壊れた楽園からの少女達 作:名無しの投稿者
「……っ!!」
閃光、爆発、そして衝撃。その爆心地からは離れた場所にいた少年も、そのあまりの風圧に顔を顰める。
(予想以上すぎるだろ……!?よく無事だったな皆……それに、確かにこれはアロナバリアもぶっ壊れるな……)
事前にヒヨリからミサイルの威力とその範囲を聞いていたおかげでこうして難を逃れたが、ミサイルのことは先生には伝えることはできなかった。無論、言えば何故知っているのかという話になってしまうので、そうなると本当に信じて貰えるのかどうかなどもわからないのだが。
「……ああ、俺は無事だ。皆は?」
『こちらは問題ない』
『わ、私もです……とりあえず、先生は古聖堂の方にいるはずですけど……』
王女が作ってくれた通信機はこの状況でもしっかりと作用しているようだ。皆の無事を確認した少年は、まずこれからやるべきことを改めて確認していく。
(まず、この状況から離脱しようとする先生とヒナだ。道中はヒナに任せれば問題ないが、最後にサオリに撃たれて大怪我を負う流れは防ぐ必要がある。こちらはヒヨリに任せるしかない。古聖堂の方は放っておいても戦力的にはギリギリ大丈夫なはず。負傷していてもツルギがいるなら……ツルギ?)
と、ここでふと、ある事実に気付く。先生が死ぬ可能性があり、ここで死んでしまえば終わりだという事実だけに注力していたが、そちらにばかり意識を向けていたせいで見落としていたある要素。それに少年はようやく気付き、急いで確認を取る。
「ユキノ、セイア……ツルギは今、どこにいる?」
『……?確か今日の警備には参加できていないはずだ。怪我から回復しきっていないはずだ……?待て、参加できていない……?』
『……な、なんだって?』
ユキノの言葉に、通信機越しにセイアの顔色が悪くなっていく様子が目に浮かぶ。本来、古聖堂の警備にあたっていたツルギ。彼女がいたおかげでアリウスと、アツコらの手によって復活させられるユスティナ聖徒会の集団を相手にトリニティのメンバーは持ち堪えられた側面も大きい。だが今、そのツルギはナギサの襲撃に伴う負傷によって戦線に参加できていない。
「……まずい!王女、ユキノ、すぐに合流だ!古聖堂の地下に行くぞ!ユスティナ聖徒会の復活を止めないと、正義実現委員会とシスターフッドが全滅する!!」
『え!?あ、はい!』
『了解!3人は先生の方を引き続き頼む!』
『あ、ああ』
『は、はい!』
『わかりました!』
少年も急いで古聖堂へ向けて走り出す。道中、アリウスの生徒達とも遭遇するが、その生徒達に対しては脳天に弾を叩き込んだり首を蹴り飛ばしたりして一撃で沈めて先を急ぐ。そして混乱が続く古聖堂周辺でヘルメットを被って姿を隠したユキノと王女と合流し、
「王女、道を!」
「はい!」
建物の上部が吹き飛んでいるものの瓦礫でいい感じに隠れられそうな場所から地下に穴を開け、そのまま古聖堂の地下へ一直線に続く道を作って走っていく。
「間に合うか!?」
「わからん!けど、アツコ達アリウススクワッドも、古聖堂にある隠し通路から出てきてそこから地下に行く流れを取る必要がある!それも、トリニティを襲った巡航ミサイルで混乱している間じゃないとできない!だから……間に合うことを祈って走るしかない……!」
そして、最後の壁を王女の力で蹴破り、古聖堂の地下に少年達3人がなだれ込んだのと。目の前でアツコとサオリを含めたアリウスの数人が何かをし始めようとしていたのはまさに同時であった。
「!?お前達、どこから―――」
「ふっ!!」
通路の無い所から突然現れた少年達に驚愕するサオリ達。驚きのあまり固まるアツコに向かって少年が飛び蹴りを放って蹴り飛ばす。仮面には不思議な防御力があるとのことで、それがどれほどのものかまではわからないがこの程度ではダメージにはならないだろう。だが、妨害さえできればそれでいい。さらに王女が光を撃ち込み、大爆発を引き起こす。
「っ……誰だ!トリニティでもゲヘナでもないな……」
「さあね……こんなとんでもないことやって、しかもここでこそこそやってるような、いかにも犯人って連中に名乗る必要があると思うか?」
光の着弾で数人のアリウス生が吹き飛ぶ中、サオリが険しい声を発する。それに対して少年はそう答えつつアツコに発砲を続ける。そのまま王女が倒したアリウス生の下へ移動すると、彼女の持っているアサルトライフルを拝借してそちらに持ち替え、彼女達がユスティナ聖徒会を入手できないように妨害していく。サオリの下にはユキノが向かい、2人は激しく撃ち合い、体術をぶつけあう。
(ミサキとヒヨリの姿がない、つまり原作通りミサキは上でトリニティと戦闘中、ヒヨリはヒナに一蹴されてると考えていいか……)
そして、徐々に天秤は少年達の方へと向かいつつあった。サオリはユキノに押され始め、アツコの方も仮面の防御力も含めて互角に立ち回っていたものの少年の援護に王女が入れるようになってきたところで分が悪くなる。
「くそっ!この場は撤退する!」
これ以上は分が悪いと判断したのか、サオリがそう言うと共に煙幕を貼る。アツコや起き上がったアリウス生達も消えていく中、少年はどこかへ消えていくマネキンのような人物を見る。そういえばあいつもいたな、と思いつつも今は後にする。
「……これでユスティナ聖徒会は阻止できたか」
「……だが、いつまでもここに陣取っているわけにはいかないだろう。上でトリニティは撤退するはずだ。私達だけでは追加で戦力を持ち込まれたら勝ち目がないし、トリニティもいなくなったところで再度来るだけだと思うが……」
「……完全にここを破壊、再構築して滅茶苦茶にすればいいのでは?」
「「……」」
一旦は脅威を排除できたものの、これではただ先送りしただけに過ぎない。ならばどうするかと悩んでいた少年とユキノの視線が王女に向けられる。そして、
「……そもそも脅威を生み出す土台がなくなれば、か」
(アリウスが行ったエデン条約の調印は、昔トリニティが1つになった時の再現、だったはずだよな。だから、それを行った古聖堂という場所も必要なわけで……つまり、その古聖堂がなくなれば調印自体が不可能になるってことか?とはいえ、上の建物が完全に吹き飛んだだけだと支障がないってわけだしな……あ、そうだ)
考え込んだ少年はふと、ある考えを思い付き、王女もそれを承諾したことで作業を開始する。ユキノも王女の護衛に付く中、少年は地上の方へと上がっていく。その理由は、形勢不利になってるであろうトリニティの面々への助太刀だ。自分1人でツルギの代わりになど到底なれはしないが、アリウス側はユスティナ聖徒会がいない。本来の流れよりも敵戦力が少ない状態ならば、まだ突破口が見つかるはずだと考えながら、地下から出たことだけはトリニティ側にばれないように地上に出る。そして状況を確認すると、
(先生の姿が見えない、そしてミサキの姿もないってことは、ミサキは先生を追ったって事か)
傷だらけで戦うハスミや、シスターフッドの歌住サクラコを筆頭とした、まだ立てる正義実現委員会とシスターフッドの面々がアリウスを相手に苦しい戦いをしていた。お互いに戦力が削られているが、その影響が悪い方に出ているのはトリニティ側のようだ。
「っ、ハスミさん!」
「!?」
サクラコが何かに気付いて声を上げる。その声によってハスミは、自分を狙うアリウスの生徒のグレネードランチャーの照準の存在に気付くも、もう遅い。その引き金が引かれようとしたその時、そのアリウスの生徒がどこかから撃ち込まれたスナイパーライフルの弾丸で吹き飛ばされて気絶する。
「え……?」
「おい!あんたら大丈夫か!?」
「!あなたはシャーレの……なんでここに!?」
「ただの野次馬で来てみたらこれだ!先生はどこに?」
それをやったのは、近くに落ちていたスナイパーライフルを拝借した少年だ。ハスミの窮地を救い、そのままハスミの援護に入るようにアサルトライフルに持ち替えて撃ちながら、正確な情報を得ようとする。ハスミもサクラコと共に少年の援護を受けながら近くの遮蔽物の瓦礫まで後退すると、射撃を行いながら説明する。
「突然衝撃が来て……おそらくミサイルだと思われますが、そのせいでこの有様です。その後、アリウスの襲撃を受けて……先生も先程までいましたが、先生はゲヘナの風紀委員長の空崎ヒナが連れて行きました。あまり……こうは言いたくはないですが、私達はこの有様ですし、彼女自身怪我をしているとはいえ私達よりは余裕があったようですので……半ば押し切られるように先生の安全を確保すると彼女が連れて行きました」
「そうか……こっちはどうだ?さすがにこの状況で、敵がどれほどいるかもわからないアリウスって連中相手にここで抵抗を、なんてやれないと思うんだが……」
「ええ、私達も丁度、撤退を行えるタイミングを見計らっていたところで……問題は、そこまでまだ辿り着けていないところですが……」
「……2人とも随分と仲がよろしいことで」
「サクラコ様、今は真面目な話をしているのでやめてください。彼とはサンクトゥムタワーを奪還する時に顔合わせをして、その実力を知っているだけです。シャーレの部員としても精力的に働いてくれているようですし、信用がおける相手というだけです」
別に深い意味があって言ったわけではなく、単純にサクラコが知らない人とハスミが思ったより信頼感のある会話をしていたことが気になっただけなのだが、そうとは受け取ってもらえなかったようだ。しかし今は状況が状況なのかサクラコもすぐに切り替えてアリウスを迎撃していく。
「くそ……なんで落としきれないんだ!?」
「増援は!?増援が来るはずじゃ……」
「……今です!動ける人は動けない人を!戦える人は殿を務めます!」
「シスターフッドも今はハスミさんの指示に従って動いてください!」
そして、頃合いかと判断してトリニティは撤退を開始する。動けはするが戦闘はできないほどに消耗したり傷ついている者は意識を失っている他の人を抱えたり背負ったりしながら離脱していき、ハスミとサクラコを筆頭にアリウスの追撃をブロックしながら彼女達の離脱を手助けする。
(ちゃんと戻り切るまでは確実なことはいえないが、こっちはこれで何とかなりそうな目は見えてきた……後は、先生が殺されずに済むかどうか、だな……)
転がってきたアリウス生が持っていたグレネードランチャーを奪い取ってそれを敵に撃ち込みながら、少年は撤退を進めるトリニティ生と、ここにいない先生の身を案じる。そんな先生の方はというと、
「……」
「くっ……」
「巡航ミサイルが直撃したんじゃなかったの?……まだまだ余裕そうなの本当にどうなってんのよ……」
物陰に隠れる先生。彼の目の前に立つヒナは、巡航ミサイル着弾の影響を避けきれなかったのか額から血を流していたり、全身にも小さくないダメージを抱えていた。しかし、彼女の前に立つサオリ、ミサキ、アツコの3人を前にしてもまだ闘志も意識も失っていない様子で、戦闘に関して一切支障がないようにも見える。
(……誤算だったな。ミサイルが着弾した直後に奴と交戦した部隊もいたはずなんだが……それすら相手にならない、か……先生を1人で護衛しながらの戦闘だって簡単なものじゃないはずなのに……ユスティナ聖徒会。あれを確保できればヒナに対して物量戦で消耗させられただろうに、それを確保できていないのがここまで響くとは……)
悔しそうにマスクの下の口元を歪めるサオリ。巡航ミサイルの直撃による混乱を利用した計画は、第三者の乱入によって大きく歪み始めていた。だが、まだやりようはある。そのタイミングを見誤るなと自分に言い聞かせながら、サオリはミサキ、アツコとアイコンタクトを交わすと、ヒナへ向かって走り出すのだった。