壊れた楽園からの少女達   作:名無しの投稿者

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第28話 転換

 

「……?」

 

ミカは手首の違和感から目を覚ます。そして周囲を見て困惑する。一見整ったようにも見える部屋。しかし、足りないものが多すぎる。テレビを始めとした外部の情報を得る手段の一切が断たれている。だが、それ以上にミカが困惑していたのは、何故か自分の両手首が手錠に繋がれているということだ。

 

「なにこれ……」

「おや、目を覚ましました?」

「!?」

 

向かいの部屋から、少女の愉しそうな声が聞こえてきてミカは目を見開く。声のする方へ視線を向けると、そこにはハナコが満面の笑みで通路と鉄格子越しにこちらを見ている様子があった。

 

「浦和……ハナコ」

「ふふ、最初はこんなしっかりした部屋に鉄格子なんて見世物みたいであまり良い気分ではない、なんて考えていましたが。あなたのその姿を見ると確かにこれも悪くはありませんね」

 

ソファに座り、ゆったりと寛ぎながらこちらを見てくるハナコを前に、冷や水をかけられたかのように頭の中がはっきりとなってくる。ミカは頭を高速で回転させながら、何が起こったのかを考えていく。

 

(そうだ、調印式について直接話したいってナギちゃんに言われて……なんでナギちゃんが寝てないのかわからなかったけど怪しまれるのもまずいからって一緒にお茶したら、急に眠くなって……まさか、薬を盛られた……?)

「あの後、何があったか知りたいですか?まあ、私もまだ話を聞いただけですが。アリウス分校を用いた暗殺計画は大失敗したんですよ。そして、いかに幼馴染と言えど2度も殺しにきた相手にかける慈悲はないとナギサさんはあなたをハメたわけです……ふふ、人を謂れのない罪で閉じ込めるからこうなるんです。まさに因果応報だと思いませんか?」

 

今まで閉じ込められ続けてきた鬱憤もあるのだろう、牢屋に入れられた真犯人であるミカを目の前に饒舌に語るハナコ。

 

「……随分愉しそうだね」

「ええ、すっごく楽しいですよ?今はむしろ出たくないとさえ思うぐらいに。だって、全ての元凶を前にして溜め込んでたものを好きに言えるんですから」

「さすが次期ホストとか色々持て囃されてスカウトをかけられるだけのことはあるってことじゃん?安全ってわかった瞬間に一丁前に相手を攻撃し始める……いやぁ、確かに牢屋に入れておくのがもったいないじゃんね?トリニティにこれだけ相応しい人材を閉じ込めてたんだから確かに私も人を見る目がなかったよ」

「……」

 

だが、そんなハナコの口が閉じられ、愉しそうな表情が一瞬にして不愉快そうになる。一方のミカは、もう自分が本当の意味で終わりだということを悟っているのか、逆にケラケラと笑いだしている。それが、ハナコにとっては不愉快極まりない。と、そこに正義実現委員会の生徒がやってきて、ハナコの牢の鍵を開ける。

 

「浦和ハナコ、出てきてください」

「やれやれ、まだ犯罪者ですか?」

「もう違います」

「まあ、いいです。ああ、最後に私でも理解できなかったことを聞きたいのですが」

 

外に出たハナコは通路からミカを見る。ベッドに座り、寛いでるような様子を見せるミカへ向かい、

 

「人を殺して楽しかったですか?」

「……!!」

「ちょっと!!」

 

冷たくそう言い放ち、去っていく。いかにミカが罪人であっても、この言い方はさすがにないだろうと正義実現委員会の生徒が注意するもどこ吹く風といった様子で施設を出ていくハナコに対し、目を見開いたミカは暫くそのままだったが、やがてベッドの上に倒れ込み、悲しそうに目を閉じるのだった。

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

「……すみません、先生。ご心配をおかけしました」

「ううん、気にしないで。それよりツルギ、怪我の方は大丈夫なの?」

「なんとも……医師が言うには、妙に怪我の治りが遅いということで。これでは、調印式の警備は検討し直しになりそうですね。ツルギは抜けてしまいますし」

 

病室で顔だけを入り口の方に向けた、包帯で体中をぐるぐる巻きにされていたツルギが見舞いに来た先生とハスミを見る。その後ろでは夜間の間、緊急手術が行われたツルギを守るため部屋の外に張り付いていたであろう正義実現委員会の生徒が一睡もできてないのかふらついた様子でこちらを見ており、

 

「……ハスミ、とりあえず彼女達を寝かせてやれ」

「わかってます。既に交代の人員は呼んでいますので。あなた達も車に戻って休みなさい。交代の人員が来るまでは私がいますから」

「あ、ありがとうございます」

 

さすがに彼女達をこのままにはしておけないので下がらせておく。そしてハスミはツルギにミカについて行われた後始末を伝えていく。

 

「……そうか。私が眠っていた間にそんなことが」

「ええ。ナギサ様もさすがにこれには厳しく対応せざるを得なかった様子で。1日でミカ様を捕まえて牢屋に入れ、徹底的にアリウスについて調べるようにとのお達しで。シスターフッドとも連携を取っていくことになるでしょう」

「すまないが任せる」

「ええ、あなたは1日でも早く回復できるように専念してくださいね」

 

話を聞き、ひとまずは落ち着けたことに安心する様子を見せるツルギ。アリウスをあの場で捕らえられなかったことは確かに残念ではあるが、あのような兵器があるとは。今の自分の様子を見るに死んでもおかしくなかったという事実にツルギは今更ながら背筋が凍るような感覚に見舞われる。

 

「それと、まだこの事は上層部にしか伝えられていないのですが……セイア様は実は生きているそうです」

「……何?」

 

そんなツルギに、周囲に人の気配がないことを確認して耳打ちする。ハスミからもたらされた事実にツルギも驚いたような表情を浮かべながら続きを促していく。

 

「ミネ団長が同時期に失踪していたのはセイア様が生きていることを知られたら再び襲撃犯に襲われることを考えてのことだそうで……ミカ様が捕まった後、ハナコさんから聞いた情報を元に事情を知っている救護騎士団や独自の情報網を持つシスターフッドから確認しました。ただ、セイア様は目を覚ましてはいないようですが……」

「……そうか。ありがとう」

 

死んだと思われていたセイアが実は生きていた。その事実を知り、ツルギの表情に笑みが浮かぶ。この後も調印式の事も含めて色々とやらなければならないことは山積みだろう。しかし、ミカがアリウスを用いて掌握しようとしていたホストの座は剥奪され、首謀者であるミカさえいなければアリウスも動きは大幅に取りにくくなるし、今後は聞き取りも進めば彼女が何をしようとしていたのかわかるだろう。今すぐに、とはいかないがミネが今も見ているということであればセイアもいずれ目を覚ますだろうという希望も持てるし、やっと事態が好転していくという実感を持てて、ツルギだけでなくハスミも笑顔を浮かべる。その様子を見ながら、先生も安心したように溜息を吐くのだった。

 

 

 

 

□□□□

 

 

 

 

「……というのが顛末だ。詳細はほとんど伏せられているが、桐藤ナギサの復帰に伴い、聖園ミカはホスト代理の座を降りることに。だがその時の過労で一時期入院……ということになっているが、まあ間違いなく牢獄行きだろうな」

「トリニティの牢屋は他と比べてさぞや居心地がいいだろうね」

 

ヘイマール自治区。そこに戻ってきた別世界のユキノ達は、トリニティでやっと終わった事件について話し合っていた。学生寮の中の大部屋で机を取り囲む中、少年も飲み物を飲んでから安心したような表情を浮かべる。

 

「まさかミカが本当に実権を握るとは思わなかったが……それも真っ当な手段じゃなくてナギサを襲わせてやったことだからな……いや、本当にクーデターを成功させて成り代わるとは思わなかった」

「私も本当に驚いたよ。どうしてこうなってしまったと正直頭を抱えたし、あの時ほど未来が見えなくなってしまったことを悔やんだ時はない」

「で、でも……結果的には同じ感じになりましたし?」

 

少年の発言にセイアも遠い目を見せる。だがヒヨリの言葉に少年も頷くと、

 

「……ミカの起こした一件自体は解決して、ミカは牢屋……アリウスは潜伏することになった。補習授業部の面々も退学することはなくなったし、トリニティだけを見るなら同じ結末ではある。でも」

 

ここでユキノの方を見る。ユキノは無言で頷くと、

 

「私達……いや、SRTはこの時点でその活動をシャーレに保証してもらえている。あの時も私達が動けるだけでこうも違っていたなんてな……」

(というか先生、エデン条約編の時点だとSRTの事知らなかったからな……いやまぁこればっかりはゲーム的には話の都合もあるからしょうがないんだが……連邦生徒会は……いやごたごたど真ん中にあったから身内の恥みたいなところもあって教えないだろうな……実際RABBIT小隊のデモで表に出たことでやっと先生は知れたようなものだから……それに、自治区の垣根を越えて活動って、実態は何でも屋と特殊部隊ぐらいの差があるとはいえ部分的には似通ってるからな……)

 

そういうのもあり、原作ではまだ残っていたSRTの生徒もシャーレを頼りにくかったのだろう。失踪後、残された役員たちがSRTの処遇について揉めていたことも含め、こればっかりは宙ぶらりんで消えた連邦生徒会長に大きな非があると言わざるを得ないだろう。それが巡り巡ったのがここにいるユキノなのだから、素直にシャーレを頼れるだけで話が変わりすぎることに思うところはあるのだろう。

 

「今回の活動は表立って評価はされないし、トリニティにも知られないように内々に処理されるとは思うが……これで連邦生徒会も、先生の手前もあるしもう廃校とはいえないだろうな」

(となると、これでカルバノグは1章の方は完全に消滅か……カヤが気にはなるが、手足だったFOX小隊がいなくなったんだ。カイザーとの縁は繋がったままとはいえ、動きは大幅に鈍るだろうし、最終編が終わるまでは放置して大丈夫……のはずだ)

 

襲撃を止めたことは、間違いなくプラスに働いているだろう。それに、プラスに働いているのはSRTだけではないはずだと少年はアヤネと王女を見る。

 

「アビドスも……現状は正直、私のいた世界と変わっているところはあまりありませんが、そこに至るまではかなり良くなったかと思います」

「この世界のアリスとケイ、いやKEYを取りまく環境はかなりよくなっていると思います。KEYはアリスとこの時期から交流していますし、ゲーム開発部の皆ともきっと……」

「……ってなると、残るのはやっぱり調印式か」

「うぅ……アリウスに入れたらいいんですが。さすがに今のカタコンベの中身はわかりません」

 

2人も安心したように語るが、ヒヨリの表情は暗い。ここまで他の皆、少なくとも良くなっているのにアリウスに関してはほぼノータッチみたいなものだ。とはいえ、

 

「……ヒヨリ、お前の出番、というより1番大事な部分はこの先、調印式だ」

「え……?」

「ああ、そうなるだろうね。ミカが良い感じに振る舞ってアリウスとのこうなってしまった以上、調印式は行われ、アリウスの襲撃は起こるだろう。その時、先生はサオリによって撃ち殺される未来がある……というか先生の身体では撃たれればほぼ死ぬだろう。なんで私のいた世界だけあれが致命傷になったのか不思議なほどだよ」

「つ、つまり私がサオリ姉さんを止めると?」

「そうだ。先生を撃とうとしたところを止めるんだ。手を撃つとか銃を撃つとかでもなんでもいい」

「ええ!?」

 

ヒヨリには大事な役目を与えられることになっている。調印式で先生がヒナと共にアリウスから逃れる途中、アリウススクワッドの襲撃を受ける。そこで先生が殺されるという可能性を潰すという最大の役目を担わされたヒヨリは驚いたように目を見開く。

 

(……調印式は色々理由をつければ、最悪シャーレとしてじゃなくてもいけるはずだ。皆も待機してもらって、その時が来たら動くことになりそうだな……ミサイル自体を止められたらいいんだが、場所もわかんないし、迎撃も王女の力を使っても無理そうだしな……)

 

そんな様子を見ながら、調印式に備えてどうするべきか、少年は考え始め、その内容を皆にも伝えていくのだった。

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