壊れた楽園からの少女達 作:名無しの投稿者
少年の下に何かを感じたのか、王女とセイアが体育館に現れる。そしてそこにいたユキノを見て2人とも何かを察したような表情を浮かべる。ユキノも驚いたような表情を浮かべながら自分の体を見ていたが、椅子を用意されて座り、3人からある程度の事情を説明されていくと、少しは落ち着きを見せ始める。
「……」
少年がユキノがこの世界に呼び出される直前にその世界で起こったことを垣間見たという発言を受け、ユキノも隠したりする意味はないと判断したのか、少しずつ話をし始める。あの記憶だけでは少年自身も予想はしつつも確定していいかどうかわからない内容ではあったが、やがてその説明にどういう状況だったのかを悟る。
(カルバノグ2章の分岐パターンか……最後の方でユキノは、1人でサーモバリック弾を自爆させようとしていたはずだ。おそらくそれが成功してしまった結果、ユキノ自身も巻き込まれて……でもユキノは死なず、生きていた。いや、あの状況だけで言ったら、生きている方が拷問なのかもな……)
戦いに敗北したほぼ直後から呼ばれた王女や、予知夢という形で結末を見届けたセイアと異なり、ユキノはあの世界の顛末を見れてはいない。そのためここからは少年の予測という形にはなってしまうが、最終的にカイザーの手で連邦生徒会、そして特にシャーレが消滅したとなればいずれ弊害は現れてくる。そう結論付けて少年はユキノを見る。
「……こうして普通に喋ることができて、呼吸もできているのだから事実なんだろうが……未だに信じられないな」
「気持ちはわからなくもない。私も今や健常者の身だからね。最初は偶然か、鎖を断ち切られたからかとも考察していたが……」
どこか顔を気にする様子を見せていたユキノに鏡を取り出して手渡す王女。王女から鏡を受け取り、そこに写る自分の顔を見ると、そこには当然というべきか傷一つないユキノの綺麗な顔があった。やはり、この世界に来る直前のことを想えばどうしても気になってしまうのだろう。同時に、何故怪我が治ったのかという点について首を傾げていると、同様の異変を感じてたセイアが口を開く。
「セイアもだったのか?」
「ああ。昨日の時点では予知夢を見てはいないが……これが影響しているのかもしれないし、そうではないかもしれない。もしくはこの世界に呼ばれた時点で身体が抱えていた異常は元に戻るかもしれない。まあ、彼女の様子を見ていると後者の方が近いのではとも思い始めているがね」
「成程……もしかしたらテクスチャの再構築が行われたのかもしれませんね。ケイからもらった知識の中に丁度テクスチャ関連の情報がありました」
「再構築……?」
テクスチャの再構築。聞き慣れないワードにユキノとセイアが首を傾げる。王女はどう説明したものかと難しい顔をする。それを見たセイアがストップをかけると、
「いや、理解しづらい話なら後でいい。要するに私達の身体は以前とは違い健康そのものになった。そういう認識でいいのかな?」
「はい。おそらくですが」
「ではユキノ……君にも一応聞こうか。君は、我々の同士になるつもりはあるかな?」
「……」
セイアの言葉を聞き、ユキノは目を閉じて考え始める。だが少し考えて自分の意見をまとめ終えたのか、ゆっくりと眼を開く。
「ああ。私は……私だけならば愚かな選択をした罪に対する罰として、責任を取る必要がある、ということで済んでいただろう。だが……他の小隊の皆に、D.U.地区に住まう他の者達にその影響が出てしまうとなれば話は別だ。だから……私は、私の凶行を止めたい。そのための力を、貸してほしい」
あの未来を回避するために。自分だけの問題では済まなくなる前に、そのあり得た可能性を今度こそ食い止める。ユキノのその静かな決意を見て、王女達も喜んで頷く。
「もちろんです!」
「異論はないとも。それが、この世界に来てしまった意味にもなるだろう」
「ああ。それで……今はいつだろうか?」
「……そういえば今はいつの時期か確認していなかったね」
であれば、大切なのは時期だ。少年は少し考え始める。教室にかけられていた日替わりカレンダーの日付を思い出す。
「確か、今は……○月の〇日のはず」
「……確かその日付だと……1ヶ月後だ」
「「1ヶ月後?」」
「……シャーレの先生が赴任する日だ」
「「「!」」」
シャーレの先生が赴任する日。プロローグの前の時期にこの3人は来たのかと少年は納得する。だが、シャーレの先生が来るのに合わせられるのは大きな利点だ。
「2人は覚えてないのか?」
「その時私は眠っていたからね。先生の存在自体は把握していたが先生がいつシャーレに来たかまでは知らないさ」
「私も先生が赴任した後に目覚めたので……」
「そ、そうか……」
「……でも、この情報は大きいんじゃないか?それなら……俺がシャーレに所属すれば先生の傍で事件に関わることができる」
シャーレの部員として登録すれば、もっと自由に動くことができる。シャーレの一員としてこの世界で起こる出来事に関わることができれば、3人の方も動きやすくなるはずだ。
「先生の信頼を会得したいのなら、最初のシャーレビルの奪還戦に参加するのがよさそうだな」
「……戦えるのかい?」
「……」
セイアの指摘に少年はぐっと黙り込んでしまう。残念ながら、少年は戦闘経験はほとんどない。銃もまともに動くかどうかわからない程度には使っていないのだ。これでは最初が肝心なシャーレ奪還戦に参戦しても戦力になるかどうかすらわからない。
「で、であれば私達が……」
「……待ちたまえ。私達はこの世界においてどういう人間だ?」
「……あ」
「……まあ、混乱は間違いないだろうな。同一人物が現れるわけだから。それが別世界から現れた本人だなんて誰もわからない。それでただの偽物扱いされるだけならいいが……私達の経験は嘘を吐けない」
「そうだね。動きや戦果を見せてしまえば、本人という裏付けになる。それが、この世界の私達に被せられることになればどうなるかはわからないだろうね」
であれば、戦闘経験が豊富な王女らが代わりにやるべきかもしれない。そう思い王女が立ち上がるが、セイアの言葉を聞いて気付き、座り込む。
ユキノが動いてしまえば、それを見た皆はSRTのFOX1が勝手に動いた、という認識をするだろう。それでいて、肝心のFOX小隊の方は偽物がいるという疑心暗鬼に陥る可能性がある。
セイアはそれ以上の問題だ。セイアは表向きは入院、しかしトリニティ上層部は死んだ存在だと思っている。そのセイアが現れたとなれば彼女達がどう動くのかまるで予想がつかない。
王女は現時点では問題ないが、後でアリスが目を覚ました時が問題だ。何故瓜二つの少女が廃墟で寝ていたのかという話にもなるし、それがきっかけで王女の力がバレれる、なんてことになればどう受け取られるかも気になってくる点になる。
「……となると、俺が行くしかないか。それに、先生だって俺の顔の方が覚えがいいだろ……男子生徒だし。でも……どうやって強くなればいいんだ?少なくとも、最低限戦えるぐらいになるには」
「そこにいるじゃないか。君が強くなるために必要な相手が」
「え?」
セイアがユキノの方を見ると、ユキノはその視線の意味に気付いて頷く。少年が困惑していると、ユキノが自ら指南役を名乗り出る。
「君が彼女に叩きこまれればいいのさ。戦い方をね」
「成程、召喚士のレベルアップですね!」
「召喚士?」
「えっと……違いますか?」
「……いやまあいいや呼び名は何でも……いいのか?」
「……構わない。どこまで教えられるかは私にもわからないが……それでもよければ」
「……いや、底辺レベルから考えれば十分すぎるぐらいだ。ありがたく受け入れるよ。それに他にも色々やらなきゃ……な」
ユキノの厚意を受けることにしつつ、少年は立ち上がる。タイムリミットは1ヶ月後。この1ヶ月の間にできるだけのことをやらなくてはならないのだ。
(まずは4人に増えた以上は生活できるだけの建物の修繕、環境改善、後は金を稼ぐ方法に鍛錬、と……こうして考え直してみると……本当にやることが多いな……だけど)
そして、にっと、蘇ってきたやる気と共に笑みを浮かべるのだった。
(やってやるさ……こうして呼んだ皆のためにもな!)
□□□□
1週間はあっという間に過ぎていった。建物の修繕等に関しては王女の力で行われており、少しずつではあるが建物や機材などは蘇りつつある。仕事については少年が日雇いの仕事を受けることで解決しており、これまで何もなかったことや王女の力である程度誤魔化しが効くのもあり、思ったより資金繰りは楽になっていた。とはいえ1人分の稼ぎではまだ厳しい部分はあるものの、王女の力ではどうにもならないものだけど賄う、といったやり方で何とか抑えることはできていた。
「……ほお、随分動けるようになったじゃないか」
広場を走り回り、ハンドガンで的を撃つ。1週間前と比べればユキノの指南のおかげもあり、命中率はかなり改善してきた。しかし、動いている的についてはまだぶれが多少あるものの、それでも筋がいい。
「ああ……元々、素養自体はあったんだと思う。まさかたった1週間、それも日中は日雇いの仕事を受けに自治区の外に出て行って、夜の空いた時間での鍛錬でここまで伸びるとは思わなかったんだけどな……」
「確かに。動けると言ってもまだまだだ。常人よりは動けるというだけの話であって、ツルギのような実力者と比較すれば足元にも及ばないだろう……それで?元SRTから見た評価は?」
「……今のペースなら、1ヶ月で及第点に届く」
「ならよかった。この初動だけは絶対しくじるわけにはいかなかいからね」
その様子を見に来たセイアがユキノとそんな言葉を漏らしていると、そこに王女が走ってくる。
「2人とも見てください!こんなものを作りました!」
「これは……ヘルメット?」
「はい!召喚士さんが言っていましたがヘルメット団はヘルメットを外さなくても仕事ができます!なら、私達もこれで顔を隠せば外で働けるのではないでしょうか!」
「「……」」
王女の言葉に顔を見合わせる2人。そこに一通り射撃訓練を終えた少年が戻ってくると、王女の話を聞き、これはありかもしれないと頷き返し、セイアとユキノも生活基盤を整えるためには今のままでは金が足りないということでそれを受け入れる。
「……そこだ!」
2週間後。縄で括られた木の板が揺れる。そこに射撃が当たるようになる。少年が立ち止まった状態ではあるが動く的にも当てられるようになってきた。働き手に関しては建物の補修などを終え、新たに用意した服に身を包んだ王女を筆頭に3人も自治区を出て日雇いの仕事を受けてくるようになっていた。そのおかげで、資金面も学園として見るとまだまだとはいえ、少しずつではあるが貯蓄もできるようになっていた。
「……こんなものか。そろそろユキノ達も帰ってくるだろうし、もう戻るか……」
この頃になると少年は仕事に関しては半日だけにして、空いた時間を訓練と食料調達に回していた。
「……む、あれは」
ヘイマール自治区は寂れているが故なのか、自然が多い。そのため、野草や芋など、食料だけならばかなり豊富に揃っているのだ。加えて少年への呪いが弱まった影響なのか、
「鹿か……いや、本当に鹿がいるなんて思わなかったけどな……」
少年が入ることのなかった自然の奥に住んでいたのだろう、野生動物がその生活範囲を広げてきており、こうやって狩りができるようになっていた。そのため、罠を作って仕掛け、罠にかかった獣を処理して持って帰るといった方法で肉を確保していた。肉はその時に食べられるもの以外は大体干し肉にされて日持ちさせられるようにしたりすることが主であった。
(……学内に残ってた本の中に狩りのやり方が書いてあってよかったな……昔は狩猟生活でもしていたんだろうか)
3週間後には発電機を復旧させて冷蔵庫など必要最低限の家電を使用できるようになっていた。食料についても調味料や調理器具なども一通り揃い、まともな調理が可能となっており、少年の実力についても順調に伸びていった。
そして4週間後。1ヶ月の時が経過し、自治区の出入り口である深い森の入り口に、少年達はいた。
「さて……ついに運命の日が来たが、気分はどうかな?」
「気分か……正直、どうなるかわからなくて不安ってのが本音だ。でも、俺がしくじったらダメなんだ、ここまで頑張った皆の為にも頑張ってみるよ」
「きっとあなたなら大丈夫です!私達は信じていますから!」
「……仮面はある。影ながら支援できるように同行するべきか?」
「いや……今はそのリスクを出す時じゃないと思う。なんとかしてみるさ」
「……そうか、あの時の不良達の戦力なら問題はないと思う。だが、あの一件は七囚人の1人が関わっているからな。気を付けてくれ」
「ああ。わかってるよ。俺もまともにやりあうつもりはない」
そして、皆に見送られ、深い森の中を走っていく。そして森の外を出ると、
「……サンクトゥムタワー。目的地はあそこだな……うし!いくぞ……!」
遠くに見える巨大な塔と、その下にある大きな街へ向けて走り出すのだった。