壊れた楽園からの少女達 作:名無しの投稿者
『―――ミカ。君がアリウスを使って私を殺しに来たことは知っているとも。これは、冥界から届ける言霊。罪を償いたまえ。君のしでかした愚かな行動が、全てを狂わせるんだ。自覚しろ、そして、責任を取れ。それが、君がするべきことだ』
「……これを始めとする、様々な音声がログに残ってる。再生時間は深夜に集中……」
「……完全に追い詰める気満々の音声じゃないこれ」
「だが、おかげではっきりとしたことがある」
ニコの持ち帰った音声。それを解析したFOX小隊は、ある決断を下していた。その音声が記録されていた通信機は、セイアが設置したものであり、セイアがミカに働きかけるために用意した仕掛け……となるはずであった。しかし、ミカがこのような方向に突き進むとは、未来すら見えない別世界のセイア自身予想もできてはいなかっただろう。
「私達をセイアが止めたのは、これのためだった……そうは考えられないか?」
「……あそこで私達が連邦生徒会の襲撃を取り止めれば、まだ手遅れになってなかった私達に先生が声をかけてくれる。私達が動けるなら、トリニティを私達が探ることができる。トリニティを探ることができれば、当然これに気付くことができる……そこまで考えたって事?いやぁ、そんな偶然……」
無論、これを普通の人物がやっていたとすれば、それこそ連邦生徒会長でもなければとても信じられないだろう。だが、セイアが、となればその例外に当てはまるように、ユキノ達には見えていた。
「百合園セイアはトリニティの預言者と呼ばれていた。私達からすれば偶然が重なっただけとしか言えない出来事でも、彼女からすれば、未来を視ているからこそこうなることは必然になっても何もおかしくはない……そうは考えられないだろうか?」
「……私達じゃ想像もできない世界ね、それ」
「でも、実際のところはここまで繋がっているわけだしね……でも、そうだとすると……」
もし、ここまでの出来事が全て、彼女の掌の上だとしたら。それは、ある1つの恐ろしい仮説を生み出すことになる。
「……セイアは、自分を殺したミカに恨みを抱いていた。故に、自分は死んだことにしつつ、彼女を陥れるための計画を行った……」
「それがこの襲撃ってわけ?いや、関係ないナギサまで被害喰らってるじゃない」
「……目的達成のための必要な犠牲ってこと?」
「「「「……」」」」
オトギの指摘に、身に覚えがありすぎるのか発言したオトギ自身を含め4人は黙り込んでしまう。
「……どこまでを予想していたのか、はわからないな。こうなることまで視えていたのか、視たうえで変えたのが今なのか……」
「どれだけ悪意があるかによるよね。本当にミカを追い詰めるためにこれをやったのなら、指示を出して実行させた真犯人自体はミカになるけど、そのミカを諭したのはセイアってことになる」
「逆に未来をより良くするため、みたいな悪意なき言動の結果でこうなったのなら……悪いのはミカになる」
「……こう聞くとSRTの私達が言っちゃいけないだろうけど司法が大敗北してない?」
「まあ、善悪の有無関係なくやった行為と結果だけでケチつけたらゲヘナなんて半分近くは檻の中だろうし?」
キヴォトスの司法で最も重要視されるのは悪意があるかどうかだ。だからこそ、矯正局から出れるかどうかも、その当人がやったことを反省しているかどうか、が大きな焦点となってくるのだ。
「……ともかく、ミカが真犯人である理由自体はかなり見えてきたね。ただ……」
「とにかく証拠だな。他には目ぼしいものはなかったか?」
「何も」
「……そういえば」
「?FOX4、どうかしたのか?」
オトギがあることを思い出す。昼間、怪しい人がいないか観察しつつ、時折先生にも注意を向けていたことでオトギはあることに気付いたのだ。
「戻る時にさ、偶然先生と会って言われたんだよね。私は狙われているらしいって」
「なんでそれ言わないのよ!?」
「いや、それよりもFOX2の見つけたものの方が大事そうだったし……先生の方は正義実現委員会に掛け合って相手の正体が明らかになるまでは護衛を付けることを勧めてそこで終わっちゃったし」
「……先生を狙っている、か。FOX4、明日は先生の周辺を探ってくれるか?」
「了解」
クルミも先生の護衛に出すべきかは一瞬悩むが、正義実現委員会の方にも護衛の件が行っているのなら、こちらから不用意に動く必要もないはずだろう。そう考えて、オトギだけに先生につくようにとユキノは判断を下すことにするのだった。
□□□□
「……それは、本当なのか?」
「見間違えるわけがないでしょ。顔こそ隠してたけど……荷物でバレバレ。まあ、先生に顔を見られたくなかっただけだろうけど……あれはない」
夜の高架下。そこにはミサキとサオリの2人の姿があった。しかし、サオリの表情は浮かない。その理由は言わずもがな、ヒヨリがアリウスを裏切って先生に告げ口をしたかもしれないということだ。だが、サオリはミサキのこの言葉に対しては疑問的であった。
「……顔を見たわけじゃないんだろう?ならばたまたま似ている誰かが……」
「百歩譲ってそうだったとして。なんで顔を隠したわけ?先生を相手に顔を隠す意味が、私達以外にあるの?」
「それは……」
だが、サオリがいくら否定しようとしても、顔を見せていないという要素があまりにもノイズとなっている。ヒヨリと同じ銃を持っている人物がヒヨリ以外にいるのか?という疑問を解消することができないのだ。これがトリニティやゲヘナの治安維持組織に所属している生徒なら支給されている銃だから、である程度統一されていても不思議ではない。が、ヒヨリの使っている銃はスナイパーである彼女に合わせて固有のカスタムもされているのだ。それが複数あるなんて状況をアリウススクワッド、なんならこの世界のヒヨリ本人ですら想像できないだろう。
「……私だって、ヒヨリが裏切った、なんて思いたくない。そりゃあ、ちょっと俗物っていうとあれだけど食い意地が凄かったり、雑誌とか拾ってはなんか読み漁ってるし、一々悲観的だし、でも大胆な事普通にやるぐらいには無駄に図太いのがヒヨリだけど」
「……ちょっと言いすぎじゃないか?」
思わずヒヨリへの愚痴も出てくるし、それに対してサオリもそこまで言わなくても、とは思いつつも事実ではあるので否定しないでいたが。ふと、普段なら気にならない無駄に図太い、というフレーズが気になってしまう。
「……じゃあ聞くけど。そもそもヒヨリ、今日何をしていたの?」
「今のトリニティの状況を調べて、正義実現委員会らが真実に辿り着けないよう見張っていたはずだが」
「……その間のヒヨリの行動は?」
「……誰も、把握していない……」
「じゃあ、こっそり抜け出して先生に告げ口することは十分可能なわけだ」
「ミサキ!!」
「でも誰も知らないでしょ!!」
いよいよ痺れを切らしたのか、今日の行動について聞いてくるミサキ。しかし、その内容をサオリから改めて聞いたミサキはより裏切り者であるという確証を得ることになる。そして彼女の発言を否定できずにいたサオリは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべると、
「……わかった。私がヒヨリに今日何をしていたのか聞いてくる。ヒヨリなら嘘なんて吐かないし、嘘を吐こうものなら必ずボロが出てくるはずだ」
「……ごめん」
「気にするな。本当だったら、お前の心配も当然のことだ」
本人に直接確認しようと言い出す。本当ならこんな、身内を疑うような真似などしたくなかった。だからこそ、あの手この手でミサキの心配の種を解消して2人だけの話で終わらせたかったのだ。そんなサオリの気苦労にも思い至ったからか、ミサキも申し訳なさそうに謝る。そんなミサキに気負うなと遠回しに言い、サオリは少し離れた所で1人で休んでいるヒヨリの下へ向かう。彼女は雑誌を読みながら焚火に当たっており、すっかりこちらには気付いていない様子であった。
「……ヒヨリ、少しいいか?」
「……はい?えっと、どうしたんですか?」
「あ、ああ……今日の昼間、何をしていたんだ?」
「……え!?ひ、ひひ昼間ですか!?な、ななな何もしていませんよ!?み、見張りをやってただけです!だけですって!」
何もないと言ってくれ。ただ、普段通りに正義実現委員会を見張っていたと言ってくれ。そんなサオリの淡い願いは、手にした雑誌を後ろに隠しながら表情を引き攣らせ、誤魔化すように発言した彼女の様子で打ち砕かれてしまった。
「……そうか。わかった。明日も頼むぞ」
「は、はいぃ……(ひぃぃ……任務をサボって雑誌を漁ったり、小銭が拾えたからそれでちょっと美味しそうなお菓子とか買って食べてたなんてとても言えません……)」
ヒヨリ本人としては、あまりにくだらなさすぎる悪事がばれて怒られたり小言を言われたくないので隠していると言うだけの話。先程の雑誌を隠すという行動もそれに付随するものなのだが、別件で疑いをかけてしまっていたサオリはそのことを正常に認識できず、ヒヨリにそう言うとその場から離れてしまう。
「……どうだった?」
「……明日。私がヒヨリを監視する。それで、明らかになるはずだ……もし、もしヒヨリが裏切りものだったら、その時は……」
「……マダムに言いなよ。あんたがそこまで背負うこともない。そうだったら、悪いのはヒヨリなんだから」
「……ああ」
この監視は、ヒヨリが裏切り者ではないことを確かめるための行動なのか。それとも、ヒヨリが裏切り者である証拠を掴むためのものなのか。サオリには判断がつかなくなってしまっていた。
□□□□
「……昨日はやってしまいましたねぇ……」
翌日。ある建物の屋上でスコープを覗き込みながら、別世界のヒヨリは溜息を吐いていた。まさか先生に気付かれてしまうとは。王女の時のように、きちんと顔を隠しておいたのでその点は心配していないが、あれはあまりにも迂闊だった。
『まあ……そこまで気負うなよ。正体はばれていないんだろ?』
「はい……うぅ、あなたの優しさが染み渡りますね……」
『優しさって……』
通信から聞こえてくる少年の声にヒヨリも安心したような声を漏らす。昨日の夜、見つかってしまったことをユキノや少年にも伝えたが、ばれていないのなら問題ないだろうし先生も忠告をしてもらった相手を無下にはしないから大丈夫だろうと言われていた。そして、念のためにとアヤネや王女もサポートできるようにしつつ、引き続きこのように監視を進めていたのだが、
『……!?ヒヨリ、狙われているぞ!!』
「っ!?」
突然、別世界のユキノの声が聞こえ、ヒヨリが慌ててその場にしゃがみ込む。直後、弾丸がヒヨリの陣取っていた屋上にある出入口に突き刺さる。
「す、スナイパー!?でも、なんで私が……」
『……まさか、アリウスかい?』
『……弾の種類はわかるか?』
「え、えっと……」
パラペットから出ないように這いながら、弾丸が突き刺さった場所に向かう。そこにある弾丸を確認してユキノやセイアに伝えると、
『……正義実現委員会の弾じゃないな』
『ああ、それはFOX4……オトギが使用している弾丸だ……』
『……もしかしてだけど、ヒヨリが先生は狙われてるって言ったから、護衛がついたんじゃないかい?』
『なるほど……そして、実際に先生を見ている存在に気付いたことで狙撃を行ったと』
その狙撃の主がオトギであることが判明する。オトギがヒヨリを狙っているとなれば、逃げることは容易ではないだろう。何せ、完全に向こうからはターゲットとして認識されているのだから。
『……だが、先生を守ろうとしているのはどうやら、SRTだけではないようだ』
『ええ。遠くから確認しましたが、正義実現委員会も動いています。先生のいるところを中心として、隠れられそうなところなどを探していますね……抜いて先生に接触しようと思えばできるぐらいではありますが……』
『……アヤネ、指定したポイントを探してくれ。もし、正義実現委員会も同じようなことを考えていたら同じように……』
『はい……!見つけました!スナイパーが潜んでいます!……あれ?そのオトギさんの方に撃ちましたよ!?』
「え?」
どうやら、正義実現委員会側も先生から話を聞いて護衛としてスナイパーをつけたようだ。しかし、そのスナイパーは不幸な行き違いからか、最初に攻撃をヒヨリへ行ったスナイパーの存在に気付き、そちらを敵として攻撃し始めてしまった。オトギの方もヒヨリへの攻撃が止んでいるあたり、そちらの対応をしなければならなくなったようだ。どうすべきかとも一瞬悩んでしまったが、
『今なら逃げられるはずです!』
「!」
『ルートはアヤネに指示してもらう。警備の薄いルートを通って離脱しろ』
「は、はい!」
『気を付けてください、途中でどうしても先生がいる近辺を通ってしまいます。先生の傍には誰もいないので攻撃されることはないと思いますが……』
チャンスと言わんばかりにヒヨリは逃げ始める。だが、そうやって逃げる途中でヒヨリが先生の傍を通った時。
「君は、昨日の……」
「―――!気を付けてください、先生。今、あなたは見張られています!!いつ何が起こるかわかりません!!」
「え……」
こんなところで引き留められるわけにはいかない。既にオトギにはロックオンされているし、誤解が解ければ正義実現委員会からも狙われることになる。だからこそ、昨日のように意味深なことを言って固まってるうちに再び逃げることに成功する、のだが。
「……」
その様子を、遠くから見ていたサオリにばっちり見られてしまったことで、サオリは無言で背を向けて歩き始める。
(……ヒヨリ、見損なったよ)
この世界のヒヨリの監視をしようとしたが、彼女も監視の気配に気付いたせいで見失ったサオリは、仕方ないので先生の周辺をマークすればわかるかと思って張り込みを行っていた。裏ではこの世界のヒヨリが雑誌漁りなどを行っているとは気付かず、サオリの中でその疑惑は確信へと変わってしまうのだった。