壊れた楽園からの少女達 作:名無しの投稿者
「えへへ……苦くない水が凄く美味しいですね……それにまた美味しいものがこんなに食べられるなんて思いませんでした……」
「……」
全員が呆れたような、同情するような視線をヒヨリに向ける。召喚されてすぐ、挙動不審な様子を見せていたヒヨリだったが、すぐに腹の虫が鳴りだしたのを聞いて全員が拍子抜けした後、とりあえず朝食にすることにしていた。しかし、朝食を終えてもヒヨリはまだまだ食べ足りないといった様子で、それを見た少年が掘ったまま保管しておいた芋を何個か持ってきて茹でるとそれに勢いよく齧りついていた。この勢いの良い食いっぷりは1周回って見ていて清々しさすら感じるレベルだ。
「ああ……もう満腹です……幸せです……こんな、こんな幸せでいいんでしょうか……」
「……ヒヨリ、とりあえず話したいんだけどいいか?」
「話……?あ……」
「まあ……大体予想はつくよ。黙示禄が完成して天使が出て滅んだんだろ?」
「そ、そうですけど……なんでわかるんですか……?」
「最初に説明したんだけどな……」
満腹になったからかどこか朗らかな表情を浮かべながら少年の言葉に疑問を浮かべるヒヨリに思わず顔に手を当てて溜息を吐く。
(原作におけるオラトリオ編では、ミネが4人の天使を取り込んで抑え、なおかつ7人目の天使となったスバルが精神的に崩れていたところがあったからこそ、アリウスの生徒達と先生でなんとか抑え込めていたわけで……もしミネが一人でも天使を取り込み損ねていたり、ちょっとでもスバルの立ち回りや精神が強かったら……ってところか?多分あの惨状は、黙示禄の元ネタがそんな感じだったはずだ。苦い水とか、そんな感じの記載があったはず)
ヒヨリも見たまんまのことしかわからないし、ミネと天使の関係については一連の事件が終わった後に明かされる事実だから彼女が知っているわけではないだろう。
「……で、お前はどうするつもりなんだ?これから……」
「え、えっと。わ、私も手伝います……というか、私、ここから出ても本物の私がいるからどうしようもないですし……だから、皆さんを手伝えば……」
「……そうだな……」
「とりあえずお腹いっぱいご飯食べさせてくれますか……?」
「そこかぁ……モチベーションそこかぁ……」
そこは一旦置いといて、他の皆のように確認を取る。こうして呼ばれたからには協力してくれるという様子を見せてはくれるが、そのモチベーションが未来や人ではなく食事というのはいかがなものか。ついそう思ってしまう。
「だ、だってそうじゃないですかぁ!確かにこの世界のサオリ姉さんとか、アツコとか、ミサキとか、気になる人はいますけど!でも……私の知ってる本人ってわけじゃないじゃないですか……それは、他の皆さんも一緒ですよね……?」
しかし、こう言われてしまうとセイアやアヤネも開きかけた口を閉じてしまう。ユキノは黙ったままその発言を聞いていたが、
「ヒヨリ、だったか」
「は、はい!」
「お前の言っていることは確かに間違っていない。この世界の人や未来を助けたところで、私達が元いた世界が救われるわけでもないし……私達の世界で被害を受けたり、死んでしまったりした人たちが救われるわけでも……ない」
何かを我慢するようにそう言うと黙ってしまう。その様子を見ていた少年は立ち上がると、
「そこまでにしておけ。皆、頭の中じゃお前の言いたいことはわかってるんだ。でも、だからこそ見たいんだよ」
「見たい……?」
「終わらなかった可能性をだ」
「……終わらなかった可能性」
「ああ。お前も見たいとは思わないか?黙示禄で終わらなかった世界のその先ってやつ」
「それは……」
「俺は見たい……つうかそこで終わったら俺だけじゃない、こうやって呼んだ皆も巻き添えだ。俺は……それは正直嫌だ。ただまあ……こうして無理矢理そっちの意思も関係なく呼んじゃってるわけだしさ、強制はできない。嫌なら嫌でここでゆっくりしていてくれてもいいんだ」
「……」
「ま、ゆっくり考えてくれよ。俺はそろそろ外に出るからさ」
ヒヨリにそう言い、立ち上がる少年。そのまま校舎の中に戻り、身支度を整えて自治区の外に出る。そして残った他の皆も顔を隠したり、自治区の中で何か作業をしようとする中、それらを見ていたヒヨリがユキノに声をかける。
「あ、あの」
「なんだ?」
「……私みたいな人でも、何かできることって……あるんですか?」
「……あるから呼ばれたんじゃないかって、そう私は思っている。そうじゃなきゃ……呼ばれた意味がないんじゃないかってな」
「……そういう、ものでしょうか」
「もし、手伝ってくれるなら。セイアと一緒に行動できるか?セイアはトリニティに潜入したいと考えている。アリウスなら……トリニティのことはある程度は詳しいだろ?」
「ま、まあ……」
「なら、呼ばれた意味があるんじゃないか?」
「……あ」
ユキノの言葉に、ヒヨリも目を見開く。そして小さな笑みを浮かべると、
「えへへ……も、もしそうなら……頑張ってみます」
そう呟くのだった。
□□□□
「……?」
シャーレに到着した少年が建物の中に入ると、そこは無人となっていた。
「……買い物にでも行ったのか?」
先生はロボットのプラモとかソシャゲの課金をしているみたいなメモロビがあったのを思い出した気がする。そうでなくても今の時間帯は少し早いがお昼に近いとも言えなくもない。昼食を買いに席を空けている可能性も十分考えられる。そう、思っていた。
「……これは」
先生の机の上に、ここによく来る少年や、たまにくるユウカ宛であろう、先生の書き置きがあった。そこには、
『アビドスに出張してきます』
たったそれだけ書いてあった。その紙を手に持った少年が頬を引き攣らせながら文章を読んでいき、
「……早すぎんだろ……書き置きじゃなくて一言ぐらい言ってくれよ……何のためのスマホやタブレットなんだ……一応モモトーク交換してるだろうに……」
思わずそう吐き捨てながら紙を机に叩きつける。そして頭を抱えてしまう。
(……アビドスに連絡取れないか……?いや番号知らないわ……くそ、これじゃ連絡取れないからやっぱり直接助けに行くしかないか……でも、そもそも悪い方向にばっかり考えていたが、逆にいい方向に転ぶ可能性だってあるよな?先生が遭難せずに無事に辿り着いた可能性だって……)
希望的な考えも少しだけ浮かぶも、すぐに首を横に振る。そもそもその奇跡を手繰り寄せてきたのが原作のようなものだ。その奇跡が訪れなかった世界から来た人たちを見ている以上、無事に遭難せずに済んだ、なんて期待をするのは難しい。
「……すぐに戻って準備をするか」
ユキノにメッセージを入れ、すぐに準備をしてもらおう。そして少年はすぐに自治区に戻るとアビドス自治区へ向かうための準備を始めることになるのだった。
□□□□
自治区に戻り、ユキノらと話をして急いで誰がどう動くのかなどを決める。とはいえ少年やユキノも以前からそれぞれ個別に考えてはいたようで、話し合い自体はスムーズに進んでいた。特にヒヨリも協力してくれるようになったことで、セイアがやろうとしていたプランも取れるようになったのを踏まえ、少年たちは2、いや3手に分かれて行動を起こすことになる。まずセイアはヒヨリと共にトリニティに潜入することになり。
「……それで、先生はどの辺にいるのかわかっているのか?」
「……わかるわけないだろ……?」
「だろうな……」
「あ、はは……アビドスは広いですからね……ヒントになるのはシロコ先輩の登校ルートぐらい、でしょうか……」
そしてアビドスへ向かう電車の中。そこには少年と茶色い外套に身を包み顔を隠したユキノ、アヤネ、王女の姿があった。
「しかし、いいのか?アビドスには1人で行く、ってことで」
「ああ。先生には俺の学園は俺1人しかいないって言ってるし、実際生徒自体は俺だけだからな……後は純粋に皆の存在がばれるわけにはいかないからな。他の人に正体を含めてばれないように身を隠しながら……先生が遭難してないかどうか確かめてくれ。アヤネ、そこは頼む」
「わ、わかりました」
アビドスの駅で降り、アヤネに道筋を確認して少年はアビドス高等学校へ向かう。このまま、先生が無事に辿り着いていればそれで良し、来ていなければその時はシロコが無事に拾ってくれていることを期待しつつ皆に託すしかない。
(……一応アヤネは見当をつけていたけど……あれも希望的な観測なんだよな。なにかが間違えて全く別の所に先生がいたりしたらそれだけで終わりだし……なんで最初からピンチなんだ……?)
そして少年がアビドス高校へ向かう中、3人は捜索を開始する。王女が持ち込んできたドローンを浮かばせて、それを使いながらアヤネが先生がどこにいるかを調べ始める。
「ドローンを使うことで探索範囲は広がるけど……それでも限界はある」
「ユキノさんは足で、そして私達はドローンで探していますが……」
「それにしても、ドローンも作れるなんて凄いね」
「ケイのおかげですね……あの時は私がイメージして、ケイが再構築と言う名の組み立てを行う、といった感じでやっていました。今はケイの知識やノウハウを私が受け継いでいるのでこれぐらいなら可能です。それにこれも……」
王女は背中に背覆ったライフルの方に意識を向ける。この世界に来て、新たに構築し直した新たなレールガンであり、片手持ちができるようになっている。それだけでなく盾のようなものも背負われていたが、これは新しい装備の案に悩んでいた王女に少年が臨戦がフリーダムならという思い付きで提案したらそれを王女が喜んで受け入れた結果作られたものだったりする。
「シロコさんの登校ルートの方はユキノが調べているので、私達はそれ以外を見るんですよね?」
「うん。とりあえず今の所は見つかってないけど……」
『2人とも聞こえるか?』
「「!」」
ドローンを動かしながら捜索を進めるアヤネ。と、そこにユキノが連絡を入れてくる。
「はい、こちらアヤネ、聞こえています」
『先生を無事に発見した。アビドスの生徒……おそらく砂狼シロコに背負われている。容姿は……』
「……はい、シロコ先輩で間違いありません。ふう……よかった。ちゃんと2人は出会えたようですね……」
ユキノからの連絡を聞き、安心するアヤネと王女。これで先生は遭難して衰弱死する、なんてことにならずに学園に辿り着けるだろう。そのことに安心しながら、王女は少年にメッセージを送るのだった。
□□□□
校舎に到着する直前で先生が見つかったという報せを受け取り、安堵する少年。これで心置きなく行けるとアビドス校舎の前に立つと、校門についているインターホンを見つける。
「……直接入ると知らない人がってなるから、鳴らした方がいいよな。何も言わずに行ったら不法侵入者なんだから襲われても文句言えないし……」
インターホンを鳴らす。ちゃんと鳴るのか不安ではあったが、音がしっかり鳴ったので学校にいる人たちにも聞こえているはずだろう。数分待つ。
「……」
反応が無かったのでもう1回鳴らす。数分してまた慣らす。
「……聞こえてないのか……?」
インターホンが故障してるのか、ここで鳴っている音が聞こえないようだ。全く反応が見えない。と、その時だった。
「……誰?ヘルメット団?」
「……ん?」
背後から声が聞こえてくる。少年が振り向くと、そこには先生を背負った少女、シロコが警戒したような表情でこちらを見ていた。
「……あ、先生!」
「……き、みは……なんでアビドスに……」
シロコに背負われた先生が、虚ろな目でこちらを見る。アビドスで倒れていたところを保護されて応急処置されたようだが、既にかなりグロッキーな様子だ。
「なんでってあんな書き置き残されてアビドスに行ってきますとか言われたら……こっちだって心配して飛び出してくるに決まってるでしょうに……何かが起こってからじゃ遅いし」
「あ、はは……ごめんね……シロコ、彼は大丈夫。シャーレの生徒だよ……」
「そっか……まあ、今のアビドスはちょっとガラの悪い連中がうろついてるからね。あなたこそよく無事だったね」
「まあ……そこは運が良かったな。で、先生?なんでアビドスに?依頼か何かでも受けたんですか?」
「うん……そうなんだけどね……」
先生がゆっくりと説明し始める。アビドスから暴力組織の襲撃で悩んでいるという旨の依頼を受けたことを。それを聞きながら、大体原作通りに進んだなここはと少し安心した様子で考えながら、少年は先生と共にアビドスの校舎の中に入っていくのだった。