負けヒロインと終戦四人組ー戦前の高級官僚たちがタイムスリップしてきたらー 作:房吉
【小鞠知花】
陽が沈み始めて、昼間の暑さが嘘のように引いていく。
キチキチと聞いたことのない虫が鳴いている。虫のことは知らない。虫の名前を調べたことがない。
私はキャンプ場の炊事ブースの端で、ソラ豆のさやを剥いていた。
正確には、剥かされている。
「小鞠ちゃん、これお願いね」
「あ、はい」
「助かるー。三十分で終わる?」
「た、たぶん」
「たぶんって顔じゃないけど」
「お、終わります」
「無理しなくていいよ」
「む、無理してない」
してる。
月之木先輩にザルを渡されて、断れなかった。断れないというか、断る文が組み立たなかった。頭の中には「あ、はい」と「え、でも」の二つがあって、口から出たのは前者である。
いつもそうだ。
私の口は、頭の中の三割くらいしか出力しない。残り七割は、行き場をなくして頭蓋の内側に溜まる。
七割のうちの、さらに九割は、部長のことである。
*
——今日は、言わない。
私は三十七回目くらいのその決意を確認した。
理由は三つある。
一、合宿中に言うと、断られたときに残り一日を同じ部屋で過ごすことになる。
二、月之木先輩がいる。
三、私は、怖い。
三番目が本体で、一と二はその装飾である。それくらいは自分でも分かっている。
分かっているのに、毎回一と二を先に数える。
——戦う前から、負けている。
自分でそう思ったことがある。思ったあとで、なかなかいい言い回しだと思ってしまって、そんな自分が心底嫌になった。
そういう人間なのだ、私は。
二
【小鞠知花】
火起こしの係は、焼塩が立候補した。
「まかせて! あたし、火とか得意だから!」
得意なわけがない。
この女は火のつけ方以前に、火が何でついているかを考えたことがない。私は五月の理科の授業でそれを目撃している。
「焼塩さん、その新聞紙、全部使うの」
「うん! 多いほうが燃えるじゃん!」
「燃えるけど、炭には移らないと思うぞ」
「移るって!」
移らなかった。
「なんで!?」
「あおぎすぎじゃないか」
「あおがないと消えるじゃん!」
「あおぐと灰が飛ぶって」
飛んだ。
十五分かけて、焼塩は真っ黒になった。
私はソラ豆を剥きながら、それを眺めていた。
——ざまあみろ。
いや、そこまでは思っていない。ちょっとしか思っていない。
*
そこへ松谷が来た。
一年C組の、あの男である。
四月から文芸部に籍だけあって、六月から実際に来るようになった。姿勢が異常に良く、表情が動かず、たまに意味の分からないことを言う。
松谷は炭をいったん全部どけて、木っ端を組み直した。
新聞紙も着火剤も使わない。
「え、なにその組み方」
「隙間を作っている」
「隙間」
「炭が燃えているのではない。炭から出た気体が燃えている。気体の通る道がなければ、炭は熱くなるだけだ」
「……なるほど?」
「分からなくていい。下から詰めるな。それだけ覚えろ」
三分で火がついた。
——え。
焼塩の口が半開きになっていた。
そして松谷は、灰まみれの焼塩を見て、こう言った。
「風下に立っている」
正論である。
完全に正論である。
焼塩は無言で灯りの輪の外へ行き、私の隣に座って、ソラ豆を剥き始めた。
「……小ちゃん」
「な、なんだ」
「あたし、なんかした?」
「し、してない」
「じゃあなんで怒られたの」
「怒られてない」
「怒られたよ!?」
「ゆ、指摘だ」
「同じじゃん!」
「ち、違う」
「どう違うの」
「……お、怒ってる人は、声が大きくなる」
「松谷、声大きかったよ」
「大きくない」
「大きかったって!」
大きくない。あの男は一度も声を張っていない。
だがこの女には、正論を言われること自体が大声に聞こえるのだ。
怒られていない。指摘されただけだ。
だがこの女には、その区別がつかない。
そして松谷には、その区別がつかない人間がいるという発想がない。
——似た者同士だな。
まったく似ていない二人を見て、私はそう思った。
三
【小鞠知花】
肉が焼け始めた。
私はまず、状況を確認した。
網の左側に部長。その隣に月之木先輩。右側に八奈見と温水。
松谷は炭の側。加瀬という一年生が網の反対側で肉を返している。
私の位置は、部長から見て斜め前。
——距離、一メートル二十。
近すぎず、遠すぎない。皿を差し出すのに不自然でない距離である。
この配置を作るのに、私は椅子を二回動かした。二回目は八奈見が立ったタイミングを見計らった。
こういうときだけ、私は異常に有能である。
*
「慎太郎、こっち焼けたよ。はい、お皿」
「お、サンキュ古都」
「はいはい、次いくよ。ピーマンも食べな」
「ピーマンはいい」
「食べな」
「……食べます」
月之木先輩が先に出した。
——遅れた。
私は三秒待った。三秒待つのが最適解である。すぐ後だと張り合っているように見えるし、間が空きすぎると忘れられる。
「ぶ、部長。こっちも、焼けました」
「お、サンキュ。小鞠、気が利くなあ」
「そ、そんなことは」
「やっぱ外で食うと美味いよな」
「お、美味しいです」
「な」
「はい」
会話が終わった。
——受け取った。
私は自分の皿に視線を落として、心拍を数えた。
たぶん百二十くらいある。
たかが皿である。
紙皿である。
原価は三円くらいだと思う。松谷なら知っているだろう。
*
「ぎゅ、牛肉、久しぶりだ……」
思わず口から出た。
これは本当である。
うちは肉を焼くとき、母がとにかく焼く。安全のためだと言って灰色になるまで焼く。私は十六年、灰色の肉を食べて生きてきた。
だから、赤い肉を初めて食べたときは衝撃だった。
「小鞠ちゃん、家で焼かないの」
「や、焼く」
「じゃあ久しぶりって」
「……い、色が違う」
「色」
「うちのは、灰色だ」
「灰色!?」
「灰色だ」
八奈見が箸を止めた。
「小鞠ちゃん、それまだ赤いけど大丈夫?」
温水が心配そうに言った。
「だ、大丈夫だ」
大丈夫である。
赤いのがいい。赤いのが正しい。灰色は間違っている。
*
そこで妙なことが起きた。
八奈見が温水に生焼けの豚肉を差し出して、温水が皿を遠ざけて、そこへ松谷が口を挟んだのである。
「大丈夫ではない」
「えー、これくらい平気だよ」
「豚肉は中心部まで火を通す必要がある」
「誰が決めたの」
「……教本に」
「教本!?」
温水が身を乗り出した。
「そうだよ、そこなんだよ! ずっと言いたかったんだよ!」
「なにこの二人、急に」
「松谷、お前さ。たまに変な単語出るよな。教本とか、要領とか」
「使うが」
「普通は使わないんだって」
「では、なんと言う」
「……レシピ?」
「レシピには、豚の中心温度が書いてあるのか」
「書いてないな」
「では、教本だ」
「そうだけどさあ!」
私は箸を止めて、その光景を見ていた。
——豚は駄目なのか。
牛は赤くていい。豚は駄目。
十六年、誰も教えてくれなかった。母は全部灰色にすることでその問題を回避していたのである。
……なるほど。
私は自分の皿の肉を見た。牛である。赤い。
よし。
こういうことを、私はいつも本から学ぶ。
今日は珍しく、人から学んだ。
四
【小鞠知花】
加瀬という一年生は、肉を焼くのがうまかった。
網の上の配置が整理されていて、置かれた順に下ろされていく。無駄がない。
「加瀬君、上手いね」
「焼き加減は火から下ろす瞬間で決まりますので」
「なにその玄人みたいなセリフ」
「玄人ではありませんが、玄人の食卓に何度か座ったことはあります」
「どこで」
「……よその国で」
「よその国って、どこ」
「北のほうです」
「ざっくりだね」
「私は、ざっくりした男ですので」
——嘘だ。
私は嘘に敏感である。理由は簡単で、私自身がよく嘘をつくからだ。
「べつに、なんでもない」「本なんか読んでない」「部長のこととか、なんとも思ってない」
全部、嘘である。
嘘をつく人間は、他人の嘘の形が分かる。
この加瀬という男は、答えたくないことを地名で処理している。しかも三回連続で同じ手を使っている。
——雑だな。
もっとうまくやれ、と思った。
私なら、もっとうまくやる。
……いや。うまくやれていたら、いま、こんなところでソラ豆を剥いていない。
*
「小鞠さん」
顔を上げたら、加瀬がこちらを見ていた。
「は、はい」
「いま、何かお考えでしたね」
「か、考えてない」
「即答でした」
「……」
「私も、よくやります」
加瀬は網の上の肉を一枚返した。
「即答するのは、たいてい、考えていたときです」
——バレてる。
「あ、あんた」
「はい」
「性格、悪いな」
「よく言われます」
にこりと笑って、この男は次の肉を返した。
……警戒しておこう。
*
「加瀬君、こっちの肉も焼いてよ」
焼塩が皿を差し出した。
「喜んで。ただし焼塩さん、その置き方ですと片面だけ炭になります」
「えっ、なんで分かるの」
「見れば分かります」
「すごーい!」
——おい。
さっき松谷に同じことを言われて落ちこんだ女が、いま同じ内容で感心している。
言い方だけの問題である。
世の中は言い方だけの問題でできている。
私はその言い方が、生まれてから一度もうまくいったことがない。
五
【小鞠知花】
炊事ブースの端に、パイプ椅子に座った先生がいた。
長袖にスラックス。海でも同じ格好だった。
——高木先生だ。
旧校舎の図書室にいる、非常勤の先生である。数学と倫理を持っていて、あとはずっとあの部屋にいる。
私が昼休みに逃げこむ場所の、主のような人だ。
紙皿の上のソーセージを一本だけ、きちんと食べ終えて、それきり何も取らない。
「先生、それだけですか」
温水が聞いた。
「充分です」
「肉あるのに」
「ええ」
そして先生は、上着の内側から小瓶を出して、中身を少し口に含んだ。
顔をしかめる。
「……先生、それ何ですか」
「薬です」
「具合悪いんですか」
「いえ」
「え?」
「悪くありません」
「悪くないのに飲むんですか」
「習慣です」
八奈見が温水の脇腹をつついて、何かひそひそ言っている。
*
みんなが網の方へ戻ったあと、私は先生の隣に立った。
理由はない。
理由はないが、この人の隣は、いつも一人ぶん空いている。
「先生は、食べないんですか」
「食べました」
「い、一本だけ」
「一本で足ります」
「た、足りますか」
「足ります。昔から、量が要らないのです」
先生は本を膝に置いたまま、炭火の方を見ていた。
「小鞠さん」
「は、はい」
「あの火は、どなたが起こされましたか」
「ま、松谷が」
「そうですか」
「さ、最初は焼塩が。……十五分、かかりました」
「十五分」
「つ、つかなかった」
「なぜでしょう」
「し、下から詰めすぎたんだと」
「よくご覧になっている」
褒められた、のだと思う。
私は褒められると、何を言えばいいのか分からなくなる。
「せ、先生は、火、起こせますか」
「起こせます」
「じゃ、じゃあ、なんで」
「頼まれませんでしたので」
……この人は、こういう人だ。
できることを黙って抱えて、頼まれるまで動かない。
図書室でもそうだった。私が三日間、生徒会の紙を机に置いて逃げても、この人は一度も追いかけてこなかった。
「小鞠さん」
「は、はい」
「その豆は、あなたが剥かれたのですか」
「そ、そうです」
「よく剥けています」
「……はい」
「私は、そういうことしか申し上げられません」
「え」
「食べ物のことしか、分かりませんので」
——嘘だ。
この人は、たぶん、たいていのことが分かる。
分かったうえで、豆の話をしている。
図書室でもそうだ。この人は、私の聞きたいことには一度も答えない。答えないかわりに、私が自分で言うまで待っている。
「せ、先生」
「はい」
「……あの」
「はい」
「な、なんでもないです」
「そうですか」
「……せ、先生」
「はい」
「き、聞かないんですね」
「聞きません」
「な、なんで」
「聞かれたくないことを聞くのは、私の仕事ではありませんので」
「じゃ、じゃあ、先生の仕事は」
先生は少し考えた。
「本を出すことです。読みたい人がいれば」
「……そ、それだけ?」
「それだけです」
嘘だ、と思った。
思ったが、証拠がない。
追いかけてこない。
この人は、絶対に追いかけてこない。
だから私は、いつも、あと一言のところまで来られる。
あと一言までは。
「せ、先生。それ、なんの本ですか」
「哲学です」
「む、難しいやつ」
「難しいです」
「せ、先生でも」
「私でもです」
「じゃ、じゃあ、なんで読むんですか」
先生はしばらく黙っていた。
「分からないことが、まだあるからです」
「……」
「分かってしまうと、読まなくてよくなる」
そう言って、先生は表紙を伏せた。
読ませてくれる気はないらしい。
「小鞠さん」
「は、はい」
「火の近くにおいでなさい。冷えます」
それだけ言って、先生はまた本を開いた。
*
私は炭火の方へ戻った。
——習慣。
私にも、意味のない習慣がある。
家に帰ると必ず、部室で借りた本の背表紙を一度撫でる。理由はない。撫でないと落ち着かない。
それと、寝る前に必ず、その日部長が言ったことを一つだけ思い出す。
一つだけと決めている。二つ思い出すと止まらなくなるからだ。
——今日は、「ありがと」だな。
もう決めた。
まだ夜になっていないのに、もう決めてしまった。
こういうところが、たぶん、駄目なのだと思う。
六
【小鞠知花】
月之木先輩が赤飯のおにぎりを配っていた。
「近くのブースの人がおすそ分けしてくれたの。炊きたてなんだって」
「中学生くらいの可愛い子だったな」
「へえ。二人組?」
「そう。姉妹かなあ」
温水が急にそわそわし出した。
「温水君、どうかした?」
「別に」
「顔に出てるけど」
「出てない」
出ている。
——妹だな。
私はそう判断した。
根拠はある。この男は、六月に部室で妹の話をしたとき、明らかに困った顔をしていた。困った顔をする対象は、たいてい本人にとって処理できない相手である。
そして今日、この場に来られる中学生の心当たりは、この男の身内以外にない。
……私は、こういう推理だけは得意なのだ。
役に立ったことは一度もないが。
*
その隣で、松谷が温水に小声で何か言っていた。
「三十分ほど前、林の向こうに中学生くらいの女子が二名いた」
「……見なかったことにしてくれ」
「もう手帳に書いた」
「消してくれ」
「消し方が分からない」
「破れよ」
「破ると、順番が分からなくなる」
「番号ふってないのか」
「ふってある」
「じゃあ破れるだろ」
「破った頁は、二度と戻らない」
「戻さなくていいんだって」
「……そうか」
——紙だろ。
私は思わず口に出しかけて、飲みこんだ。
飲みこんでから、あの男は本気で言っているのかもしれないと思った。
あの男は、書いたものを消すという発想がないのかもしれない。
……いや、そんな人間はいない。
七
【小鞠知花】
八奈見が温水の肉を横から攫って、「はい、あーん」とやっていた。
私は目を逸らした。
——見るな。
見ると、余計なことを考える。
たとえば、私があれをやったらどうなるか、とか。
——三秒で死ぬな。
比喩ではなく、たぶん心臓が止まる。
それと、あれは八奈見だからできるのだ。あの女には「冗談」という装甲がある。失敗しても冗談だったことにできる。
私にはその装甲がない。
私が同じことをやったら、それはもう告白である。冗談にできない。だから絶対にやらない。
——だから、勝てない。
私はソラ豆を一つ、口に入れた。
味がしなかった。
*
視界の隅で、松谷が八奈見と温水を交互に見ていた。
そして何か聞いていた。
「あれは、何の手続きだ」
「手続きじゃない」
「では何だ」
「……なんだろうな」
「返礼が必要か」
「必要ない」
「では、なぜ受けた」
「断ると面倒だからだ」
「面倒とは」
「……あとで三倍になる」
「なるほど」
松谷が手帳を開いた。
「書くな」
「書いた」
——手続き。
私は思わず、鼻から息が漏れた。
笑ったのだ、たぶん。
この男は、あれを手続きだと思っている。
そして温水は、答えられない。
……あれを説明できる人間は、たぶんこの世にいない。
説明できないものが、いちばん強い。
私が使えるのは説明できるものだけだ。だから弱い。
八
【小鞠知花】
暗くなってきた。
焼塩が大量の花火を抱えて戻ってきた。浜のビーチフラッグ大会でもらってきた賞品である。
「ぬっくん、これ見て!」
「なんかパッとしてザーッて走ってドーンと旗取ったら、もらった!」
説明が壊滅している。
「浜のビーチフラッグ大会に飛び入りして、優勝賞品よ」
月之木先輩が補足した。
「二人にも見せたかったな」
「う、うん。す、凄かった」
「小ちゃんもやろ! はい、これ!」
「い、いい」
「なんで!」
「て、手が」
「手?」
「豆で、疲れた」
嘘である。
私は本当にそう思っている。
あの女が走るところは、悔しいが、綺麗だ。
考えていない人間の動き方をする。私が一秒に三十六個のことを考えているあいだ、あの女はゼロ個で走っている。
——そういう生き物なんだ。
そう思うことにしている。
*
私は袋から手筒花火を一本取った。
大きめのやつである。
「小ちゃん、それデカくない?」
「い、いい」
「それ、たぶん筒のやつだよ」
「し、知ってる」
「知ってて選んだの?」
「は、派手だから」
「……そっか」
焼塩は、それ以上言わなかった。
言わないでほしかったので、助かった。
——これにしよう。
理由は単純で、火をつけると派手だからだ。
派手なものを持っていると、少しだけ、自分が派手な人間になった気がする。
……我ながら、貧しい発想だと思う。
火をつけようとした。
つかない。
もう一度。つかない。
湿気ているのかもしれない。
私は筒をくるりと返して、先を覗きこんだ。
九
【小鞠知花】
——今日は、言わない。
さっき、そう決めた。
三十七回目の決意だった。
そのあと私は、いつ言うかを考えていた。
夏休み中は会えない。二学期は文化祭がある。忙しい。
部誌ができたら。冬になったら。三年生が引退したら。
——引退したら。
そこで思考が止まる。
引退したら、この人はもうここにいない。
そんなことは、四月から分かっている。分かっていて、私は「そのあと」に予定を送り続けている。
送っている限り、失恋しないからだ。
告白していない人間は、振られない。
一勝もしていないが、一敗もしていない。
——それが、私の戦績だ。
八奈見は一敗している。
焼塩も、たぶん一敗した。
私は〇勝〇敗である。
そして私は、その〇勝〇敗を、たぶん誇りにしていた。
……最低だ。
*
だから。
このあと十四分後に、私が全部を壊すことを、いまの私はまだ知らない。
知らないまま、私は湿気た花火の中を覗きこんでいる。
「おい——」
誰かが叫んだ。
その声が誰のものだったのか、私はいまでも思い出せない。