僕がゴールキーパーな理由?一人で勝つのに最適だからですよ。 作:いすとんでぃーに
「はぁ…。せっかくサッカーの本場とも言える場所でプレイできているのに、こんなつまらないんでしょう?」
いえ、答えは分かりきっていますね。
いくら戦っても、PK戦に入らないと勝負が着かないからです。
チームメイトに対してこんなことは言いたくないですけど、少しはPK以外でシュートを決めていただきたい。
フォワードさん、何回ポストに当てれば気が済むんですか?
所属しているのが弱小チームだからとか、言い訳にもなりませんよ。
僕が何十回もボールを止めているのにも関わらず、ストライカーたちがシュートを決めてくれるのはPK戦に入ってから。
今やっている試合もいつもと同じく、0対0。
ちなみに相手チームが撃ったシュートの回数は十五回で、こちらは四回。
僕がいなかったら、割と真面目にボロ負けしていましたよ?
「オイッ、ボーッとしてんじゃねぇ!!シュート撃たれるぞ!!」
チームメイトのそんな叫びが聞こえてきた。
彼はたしか……そう、今回が初スタメンなのにも関わらず、戦犯になりかけている人です。
ボールを自分に集めろというクセに、シュートを四回とも全部ポストに当てやがるアホ。
誰が見ても戦犯の働きをしているのに、なんか他の人たちのせいにしてるし。
って、もうシュートモーションに入ってるじゃないですか!!
言ってくるのが遅いんですけど!!
うちのストライカーがいつも放っているシュートとは違い、剣のように鋭く、それでいてゴールの内側を捉えている一撃。
僕もボーッとしてたので、かなりのビッグチャンスといえるでしょう。
………まぁ防ぎますが。
ゴールの右端の上へと突き刺さろうとするボールの前に先回りして、右手で鷲掴む。
なかなか良い位置を狙ってきましたね。
うちのシューターたちにも見習ってほしいものです。
ふと残り時間を表す時計へと視線が行く。
「3分、ですか…。」
このままいつものようにPK戦で勝つ?
否、ですね。
そんな変わり映えのしない勝利など、僕は少しも求めていないのです。
戦犯扱い?
そんなもの、僕がゴールを決めてしまえば起こらない。
ボールを地面へと落とし、僕はドリブルを開始した。
さて、とりあえず……勝つとしましょう。
周囲の出している雑音が少々耳障りですが、まぁどうでもいい。
幼き日に友だちとやったサッカーのように、次々と相手を抜いていく。
楽しい、楽しい、楽しい、楽しい!!
そうです、コレです。
僕はコレを求めていたんですよ。
相手を圧倒的に上回るこの感覚を!!
ゴールへと近づいていくこの快感を!!
抜く、抜く、抜く、抜く。
近づいてくるゴールの前に立ちふさがるノイズたちを最短最小の動きで抜く。
「クフッ。」
残りはキーパー含めて、あと二人。
普通に抜いて決めても良いですけど……ここは普通はできない動きをしておきましょう。
ほら。
アレですよアレ、ファンサというヤツです。
それにスーパープレーで勝ったら、世間から非難され辛いでしょうし…たぶん。
前に立つDFが触ることができないようにしつつ、背後へと落ちるようにボールを蹴りあげる。
僕の突然の行動に硬直するDF。
「股下、失礼しますね。」
そんな彼が開いている足の間を、小柄な身体を活かして通り抜ける。
相手も二メートル越えの巨体だったので、かなり通りやすいですね。
計算通りの時間で僕の立つところへ落ちてくるボール。
あとはキーパーとの一対一。
僕のチームメイトだったら外すかもしれないけど────
「まぁ外すわけがないですよね。」
ボールがワンバウンドする前に、僕は脚を振り抜きシュートを放つ。
そしてそれは………キーパーの反対方向へと飛んでいき、ゴールネットを抉ったのである。
「なんだ。やっぱり一人でやっても勝てるじゃないですか、サッカーって。」
日本のクラブチームにいた時に“サッカーは一人じゃ勝てない”と誰かに言われたような気がしますが……根拠もなにもないハッタリでしたね。
そんな事実に気付かされたのが、僕⋯月羽《つきは》みかんが十五歳となる日の一週間ほど前のことです。
───*───
『オイみかん。お前そろそろパスポート切れるだろ。』
僕、友人のサッカー星人こと糸師冴くんに個人情報抜き取られてました。
とりあえず通報したほうがいいですかね?
「なんでそんなこと知ってるんですか?もしやストーカーだったりしないですよね?」
『ふざけんなカス。誰が野郎のケツなんざ追っかけるかよ。俺にそんな趣味はねぇ。』
「なら良いんですけど。以前、合宿先で見知らぬ人にストーカーされたので、少々過敏になっちゃってて。」
何が良くてゲイでもないのに、同性にストーカーされなければならないんでしょう?
ああ、思い出したら気分が悪くなってきました。
『日本に来い。久しぶりにサッカーするぞ。』
なにゆえ?
日本でサッカーするくらいなら、そこら辺にいる大学生たちとやったほうがマシですよ。
冴も同じ感じのことを思っているでしょうに。
『ブルーロックプロジェクトとかいうイカれた計画が行われてる。世界一のエゴイストでなければ世界一のストライカーになれないっつう思想で、日本に最強のストライカーを生み出そうとしてるらしい。内容は簡潔に言うと、300人の高校生ストライカーたちがトップに立つために蹴落とし合う。』
へぇ。
それはなんとも────
『面白そうだろ。』
「ふふっ、そうですね。どうしようもなく狂っていますが⋯とても理にかなっている。で、それと僕が日本に行くのになんの関係が?」
『U20日本代表とそのブルーロックの代表たちが殺り合う。んで、俺はU20の方に入るわけだ。』
「でも貴方のパスを受けれるFWがいないから、僕に来てほしいというわけですね。」
ふむ⋯。
冴は一つ勘違いしているみたいですね。
「僕のポジションはFWではなく、キーパーですよ。もしかして忘れてます?」
『んなこと知ってる。つーかお前のキーパーなんて名ばかりのモンだろ。一人で相手全員抜いてシュート決めれるヤツがキーパーしてんじゃねぇ。』
なんて酷いことを言うんでしょうか、この暴虐サッカー星人は。
「僕がキーパーをしてるのは、キーパーが一人で勝つのに一番最適なポジションだからですよ。他にもっと適したポジションがあれば、そっちをやってます。」
『相変わらず頭が狂ってんな。まぁいいが。で、どうするんだ?来るのか、来ないのか⋯さっさと決めろ。』
「行きますよ。冴とサッカーするのも久しぶりですし、ブルーロックとやらも面白そうですから。行かないと損というものでしょう?」
日本がめずらしく、サッカーで面白いことをしているんだ。
少しくらいは乗ってあげないと可哀想だし。
『俺もそうだが、お前もチームメイトのことは眼中にないか。』
「そもそも眼中に入れるだけの価値がありますか?彼ら十一人でワールドカップに出るよりも、僕と冴だけで出たほうが勝てるのに。」
『そもそも俺には二人でワールドカップに出るって考えがなかったな。』
「あーでもキャプテンの⋯オリバとか言いましたっけ?彼はまだマシだと思いますよ。何かが少し違えば、僕ら側に来ていたかもしれませんね。」
『あんな立場に甘んじている時点で、俺からしたらカス以下の何物でもねぇ。』
それはそれで、一理ありますね。
『じゃあ切るぞ、みかん。あぁ、それと…一週間後に試合だから、さっさと来い。』
え?
「はい?えっ、ちょっ…待ってください!?試合が一週間後ってどういうことですか!?」
そんな僕の叫びが冴に届くことはない。
くっ、一方的に電話に切るだなんて…卑怯な!!
どれだけの時間を経ても、冴の暴虐性が変わることはないらしいです。
───*───
「えー、はい。以前にも糸師選手から伝えられてたと思うが、新たに世界で活躍する“あの”月羽みかん選手が招集に応じてくれた。」
そう言うのは、U20日本代表の監督の……誰でしたっけ?
まぁ名前などなんでもいいです、世界一を求めない国家代表の監督の名など。
「月羽選手…何か一言、お願いします。」
というか僕、選手たちからむちゃくちゃ敵意向けられてませんか?
僕、何か失礼なことしましたっけ?
んー……冴がなんかしたんでしょうね。
コンプラ違反のとんでもない暴言を吐く姿が、いとも簡単に思い浮かびます。
「そうですね…。貴方たち、たぶん前日にいきなり代表入りしてなんだお前とか僕に思っているでしょう?」
大丈夫ですよ。
僕はそんなノイズを気にしたりしませんので。
だって────
「僕もなんでこんなのが僕の国の代表をやってるんだカスって思っていますから、お互い様です。ここでは僕は新参者なんでしょうけど、貴方たちより僕のほうが圧倒的に多く活躍してて、実力も圧倒的に高いです。」
この中にプロサッカー選手を相手に、十一対一をして点を獲れる方はいるんですか?
一人もいませんよね。
「カスとはひとえに言い切れない人も約一名だけいますけど、それでもたった一人です。」
その唯一も、あくまでカスよりはマシというだけですし。
「まぁつまり何が言いたいのか。今の貴方がたは僕の仲間に相応しい価値を持っていませんので、パスを渡す気はありません。ボールが欲しければ、奪ってください。それか───」
敵意のボルテージが最高潮となる。
「相応しくなりなさい。そうすれば冴よりも優先してボールとシュートチャンスを与えてあげます。」
あ、危ない危ない。
うちの監督から言われてる大事なことを忘れるところでした。
「余談ですけど、今の僕には監督から有望な選手がいたら、スカウトとしてこいと言われています。年俸の最低額も一応聞いておきましたが、2億は確実だとか。」
その言葉を聞き、選手たちの目つきが変わりました。
それほどまでに年俸2億という言葉の影響力は大きいのでしょう。
「ふふっ。やる気になっていただけたのなら良かったです。ではこれくらいであいさつは終わりにさせていただきますね。」
───*───
ブルーロックとの決戦前日の練習。
チームに合流したばかりの僕は………一人で棒当てをしていました。
壁当てなんて簡単なものじゃなくて、棒当てですよ。
ここテストで間違えやすいので、しっかりと覚えてください。
「ふわぁ…眠いですね。さすがにもう少し睡眠時間を取るべきでしたか。」
昨日の午後五時くらいに羽田に着いて、ホテルで仮眠を取って日本代表と合流するというスケジュール。
なんてハードなんでしょうか。
まぁこれも冴が一週間前にそのことを伝えたせいなんですけど。
ほんと、試合に間に合って良かったです。
「で、どうしたんですか⋯皆さん。僕になにか言いたいことか聞きたいことでもあるんですか?先ほどのあいさつを撤回する気はありませんよ。お世辞はどうしても好きになれないので。」
「いんや、それは別に撤回しなくてもいいぜ。一応は事実なわけだからな。俺たちがあんたら天才くんたちに劣ってるのは。」
僕の問いに答えたのは、日本代表のキャプテン。
そして、この中で一番まともであろうサッカープレイヤーことオリヴァ・愛空でした。
「そうですか。ではなぜ先ほどからこちらをチラチラと見ているのでしょう?」
「あーいや⋯あっちの天才くんがやるポジションは分かってるんだが、アンタのやるポジションがしっかりと把握できていなくてな。」
「んなのキーパー以外ないだろ。セーブ率90%以上なら、それを活かしたほうがいいに決まってる。そうだろ?」
オリヴァさんの後ろからそう言ってきたのは、シュートって感じな名前だった気がするFW。
冴ではない僕の友達曰く、日本代表のエースをやってるらしい。
⋯⋯コレが?
もう心意気がダメじゃないですかね?
「そんなんだからカスなんだよ、お前らは。」
僕の思ったことをより悪くさせた暴言を放ちながら、会話へと入ってきたのは冴。
というか攻撃する範囲も広くなってるし。
「あ?どういうことだよ、天才。」
一気に愛空を除いた日本代表たちの空気が険悪になる。
だが、さすがは冴。
一切の躊躇いすらなく、彼らの自尊心を谷底へとふるい落とします。
「
「まぁ冴の言う通りですかね。貴方にストライカーとしてのプライドや自負が少なからずあるのなら、何点獲られようが俺が取り返す的なことを言っていたでしょう。少なくとも、そんな絶対に安全な策に頼すがろうとすることはなかったはずです。」
「そういうことだ。あともしその策で勝ったとしたらお前らは記者たちがどんな記事を書くと思う?コイツのセーブに関することが大半で、シュートを決めたヤツとブルーロックに関することが少し取り上げられるくらいだろうな。もしかしたらブルーロックよりも話題にされないかもしれない。まぁここにいるほとんどのヤツの名前は記事に乗らないってわけだ。何が言いたいのかは理解できたか、カスども。」
さすがにそんなことは⋯⋯ないと言い切れないのが悲しいところですね。
「これらのことを言った上で聞きますが、僕にキーパーを任せて勝ちの決まった戦いをやりますか?それとも僕をキーパー以外にして、日本代表としての意地を見せますか?」
あとのことは、わざわざ言わなくても良いでしょう。
───*───
月羽みかんが日本代表と合流する少し前のこと。
ブルーロックに属しているストライカーたちは、ミーティングルームへと集められていた。
「やぁやぁ諸君。トレーニング中にいきなり呼びつけて申し訳ない。」
決戦が明日に迫っているのにも関わらず、絵心からの予定に一切ない突然の呼び出し。
そのことに、潔世一は胸の中でかすかな不安を燻ぶらせていた。
「それではさっそくだが⋯⋯悪い報せだ、チーム“ブルーロック”。」
絵心のその言葉に、誰しもが息を呑む。
が、相手には糸師冴という怪物がいるのだから、すでに特大の悪い報せを彼らは体験していた。
だから少なからず、その報せの内容を楽観視していた。
「ハハッ、あの糸師冴が相手にいるんですよ。それを上回るものなんてないでしょ。」
誰かがそう言い、だんだんと空気が弛緩していく。
「残念だが、少なくともそれと同等。いいや⋯限りなく最悪と言ってもいい報せだ。U20日本代表に糸師冴だけではなく、月羽みかんも参戦する。つまるところ、日本の双玉が相手というわけだ。」
「は?」
絶句。
潔は脳の理解が及ばず、そんな素っ頓狂な声を出してしまった。
周囲の仲間たちも、潔と同じような状況に陥っている。
糸師冴と並び、海外でもトップクラスの実力を持つ天才。
所属しているチームではキーパーを務めていて、そのセーブ率は驚異の九割超え。
さらにはキーパーなのに、たった一人で相手チーム全員を抜いて得点を奪い取るということをした怪物。
言うなれば、生ける伝説。
もしも月羽みかんが最初からキーパーをしたら⋯確実に負ける。
世界一のストライカーであるノエル・ノアのシュートでも軽々と止める相手から、どうやってゴールを奪うのか。
はっきりと潔の脳裏に浮かび上がる“敗北”の二文字。
誰しもが絶望の未来を思い描く。絵心はそう思っていた。
「ハッ、セーブ率90%超えなら、何度かは決められてるってことだろ?なら、俺にできない道理はねぇ。」
「キヒッ⋯いいこと言うじゃん、クソまつ毛!!ノエル・ノアでも決められねぇ相手とか⋯ビンッビンに滾るぜ♡」
周りの暗い空気を一切読まずにそう言うのは、ブルーロックのツートップ⋯糸師凛と士道龍聖である。
いつもは険悪な空気を誘う二人の言葉も、今は部屋の雰囲気を良い方に持っていった。
「糸師凛と士道龍聖の言う通りだ。百パーセントじゃないということは、絶対じゃないということ。勝つ可能性はまだ残されている。ゆえに全力で戦え。そうしなければ負けるだけだ。話は以上。では解散。」
決戦の時はすぐ近くにまで迫っていた。