壊れた楽園からの少女達 作:名無しの投稿者
無事先生とも合流し、シロコと共にアビドスに入ることができた少年。その後、シロコと同じ2年生であるノノミ、1年生のセリカとシャーレに依頼を出した張本人であるアヤネとも自己紹介を終え、セリカに連れられて現れた眠そうな3年生であり、アビドスのトップである廃校対策委員会委員長であるホシノも紹介される。先生と少年も自己紹介を終えた直後、校門の方が騒がしくなる。
「な、何?」
「ん、あいつらが来た」
「カタカタヘルメット団の襲撃よ!」
「か、カタカタヘルメット団?」
「……先生、もしかしてだがそれが依頼であったっていう暴力集団じゃないのか?」
驚く先生に少年がそう指摘すると、アビドスの生徒達もその通りだと頷きながら戦闘準備を開始する。その様子を見ていた先生はシッテムの箱と呼ばれるタブレットを取り出すと、自分が指揮を執ると口にする。
「先生が指揮を?」
「うん、任せてもらえるかな」
「一応指揮に関しては問題ないと思うぞ。この前のD.U.地区のごたごたでもゲヘナ、トリニティ、ミレニアムの生徒達と俺の混成軍を纏めて指揮できてたし」
「?あなたは違うの?」
「……俺の通ってる学校のこと言っても通じないだろ?全校生徒たった1人のヘイマールとか誰も知らないだろうし」
「……あー、ごめんね?」
先生が突然指揮を執ると言い出したことで怪訝そうな表情を浮かべるアビドスの面々に、ちゃんと実力はあると補足する少年。その過程で要らない情報を口走ってしまったような気がしたが、それは一旦置いておく。
「じゃあ、あなたも戦えるの?」
「まあ、一応はな……ま、そこは先生の指揮に従わせてもらうから、良い感じにやってもらえるといいかな」
「わかった。それじゃあ、いこう皆!」
先生のその言葉に、少年とアビドスの生徒達は頷くと、襲撃してきたヘルメットを被った集団。カタカタヘルメット団を迎え撃つ。少年はハンドガンを手に皆の援護をメインとしつつ戦っていたのだが、
(戦闘力高いなこいつら……そして先生の指揮込みではあるが、援護をメインとしても一応俺はやれそうだな……)
先生の指揮で後押しされているのも込みではあるが、アビドスの戦闘力の高さに驚いていた。元々物資も乏しく補給線も干上がっていたアビドスだったが、先生が鞄に入れて持ってきていた弾薬とかを使うことでその問題も解決したことで一気に攻勢に出ることができていた。彼女達を少年も援護しながら確実に1人ずつ潰していると、やがてカタカタヘルメット団の方が根を上げて撤退していく。
(後は、俺の知ってる流れなら追撃か)
その後、今度はこちらから打って出ることになりこのままの勢いでカタカタヘルメット団のアジトを強襲し壊滅。これによってカタカタヘルメット団の脅威からアビドスは救われることになる、のだが。
「……借金?」
「……あ」
目の上のタンコブを処理して喜んでいたセリカがポロッとアビドスが抱える致命的な問題である借金問題について口にしてしまう。先生が思わず聞き返したその言葉に一瞬しまったとセリカは頬を引き攣らせていると、
「うーん、こうなったらもう言うしかないんじゃない?」
ホシノが観念したようにこの学園の抱える本当の問題について語り出す。このアビドスは多額の借金を背負っており、日々その返済に追われているのだと。アヤネが補足する形でその話を聞いていた先生は話が終わると、
「私も手伝わせてもらえないかな?」
「え!?」
アビドスの生徒達に協力を申し出る。先生のこの申し出に顔を見合わせる5人。が、そこで反発したのはセリカであった。
「そんなの……私は認めないわよ!」
「あ……セリカちゃん!?」
先生が協力すると申し出て、それを受けて他の面々も受け入れつつある中、セリカはそう言うと部屋を飛び出してしまう。その後をノノミが追いかける中、少年は溜息を吐く。
「ま、デリケートな問題だろうな借金なんて。つい口にしてしまったとはいえ触れられたくないだろう……一応先生は今回、カタカタヘルメット団のために来ていたわけだし」
「まあねぇ」
少年の言葉に肩を竦めるホシノ。それから、このアビドスはどうして借金をせざるを得なくなったのかの話がされていく数十年前、砂漠で想像を絶する規模の砂嵐が発生。それによって学区の砂漠化が進行し始めたことで、当時のアビドスは巨額を投入。が、その甲斐も虚しく、自然災害は止められずにアビドスは既に半分以上が砂に呑まれ、借金も増えていった。その結果、人もどんどん出て行ってしまい、廃れた結果がこのたった5人のアビドス高等学校であった。
「でも、知ったからには放っておけないよ。私もさ、対策委員会の顧問になって一緒に頑張りたいんだ」
「先生……」
「ありがとう、先生。先生が協力してくれるなら心強い」
たった5人でも頑張って借金の返済を目指す少女達。その姿を見ながら少年もまずはここからだと今一度気を引き締めるようにふっと笑みを浮かべ、
(まずは信頼を手に入れてからだな……一応、反応は上々ぽいが。後で皆が何してたのかも聞かなきゃな……)
今後のことについても考え始めるのだった。
□□□□
「……で。明日狙うんだな?」
「ああ、明日の夕方だ。手痛くやられちまった今、こっちも後がないからな……」
「ったく、大人しく学校でじわじわ追い詰められて出て行けばこっちだってこんな真似しないですんだってのに」
その日の夜。大きい廃屋にカタカタヘルメット団が集まっていた。彼女達はそれぞれくぁしい様子で話し合いを続けており、今日のアビドスとシャーレとの戦闘における2連続の敗北が大分堪えている様子であった。
「……アビドスの生徒の1人が、ラーメン屋でバイトをしている。私達もこっ酷くやられたからな、向こうもバイトに戻る余裕もあるだろうしな……そこを狙う」
「こっちも虎の子のあれを出すか……違法な兵器なのがあれだがまぁ、ばれなきゃ問題ないだろ」
「……どこしまってたっけ?」
「それなら……」
ヘルメット団の一員が最終兵器として用意していたものを持ってこようとした、その時だった。
「あ、あれ?何が……うわ!?」
「襲撃!?まさかアビドスか!?」
「そんなバカな!?夜だぞ!?」
「……って、あそこ確か武器庫じゃ」
「……あっ!?」
突然至る所で爆発が起こる。ヘルメット団が慌てて銃を手に取って爆弾や兵器を仕舞っている武器庫のスペースとして使用している所に向かう。しかしそこでは至る所で炎と煙の手が上がっており、それを見たヘルメット団は全員が崩れ落ちたり壁を殴りつけたりする。
「だ、誰が……」
「畜生、これじゃあ……もう、駄目だ……」
火の手が上がる廃屋。それを後にし、ヘルメット団のアジトからちょろまかしたバイクを操縦した外套に身を包んだ少女が人目のつかない建物にまで移動する。
「……頼む」
「はい!」
建物から出てきたもう1人の外套を纏った少女がバイクに触れると、それが粉々に崩れ落ちていき、砂のように変わっていく。
「……便利だな、再構成というのは……」
「まだまだです。いずれは……鋼鉄大陸で使っていた装備よりも強力なものを。私のこの装備も、鋼鉄大陸でルミナス・ノヴァと、共に調整されていたスーパーノヴァを元に作ったものですし……」
ユキノと王女が建物の中を外套を脱いで進んでいく。奥にある部屋の中ではドローンの整備をしていたアヤネが2人が扉を開ける音に気付いて振り向く。
「2人ともお疲れ様です。これでカタカタヘルメット団の装備は完全に全滅。動きはまた注意できる範囲で注意しますが、おそらく明日は動きようがないと思います」
「……これで、奴らの背後にいるカイザーがどう動くか、だな。アヤネ、お前の話ではこの後、カタカタヘルメット団はアビドスの生徒を拉致するということだったが」
「はい。私の世界ではセリカちゃんを無事に助けることができましたが……私の世界ではこうだったから、とは言えませんからね……何かが起こってからでは遅いですから」
アヤネが少年へと今日打った手についてメッセージを送る。その様子を見ながらユキノは顎に手を当てて考える。
「……しかし、ヘルメット団をカイザーが裏で支援してアビドスを兵糧攻め、か……その時の話は私も正直聞きかじった程度にしか知らないが……」
「?そうなんですか?防衛室とカイザーが通じていると前聞きましたが……」
「実際にカイザーがアビドスに手を出していた時は私達もまだ防衛室長と手を組んでいたわけではないからな。事後に軽く知っただけに過ぎない」
「そうだったんですか……これでセリカちゃんが誘拐されることがなくなれば、カイザーはまた別の手を打つと思います。多分ですが……次に出てくるのは便利屋68でしょう。彼女達はカタカタヘルメット団では駄目だからとカイザーに雇われた人達ですからね……ただ、彼女達に関してはホシノ先輩達なら問題ないと思います」
アヤネの言葉に頷くユキノ。と、ここでアヤネのスマホに着信が入り、それを手に取る。そこにはセイアから送られたメッセージが表示されており、『最初の楔は打ち込んだ』と書かれていた。
「……向こうも無事に成功したみたいですね」
「……これが吉と出るか凶と出るかはまだわからないが……」
「きっと大丈夫です」
カタカタヘルメット団の方はともかく、セイア達の方がどのような成果を出すのか。それがいまいち予測できず、難しい表情を浮かべるユキノに王女が笑いかける。
「私達は皆、それぞれの未来を知っています。良いも悪いも。その上で行動を起こしているのですから、わからない未来に向かうのは必然だと思います。もしそれが悪い未来なら……私達は力を合わせて、その事態を解決するできるはずです。誰かがこうすべきだと思って起こした行動ならばそれは仲間として、その判断を尊重して背中を押すべきです。アヤネや、セイアさんのように」
「王女ちゃん……」
「後の事は、終わった後に考えましょう。まずは今を越えなければ、何も始まりませんから」
「……ああ。皮算用は皮算用でしかない」
「……皮算用、ですか……」
アヤネは2人の言葉を聞き、ぽつりと呟く。そして、その通りだと思いながら、ドローンを整備している指を再び動かしていくのだった。
□□□□
「……う……」
場所は打って変わってトリニティの深夜。聖園ミカはベッド上で呻いていた。その耳に、どこか聞き覚えのあるような声が聞こえてくる。その声が聞こえると共にミカは内心、恐怖が湧き上がるのを感じていた。
『……!……!』
「やめ……て……」
震える声がミカの口から呟かれる。しかし、その声は止まらない。やがて限界を迎えたのか、ミカは冷や汗をびっしょり流しながらベッドから跳ね起きる。
「どうして、セイアちゃんの声が……そうだ、これは、夢なんだ……あの時、私が……私が殺しちゃったから……あは、あはは……」
両手で顔を抑える。今の声は自分の記憶の中のセイアの声だろう。ただちょっと痛い目を見てもらいたかっただけだったのだ。なのに、そのせいでセイアが死んだ。自分が殺してしまったようなものなのだ。だからこそ、絶対に目的を達成しなければいけないのに。今更、それは悪夢のように蘇ってくる。
「……どうして―――」
『……いつまでそうやって目を背けているつもりだい?』
「!?」
次の瞬間、寝室に声が響き渡る。それはまぎれもなく、セイアの声であった。ミカは立ち上がり、慌てて部屋を見渡す。しかし、声の主はどこにもいない。
『君は大罪を犯しておきながら、その罪と何故向き合おうとしない?』
「ひっ……」
『私を手にかけておきながら、のうのうと日々を過ごし、ナギサを、トリニティの皆を欺く。それが、君のやりたいことか?』
「ち、違……セイアちゃん!?セイアちゃんだよね!?どこ!?どこにいるの!?」
『―――どこにもいない。君の知る百合園セイアなど、どこにもいない』
「あ……」
その場に膝をつき、手をつける。目を潤ませ、過呼吸になりながらその場に崩れ落ちるミカの姿を尻目に、遠く離れた所にいたセイアはマイクの電源を切る。
「……これで、少しは悔い改めることだろう」
「……本当に大丈夫なんですか?これで」
「さあ。今の私は未来を視ることはもうできないからな。だが……ミカはこれで、ナギサやアリウスとの付き合い方も変わるだろうさ。それまで定期的に……こうするまでだ。君は別世界の人間だから個人的な恨みは持ち込まないが……付き合ってもらうぞ?」
「ひぇぇ……(この人、なんでこんな潜入に手慣れているんですかぁ……かといってこうなったのも大体この世界のアリウスのせいだから何も言えませんしぃ……ああ、早くマダムがいなくなればいいのに……)」
そして、セイアはヒヨリの顔を見ながら、不敵な笑みを浮かべてその場を去る。ヒヨリはその後を慌てて追いかけていくのだった。