壊れた楽園からの少女達 作:名無しの投稿者
「……調査結果を報告します」
2日後。シャーレに集まったFOX小隊は先生と共に調査内容を纏めていた。しかし、ユキノの表情はどこか渋そうにも見える。
「何か、悪い事でもあった?」
「……そうですね。結論から言いましょう。聖園ミカが真犯人という証拠は見つかりませんでした」
「そっか……よかった」
ユキノの言葉にほっと胸を撫で下ろす先生。ハナコはミカが犯人だと決めつけていたが、先生としては何の証拠も無しに疑いたくはないのだ。だから、これで無実だと分かれば、ただハナコが真犯人については勘違いしただけで済むのだと、それに越したことはないと考えていた。しかし、ユキノ達からすればそういうわけではないようだ。
「ですが同時に、真犯人がトリニティの中にいた場合、それが誰かという証拠も見つかっていないと言えます。そう、状況証拠で1番怪しいと予想される浦和ハナコ以外は」
「なんで……」
「それは、トリニティの生徒、何人かから指摘されていると思いますが、桐藤ナギサさんを襲撃する動機を持っており、かつアリバイがない、加えて夜、セーフハウスを毎日転々として過ごしている彼女の居場所を推測し、突き止められる生徒は彼女だけなんです。加えてその日の夜、彼女はスクール水着でトリニティを徘徊していました。それに関しては何名かが目撃しています」
「普段の奇行をカモフラージュに仕留めにいった。まあ筋としては通っちゃうんだよね。彼女が自分は違うといくら声をあげてもさ……」
「冤罪だったとしても身から出た錆よこんなの。冤罪を吹っ掛けられたこと自体は文句を言う権利はあるけど、かといってこいつが普段から頭おかしい事やってるからややこしくなってるんだってこと自体はちゃんと認識してもらわないと」
「……話を戻します」
なんて面倒なことにしてくれたんだとハナコへの愚痴を零しながらも、現状ハナコの無実を証明するのは難しいという4人。だがそれは、決してハナコだと確定する証拠が出てきたわけではない。
「現状、彼女が犯人に仕立て上げられている最大の要因は、これという証拠があったわけでなく、消去法で浦和ハナコが犯人なのだろうと思われる……という状況です」
「逆に言えば、真犯人に繋がる証拠は今の所、何1つ残っていないということ……多分、トリニティにいる人はあくまで指示や依頼をしただけで、実行犯はまた別にいると考えていいと思います」
「その実行犯の方を捕まえないといけない……と」
「まあ、そっちが完全に雲隠れしてるのが問題なんだけど……」
故に、それを実行した張本人を捕まえる必要があるのだ。ここまで叩いて何も出てこないのならば、トリニティの生徒が犯人ならただの指示役と考えるしかない。その実行犯さえ捕えて真相を暴ければ。
(ナギサの居場所を知る人間、という意味では確かに聖園ミカも該当する。おそらくハナコの推測に大きく影響を与えている要素だとは思うが……彼女がトップになって何を成そう、という点が今の所全く見られない。今の所、やっていることはナギサのやっていることの引継ぎであり、方針も何もかも以前のナギサがホストをやっていた時代と変化が見られない。今は猫を被っているだけ、としても潜入して観察した分にはかなり忙しそうにしていたし、急に自分がホスト代理として仕事を大量にこなすことに対して周りに愚痴を零していたという情報からして、今の範囲では彼女がナギサを襲ったとは考えにくいな……犯人とするならもう一押し、か)
難しい顔をしながら、ミカが犯人であるかどうかという点について考え始めるユキノ。完全に犯人候補から外れた、というわけではないが、今のところはそう予想するのもわからなくもないがただの被害者にしか見えない、というのが現状だ。
「……ナギサを直接襲撃した人達については?」
「可能性として考えられるのはゲヘナでしょう」
「ゲヘナ?」
「ええ、元々トリニティとゲヘナは犬猿の仲でしたし、近くエデン条約の調印式が迫っています。トリニティの中に今だにゲヘナとのこの条約を快く思わない者達がいるように、ゲヘナの中にそれがいる可能性は十分に考えられます」
「……あー、そういえばエデン条約っていう名前自体が結構アウトなんだっけ?なんでも奴へのカウンターとかなんとかみたいな噂が……」
「やめておけ」
「……?」
「先生、FOX4の今の話は詮索しないでください。ゲヘナの……主に3年生は過去を触れられることを過剰に嫌います。万が一の場合は知りすぎたと判定して先生に危害を加えることも十二分に考えられるので、絶対に彼女達の前で2年より前の話はしないようにしてください」
「う、うん……」
「とにかく。情報が足りな過ぎます。もう少し、調査をしようと思うのですが」
「うん、任せるよ」
ヒナ達の事を考えると、ゲヘナがこんなことをするとは正直思えないが。ふと先生の脳裏に、トリニティに捕らえられたゲヘナのテロリストの存在が蘇る。もしその子達が何かに関わっていたら。そう考え、彼女達に接触してみることに先生の方も決めるのだった。
□□□□
『残念ですが、私達は美食を追い求める身。ティ―パーティーのホストを襲撃?どうやら噂のシャーレの先生はご冗談がお好きなようで……』
『あ!それよりシャーレの先生ってなんか凄いんでしょ?私達出してくれない?』
『ただゴールデンマグロを水族館から持ち出しただけでこの仕打ちですよ?本当に風紀委員会より融通が利かないと思いませんか?先生』
『……もうどうでもいいけどお腹空いたわ……』
翌日。ハスミに掛け合ってゲヘナのテロリストとして収容されていた美食委員会に接触した先生だったが、わかったのは彼女達は桐藤ナギサを襲撃した犯人とは無関係であるということであった。この点に関してはゲヘナを毛嫌いするハスミも同意見のようであり、
『ナギサ様が襲われた時刻、彼女達はずっと牢屋にいました。彼女達がナギサ様を襲撃した連中の一味という可能性もおそらく低いでしょう、であるならあんなバカなことをしてわざわざ捕まるのも滑稽な話ですし。逆にこちらに警戒させるだけの結果に終わってますからね』
このような発言を聞いていた。そして再び調査は振り出しに戻ってしまい、先生はトリニティの自治区の中にある公園のベンチに座り込み、缶コーヒーを飲みながら項垂れていた。
「……ん?」
そして。それに気付いたのは偶然だったのかもしれない。缶のようなものを蹴とばすような音。誰かがいるのかと先生が音の下方向の茂みを見るが、そこには誰もいない。ただ、からからと転がる空き缶があるだけだ。
「誰かいるの?」
「!!」
茂みの向こうで誰かが息を呑む。と、茂みの向こう側の建物の影から、1人の少女が姿を現す。帽子とフードを被って姿を消したその少女の首元にはマフラーが見え、背中には巨大な荷物が見える。あの中に銃をしまっているのだろうかとぼんやり考えながら先生がその少女を見ていたが、その当人である別世界からやってきたヒヨリは冷や汗をだらだらと流していた。
「君は……?」
(なんでバレたんですか!?)
彼女は、先生がトリニティにいる間、監視を行っていた。アリウスがいつ先生を狙ってもおかしくない、かといってセイアやユキノではヒヨリほど遠距離から監視はできないし、そもそもFOX小隊が潜り込んでいる状況で先生に見られるとどうなるかわからないからだ。だが、この監視もヒヨリの存在がばれないことが前提だった。しかし、不慮の自己とはいえこうしてばれてしまった以上は先生に余計な警戒心を与えないように出ていくしかない。が、バレたのはヒヨリのせいではない。
(あれは……ヒヨリ!?なんでここに!?)
先生が気付いた気配と音。それはヒヨリではなく、先生を警戒のために観察していた戒野ミサキだったのだ。アリウスの方でも、今回のナギサ襲撃の真実が明らかになると困るということで自分達とミカという真犯人を探ろうとする先生を牽制しようと監視の目を向けており、その一環でミサキが先生を監視していた。他の面々は、正義実現委員会などの動向を調べており、今はバラバラに動いていたのだが、まさかヒヨリが見つかってしまうとは。顔や姿は隠しているが愛用の銃を収納しているケースまでは隠せない。というか何故ここにいるのか。
「……気を付けてください」
「え?」
「先生、あなたは狙われています」
「……!?」
だが、そんなミサキの思考を吹っ飛ばす言葉がヒヨリの口から聞こえてくる。アリウスが先生を狙っている。事実上、それを教えるかのような言葉を聞いてしまい、唖然となってしまう。
「狙われ……え!?あ、待って!?」
(ひぇえええ……とりあえず一刻も早く逃げて他の皆さんと合流しなきゃ……!)
ヒヨリとしては、先生を動揺させてその間に逃げようという算段を取っていただけであり、深い意味や行動があったわけではない。一応、ここであなたは狙われているんだということを伝えておけば、後程サオリに狙われた時になんかいい感じになるのではないかとも考えたりもしているが、本当にその程度のことだ。そして、ヒヨリと先生の間だけであれば、それで済んでいた。
(……ヒヨリ……嘘でしょ……あなた……!!)
ここに、2人が気付かない
□□□□
「……こちらFOX2、聖園ミカのセーフハウスに侵入したよ」
『こちらFOX1、セーフハウスの侵入を確認した。セキュリティはどうなっている?』
「……解除したよ。ただ……」
『ただ?』
「……凄く、破りやすくなってる。まるで、以前にも誰かが破ったことが何度かあるみたいに」
場所は変わり、ミカが使用しているセーフハウス。無人のはずのその家には、ニコの姿があった。しかし、彼女の表情は困惑と警戒が混ざったものとなっている。
『……それって、ハナコの予想はあながち間違ってないってこと?』
『……もしかしたら、彼女の協力者が入るためのバックドアになっていたのかもしれないな。FOX2、何かあるか?』
「……今のところは何もないよ」
侵入した跡を残さないようにゆっくり、慎重に家探しするニコ。容疑者であるミカに繋がる証拠があればそれでよし、なくとも彼女の潔白が証明されるだけ。
『それにしても犯罪組織のアジトならともかく、まさか個人の家を家探しなんてね……』
『でも、今は手段を選んでられないわけだしねぇ……私達だけの問題じゃないし』
『……ま、連邦生徒会を襲撃なんて、トチ狂ったことやるよりは全然マシでしょ』
「あはは……!?これは」
『何か見つけたのか?』
仲間と通信しながら、ニコが部屋を捜索していると、何かが隠された痕跡を確認する。巧妙に隠されているだけでなく、うっすらと埃を被っているあたり、ミカが全く見たり探そうと思わない場所に何かが隠されている。嫌な予感を感じながらニコが少し盛り上がった壁を破壊すると、その下から本物の壁と、通信機のようなものが隠されていた。
「……通信機。もしかしたらログが残ってるかも」
『……嫌な予感がするんだけど』
『……まずはそれを持ち帰ってきてくれ。そのログがおそらく手掛かりになるはずだ』
「了解、まずは帰投するね」
それを手に入れたニコは、手早く撤収の準備をしてセーフハウスから抜け出す。これで少しでも真実に迎えると信じて。だが、事態は既に彼女達の預かり知らぬ所でも動き出していた。