負けヒロインと終戦四人組ー戦前の高級官僚たちがタイムスリップしてきたらー   作:房吉

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第26話 1巻4敗目幕間 小鞠視点 貸出票

二次創作/視点:小鞠知花・高木惣吉

 

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【小鞠知花】

 

八月二日。

 

「書け」と言えないまま、四日が過ぎた。

 

言おうとは思った。毎朝思った。

 

松谷は三時十二分に部室へ来る。原稿用紙を一枚出して二時間座って帰る。それを私は四回見送った。

 

見送るたびに、喉の奥で言葉が引き返す。

 

私の口は三割しか出力しない。その三割は、いつも悪口の側に取られている。

 

「……む、無理」

 

だから今日は、部室に行かなかった。

 

代わりに、旧校舎の二階へ降りた。

 

---

 

図書室の扉を開けると、冷たい空気と紙の匂いが出てきた。

 

高木先生はカウンターの内側で本を読んでいた。分厚い。表紙に何も書いていない。

 

「小鞠さん」

 

顔を上げずに名前を当てられる。足音である。私は右足が先に鳴るらしい。

 

「こ、こんにちは」

 

「こんにちは」

 

「せ、先生、ずっといるんですか。な、夏休みなのに」

 

「おります」

 

「な、なんでですか」

 

「本があるので」

 

先生は栞を挟んで本を閉じた。この人は本を伏せない。必ず栞を挟む。

 

「ご用件は」

 

「……あ、あの」

 

「はい」

 

用件はある。松谷に読ませる本がほしい。

 

だが言えば「なんで松谷に」と聞かれる。聞かれたら答えられない。

 

だから遠くから入ることにした。

 

「ひ、人に、本を、す、すすめるとき」

 

「はい」

 

「ど、どうすれば、いいんですか」

 

先生は、二秒くらい黙った。

 

「相手の名前を、うかがってよろしいですか」

 

「だ、駄目です!」

 

「そうですか」

 

即答で引き下がられた。

 

引き下がられると、それはそれで困る。

 

「あ、あの。な、名前は、言えないんですけど」

 

「はい」

 

「ひ、人です」

 

「人ですか」

 

「ひ、人に、すすめる話です」

 

「承知しました」

 

「な、なんで納得するんですか」

 

「人以外にすすめる方は、少ないので」

 

「そうですけどっ!」

 

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「せ、先生は、す、すすめないんですか」

 

「すすめません」

 

「な、なんで」

 

「私は貸す係です。選ぶ係ではありません」

 

「……り、理屈っぽい」

 

「事実です」

 

「じ、事実で逃げてる」

 

「逃げています」

 

認めた。

 

この人は認めるとき表情が変わらない。松谷と同じである。この学校の転入生と教師は揃いも揃って認めるのが早い。

 

「じゃ、じゃあ、質問を変えます」

 

「どうぞ」

 

「せ、先生が、いま読んでる、そ、それは」

 

「哲学の本です」

 

「お、面白いですか」

 

「面白いです」

 

「どこが」

 

先生の指が、表紙の上で止まった。

 

止まって、それから、少しだけ動いた。

 

「……説明が、長くなります」

 

「み、短くしてください」

 

「短くできません」

 

「……」

 

「短くできる程度のものなら、二十年も読みません」

 

「に、二十年」

 

「……そう感じただけです」

 

「せ、先生、二十五ですよね」

 

「そうです」

 

私は、口を閉じた。

 

この人、いま自分の話をしたぞ。

 

---

 

 

【小鞠知花】

 

「小鞠さん」

 

「は、はい」

 

「一つ、伺ってよろしいですか」

 

――え。

 

聞かれた。

 

この人が私に何かを聞くのは、貸出の手続き以外で初めてである。いつも私が聞いて、この人が答える。それしかなかった。

 

「ど、どうぞ」

 

「小鞠さんは、これまでに何冊、人にすすめましたか」

 

「……え」

 

「本をです」

 

私は指を折ろうとして、折る指がないことに気づいた。

 

「……ぜ、ゼロ」

 

「そうですか」

 

「……」

 

「一冊も、ですか」

 

「い、一冊も」

 

「……」

 

「か、書いたのは、五十二枚あります」

 

「存じています」

 

「な、なんで知ってるんですか」

 

「月之木さんが、おっしゃいました」

 

「あっ、あの人!」

 

慰められると思った。

 

そんなことないですよとか、これからですよとか、そういうやつが来ると思った。

 

来なかった。

 

先生は貸出票の箱を引き寄せて、一枚めくった。

 

「この図書室で、生徒が生徒にすすめた本は、今学期で三冊です」

 

「……さ、三冊」

 

「三冊です」

 

「す、少なくないですか」

 

「少ないです」

 

「だ、誰が、すすめたんですか」

 

「答えません」

 

「ひ、一人だけ」

 

「答えません」

 

「じゃあ、ヒント」

 

「答えません」

 

「さ、三回言った」

 

「三回、聞かれましたので」

 

「……」

 

「利用者の記録ですので」

 

かたい。相変わらずかたい。

 

でも、私はそこで気づいてしまった。

 

三冊。

 

つまりこの学校の生徒は、ほとんど誰も、誰にも、本をすすめていない。

 

すすめるというのは、たぶん、そういうことなのだ。

 

これが好きだと言うのは、私はこういう人間ですと言うのと、ほとんど同じ意味になる。

 

だから誰も言わない。

 

私も言わない。

 

――言えるわけない。

 

言えるわけないのに、鞄の中の重さが急に気になった。

 

---

 

 

【小鞠知花】

 

私は鞄を開けた。

 

開けてから、二十秒くらい迷った。

 

出したり戻したりしていると、先生は待っていた。待っているのに待っている顔をしない。ただ手を止めて、こちらを見ないまま止まっている。

 

――松平先生と同じだ。

 

あの人も、こっちが喋り終わるまで自分の番を取りにこない。この学校の非常勤は揃いも揃ってこれである。

 

私はカウンターに本を置いた。

 

ことん、と音がした。

 

「……こ、これ」

 

「はい」

 

「……よ、読んでください」

 

言った。

 

言ってから、心臓がどくどく鳴りはじめた。顔が熱い。耳まで熱い。

 

先生は本を手に取った。

 

そして、表紙を見た。

 

  『声が出ないので、手紙にします』

 

制服の女の子が描いてある。全身。うつむいて、口元に手を当てている。

 

「……これは、表紙が」

 

「い、言うな!」

 

「失礼しました」

 

「い、言うなって言った!」

 

「言っておりません。表紙が、とだけ」

 

「そ、そこで止めるのが、いちばん、こわいっ」

 

先生は表紙を裏返して、机に置いた。

 

裏返した。気を遣ったのだ。

 

それはそれで腹が立つ。

 

---

 

「題名が、正確ですね」

 

「……え」

 

「声が出ないので、手紙にします。中身と、題名が、合っています」

 

「よ、読んでない」

 

「読んでおりません。ですが、そういう題です」

 

先生は本を開かないまま、指で厚みを測った。

 

「小鞠さん」

 

「はいっ」

 

「その本の、どこがお好きですか」

 

――出た。

 

さっきの質問の、二倍こわいやつが出た。

 

私は口を開いた。

 

開いたら、止まらなかった。

 

「……ま、まず、主人公が、しゃ、喋れないんですけど、こ、これ、病気じゃないんです。喋れるんです。声は出るんです。で、でも、相手の前だけ出ない。そ、それで手紙を書くんですけど、て、手紙って、書き直せるじゃないですか。で、でも喋るのは書き直せない。だ、だから主人公は手紙の中でだけ、す、すごく喋る。三十七通目で、や、やっと、あの、その、相手が、て、手紙のほうが本当なんだって、き、気づくところが、あって」

 

「はい」

 

「そ、それで、あの」

 

「はい」

 

「……ご、ごめんなさい。長い」

 

「長くありません」

 

先生は、一度もこちらから目を離さなかった。

 

「三十七通目、ですね」

 

「……お、覚えたんですか」

 

「はい」

 

「な、なんで」

 

「聞いたからです」

 

私は、返す言葉を持っていなかった。

 

---

 

――だ、誰も、聞かなかった。

 

月之木先輩は面白がってくれる。でも先輩は自分の話をする。

 

温水は黙って聞いてくれる。でも聞き返してこない。

 

チビスケは聞いていない。

 

三十七通目、と言い返してきた人は、一人もいなかった。

 

「小鞠さん」

 

「……は、はい」

 

「お預かりして、よろしいですか」

 

「……ど、どうぞ」

 

「返却は、いつまでで」

 

「いつでも」

 

「では、期限を決めさせてください」

 

「な、なんでですか」

 

「決めないと、たいてい間に合いませんので」

 

「い、いつまでですか」

 

「一週間で」

 

「は、早くないですか」

 

「一晩あれば足ります」

 

「い、一晩!?」

 

「四百頁ございませんので」

 

そのとおりだと思ったので、私は黙ってうなずいた。

 

「あ、あの、先生」

 

「はい」

 

「それ、職員室で読まないでくださいっ」

 

「なぜです」

 

「……ひ、表紙が」

 

「表紙は伏せます」

 

「ふ、伏せても、めくったら出ます」

 

「……では、伏せたまま読みます」

 

「よ、読めないでしょ!」

 

---

 

 

【小鞠知花】

 

「せ、先生の番です」

 

「私のですか」

 

「す、すすめてください」

 

「私は選ぶ係では――」

 

「いま、私が選びました」

 

言ってから、自分の前髪を引っ張った。引っ張っても、言ったことは消えない。

 

「……」

 

「だ、だから、先生も」

 

先生は、二秒くらい黙った。

 

「……では、こちらの番です」

 

先生は立ち上がった。

 

そして、書架の奥へ入っていった。

 

戻ってきて、机に一冊置いた。

 

  『善の研究』

 

「……」

 

「西田幾多郎です」

 

「よ、読めるわけないでしょ!」

 

「読めます」

 

「い、一頁目で寝ます」

 

「私も、最初は寝ました」

 

「ね、寝たんだ」

 

「三年ほど寝ました」

 

「さ、三年!?」

 

「四年目に、起きました」

 

「よ、四年目に起きる本を、す、すすめないでください」

 

「では、別のものを」

 

先生はまた奥へ入っていった。

 

――いま、あの人、ちょっと残念そうだったな。

 

戻ってきた。

 

  『山月記』

 

「それ、教科書に載ってます」

 

「……そうですか」

 

「し、知らなかったんですか」

 

「知りませんでした」

 

「せ、先生なのに」

 

「私は司書です。国語の教員ではありません」

 

「に、逃げた」

 

「逃げました」

 

「で、でも、載ってます」

 

「教科書には、続きが載っておりません」

 

「つ、続き?」

 

「同じ方が、もう一つ書いておられます」

 

先生は三度目に奥へ入り、今度はなかなか戻ってこなかった。

 

---

 

五分待った。

 

十分待った。

 

私は本棚のあいだを覗きに行った。

 

先生は、いた。

 

書架の前に立って動いていなかった。

 

手には本を持っている。開いてもいない。ただ背表紙の列を端から端まで目で往復させている。

 

「……せ、先生」

 

聞こえていない。

 

私は、その横顔をしばらく見ていた。

 

この人は、こういう顔をするのか。

 

カウンターにいるときも、廊下ですれ違うときも、この人の顔はいつも同じである。眠そうで眠そうじゃない目。何を言われても変わらない。

 

いま、変わっている。

 

――ああ。

 

これ、知ってる。

 

去年の冬、図書館の新刊コーナーで、私が三十分動けなかったときと、同じ顔だ。

 

たぶんこの人は、毎日ここでこれをやっている。

 

閉館時間を過ぎても気づかない人が、この学校に一人いる。

 

---

 

「……小鞠さん」

 

「は、はい」

 

「失礼しました。いま何時ですか」

 

「五時、四十分です」

 

「……そうですか」

 

「四十分、そこに立ってました」

 

「そうですか」

 

「そ、そうですかって」

 

「……面目ありません」

 

「な、何を探してたんですか」

 

「探しておりません」

 

「た、立ってただけ?」

 

「見ておりました」

 

「な、なにを」

 

「……並びをです」

 

「な、並び」

 

「八十年ぶんが、並んでおります」

 

意味が分からなかった。

 

分からなかったが、聞き返さなかった。

 

聞き返してはいけない声だった。

 

先生は本を持って戻ってきた。

 

古い本だった。布の表紙が擦り切れて、角が丸くなっている。

 

  『李陵』

 

「そ、それは」

 

「同じ方です。教科書に載っていないほうです」

 

私は本を開いて、後ろの見返しを見た。

 

貸出票が貼ってある。

 

日付の欄が、全部、空だった。

 

---

 

「……い、一度も」

 

「一度もです」

 

「な、なんで」

 

「教科書に載っておりませんので」

 

さらりと言った。

 

さらりと言ったが、この人は四月からずっと、この一冊の場所を覚えている。

 

二千冊のうちの、一冊である。

 

「せ、先生」

 

「はい」

 

「ど、どこが、好きなんですか」

 

先生は少し黙った。

 

「……最後の、三行です」

 

「な、なんて書いてあるんですか」

 

「読めば分かります」

 

「いま、知りたい」

 

「いま申し上げると、三行が二行になります」

 

「へ、減るんですか」

 

「減ります」

 

「……い、意味わかんない」

 

「読めば分かります」

 

二回言われた。

 

この学校の大人は、どうして揃いも揃って二回言うんだろう。

 

---

 

 

【小鞠知花】

 

私は貸出票にペンを当てた。

 

日付の欄のいちばん上。上には何もない。十年ぶんの空白の先頭に、私が書くことになる。

 

「せ、先生」

 

「はい」

 

「こ、これ、借りたら、どうなるんですか」

 

「判が押されます」

 

「それだけ?」

 

「それだけです」

 

「……」

 

「ですが、次に開いた者は、あなたの名前を見ます」

 

「つ、次っていつですか」

 

「分かりません」

 

「こ、来ないかも」

 

「来ないかもしれません」

 

私はペンを止めた。

 

そういうことか。

 

  八月二日 小鞠知花

 

字が震えた。震えたけど書いた。

 

「せ、先生」

 

「はい」

 

「こ、この本、面白いですか」

 

「面白いです」

 

「ど、どこがですか」

 

「……読めば分かります」

 

「また言った」

 

「三回目です」

 

先生は日付印を取って、かたん、と押した。

 

十年ぶりに、その紙が音を立てた。

 

---

 

「小鞠さん」

 

「……はい」

 

「一つ、申し上げてよろしいですか」

 

「ど、どうぞ」

 

「私は、この本を四月に見つけました」

 

「……四月」

 

「見つけてから、誰にもすすめておりません」

 

「な、なんでですか」

 

「すすめられませんでした。読まれずに戻ってきたら、どうしようかと」

 

「……せ、先生も、ですか」

 

「私もです」

 

私は、その言葉を三回くらい頭の中で繰り返した。

 

この人が、こわいと言った。

 

二千冊を数えて、判の数を全部知っていて、いつも平気な顔をしているこの人が、いま、こわかったと言った。

 

「……せ、先生」

 

「はい」

 

「わ、私も、こわかったです」

 

「そうでしょうね」

 

「な、なんで分かるんですか」

 

「二十秒、鞄を開けたり閉めたりしておられましたので」

 

「み、見てたんですか!」

 

「見ておりました」

 

「ふ、普通、目を逸らすとこです」

 

「逸らすと、置きにくくなりますので」

 

「……」

 

「置きやすいほうが、よろしいかと」

 

「……せ、先生」

 

「はい」

 

「か、貸出票、いらないんですか」

 

「これは私物ですので」

 

「わ、私の本を、せ、先生に貸すのは、な、なんて言うんですか」

 

「……貸借です」

 

「……かたい」

 

「事実です」

 

---

 

帰り道、私は本を胸に抱えて歩いていた。

 

日が長い。八月の五時四十分は、まだ夕方でもない。

 

蝉がじいじい鳴いている。

 

歩きながら、私は一つ考えていた。

 

――言われた。

 

先生は「読んでください」と言われて、読むことにした。

 

私は「読んでください」と言った。それだけである。理由も説明していない。うまくもなかった。

 

それでも、あの人は読む。

 

  今回は、誰にも言われていないからでしょう。

 

四日前に、同じ人が言った言葉である。

 

「……い、言えば、いいんだ」

 

私は立ち止まった。

 

言えば書く。言われないから書かない。

 

なら、私が言えばいい。うまく言えなくていい。今日の私は、うまく言えなかった。

 

それでも通った。

 

「……あ、明日」

 

明日、部室に行く。

 

三時十二分に、あの人が来る。

 

原稿用紙を一枚出して、二時間座って、一文字も書かずに帰るその前に。

 

「……か、書けって、言う」

 

言ってから、自分の声の小ささにびっくりした。

 

道には誰もいなかった。

 

誰もいないのに、この音量である。

 

「……む、無理かも」

 

無理かもだけど、言う。

 

私は本を抱え直して、また歩き出した。

 

---

 

 

【高木惣吉】

 

その夜、松平邸の自室で、高木惣吉は本を開いた。

 

『声が出ないので、手紙にします』

 

表紙は伏せてある。伏せたのは本人の癖である。恥じたわけではない。

 

彼は最初の頁から順に読んだ。飛ばさなかった。

 

三十七通目に至るまでに、二時間かかった。

 

途中で一度、上着の内から小瓶を出した。希塩酸である。栓に指をかけて、そのまま戻した。

 

痛くないのに飲む必要はない。

 

そう考えた自分に、少し驚いた。

 

---

 

「……なるほど」

 

読み終えたのは、日付が変わってからだった。

 

彼は本を閉じた。栞を抜いて、机の端に揃えて置く。

 

手帳を開く。

 

  八月二日 貸出票一件。十年ぶり。

 

事実を一行。

 

それから、判断の欄に何を書くかで、彼は珍しく手を止めた。

 

いつもは保留と書く。三十年、彼は保留と書いてきた。

 

  評価は保留する。

 

そう書きかけて、彼はその行を消した。

 

代わりに、こう書いた。

 

  三十七通目は、たしかに、そこであった。

 

書いてから、彼は自分の字を見た。

 

判断ではない。感想である。

 

感想を書いたのは、たぶん、少年のとき以来だった。

 

---

 

彼はもう一度、本の表紙を裏返した。

 

制服の少女が、うつむいて口元に手を当てている。

 

――この題は、正確だ。

 

声が出ないので、手紙にする。

 

彼にも心当たりがある。八十年ぶんの心当たりがある。

 

言えなかったから書いた。書いたものは通らなかった。通らなかったが消えはしなかった。

 

――明日、言おう。

 

高木惣吉は電灯を消した。

 

言うことは、決まっている。

 

  次を、お願いします。

 

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