壊れた楽園からの少女達 作:名無しの投稿者
「……ミカが、真犯人……」
「ええ、おそらくその実行犯はアリウス分校。昔、トリニティと袂を分かち、滅ぼされたと思われた学園……いえ、学園とすら認められていないでしょうから存在、って言った方がいいかしら」
「それ以降、アリウスは姿を消しました……が、今になって暗躍をするようになった。おそらく、セイアやナギサの襲撃を行ったのもミカの指示です」
「うーん、つまりは外患誘致罪って奴?」
ナギサが目覚めたという吉報を先生が知ったのも束の間、その日の夜にFOX小隊に呼ばれ、彼女達から聞かされた情報を前に渋い顔をしてしまう。ハナコのようにミカを怪しむ声こそあったが、それでも先生は疑いたくなかったのだ。アズサたちを助けてほしいと言い、そのためにナギサの悪事を明かしてくれたあのミカの姿があったから。しかし、
「彼女はアリウスを使って調印式で何かをしようとしているわ。それが何かはわからないけど……話だけだけれど、意図的に警備に穴を開けたりしている。多分、これが襲撃の真意ね」
「やっぱり、セイアとナギサを襲ったのは自分が調印式を自由に弄れるようにするためってことだね……」
「さっすがトリニティ、布石の張り方は壮大だね。もうずっと前からこの瞬間のために動いていたってことでしょ?」
それすらも彼女がトリニティのトップになるための一手なのだとしたら。そして、アリウスという存在を使って、友すら襲ってまでやりたいことは一体何なのか。
「……じゃあ、ユキノ達はミカの目的は何だと思う?」
「目的、ですか……」
セイアの発言を思い出す。しかし、アリウスについては自分を襲った責任をミカに果たせと言うばかりで、ミカのアリウスに対するスタンスなどは知る限りなかったはずだ。つまり、推測するしかない。普段の聖園ミカの人物像、そしてこの調印式にアリウスをどうにかして介入させようとしている所を踏まえると、
「……目的はゲヘナなのかもしれません」
「え?ゲヘナ?」
「先生はトリニティのゲヘナが犬猿の仲なのは知っていると思いますが、特にその筆頭となっているのが聖園ミカなんです。とはいえ、今までは彼女自身の立場もあったことやナギサがホストだったためにそもそもゲヘナと直接関わる機会がなかったわけですが……」
「そもそも、調印式に対して懐疑的なトリニティ生って意外と多いんです。ゲヘナを単純に嫌っている人もいれば、ゲヘナの生徒に迷惑を被られた人も多い。しかも先日、ゲヘナの風紀委員会が他所の自治区であるアビドスを不当な理由で襲撃し、あまつさえ風紀委員長がアビドスを陥れるためにまともじゃない情報を流したという話まで……」
「ま、待って!?それどういうこと!?」
ユキノの話を補強するようにニコが言う。しかし、それは初耳だ。先生が慌ててなんでそんな話が出てくるのかと抗議の声を上げる。
「むしろ風紀委員会には助けてもらった方で……それに、ヒナがアビドスを陥れたなんてことも嘘だよ。えっと、カイザーがアビドスに対して色々やってたんだけど、ヒナはそのカイザーが何かを探してるってことを伝えてくれたんだ。だからそれを調べるためにアビドスの皆と行ったら、カイザーにハメられて酷い事になったってだけで……」
「……客観的に見たら、信じているアビドスと先生も先生だと思うけど」
「少なくとも私達ならば状況次第とはいえ、その程度のあやふやな情報であるなら情報提供者を疑います。何かを探していると言われたって、それが本当に違法性があるものかどうかすらわかりません。カイザーは暗い所があっても表でも通用する大企業です、仮に探しているものが危険な兵器などであったとしても、業務の一環でそれを保護し処分しようとしている、などと言われれば何も言えなくなるのは当たり前。調べるにしても悟られないように極秘で、これは原則です。これでは風紀委員長がアビドスを陥れたと噂を流されてもある意味仕方のないことかもしれません。そういうゴシップや噂が好きなトリニティ生も多いでしょうし」
「でも、トリニティはアビドスとは関係ないのになんで」
「……だからじゃない?」
話を聞いていく内に先生が疑問に思ったのは、この事実を何故トリニティの生徒達が知っているかだ。アビドスで起こったことだ、それを当事者であった風紀委員会が把握している事は当然だが、あの件にトリニティの生徒は無関係のはずなのに。だが、オトギがそれこそが原因なのだと指摘する。
「突然キヴォトスに現れ、連邦生徒会長のお墨付きでシャーレの顧問として就任した大人。それまで連邦生徒会が手を焼いていてどうにもできなかったサンクトゥムタワーの復旧と共に堂々とシャーレに赴任。調印式の事を考えればこの機会での先生の出現は当然トリニティだって気にする」
「でもそこでゲヘナが抜け駆けをした」
「抜け駆けって……でも、そういう意味ならアビドスは?初めての出張先はアビドスだよ?」
「アビドスは先生が自らの意思で選んだ出張先です。それに、こういうことは憚られますが昔はとおかく現在は小さな学園。いかに先生が初出張先として選んだ特別性はあっても、そこまで重要視されることではないでしょう。問題は、風紀委員会がシャーレの先生を拉致する目的でアビドス付近まで侵攻してきたこと。それが巡り巡ってアビドスの危機に陥り、先生は足りない戦力を補強するために風紀委員会に頼みにいった」
「結果だけ見れば、ゲヘナはシャーレとのコネクションを強めた。でもトリニティには何もない。無理矢理押しかけて、無礼千万を働いたのに何故か頼られて繋がりを強められる形で1歩出し抜かれた。それに憤ったトリニティの上層部の生徒達が独自に調べ上げてこの噂を流布したんです」
「そんな……」
「トリニティは生徒が多い学園だからね。一枚岩じゃないわよ。まあ、何が性質が悪いって全部嘘っぱちってわけじゃなくてあくまで事実をどう受け取るかっていう方向性で調整してるところだけど」
4人に言われ、渋い顔をする。アビドスが危険に陥ったのはもっとちゃんと対策を取ったり情報を吟味できなかった自分が原因であり、それ自体はアビドスもゲヘナも悪くはないはずなのにと。だが、トリニティのその噂を流した張本人たちからすれば選ばれなかったこと自体が問題だったのだろう。
「かなり話が脱線しちゃったけど、とりあえず噂はおいといて。ミカがこんなことをしてトップの座を奪い取った目的がゲヘナだってことだね」
「調印式には当然、ゲヘナのトップ組織が集まります。万魔殿、風紀委員会。それらを纏めて叩く格好の機会であり、その役目を担うのがアリウス。そのアリウスを潜ませるために意図的に警備に穴を作れる立場になる。それが彼女の目的ならば辻褄は合います」
「で、でもそうなったら」
「まあ、生徒会組織が大ダメージ、治安維持組織も機能停止となれば運営はかなり苦しくなるでしょうね。一般生徒達からすればほとんどお飾りにも近いでしょうけど、それでも学園としてはなくてはならないものだし、あるだけの価値自体はあるし」
「だったら止めなきゃ!」
「ええ、ミカはアリウスを使って再度、ナギサを襲わせる予定です。そこを狙い……先生には正義実現委員会を誘導してもらってアリウスを抑えてもらいたいんです」
ミカの思惑についてでかなり話が脱線してしまったが、本題はミカが真犯人である証言がミカ本人の口から出てきたこと、アリウスの襲撃をどのように防ぐかだ。そして、ここから先は自分達ではなく、正義実現委員会に任せる方がいいだろう。トリニティの内部の問題はトリニティ生達が解決したということにする、それが1番丸いからだ。
「わかった。ハスミやツルギと相談してみるよ。ありがとう」
そう言い、ミカの音声が記録されたデータをクルミから受け取る。これがあれば、ナギサは大丈夫なはずだ。ミカからも真実を聞き、そしてハナコを助ける。まずはそこからだ。その後何をしなきゃいけないかなんて、全部終わってから皆で考えよう。そう先生は判断するのだった。
□□□□
「……首尾はどうなっている?」
「桐藤ナギサのセーフハウスの周辺には正義実現委員会が数人います」
「剣先ツルギは?」
「確認できません」
「……そうか」
深夜。セーフハウスの目の前を陣取る数名の正義実現委員会を見ながら、遠く離れた所に潜伏するサオリが彼女達を偵察していたスナイパーの少女に声をかける。ヒヨリの代わりとして補充された人員だが、その動きの節々から、実力からしてヒヨリには及ばないのだろうなというのは見て取れた。彼女はアリウススクワッドのメンバーでもないし、なれないのである意味当然と言えてしまうだろう。
「……これで桐藤ナギサを仕留めれば」
「ああ。障害は全てなくなる。聖園ミカを阻む者は何もない……後は、調印式まで牙を研ぐだけだ……いくぞ」
サオリがミサキ、アツコに声をかけ、2人が頷くと共に素早く走り出す。その背後から同行した複数の部隊がグレネード弾を放ち、警備をしていた正義実現委員会を吹き飛ばす。
「きゃああああ!!」
「て、てて敵襲!?ナギサ様!?」
間髪入れずにミサキがロケットランチャーを打ち込み、扉を爆破していく。3人が突入し、奥の方に行くと、そこには盛り上がった布団があった。
「あれが……!」
「死ね」
桐藤ナギサかどうか確認する必要もない。そこに誰かがいるのは確実なのだから。となれば、このセーフハウスにいるのは彼女しかありえないのだから。どこか鬼気迫る表情でサオリはヘイローを破壊する爆弾のピンを引き抜こうとする。その直後だった。
「っ!?」
弾丸がサオリの手を直撃し、ヘイローを破壊する爆弾が吹き飛んでいく。布団には穴が空いており、布団の中から何者かがサオリの手を撃ったのだ。さらにその背後に外の部屋から現れたハスミやイチカが3人の退路を塞ぐ。
「……正義実現委員会……!」
「アリウス分校……やはり、先生の言ったことは事実でしたか……」
「……ミカ様が犯人だなんて、信じたくなかったんすけどね」
「だが、これが真実だ」
「「「!」」」
布団が吹き飛び、ベッドの上から潜んでいた少女が降りる。それは、ナギサなどではない。正義実現委員会の委員長、剣先ツルギ本人であった。先生からこのことを聞いた正義実現委員会は先生と共にナギサを説得、もし何事もなければミカを疑った責をツルギらが必ず取ると言質を取ってなんとか従わせ、襲撃のタイミングに合わせてナギサを隠し通路を使って避難、そしてツルギ達を潜伏させたのだ。
「ここでお前達は捕らえさせてもらおうか」
「……どうする?」
(既にこうなってしまった以上、ここから逃げたとしてもミカはもう終わりだろう。だが、それならば丁度いい……ここで、剣先ツルギを持っていく……!)
この計画がばれてしまった以上、もう彼女は終わりだ。しかし、何の手柄も無しに戻るわけにはいかない。となれば、明確な今後の生涯を葬る必要がある。己の銃を構えたサオリに続く形でミサキとアツコも武器を構えると、ツルギ達とのにらみ合いが始まる。
「ミサキ!」
「わかってる!」
直後、ミサキが天井へ向かってロケットランチャーを構える。天井が吹き飛び崩れ落ちると同時にサオリとアツコは手持ちの手榴弾を全て周囲へと投げ、
「まずい!?」
「なりふり構わずっすか!?」
ハスミとイチカは慌ててその場から退避する。ツルギは部屋の中にいて逃れられないことを悟ってか、逆にサオリへと襲い掛かり、取り押さえようとする。が、
「―――!?これは」
「これがアリウス流の近接戦闘術だ!」
アリウス内で培われた近接戦のノウハウ。その練度の高さや技術を知らなかったが故なのだろう、セーフハウスの破壊を止めようとするツルギを投げ飛ばすと、そのついでと言わんばかりに彼女に向かって手榴弾を投げる。背中を壁に叩きつけられながらも手榴弾を見たツルギは、直感的にやばいと察知したのだろう。咄嗟に銃を投げつけて少しでも手榴弾を弾くも、それでも距離が近すぎたのか大爆発に呑まれてしまう。
「今だ、離脱するぞ!」
「させ……」
「お前たちの委員長を死なせたいのなら追いかけることだな!」
「なっ!?」
崩れていくセーフハウスから脱出する3人。イチカが追いかけようとするもサオリの言葉に止まってしまい、ハスミが崩れていく瓦礫の中、ツルギの下に駆け付ける。
「待ってください、今吹き飛ばします!」
手榴弾を何個か使い、瓦礫を吹き飛ばして2人を救出しようとする。そしてそこで彼女が見たのは、
「……イチカ、今すぐ救護騎士団に連絡をお願いします」
「は、はい……!」
血塗れでぐったりしているツルギの姿だった。