凝りもせず新作書いていくスタイル♡
「─────あっ、アルちゃんだ!」
授業終わりの下校中。少しだけ暑くなり始めた今日も、3人はいつもの道を歩いていた。
昔からの見慣れた街並み。ようやき馴染みを持ち始めた街並み。それぞれの景色を感じつつ、たらりと垂れた汗を拭って話に花を咲かせる。他愛もない内容。今日の授業のことだとか、友達との出来事だとか、そんなこと。
そうしてダラダラと話していた矢先、先頭を行く少女があっと声を上げた。
「アルちゃん?」
「ほら、あそこ!」
「え、どこや?」
それに続いて2人も視線を左右させ、やがてしばらく先を歩く金の髪の後ろ姿を捉える。よくなのはが見つけたものだと思いもしたが、その背中は間違いなくアルちゃんのものである。
「お〜い、アルちゃ〜ん!」
「ま、まってよぉ」
「おぉ、急に元気になったで」
栗色のサイドテールを揺らし、高町なのはが駆け出した。そのあとを追うのはフェイト・T・ハラオウン。そして、そんな2人の背中を見送り、手うちわで顔を仰いでゆっくり歩くのは八神はやて。
それぞれがそれぞれのペースで、しかしその方向へと歩き始めた。
「……ん」
「おっ、気付いたな」
「アルちゃん!」
180cmの後半に近づく背丈と、見方を変えれば肥えているとも受け取られそうな程に膨れ上がる筋肉の塊。Tシャツを引き裂かんばかりの背面を見せていた彼は、これまた少しイカつめの顔を振り向かせる。
アルちゃん─────アルベルト・ヒューテル。通りすがった人々は、制服を着た中学生の少女たちから見合ぬかわいい愛称で呼ばれる短い金髪の彼にそろって首をかしげた。
「おぉ、みんなか」
見るからに西洋人の顔立ちをした彼だが、口から発するのはしっかりとした日本語のよく通る低い声。なのは達のことを見つめ、そして彫りの深い顔がくしゃりと歪ませた。大人びた顔立ちとは違い、少し子供っぽい笑みだ。
そんな彼の懐に、駆け寄った勢いのままひょいとなのはが身を投げた。
「おおっ」
「もぉ、ミッドから帰ってきたのなら迎えに来て欲しかったなぁ」
「すまん。さっきこっちに来てクロノん家に寄ったばかりなんだ」
「そうなんだ。私よりクロノくん優先なんだ〜」
突然の飛び込み。しかし慌てることはなく、しっかりとなのはの体を受け止める大きなアルベルト。少し抱擁するとすっと身体は離れ合う。
つんと口をすぼめてかわいらしい愚痴を漏らすなのは。その横では目を瞬かせたフェイトがぽんと手を打ち、そしてはやての方を見て。
「やっぱり、ふたりはできてるってことだよね」
「……まさか、アルちゃんとなのはちゃんのこと?」
確かに、あのふたりはかなり仲がいい。というのも、紆余曲折を経てなのははアルベルトのことをかなり気に入っているのだ。対するアルベルトも来る者拒まず、むしろそんななのはのことを妹のように随分と可愛がっている。
彼のことを思えば、そんな犯罪まがいのことはありえないだろう。しかし、確かに今の距離感を見れば、いつもなのはと一緒にいるフェイトも見誤るか。そう思った矢先、不思議そうな顔でフェイトが。
「ううん、アルとクロノのことだよ」
「─────できとらへんできとらへん」
「でも、アルはクロノと1番に会いたかったって」
「言っとらん言っとらん」
「……なんで?」
「なんでって、なんでや……?」
何を言うかと思えば、。理解できないと首かしげるフェイトにはやては内心呆れた。
「だって、なのはに抱きつかれたのにすまし顔なんだよ?」
「そんなもん、兄と妹みたいなもんやからな。当然や」
「なんで?」
「なんで?」
「……おにーちゃん♡」
「やめろ。それは俺の死に直結するぞ……っ」
「ほら!」
「ほらやない、顔見ぃや顔。今にも死にそうやん」
腕を抱き寄せニヤリと笑うなのは。アルベルトは色白の肌を青ざめさせ、まだ死にたくないと喚きもがく。フェイトとはやてが見守る中、顔を見上げて表情を見て、なのはが恍惚とした笑みを浮かべる。
「見てみぃやなのはちゃんのあの顔。わっるい顔しとるわぁ」
「なのは、楽しそう……。私も混ぜて!」
「気は確かか?」
空いている彼の手を取り、どこで学んだのか少し大人びた顔をするフェイト。ツインテールを風に揺らし、そっと流し目でなのはを見やる。
そんなフェイトに、なのはは心底嬉しそうに微笑んだ。アルベルトは2人の兄を脳裏に浮かべ、大きな図体を震わせて小さくわぁと声を漏らす。
─────なんやこれ。ほんま、なんやこれ。まぁ、ええか。
JCふたりにくっつかれて恐怖に身を震わせる大男、どんな本でも読むことのなかった状況にはやては思考を放棄する。アルベルトが向けていた助けを求める視線には、ついぞ気づくことはなかった。
遠巻きに様子を眺めていた周囲が少し騒がしくなる。そして、からからという自転車を転がす音。それが止まると今度は、そこに割って入る不躾な輩が現れた。
「─────すみません。警察ですけども、少しお時間いただけますか?」
△
「─────と、いうことなんだ」
「また、わけのわからんことを」
ことりと音を立てて机に置かれた缶チューハイ。アルベルト好みの甘いフレーバーのそれをきっちり飲み干した金髪の彼は、眉間に皺を寄せていた。
それに対し、隣に座っていた黒髪少年が苛立ったように語尾を強める。
「今のところ、うちのかわいい義妹とその友達が老け顔の青年にかどわかされそうになった所を警察に捕まった図を説明されただけだぞ」
「それが問題なんだ」
「……?」
よくわからない。匙を投げた黒髪の少年は、少し離れたところで様子を伺う金髪の少年に目を向ける。
「ユーノ、アルの通訳を頼む」
「えっ」
「長く長く一緒にいるが、未だにゴリラ語はな……。ふっ、生憎、わからなくてな」
「ゴリラって……」
「言ってくれるなクロノ。なら、ボディーランゲージで交流会だ……っ」
クロノ、そう呼ばれた黒髪の少年が反応するよりも早く、金髪の青年の腕が首を絞めあげる。倍近く違う太い腕。あっさりと首を制圧すると、クロノが引っ張ったところでピタリと動かない。
「ぐぅ……。やめろっ、くっつくな……っ」
「照れるなよ……っ」
「照れるか─────!」
─────いい空気吸ってるなぁ。
お酒が入ると大人はこうなるのか。僕は控えようかな。そんな思いを胸に押し込め、金髪頭のユーノはちびりと甘いジュースを飲んだ。
上半身をさらけ出し、細くしなやかな筋肉を持つ小柄な少年。そしてそれを後ろから羽交い締めにする大柄な青年。その筋の人からすればよだれが垂れる逸品であった。
「─────まぁ、クロノを虐めるのは置いておいてだな」
「直ぐに体で訴えてくるのやめろよ……」
「あはは……。それで、結局どういうこと?」
クロノを解放した彼はユーノの言葉に頷くと、腕を組んで天井を見上げる。歳のことを考えると少し老けて見えてしまうが、顔立ちはそれなりに整っている。目を伏せた顔は様になっていた。
「なのはが俺のことを慕ってくれているのはわかるんだが」
「─────ふーん、そうなんだ」
「待て、ユーノ、違う。兄貴分としてだ」
「……ならいいけどさ」
「─────寒気がした。クロノ、今デュランダル出したか」
「いや。お前のアホさが原因だ」
「そうか……」
気を取り直して。そう前置くと新たな缶チューハイのプルタブを開け。
「俺となのは、フェイト、はやて。あとは、俺とヴィータが一緒にいる時だな」
「確かに、お前はヴィータとも仲が良かったな。よく見る光景だ」
「賑やかなのが目に浮かぶね」
「─────それが、街中だとかなりの頻度で通報される」
神妙な顔で切り出すアルベルトに、2人の反応はきっかり別れた。それぞれ、納得する顔と仕方がないといった顔。その事にアルベルトはムッと口を尖らせる。
「なんだ」
「多分、当然の反応だ思うよ」
「アル、それ僕でも通報する。ここが地球でも、ミッドでもだ」
「─────」
アルベルト、絶句。納得の行かない様子の彼に、クロノは考えても見ろと思考を促す。
「例えば、お前とフェイトが横に並んだとしよう。瞳の色こそ違うが、お互い色白で似た色合いの金髪だ。どう思う」
「完璧な兄妹だな。そうだクロノ、兄を降りろ。俺がお兄ちゃんになる」
「黙れ。ならそれが、なのはやはやてになるとどうなると思う」
腕を組んだままうんと首を捻るアルベルト。そんなに考えることかと苛立ちつつ、クロノもまた手にした缶チューハイを呷った。
「どうだ。答えは出たか」
「あぁ。─────腹違いの兄妹だろう」
「本気で言っているのなら今から医務室へ向かうべきだな」
「ふざけるな!」
「ふざけているのはお前だ……っ」
だからお前はゴリラなんだ。そう煽るクロノにアルベルトが飛びかかる。ほど広い部屋のカーペットを引きずって決まるのは腕ひしぎ十字固め。アルベルトがなのはの父親から教わった地球の技だ。
やがて喚くクロノを程々で解放し、不貞腐れたように缶チューハイを啜るアルベルト。そんな彼にユーノが笑う。
「地球、しかも日本じゃ黒髪とか茶髪以外って本当に少ないんだよ。だから、僕たちみたいなルックスではどうしても警戒されちゃうんだ」
「……俺もか」
「当たり前だろう。ユーノは顔立ちがかわいらしいから問題ないが、お前はダメだ。あいつらと一緒に立つには老けすぎている」
「老け顔……。……まぁ、ホモショタよりかはマシか」
「お前、それはライン超えだからな─────!」
「お前こそ─────!」
どたりばたり。激しく絡み合ったアルベルトとクロノがフローリングを転げ回る。残念ながらここはアルベルトの手に入れた地球での一軒家である。もしこれがハラオウン家であれな女性陣の誰かしらが注意に入っていた。そう、ここに彼らを止める存在はいないのである。
─────はずだった。
「─────やかましいぞ貴様ら、時間を考えぬか!」
音を立てて開く扉。その向こうに立っているのは、肩ほどまで伸びた黒い毛先の銀髪。黒いオーバーサイズのパーカーを着た少女だ。
眉間に皺を寄せ、控えめな胸の前で組んでいた腕を解くと、びしりと指を立てて控えめに怒鳴った。
「えぇっ!?」
「ディアーチェ、何故ここに……っ!」
「……え、何故って」
ディアーチェ。闇統べる王の異名を持つ彼女は、驚くふたりにこてりと首をかしげ、アルベルトを見やる。
「なんだ、こやつらに一緒に住んでいることを伝えていなかったのか」
「あぁ」
「そうか。それだからお前はダメなんだ」
「ダメとはなんだ」
「シュテルに遅漏と罵られたとて、否定できんな」
「そこは止めろよ……っ」
「まぁいい」
ならば説明しておけ。あとは、騒ぎすぎるなよ。そう言い残して彼女は去っていく。おやすみという3人の声にドアの向こうからおやすみと返ってきた。
続くのは気まずい数秒の沈黙。そして、かちりと携帯の開く音がふたつ。
「─────まて、なぜ2人して携帯を用意した」
「決まっている」
「通報するんだよ」
「……やめろよ?」
冷ややかに見つめてくるユーノと一瞥もくれないクロノ。それぞれきっちり3回キーを押し、目を見合わせると。
「もしもし、警察ですか」
「緊急です。友達が犯罪に手を染めていました」
「シャレにならんからな……っ!」
真顔で続けるふたりに、アルベルトは勘弁してくれと缶チューハイを呷った。そして、それを見たクロノが感心したように笑う。
「む、いい飲みっぷりだな。甘いヤツばかりなのがお前らしい」
「甘いものしか好かん。クロノもどうだ」
「もう2、3本貰おうか」
「ユーノも飲めよ」
「お酒はちょっと……。ジュースなら」
─────男たちの夜は、まだまだこれからだ。
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