壊れた楽園からの少女達 作:名無しの投稿者
(……とは言いつつ、どうしたものか)
遠くに見える連邦生徒会のビルを見上げたところで少年はあることに気付く。どうやって先生と接触するかだ。
(今、ミレニアム、ゲヘナ、トリニティ……所謂キヴォトスの三大学園の生徒達が連邦生徒会長失踪に伴う治安の悪化等に対する抗議のために来ているはず。ただ……このネームバリューの中に生徒会長とはいえ名前すら知られてるかどうかすら怪しい所の生徒が来たところで釣り合わないよな……冗談抜きであなた誰なんです?なんでここにいるんです?なんて言われてもおかしくないし……)
今、上の方では連邦生徒会に抗議しにきた3校合計4人の生徒達がいるはずだ。しかし、その中に自分が混ざったところでちゃんと対応してくれるかどうかわからないし、そのままの流れでシャーレ奪還作戦に参加したところで生徒Aみたいな印象になる可能性もある。
(……と、するとバッチリ印象を残すには……これしかないな)
元から名前で勝てない以上、戦果を上げるしかない。戦果を以て先生の信頼と印象を稼ぐのが一番だと判断し、少年は走り出す。連邦生徒会のビルではなく、シャーレのビルへ向かって。
□□□□
「……これは?」
それから少しして。1人の男性が4人の少女達と共に驚きの表情を浮かべていた。
『戦闘が行われていたという報告はありましたが……』
「……この痕跡。戦い慣れている人ですね」
男性ことシャーレの先生。彼は目覚めた時には連邦生徒会のビルの中におり、連邦生徒会長の代行を務めることになる七神リンに連れられた結果、ミレニアムサイエンススクールの早瀬ユウカ、ゲヘナ学園の火宮チナツ、トリニティ総合学園の羽川ハスミ、守月スズミの4人と共に不良に占拠されたシャーレビルを奪還することになり現地へ向かおうとしていたのだ。しかし、そこで目撃したのは既に何者かが戦闘を行った跡。
「一体、誰が……」
「……!銃声が向こうから……!」
「正体がわかりそうですね」
治安維持部隊である正義実現委員会に所属しているハスミがその正体を確かめるために走り出す。ワンテンポ遅れて、同じく風紀委員会に所属しているチナツが走りだし、その後ろを先生達もついていくように走る。その先にいたのは、
「くそっ、なんだこいつ!」
「悪いけど……この程度をどうにかできなきゃ申し訳が立たないからな!」
「ぐえっ!」
少年が1人で不良達を相手に大立ち回りをしている様子であった。倒した不良からグレネードなどを拝借して投げ込み、アサルトライフルを奪って全ての弾を撃ち切っては投げつける。使えるものを何でも使って戦う一見なりふり構わない戦い方。基礎やたたき上げについてはユキノの影響も大きいが、そこから今の形に落ち着いたのは少年自身の力のおかげでもある。
(まあ、さすがにお行儀よく戦ってたら普通に追い込まれたせいでこうなっただけなんだが……やっぱ俺もまだまだだな。むしろ1ヶ月の付け焼刃でここまでやれてるだけユキノが凄いってことなんだが)
「くそっ、逃げろ!」
「なんだこのガキ!」
「下がれ下がれ!戦車持ってこい!」
不良達も分が悪いと判断したのか後退していく。その様子を見届けながらハンドガンのリロードを行っていると、背後から聞こえてきた足音に銃を向けながら後ろを振り向く。そこにいたハスミやチナツの姿を見て、不良達とは装いが違うことに気付いて銃を降ろす。
「その制服は……」
「あなたは、一体……?」
「ハスミ、チナツ、大丈……?君は?」
そこで少年は先生達がシャーレに向かうためにこの場に来たということに気付き、
「俺は……まあ、たまたま来たら襲われて抵抗したらこうなってるって感じですよ。それでそちらは?」
前もって用意していた理由を口にしながら、先生の事情を聞くことにするのだった。
□□□□
少年が先生に合流してから数時間後。先生達は不良を掃討し、シャーレの奪還を無事に果たしていた。シャーレの中に先生の護衛として少年が一緒について入り、ワカモが先生に一目惚れして逃げ出したり、その後にリンが合流して先生がシッテムの箱を起動、サンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会に返還した後にシャーレの説明を受けるといった一通りの出来事が起こっていた。
『じゃあ、そのシャーレの部員、俺が最初に登録しましょうか?』
『本当かい?助かるよ!』
リンからシャーレについて説明を受けた先生に、少年がシャーレの部員として登録すると言い、シャーレの部員になる。この後、ユウカもシャーレの部員に登録するという流れもあるも、ユウカにはセミナーという仕事がある。そういう意味では、ある意味学園としての仕事を殆どやることがあまりない少年はシャーレに入り浸れるアドバンテージがあると言えるだろう。
(というか学園とは名ばかりでただそういう場所があるってだけ、なのはある意味禁句かもしれないな……)
ひとまずこれで、原作で起こる事件の数々にシャーレの立場として介入するための下地は整った。後は事件が起きれば適当な理由でもつけて現地に向かい、シャーレの部員として動く。とりあえずこの方針で問題ないだろう。
「ただいま、帰っ―――」
「お帰りなさい!」
「やあ、待っていたよ」
「……シャーレの先生が赴任したのを確認した。第一関門は突破した、ということでいいのか?」
初見の人は迷いやすい深い森を抜けて自治区の中に入っていく。すると、少年が帰ってくるのを待っていたのか、王女、セイア、ユキノの三人が出迎える。ユキノの手にはこの世界で新調された安物のスマートフォンが握られており、連邦生徒会のアカウントがSNSを通じてシャーレの事を発表したのを知ったようだ。
「ああ、とりあえずシャーレの部員にはなれたし、先生には多分、それなりの印象は与えられたはずだ。だから、まずはしばらくシャーレに入り浸りながら先生と色々話とかをしてみるつもりだ。俺も先生ってどういう人なのかまだ掴めてないからさ」
「そうなんですか?」
「見ていたんじゃないのかい?」
「……俺が垣間見た二人の記憶だとほぼ散り際みたいなものだったからな……ユキノの記憶の方でユキノをどうにか治してほしいって医者に縋ってたのを見たぐらいだからいまいち判断がつかないんだよな。とはいえ、ああいうのを好青年って言うのかな、ってのは感じた」
「はい、私の知っている先生と大体一致していますね!」
少年の説明に王女も同意する。そして、これからはまずシャーレの先生との関係を深めるために動くという少年の方針にも三人は同意するのだが、ここでセイアからある提案が出される。
「ただ、そうなると……もう1人いた方がいいかもしれないね。まだ悪夢は見るんだろう?」
「ああ。もう受け取り方は大分マシになってきたしそこまで気にしてないけど、見るは見る。いや、これマシになったというか割り切ったって感じか……」
「こう言うと人手をせびるようであまり好ましくないと思うが……君がシャーレにいるということは、1人減るわけだからね。そこは欲しいと思うのは悪い事かな?」
「……いや。それは間違ってないと思う。それに……悪夢を見たってことは、まだ呼べるはず。3人のように、前の記憶に何か思うところがある人、その最悪の未来を変えたいと思う人、とか……」
セイアの言葉を聞きながら、少年は考える。今、ここには3人がいるが、この先この世界で起こるであろうブルーアーカイブ本編の話に首を突っ込んでいこうとした場合、どこでどう躓いたのか、それを知る者は同じ轍を踏まないようにするために必要なのではないかと。
(……ある意味、各エピソードに対応している、ともいえるのか?)
王女、もといアリスならばパヴァーヌ編及びデカグラマトン編。セイアならばエデン条約編。そしてユキノならばカルバノグ編と言ったように。だとすると、残るのは対策委員会編、百花繚乱編、オラトリオ編の3つに該当する失敗した世界線から誰かが呼ばれる、というパターンだが。
(悪夢の内容を見た感じ、百花繚乱編と思われる世界線は見たことないんだよな今の所……これは、あの世界が仮に花鳥風月部大勝利ルート入っても百鬼夜行が滅茶苦茶になるだけで先生が死んだり、みたいなことが起こるまでもないから世界が終わる、みたいなこととは程遠いって感じなんだろうか……花鳥風月部自体は怪談で百鬼夜行を云々が目的だからな……オラトリオ編の天使とかみたいに一気に世界規模に、っていうのがないのか……)
デカグラマトン編まで。それが少年の覚えている原作知識だ。当然この先も原作の話は続くのだろうが、まるで示し合わせたかのように悪夢はデカグラマトン編までのシナリオの分岐しか見えていない。ちゃんと続いた先の危機を知っていて、それまでの成功例を知っている人がいるのは心強い部分もあるのだが。
「……まず先生が一番最初に行くのはアビドス、か」
「そういえばそうだったな」
「そこでも問題は起こるんですか?」
「ああ、色々な……正直今までは見た悪夢の傾向からある程度選りすぐる、なんてやれなかったけど……やってみるか」
少年は再び体育館に移動する。その後ろには3人もついてきており、少年が魔法陣を起動しようとする様子を見ていた。
「……」
魔法陣を少し訂正していく。使うのが4回目ともなると、こういう細かい部分もわかってきた気がする。今度は明確に呼び出す先の悪夢を指定して呼び出す。それによって自分はその世界線の悪夢を見なくなる代わりに、その世界から誰かが呼ばれることになる。
(頼むぞ……一番最初、対策委員会編からして躓きかねない部分は考えるだけでも意外とあるんだ……!)
指にナイフを突き立てて血を流す。初めて召喚する様子を見るセイアとユキノがこういう風にやるのかと少し表情を変える中、少年が両手を地面へと付ける。直後、魔法陣が光を放ち、その隅に光が集まっていく。直後、少年の脳裏にその世界の記憶が蘇る。
―――広大な砂漠の中。3人の少女が校舎の中で項垂れていた。昼過ぎあたりだろうか。そこに金髪の少女が現れる。3人の少女がその金髪の少女を見て安心するも、その少女が不安そうな表情を浮かべているのを見てしまう。
しきりに慌ててスマホでニュースを確認したりしていた中だった。その中の1人、黒髪に眼鏡をかけた少女が天を見上げる。何か、視線を感じたようだ。その直後。
「……え?」
空の彼方が一瞬光った直後。地面が一瞬揺れ、激しい閃光と衝撃が全身を襲ってくる。何が起こったのかわからない。少女の視点だと本当に一瞬だろう。だが、少年はそれらを俯瞰する立場でこの記憶を覗いていたために何が起こったのかを理解できた。弾だ。光か電撃か。それともプラズマだろうか。そんな光が、遠くから飛来し、少女達のいる校舎から少し離れた位置に着弾。直後、その場所を中心として一帯が光に巻き込まれて消し飛んでしまったのだ。
「……」
光が収まると、そこには巨大なクレーターが出来上がっていた。その中で手足があり得ない方向に捩じれたり、首が曲がってはいけない方向に曲がったりした人の身体や、全身が焼け爛れて判別すらできなくなった人だったものが見えてくる。そんな中、その人だったものの下から、それに庇われたおかげで生き延びたのだろう、全身を大火傷に包んだ少女が1人、這い出てくる。その少女は声すら出せない。視界も右目は完全に潰れていて、痛々しい。焼けて瞼が張り付き、閉じられない左目。数時間が経過した頃だろうか、その眼球が、遠くから必死の形相で走ってくる桃色の髪と白髪の少女を捉えたのを最後に意識が薄れていき―――
「……!?」
その少女が、驚いたような表情を見せる。地面に寝転がっていた状態で呼び出されたその少女は、身体に感覚があることや力が入ることを確認して驚愕していると、
「……確か、奥空、アヤネ……でしたか?」
「!?い、今の声って……嘘、なんで、アリスちゃんが……?」
その少女を知っている王女が名前を呼ぶ。少女、アヤネもまた、見覚えのある少女のかつて名乗っていた名を口にし、驚愕したのだった。