの人間だってことは普段の様子を見ていればわかるかもしれないけど……アリウスが既に私の味方だってところまで、気付けるかな?)
その内の1人、リーダー格の少女が静かに呟く。その様子を見て、ミカはにやりと不敵な笑みを浮かべるのだった。